セイレーンと麦わら帽子④

セイレーンと麦わら帽子④


「こりゃ酷い嵐だな…」

未だ止むことない嵐の中、サニー号がエレジアの港に錨を下ろす。

そこから次々と一味が港に降りていく。


「アウ…しかしどこだこの島…」

「当然ログが指し示しているわけでもない…この島に書き換えられる前にルフィを拾わないとね」

「そうだな…おーいルフィー!!」

一味がこの島に来ているであろう船長の名を叫ぶ。

「チョッパー、匂いは…」

「この雨じゃ辿れないな…あれ、ロビンどうした?」

チョッパーが一人近くの瓦礫に向かうロビンを見る。


「いえ…ウォーターセブンから来れる廃墟の島…少し気になってしまってね」

「そういやこの島、人の気配がないし廃墟ばっかだな…」

ウソップがそう言ってあたりを見渡す。

周辺には既に捨てられて長いのだろう廃墟が立ち並び、人の営みの気配は薄い。


「海賊にでも襲われたのか?じゃあここは無人島か?」

「どうかしらね……!?これは…」

「ん?どうしたのロビン?」

ナミがロビンを見る。

その場にしゃがんだロビンの視線の先には、崩れた文字入りの瓦礫がある。


「何々…エ…レ…ジア……エレジア?どこかで聞いた気が…」

「…まずいわね」

「まずい!?何だこの島猛獣でもいんのか!?」

「…もしかしたら、もっと…」

怯えるウソップにロビンが答えようとしたとき、フランキーの叫ぶ声がした。

「アウ!!海賊船が止まってんじゃねェか!!」

全員がそちらを振り向く。

視線の先にはフランキーと、変わった形の船が停泊している。


「フランキー、海賊旗は!?」

ロビンがフランキーに大声で投げかける。

「ん〜…なんだこりゃ…音符みてェな形してるぞ!」

フランキーが見た先にある黒い旗に刻まれた髑髏は、片目の潰れた音符のような形だった。


「…まずいわ……全員ひとまず船に─」



ロビンが言い切る前に、ノイズ音が島に響いた。


『あーもしもし…うん、大丈夫そうだね』


『そこの"麦わらの一味"のみんな?今すぐ降伏してくれる?』

「あそこの電伝虫だ!!」

チョッパーの指さした先で、鉄塔の上に置かれた電伝虫が音を発している。

「野郎…誰だ一体」

「この声…レディか?」

「…まさか…やはり彼女…」


『降伏する気なさそうだね…分かった』


「…ゴードンは、後で謝るか」


〜〜


「やだ」


一言、ルフィはウタの提案にそう答えた。


「おれ海賊やめるつもりはねェぞ」

「海賊までやめろなんて言ったわけじゃないよ」

眉間にしわを寄せるルフィにウタが笑う。


「私と一緒に来なって言ってるの…船長やめて、私の仲間になりなよ」

「やだ、おれは船長がいい」

それでも頑なにルフィは拒否をする。

自分の船に乗るのはそんなに嫌なのだろうか。


「う〜ん…じゃあ傘下でどう?もう悪いことしないなら旗化してあげるけど」

七武海の傘下もいなくはないはずだった。

あくまで下の立場につけるなら恩赦も働くはずである。


「よく分かんねェけど、お前の下にいくのは嫌だ…海賊王になれねェ」

どうやら、これもお気に召さないようだ。


「ふ〜ん…そんなに私と来るのがいやなんだ、ルフィ」

「お前はきらいじゃねェし会えて嬉しいけど、お互い船長なんだろ?」

そう言うと、ルフィは歩き出す。

「助けてくれてありがとな、多分そろそろ仲間が来るからおれは…」


そう言おうとして飛び降りようとしたルフィの手を、ウタが掴んだ。

「分かった…なら、久しぶりに勝負しよっか」

「勝負ゥ?」

ルフィが振り向きながら声を上げる。

「そ、昔よくやったでしょ」

「おれだって強くなったんだ、また勝っちまうぞ?」

「よく言うよ、私の連勝中なのに」

「違う、おれが今183連勝だ!!」

…ぴったり数まで覚えてたんだなと、心の中で驚きと少しの喜びを感じる。


「ならやるよね、じゃあその前に…」

ウタがバルコニーの柵に立ち上がる。

その黒いイヤホンからマイクを取り出した。


「…せっかくだし久しぶりに聞くよね、私の歌」

「歌?…久しぶりだな、いいぞ!」

ルフィが立ち止まる。

それを確認したウタが手を上げれば、どこからか旋律と手拍子が鳴り始め…


セイレーンの歌が、島中に響いた。


異変はすぐ一味を襲った。

