スリラーバーク編inウタPart7
雨の如く降り注ぐ魔人の連撃はサンジとチョッパーの体を容赦なく痛めつけ意識を刈り取る。その凄惨たる場面を目の当たりにした一行は言葉を失い、ようやく口を開いたウソップもみんなやられていくと嘆くことしか出来なかった。
「4人目…5人目…キシシシ…あと"4人"!!!」
「残り4人!!!」
示し合わせたかのように残り人数を口にしたモリアとオーズ。既に半数以上もやられ、これまでの戦いで蓄積されたダメージもあるこの絶望的な状況でなおも鋭く牙を剥かんとする目の前の怪物にウソップとナミは恐怖に慄く他なかった。
「無理よ!!倒せるわけないじゃない!!私達4人でこんな怪物………っ!!!」
「同感だ!!もう打つ手だってねェよ!!」
「キシシシシシ…!!!さっさと踏み潰せオーズ!!」
モリアの指令もあり再び動き出したオーズ。だがそこへ未だ諦めようとはしていないゾロがウソップへ隙を作ると端的な指示を出す。一瞬何を言い出すのかと思ったウソップであったが、その発言の真意をすぐに汲み取り動き出す。
「おお!!そうか!!了解した!!」
「"ゴムゴムの"ォ〜〜!!"銃"!!!」
「キャアアア!!!」
「ナミ!!しっかり!!」
オーズの放った右ストレートからその場に座り込んで動けなかったナミをウタが抱え離脱し、伸びてきた腕に対しゾロは三本の刀を交錯させ回転しながらオーズへ斬りこみ始める。
「"三刀流"…"夜叉鴉"!!!」
「んん!?うお!!!」
まるで鴉が足跡をつけたかのような切り傷から血を吹き出し効いたかのような素振りを見せるオーズであったが、また右腕かとイラつきを見せるのみで全く効いている様子など皆無であった。
「効かねェって言ってんのにこのやろうがァ!!!」
「!!!"虎狩り"!!!」
先程まで自分の右肩に乗っていたはずのゾロを素早い身のこなしで膝蹴りを浴びせたオーズはゾロの反撃など意にも介さず屋敷の壁へと叩きつける。
ゾロまで戦闘不能に追い込まれいよいよ一味崩壊の時が来たかと思われたその時、シャレで作ったクワガタのスリングを引き絞りながらウソップがオーズへ向けて叫ぶ。
「おい!!こっち向けオーズ!!!」
「!!………?………なんか口に入った…」
呼びかけに素直に応じた口を半開きにしていたオーズの口の中へクワガタに装填していた玉を放り込んだウソップ。いまいち状況が飲み込めていないナミは何をしたのかと困惑していたが、作戦を成功させたウソップと事態をすぐに察したウタの2人は歓喜に震える。
「や……やった!!し…!!!塩食わせてやったぞ〜〜〜!!!」
「やった〜!!!さっすがウソップ!!!」
「塩!?塩がどうしたの!?」
「あ、そっか!ナミは知らなかったね。塩はゾンビの弱点で…ほら見て!!オーズはもう終わりだよ!!!ルフィの影が出て来る!!!」
「お…オオオ」
「浄化しやがれ怪物ゾンビ!!!」
塩の効力により他のゾンビ同様オーズの口から影が抜けようとするその姿を見て浄化の成功を確信したウソップ。
だがそこから出て来たのはルフィの影ではなく、放り込んだ塩が入った袋を持つモリアの影であった。
「……!!……………え!?何で??あれはモリアの影」
「キシシシ!!体内からガードしたんだバーカ。落とし物だぜェ!!!長っ鼻ァ」
「ぶへ!!!」
『ウソップ!!!』
ゾンビの弱点である塩をいつオーズの口の中に放り込まれてもいいようにオーズの体内へ自身の影を忍ばせておいたモリアは、鼻をほじりながら浄化に成功したと喜ぶウソップへ塩を投げ返しそこらじゅうに散乱させ嘲る。
「ぶへ!!うわっ!!塩が!!!ブルックが集めてきた最後の塩がっ!!!畜生!!……!!畜生ォ!!!あの野郎バカにしやがって………!!!」
「キシシシシシ!!ぬか喜びしてめでてェヤローだぜ…!!弱点だとわかってるものに対策もうたずにいると思ったか!!」
「…………!!くそォ!!!」
「"スターーンプ"!!!」
モリアの嘲笑に苦悶の表情を浮かべながら塩を集めるウソップへ向けて情けのないオーズの踏み潰し攻撃が向かう。
