セイレーンと麦わら帽子③
「…それで、なんであんたこんなとこいるの」
少しの間抱き合って冷静になってきたところで離れたウタがルフィに問う。
ウタが海軍本部から盗聴…及び拝借した情報では麦わらの一味はウォーターセブンを出航した、
すなわち次の候補は魚人島でありエレジアに来るはずが無い。
まさか自分の存在を知って会いに来たとでも言うのかとも考えたが、ルフィからの答えは違った。
どうやら嵐の中あの巨大な魚を取ろうとしたら二転三転して魚ごと鳥に連れ去られたらしい。
なんという間抜けな顛末だろうか。
これが七武海と政府の3大機関の一角を落とした海賊というのだから驚きである。
「でも、ウタの方こそここでなにやってんだ?」
そしてこれである。
当然ウタもルフィが新聞などの情報をこまめに見るとは思ってなかったが、まさか自分も戦ったことのある七武海すら把握していないとは。
「…ほら、これ」
背中のジャケット、そこに描かれたそれを見せれば、ルフィが声を上げる。
「お前も自分で海賊やってんのか!?」
「そ、一応あんたの同業者」
いちばん大事な部分は伏せているがまだ話す必要はないだろう。
それより今は、聞きたいことがたくさんある。
「それよりルフィ、その帽子は?」
「ん?ああ、これか?」
ルフィが頭に被る帽子を手に取る。
「それ、シャンクスの帽子だよね…なんであんたが?」
「ああ、預かってんだ!!立派な海賊になったら返す約束なんだよ!!」
そう言ってルフィが笑う。
どうやらルフィは円満にシャンクスと別れたらしい。
…自分の中に、黒くドロドロとしたものが湧いてくるのを抑え込む。
「…そういやお前、急にいなくなったよなァ…確かあのとき…」
ルフィが必死に己の中の記憶を掘り出す。
記憶の中のシャンクスは、「ウタは歌手になるために船を降りた」と言っていたはずだった。
「そうそう…お前、海賊ならシャンクス達のところには戻んねェのか?」
純粋に疑問をぶつけてくるルフィに、抑えていたものがまた溢れそうになる。
「…ほら、なんだかんだ自分で船出しちゃったから、もう少し船長で頑張ろっかなって!!」
「ふーん…そっか!!」
うまく表情を作れていたかは微妙だが、どうやらルフィは誤魔化されたらしい。
心の中で、落ち着かせる意味でも一息つく。
「そっか……それで、ルフィの仲間は?」
「あいつらか?あいつらならその内この島に来ると思うぞ?」
「そう…」
確かに、ウタの見聞色は少しずつ島に接近するそれをわずかに捉えられた。
その内港に着くのだろう。
「…なァウタ、左目どうした?」
「…これ?見たい?」
そう言いながら、ウタが眼帯を外す。
その下には、左目を中心に十字に刻まれた傷が走っている。
「普段は隠してるんだけど…海賊と戦ってたときにメイスでね」
「…そっか」
ルフィが少し顔を下げる。
「別にそんな気にしなくても…あんたこそ、それどうしたの?」
「ああ、これか?」
どうやら、シャンクスに対しての度胸自慢かわりだったらしい。
呆れてため息が出てしまう。どう考えてもそっちのほうがヤバいではないか。
「あんたバカだね…失明しなくてよかったよほんと」
「いや〜懐かしいなァ!!」
そう言って笑うルフィを見ると、どうしても昔を思い出してしまう。
お互いの立場を考えれば、どう考えても許されない時間だ。
…だが、もうしばらく、この時間が惜しいと考えてしまう。
眠るルフィの頬を撫でながら、ついそう思ってしまう。
せっかく再会出来たというのに、自分はこの幼馴染を殺さないといけない。
外の嵐は、ウタの心情を表さんとばかりに激しさを増していく。
そんな中、ウタの中に一つのアイデアが浮かんだ。
そうか、自分も相手も海賊なのだ。
─なら、海賊らしく奪えばいいのか。
港に着港した船を見下ろし、受話器を取りながら考える。
「…凄いよねルフィ、いつの間にか大きくなって…仲間も集めて…七武海のクロコダイルだって倒しちゃうんだもん」
「おう!!…あれ、クロコダイルのこと話したっけ?」
太陽の下不思議そうな顔をするルフィを見る。
「…ねぇルフィ」
「船長、やめなよ」
─セイレーンの企みが、動こうとしていた。