ロビンの警告も間に合わず、電伝虫から歌声が聞こえた瞬間、

上空にあった雲が吹き飛び青い空が見える。

晴れ渡った島、その山にある城から、不思議な力を感じた。


「なんだ、何かの能力者か!?」

「ロビン、何か知ってるの!?」

「遅かった…私達全員、既に彼女の能力に囚われた」

「囚われた!?どういうことだロビンちゃ…!!何か来るぞ!!」

サンジが指差す先、城の空から多くの影が迫りくる。

よく見ればそれは、武器を持った不気味な人型の何かだった。

「なんだあいつら!?"火薬星"!!」

「"ウェポンズ左"!!」

「三十六煩悩鳳!!」

ウソップ、フランキー、ゾロがそれぞれ攻撃で撃ち落とそうとする。

が、攻撃の当たったそれは音符に散ったと思えばすぐ新しい個体が後ろから迫る。


「なんだあいつら、不死身か!?」

「やはりこの能力…"セイレーン"…!?」

「ちょっとロビン、知ってることあるなら話して!!」

クリマ・タクトによって生み出した雲から雷を起こしつつナミが叫ぶ。

兵士を関節技で落としながら、ロビンが返した。

「気をつけて!!恐らく海賊"セイレーン"ウタ…"王下七武海"の一人よ!!」

「七武海ィ!?」

ウソップが叫ぶ。

攻撃の手は、いまだやまない。



「おい、ウタ何やってんだ」

歌い続けるウタにルフィが叫ぶ。

ルフィからしてみれば何が起きたか把握しきれていなかった。

ウタの歌が始まったかと思えば、辺りに謎の兵が現れ始め、

それがこれまたいつ来たのか分からなかった仲間に向かって行っていた。

仲間達が戦うのを見て、ルフィもまた近くの兵を倒しながらウタに叫ぶ。

が、ウタはルフィを一瞥してまた前方に向き直る。

直接止めようとルフィが飛びかかる。

が、より早くルフィに向けてウタの手が伸ばされた。

その指先から出た光の五線譜によって簀巻きにされたルフィが再びバルコニーに落ちる。

同時に歌も終盤を迎え…音符から生み出された兵士達が、五線譜に姿を変えた。

その五線譜が麦わらの一味を包み込む。

やがて曲のフィニッシュと共に球状のそれが打ち上げられ…

後には、上空の五線譜に拘束された一味がいた。


「なんだこりゃ…!!」

「くそ…動けねェ…」

「スーパーだめだ、ピクとも…!!」

「なんなんだよこれェ!!」


「チキショー…ウタ!!これ離せ!!」

「ちゃんと離してあげるから安心して」

ウタがそう話すが、ルフィは叫び続ける


「おい、おれの仲間も離せ!!名に考えてんだ!!」

「言ったでしょ、勝負しようって」

そう言うと、ウタはルフィに手を伸ばし…

その頭に乗せられた防止を取った。

「あ、おい!!返せ帽子!!」

「…ルフィ、久しぶりに、喧嘩の勝負しよっか…海賊らしく」

ルフィの言葉を無視し、ウタが背後を指差す。


「一時間後…あそこの骨の下のステージに来て…そこで、久々に喧嘩勝負しよっか」

歪な孤を口に浮かべながら、ウタが言う。


「…あんたの仲間と、お宝をかけてね」

ウタの背中から黒い翼が生える。

ウタがバルコニーから中に浮かぶのと同時に指を鳴らした。

ルフィの体を縛っていた五線譜が光に消える。


「じゃあね…待ってる」

そう言い残し、ウタは帽子を手に、島の外れに見えるその骨の元へと飛び立った。

それと同時に五線譜と仲間もまた、そちらに飛ばされていく。

後には、帽子を取られたルフィだけが残った。


「…チクショー…ウタのやつ…!!」

悔しさから拳を合わせながらルフィが声を漏らす。

「なーにが一時間だ…今すぐ行って仲間を…」


「…少しいいかね、君」

「ん?」

後ろからの声に振り向けば、そこに一人の大男が立っていた。

「…少し、君と話がしたい」



エレジアの端、かつての命を思わせる巨骨の頭の上にウタは降り立つ。

その手には、麦わら帽子が握られている。

「………」


『シャンクス…なんで…なんでだよオオオオ!!!』


「…あいつは悪党…あいつは私を捨てた…」

まるで言い聞かせるかのようにウタが呟く。

その手の麦わら帽子を握る手に力が入る。




「………どこにいんの…シャンクス……」

溢れたウタの言葉を聞き届けた者は、誰もいなかった。

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