ドゴォン!とウソップごと地面を踏み鳴らす音が鳴り響く…ことはなく、まるで衝撃を吸収されたかのようにオーズの突き出した右足がピタリと止まる。
その先には音響槍に"衝撃貝"をセットしたウタがウソップを背後にし、オーズの足へ音響槍の穂先を突き立てていた。
「あり?止まった…何でだ?」
「……っ!!!今度は私が隙を作る!!ウソップとナミは塩を集めて!!!」
「…で、でもよォ……!!何とかしてまたオーズの口に放り込んでもさっきみてェにガードされちまったら……!!!」
「それも私が何とかする!!!種はもう割れてる……!!だったらオーズの隙を作ってモリアの影を体内や口周りから追い出す!!これで行くよっ!!!」
もはや作戦とも呼べない無茶をしようとするウタをモリアは鼻で笑いオーズへ指示を飛ばす。
「はっ!!血迷ったか小娘が!!てめェ1人でそんなことが出来りゃあ苦労しねェよ!!あいつを先に潰せオーズ!!!」
「"ゴムゴムの"ォ!!"鞭ィ"!!!」
「"快速な詠唱曲(アレグロ・アリア)"!!!」
迫り来るオーズのしなる左足の蹴りを全身に包んだウタウタの力により素早さを上げたウタは軽快に回避し、オーズの所へ駆け抜ける。
まだ仲間が戦おうとしてるのに諦めてたまるかとウソップも奮起し、カブトのスリングを引き絞り援護の体勢へと移る。
「ナミ!!!塩集めんの頼む!!一発だけウタを援護する!!!」
「わかったわ!!集めたらあの大きいパチンコに運べばいいのね!?」
「あァ!!……くらえ!!必殺"超煙星"!!!」
「うおっ!?何だこの煙…!!」
「ちっ!!目くらましか……小賢しい真似を!!」
ウソップの放った凄まじい煙はオーズの胸元からその巨体を包み込み、オーズとモリア、そしてウタの視界を奪う。一見味方へも悪影響を及ぼすような攻撃だが、ウタにとってこの程度の目くらましなどあってないようものであった。
その聴力をもって声を反響させ拾った音から周囲の位置関係を把握することの出来るウタはスイスイと瓦礫を避け、オーズへ近づき飛び上がる。その先に現れたのは煙を払い視界が開けだしたモリアだった。
「ん〜?何だてめェ…まずはおれと戦ろうってのか!?すぐに叩き落として……!!」
「残念、もう遅いの "インレイ・フラッシュ"!!!」
「ぬおっ!!がああァっ!!!目がァ…!!うっとおしい!!!」
「これで少しは影の操作が効きづらくなるでしょ!?後は……!!」
モリアにさらなる強力な目くらましを放ち影の操作精度を落とさせたウタは乗っていたコクピットの縁を蹴り、オーズの真正面へと躍り出る。
モリアから少し遅れて煙を払い除けたオーズは目の前の敵を視認すると「あ、いた」と間の抜けた声を出しながら傷だらけの右腕を振り抜く。
「なんかまた伸びねェけどォ…!!"ゴムゴムの銃弾(ブレット)"!!!」
「"軽やかな舞曲(リエーヴェ・ダンス)"!!!」
本来、正面の多数相手に風のように切り抜けるその技を迫り来る拳を切り捌くために用いて最小限のダメージに留め受け流す。そのまま伸びてきた右腕に着地したウタは腕を伝いオーズの顔面を目指し駆け抜ける。
狙うはオーズの口元付近で塩を入れさせまいとガードするモリアの影。現在モリアは影の操作の精細さを欠いている。普段霧に包まれたこの島で屋敷に引きこもってばかりの暗闇に慣れた目にはよっぽど先程のフラッシュが効いたのだろう。
万が一にもオーズに塩を食わせられるわけにはいかないと口元のガードに徹し、影の形を変えてオーズを擬似的なゴム人間とすることは一旦諦めたようだ。
「あの影さえ何とかすれば後はウソップが何とか塩を入れてくれる…!!」
「どいつもこいつも人の腕を足場にしやがって〜!!"ゴムゴムの"ォ!!"鐘ェ"!!!」
伸びることのないただの頭突きを予想してたかのような軽やかな身のこなしで躱したウタはオーズの右肩へ着地するのと同時にそこへ槍を突き立て不敵な笑みを浮かべる。
「どうせ頭突きだろうと思ったよ!!何年あんたと一緒にいると思ってるのルフィ!!?…まずはこれでこの巨体を揺らす!!!"インレイ・インパクト"!!!」
