セイレーンと麦わら帽子⑤
「麦わらのルフィ君…で、間違いないんだね?」
「ああ、おっさんは?」
「私はゴードン…このエレジアの元国王だ…君に聞きたいことがある」
ゴードンと名乗った男は、そのままルフィに近づく。
「手配書の君の帽子…あれは赤髪のシャンクスのものか?」
「おっさんシャンクス知ってんのか?おれシャンクスから預かってんだ!…今はウタのやつに取られちまったけど」
帽子のない頭を叩きながらルフィが答える。
「そうか…では、君はウタの知人か…」
「おう…おっさんは?」
「…このエレジアで、私はウタを育てていた…彼女が海賊、そして七武海になって、この島を空けることが多くなるまではな」
「七武海ィ!?ウタがか!?」
ルフィが驚きの声を上げる。
よりにもよって、ウタが政府直属の海賊になるなど信じられなかった。
「確かだ…だが、彼女が自分以外の人間を傘下ではなく部下にしようとしたのは、私が知る限りでは過去になかった」
ゴードンがルフィに向き合う。
「…おっさんは、ウタがシャンクスと一緒じゃない理由を知ってんのか?」
ルフィの問いに、ゴードンが顔を下げる。
「…今のウタは、シャンクスを憎んでいる…だから君から帽子を奪ったのだろう」
ゴードンには、そこから先は話せなかった。
かつての「約束」のために、むやみにあの話はできない。
「…君は、これからどうするのだね?」
バルコニーの柵に乗るルフィに、問いかける。
「…仲間と帽子を取り返す、それでウタと話す!!」
拳を打ち付けながら、ルフィが答える。
「あいつはシャンクスが大好きだったんだ…嫌いになんてなるわけねェ」
「……そうか」
その言葉には、二人への信頼が感じられた。
だからこそ、ゴードンももう何も言える言葉はなかった。
「やっぱ今すぐ言って、あいつとケリ着けて…」
ギュルルルルルル
「…」
勇んだルフィの腹が、強烈に鳴り響く。
「……腹減った…」
「…食事なら用意してあるが…食べるか?」
「ほんとか〜!?いいやつだなおっさん!!」
そう言ってバルコニーに降りるルフィ見てゴードンは思う。
眠るルフィに食事を用意しておいてくれと言ったのはウタだった。
まさか用意し終えた途端「能力」に巻き込まれるとは思ってなかったが、
やはりウタにとっても目の前の少年は少し違うなにかがあるのだろう。
…だからこそ、ゴードンも賭けてみたくなった。
「…食事しながらでいいが…一応君には、話しておこうと思う…それを聞いてどうするかは君の自由だ」
「…?何をだ?」
「…彼女、ウタの能力だ」
心の底が未だ孤独な彼女が、救われるきっかけになるのではないか、と。
〜〜
「…みんな、一応聞くけど心の準備は?」
「ガウッ!!」
「ブルッ!!」
「ワンッ!!」
巨骨の下にあるステージ。
そこでは、ウタと「彼ら」の作戦会議が行われていた。
「みんなを信じたいけど…ルフィは手強いだろうから、頑張ってね」
その言葉とともに準備するそれらを見て、ウタは後ろを振り返る。
五線譜に縛り、ついでに口を塞いだ麦わらの一味が宙に浮かんでいる。
音符の兵士に、ゴードンへの伝言は伝えさせた。
一つ、どうせ腹をすかせてるだろうルフィを万全にしておいてほしいこと。
眠っているときに派手に腹の虫を鳴らしたルフィが空腹だと読んでのことだった。
どうせなら、万全のルフィを叩きのめしたい。
もう一つ、自分の能力について教えておいてくれということ。
仮に自分の能力も、その弱点も知ったら、ルフィはどくするだろうか。
「時間切れ」を狙ってどこかに隠れるだろうか。
その時はやりようなどいくらでもある。
臆病なその精神も肉体もとことん打ちのめしてやろうと思った。
が、きっとそんなことにはならない。
例え不条理を知ったとしてと、きっとここに来るという確信がウタにはあった。
静かに、帽子と得物と共に時間を待ち続ける。
そして、約束の時間。
時間ピッタリに、骨の上から手が伸びてくる。
「…来たんだ、ルフィ」
「…当たり前だ」
降りてきたルフィが、まっすぐにウタを見据えた。
「…仲間と帽子、返してもらうぞ」
「…返すかどうかは、勝負次第だよ、ルフィ」
ルフィとウタ。
二人の海賊の戦いが、始まろうとしていた。