セイレーンと麦わら帽子⑫
『そいつ赤髪の娘で幼馴染ィ!?』
「ん?おう!」
「ルフィ、みんなついていけてないよ…」
ルフィの姿を追ってエレジアの城の一室まで辿り着いた麦わらの一味一行。
彼らは今、目が覚めたウタとルフィに話を聞いていたところだった。
「アウ…起きたらスーパー話が進んでいやがったな…」
「おいおいほんとに大丈夫なんだよな…セイレーンっていや歌で島や船を沈めるって聞いたぞ…?」
「エーッ!?沈められるのか?」
「赤髪のシャンクスの娘でルフィの友達…また凄いのに会っちゃったわけ…?」
「……そうね…」
「ルフィてめェこんな可愛いレディと幼馴染とかてめェ…!!」
各々がそれぞれの反応をする中、ゾロがルフィに歩み寄って行く。
「おい、ほんとに大丈夫なんだろうな?」
「おう!ちゃんと勝ったからな!!」
「うん…約束通り、この島にいる間みんなに危害は加えるつもりはないよ」
「ほんとか〜?島出た瞬間約束終わったとかの仁義もねェマネしたり…」
「いやしないよ…そんなひどいことするやつにでも会った…?」
未だ警戒を解ききらないゾロやフランキーだったが、ルフィの言葉でとりあえずは下がっていく。
「そうだ…みんなに一つ先に謝らないとだよね…ごめんね」
「い、いやまァおれ達も海賊なんだからそんな」
「雨の中ルフィ以外思いきり外に放置しちゃって」
「いやそっちかよ!!」
ウソップの鋭いツッコミが繰り出された。
「いや〜、一応立場考えれば拘束するのは正当性あるしいっかなって…」
「まァそりゃそうだな」
「いや納得しないでよルフィ…」
マイペースかつ変なところで意見の一致してしまう二人の船長に、思わず一味も気が抜けてしまっていた。
「…あ、そうだ、この島のログって…」
「ここは3日でログがたまる」
突如の後ろからの声に全員が扉を向く。
そこには背の高い男…ゴードンがいつの間にか立っていた。
「3日…それならウォーターセブンからのも書き換わらないわね」
「ウォーターセブンなら心肺はないだろう、この島も次に指すのは魚人島だ……ウタ、この海賊達は」
「あ…うん、大丈夫…歓迎してくれる?」
「…ウタがいいなら私も構わない…今は何かあるでもないが、歓迎しよう」
ゴードンの提案にフランキーを始めとした一味が反応する。
「そりゃ助かる、サニー号も嵐の傷を見ておきてェしな」
「おれ、薬草あるか見ておきてェ!」
「食料も見てェ…とりあえず一晩滞在ってとこか…?」
「海軍もこの島はそうそう寄らないから…ゆっくり休むといいよ」
その後の話し合いによって、一味はエレジアに一晩滞在することとなった。
〜〜
「サンジ、それ何やってんだ?」
「おうウソップ、あのおっさんにレシピ少し教えてほしいって頼まれたからメモ作ってたんだ」
「へー、あのおっさんが」
「おう、でも元々筋は悪くねェみたいだがな」
ゴードンに貸し出された一室でフランキー、ウソップ、サンジの3名は談話していた。
既に昼食は終え、今は各々休憩の時間である。
「しかし、オヤジの船の船長に娘がいたなんてなァ…」
「そういやお前の親父さん、赤髪海賊団なんだったか」
「何?スーパー初耳だぞ?」
意外な情報にフランキーが隣のウソップに振り向く。
「そっか…おれの親父は凄い海賊でな、おれもいつかはそうなりてェんだ!」
「ほーん…おれは親に昔廃船島に捨てられちまったからな」
「いや、さらっと凄い事暴露したなお前…」
サンジがツッコみながらタバコを吹き、新たに火をつける。
「…親父ね…彼女がここに置いてかれたのはなんでなんだろうな」
「普通に捨てられたんじゃねーのか?」
「馬鹿言え!いくらなんでも親父やその仲間がそんなこと…」
「落ち着けウソップ…事実がどうあれ、この10年ウタちゃんを育てたのはあのゴードンのおっさんなんだろ?」
そう言うサンジの脳裏に浮かぶのは二人の男。
片や己の中に血の流れる実父。
片や今の自分を形成するもう一人の父。
「…ウタちゃんにとってはあのおっさんがもう一人の父親みたいなもんなんだろう…その助けになれるならしてやるさ」