「オオゥ!?また右腕に……!!」
ウソップを守るために吸収した"スタンプ"の衝撃でオーズの巨体を右肩から揺らし隙を作ったウタは衝撃の反動に痛む腕を休ませることなく、引き抜いた槍をモリアの影へ向けて構え突撃していく。
「……ッ!!"急速な追想曲(プレスト・カノン)"!!!」
「ウタが影を斬ったわ!!ウソップ!!!」
「おう……!!これが最後のチャンスだ…!!!必殺"特大塩星(ソルトスター)"!!!」
たとえ斬られたといえど実体のないモリアの影にダメージはない。しかし、ダメージはなくとも切り離された影が元の形に戻るには時間を要する。その一瞬の隙をついたウソップの放った塩はまっすぐに、まっすぐにオーズの口の中へと向かっていく。
今度こそやったか!?と思われたその時、ウタによって両断されたモリアの影が蠢き出し分裂する。欠片蝙蝠(ブリックバット)となった無数のモリアの影がオーズの口の中を狙う塩に向かいながら徐々にトカゲのような姿形へと変容していく。
「"角刀影"!!!」
「………!!?そんな……塩が…貫かれちまったァ〜〜〜!!!畜生ォ!!!何でもアリかよあの影ェ!!!」
トカゲの形となったモリアの影は塩の詰まった袋を貫き、最後の希望を霧散させてしまった。
塩の消滅を確認したオーズの腹の中にいる視界の晴れたモリアは笑いが止まらないといった様子で絶望する3人を見渡していた。
「キシシシシシ!!中々面白い駆け引きだったぞお前達!!!だがあと一歩届かなかったな…!!さァオーズよ!!!まずは紅白女からだ!!!」
「当たり前だァ!!!"ゴムゴムの"ォ…!!!」
「……くそォ………!!」
宙に浮かび一切抵抗出来ない状態となったウタを見据え、脱力させた右腕を左腕で抑えながらブンブンと振り回し凄まじい勢いのついたその右腕の拳をオーズは打ち放つ。
「"連接鎚矛(フレイル)"!!!」
『ウタァーーッ!!!』
オーズの拳と共にメインマストの壁へと叩きつけられたウタはそのまま力なく地面へと落下し倒れてしまう。
仲間も希望の塩も失い、ウソップは半ばヤケクソになりながら火薬星を連発しオーズに抵抗しようとする。
「クソ…クソ…!!"火薬星"!!"火薬星"!!"火薬星"!!!」
「オーオー諦めの悪ィ長っ鼻だなァ…!!さっさと潰しちまえオーズ」
「!!?うわァ〜〜!!!」
「あっ!!ウソップーーッ!!!」
「まだまだ踏んでやれ!!!キシシシシシ!!粉々にしちまえ!!」
一度ならず何度も何度もウソップが立っていた場所を踏みならすオーズにやめてとナミは叫ぶが、魔人の足が止まることなどなかった。
「そこの女もだ!!!」
「!?きゃあァ!!!」
「潰せ潰せ!!!どいつもこいつも踏み潰せェ!!!キシシシシ!!倒れてる奴らも全員少しずつ息があるぜ!!?人の形すら残してやるな!!!」
モリアの命令通りにウソップに続きナミを徹底的に、完膚なきまでに踏み潰すオーズ。
だがそこへ、どこからともなくオーズへ何者かが話しかける。
「おい!!!デケェの!!!お前は一体何を踏み潰してるんだ?お前の足の下には誰もいねェぜ!!!」
「誰だお前」
誰だと問われたその大柄な男は踏まれる直前のウソップとナミを救出し、その両腕に握られていた2人からはお礼を言われていた。その者の名は…
「モンキー!!!D!!!ルフィだぜ!!!」
「え……!?ル………」
『ルフィ〜〜!!?ど………どこが〜〜〜!!!』
「似てるっちゃ似てる気もするが…本当なのか!?お前なのか!?」
「本当におれだぜ!!」
「いやその喋り方も……!!何があったんだよ!!」
仲間であるウソップとナミばかりか先程まで対峙していたモリアも、目の前のルフィを名乗る大男の存在に変身能力もあったのかと疑問を呈するが、すぐに潰せとオーズに命令を下しオーズも勿論だと応える。
一方のルフィを名乗る大男は周囲を見渡しウタやゾロ、サンジ達が倒れてるのを目撃しオーズにやられたことをウソップ達から確認していた。
「"ゴ〜ム〜ゴ〜ム〜の〜"」
