セしてはいけない部屋
1時間セッしなければ出られる部屋
※状態異常有
面妖な文言に、私は首をかしげた。
しろと言われるならばともかく、するなと言うなら、達成は容易だ。ただ、1時間待てばいい。
(体温、脈拍、思考、全て問題なし)
わざわざ但し書きされている状態異常も、不発なのかなんなのか、まったく問題なしだ。
「ねぇ、晴信。1時間何します? 川中島しましょうか」
振り返った先の晴信は、だが、大丈夫ではないようだった。
顔が赤い。呼気が荒い。そしてなぜか普段のスーツから大鎧に着替えている。
「おや、状態異常」
「おまえは何ともないのか」
「ええまったく。どうしましょうか、水でも持って来ましょうか?」
「いらん。近づくな」
完全な親切心だったのに、容赦なく拒否されて、ちょっと傷つく。だが、それほど異常が強いということでもある。
「どうしたら楽になるんです?私にできることなら何でもしますよ」
「簡単にそういうことを言うな。おまえに出来ることは何もない。寄るな触るな話しかけるな。……頼むから」
苦しげな息の合間に吐き出された言葉は、懇願の響きを帯びていた。これは本当に近づかない方がいいのだろう。
仕方がないので、床に座ってじっと瞑想する。
けれども、苦しそうな晴信が気になって、一向に集中できなかった。そっと盗み見れば、晴信は私に背を向けてきつく拳を握っている。辛そうだ。
何とかしてやりたいが、何もできない。
無力感に苛まれつつ、ひたすら時を待つ。
そして、鍵が開いた。
「晴信!開きましたよ!」
肩を貸そうと近けば、強い力で抱きすくめられ、首筋に食いつかれた。
「にゃっ?!!」
驚きに声を上げると、晴信は私を押し除けて、立ち上がる。
「近づくな。……今、吉原につながってたな」
「吉原?ええ、そうですけど。……吉原に、行くんですか?」
答えはなかった。
晴信は私を一瞥もせず、霊体化して去ってしまった。私を一人、残して。
いえ、いいのですが。私は何も異常ありませんし?一時間無駄に座ってただけですし?晴信が私に頼ろうとしないのなんていつものことですし?
晴信が何をしようと、吉原で何をする気だろうと、私には別に関係ないですし?
何も!問題はないのですが!
「晴信の莫迦」
私はダメで、吉原の遊女はいいのが、納得いかない。そうさして造りは違わないはずなのに。
「この鬱憤は、川中島で晴らさねば!」
一瞬でも早く、川中島できるように。
私は晴信を追って吉原へ向かったのだった。
晴信は、この状態で未通娘なんか(優しくできないから)抱けるはずないし、俺に惚れてない女なんか抱きたくない!ってなっている。