「…そっか」
「…おう」
なんとなくその話を続ける気になれなかった三人は、その後各々の作業で時間を過ごしていった。
〜〜
「しかし、ルフィに女の子の友達がいたなんてねぇ…」
「…そうだな」
「何あんた、まだ疑ってんの?」
「ルフィが大丈夫だって言ったんだ、とやかく言うつもりはねェよ」
別のある部屋では、ゾロの酒盛りに参戦したナミと二人に挟まるチョッパー、そしてチョッパーと意気投合した動物達の時間が過ぎていた。
「そういや、ロビンはどうしたんだ?」
「ああ、ロビンならあのゴードンって人と話しに行っちゃったわよ?」
「おれもさっき二人が城の奥歩いていくの見たぞ!」
「…そうか」
関心がなくなったかのようにゾロが酒瓶を煽る。
「でも、戦ってたときの歌、凄かったな…」
「あんたそれで捕まったのによく言えるわね…まぁ確かに凄く上手かったけど」
「確かにな…セイレーンだの歌で船沈めるだの言われるだけある」
突然嵐が止むとともに聞こえてきた歌声は、確かに戦いの中でも惹かれるものがあったというのが3人の共通するな意見だった。
それに同意するように動物達が首を振る。
「七武海じゃないなら仲間になってくれれば嬉しかったけどな!強くて頼もしいし、おれもこいつら好きだし、宴も楽しいそうだ!」
「………」
「………」
「…?あれ、おれなんか変なこと言っちゃったか?」
突如押し黙る二人にチョッパーが不安げな声を出す。
「え?ううん、なんでもないわ」
「ああ、ただ少しな」
「ん?そうか…じゃあおれ、こいつらとまた探検してくる!」
「おう、気をつけろよ」
獅子の背中に乗って部屋を出ていくチョッパーと一行を見送ってから、二人が再び腰掛ける。
「…あの子、ルフィの話だと元々音楽家だったらしいわよね」
「…そうだな」
「……そういうこと?あいつの音楽家への欲求って…」
「……さあ、どうだろうな」
〜〜
「……ここが…」
「ああ、この島の地下書庫だ」
ロビンは、ゴードンの案内の元、城の地下にある書庫を訪れていた。
年季のあるその空間には、無数の歴史ある書籍が並んでいる。
「…君はオハラの考古学者だったか…この島の歴史に興味が?」
「ええ…それと、この島の伝承にも」
「………」
ゴードンが少し固まったのには触れず、ロビンが歩んでいく。
「…街の跡を少し見たわ…ひどい状況だったわね」
「…ああ、そうだろう…」
「……まるで、巨大な何かが暴れたようだったわ」
「…っ…それは」
いよいよゴードンが顔を強張らせてしまった。
「……やはり、『伝説』は本当だった…そういうこと?」
「…君は、どこまで知っている…」
「…詳しくは、でも「魔王」のことは耳にしたことがある」
「……そうか…それは」
ゴードンが何かを話そうとした、その時だった。
「……あ、いた、おーいおっさーん、ロビーン!!」
「あ、ゴードンここにいた!」
「……!!」
「ルフィ、それにあなたまで」
その場に現れたのは、ルフィとウタだった。
「…わー…ここ初めて入ったなぁ…」
「なんだここ、すげー本があるな!」
「地下書庫だよ、いろんな本があるって話だけど」
「へー、そりゃロビン好きそうだな!」
「…フフッ…ええ、確かにね」
そう言って笑うロビンの前で、ゴードンが体を強張らせて
いた。
これまでゴードンはウタがこの部屋に行くのをよしとしていなかった。
それは…
「お、見ろよウタ!天井になんかでけー絵がある!」
「あ、ほんとだ…なんて描いてあるんだろ…?」
「…!あれは…」
「…っ!!」
ルフィとウタ、そしてロビンが天井を仰ぐ。
そこには大きく刻まれた壁画があった。
「なんて書いてあんだろなあれ?」
「さあ?なんも読めないね」
「………」
「る、ルフィ君、ウタ、どうしてこんなところに?」
二人の意識を自分に向けるかのようにゴードンが二人に近づく。
「ん?ああ、ウタがおっさん探してたからよ、チョッパーに聞いて来てみたらここに着いた!」
「そ、そうか…何か用があったのかな?」
「うん、それなんだけど…っ!?」
ウタが突如視線を険しくする。
その視線の先、書庫の奥で何かが動く。
「何あれ…」
「何だあれ、鎧?」
「…4体、穏やかじゃなさそうね」
「…あれは…!?」
武器を持った巨大な鎧が4体、ゆっくりと四人のもとに迫っていた。
「…一応日頃から持ち歩いてて良かった…」
ウタが背中の槍を構える。
ルフィもその隣で右指を噛む。
「ルフィ、ここは地下…気をつけて頂戴」
「おう、分かったロビン…おれは右やる!」
「私は左ね……あれ倒すので、勝負する?」
「おう、やるか!」
「オッケ!」
その言葉と共に二人が飛び出していく。
「まだこれ見せてなかったな…"骨風船"!!」
「ん?…ハァ!?」
ウタの隣で、ルフィの右手が肥大化していく。
まるで巨人のごとし腕を後ろで構えながらルフィが進んでいく。
「"ゴムゴムの"ォ…」
「っ…"インパクト"…」
ルフィが腕を振りかぶるのと同時に、ウタが槍の切っ先を鎧人形に向けながらマイクを取る。
次の瞬間、二人の攻撃が炸裂した。
「"巨人の銃"!!!」
「"ソング"!!!」
歌の衝撃波と巨人の拳が、それぞれ人形を吹き飛ばし、後ろのもう一体ずつを巻き込む。
やがて奥の壁に衝突した人形達は光を失い、動かなくなった。
「…強いわね、彼女」
「ああ…ルフィ君もあれほどとは」
それを遠目で眺めていた二人が驚嘆する中、すぐ二人の言い合いが聞こえて来た。
「おれの方がぶっ壊したからおれの勝ちだろ!」
「私の方が先に当たったでしょ!先に壊したから私の勝ち!」
「そんな条件なかっただろうが!」
「出た、負け惜しみ〜!」
「…船長同士の口論には見えないわね」
「…ああ」
その口論は、ルフィが突如空気を吐きながら縮んだことで終わりを告げた。
「ちょっとルフィ大丈夫………縮んだ…」
「うーん…ギア3はちっちゃくなるのがな…どうしたウタ?」
「………別に?」
「…彼女、今顔赤くなってなかったかしら?」
「………ああ」
「…ふう、戻った…それでウタ、話するんだろ?」
「あ、そうだった…ゴードンに聞きたいことあったんだった」
「私に?なんだ?」
ウタが改まってゴードンを向き直す。
「…教えてくれない?10年前、シャンクスが本当は何をしたのか」
「っ…何を…?」
「詳しく教えてくれなくていい…ただ、10年前エレジアは誰のせいで滅んだのか…それを聞きたいの」
これまでになく凛と向き合うウタに、ゴードンがしばらく唸り…口を開く。
「……今の君に誤魔化しても意味はないのだろうな……確かに君が考える通りだ」
「…!!じゃあ…」
「ああ…シャンクスがこの国の皆を殺し、国を滅ぼしたというのは…すべて嘘なんだ」
絞り出すように語られたゴードンのその言葉に、ウタが更に疑問を投げる。
「…じゃあ、あの日この国で、何があったの?」
「…それは…言えない…彼との約束なんだ」
「彼」が誰なのか、その場のものは聞かずとも理解していた。
「……そっか」
「すまない…私には」
「ううん、いいよ…また一つ、シャンクスに会う理由が出来たから」
ゴードンが顔を上げれば、力強く笑うウタがいる。
「約束なら、シャンクスの口からちゃんとほんとのこと聞く…だから大丈夫だよ」
「ウタ……すまない………一つだけ、言わせてくれ」
「………」
「…君は…君は確かに、彼らに愛されていた…それだけは、確かなんだ」
「…っ……そっか」
少しだけウタが顔を下げて頷く。
その様子を、ルフィもロビンも黙って見守り続けた。
「…よし、ありがとうゴードン!それじゃルフィ、行こっか!」
「おう!またなロビン、おっさん!」
「ええ、また」
二人が再び上への階段に姿を消していくのを、ロビンとゴードンは見守った。
「…きっと、ルフィ君のおかげなのだろう…彼女の明るい顔を見たのは久しぶりな気がするよ」
「…彼は不思議な人だから…それで、ゴードンさん」
ロビンが再び、天井を見る。
ロビンだけは、そこに刻まれた文字を薄っすらと読み取れていた。
「…そうだな……君には話しておこう…「トットムジカ」のことを」
天井、二人の持つ篝火が、怪しくその壁画を照らしていた。