「来た!!危ねェぞ、わかってんだろうがアレがお前の影の入ったゾンビだルフィ!!さらに体もゴムみてェに伸びてお前の技を使ってくる!!」
「"回転弾(ライフル)"!!!」
「うわ!!」
「ルフィはおれ一人だぜ!!!」
オーズ渾身の一撃を難なく受け止めたルフィはそのままオーズへ向かって飛びかかり、その顔面を殴り飛ばし屋敷上空を超え森の地点まで吹き飛ばす。
そこからさらに起き上がろうとするオーズの背中へ瞬時に回り込み、その体の大きさからは到底想像できないほどのパワーをもってオーズを投げ飛ばす。
その様子を呆気に取られ眺めていたウソップとナミは先程まで自分達がオーズと戦っていた場所がざわつき始めたことに気づき、そこへ目をやると誰かもわからない大勢の連中によって仲間達が囲われているのを発見する。
「やってるやってるあいつがオーズとやり合ってる!!今の内だ!!」
「いたぞ!!希望の星の一味!!みんなやられちまってる!!」
「ひどいキズだ……!!白骨化してる奴もいるぞ!!ムゴイ!!」
「ここに倒れてると危険だわ!!」
寄って集って仲間達を運ぼうとする連中を見た2人はとにかく急いで降りて彼らの目的を探ろうとする。
「希望の星の一味を救え!!」
「安全な場所で応急処置を!!そしてこいつら私の好みよ!!」
「4人程影を取られてる!!そっと運べ!!」
「ハァハァ…!!頼んだわよ………!!"ナイトメア・ルフィ"!!!……ハァ…」
ナイトメア・ルフィと呼ばれたその大男はオーズの髪を掴み振り回し、その体内にいるモリアも揺らし続けていた。
ようやく下まで降りてきたウソップとナミはゾロ達を救出せんと動いていた"求婚のローラ"率いる被害者の会の面々から諸々の事情を聞き出していた。
モリアの切り取った影は浄化させると捕まえることができ、それを体内に取り込むとその影の持ち主の力が制限時間付きで手に入ることを。そしてその影をルフィに向けて100人分もの影を詰め込んでナイトメア・ルフィなるものを生み出したことを。
100人分もの影を詰め込まれたルフィの猛攻はオーズからの一切の反撃を許さない程の力を奮っていた。オーズの長髪を掴み振り回し屋敷へとぶん投げ、手練海兵の剣術で一刀両断し、巻き添え食うばかりとコクピットから離れようとするモリアごとオーズの腹を殴り飛ばす。
そしてその体を空気を吸い込みながら膨らませ捻り、オーズの放つ踏みつけ攻撃を弾き飛ばしながら凄まじい勢いでオーズとモリアへ拳の雨を降らせる。
「"ゴムゴムの"!!!"暴風雨"!!!!」
ルフィが叩き込む拳の雨はオーズの肉体を歪ませながら屋敷を超え、メインマストのある壁まで叩きつけオーズ、モリア共に力なくダウンさせる。
そうして拳の雨を降らせきったルフィからは無数の影が飛び出していく。タイムリミットが来たことで100人分の影が抜けていき元の姿へとルフィは戻りその場で倒れ伏してしまう。
「ルフィ!!?」
「おいルフィ大丈夫か!!?」
ルフィの無事を案じるウソップとナミとは裏腹に、ルフィに自分達の希望であった影100体を託した被害者の会一同は歓喜に震えていた。
『オーズとモリアを倒したァ〜〜っ!!!みんなの影が戻ってくるぞ〜〜〜っ!!!スリラーバークが!!落ちたァ〜〜〜〜!!!』
100人分の戦闘力を一人の体で発揮したルフィは倒れたままであったが、東の空が明るくなり朝が近いことを確認した被害者の会一同は何とかして影を取り戻そうと動き出す。
「───で、どうやって影を返してもらうんだ!?ウチも5人影を取られてんだ!!」
「それもまた一苦労ね……本当は"麦わら"にやって貰いたいんだけど」
「無理だろう、もう体は動かねェ筈」
「全ゾンビに入った影の支配者はモリア…彼の口から『本来の主人の元へ帰れ』と命令されなければ影は戻らないのよ!!」
とにかく考えてないでモリアを起こして力ずくで言わせようと連中は画策するが、そこへ地響きと共に絶望が立ちはだかる。
オーズが再び立ち上がってきたのだ。
「痛くもカユくもねェ…!!」
そう言うオーズは全身血まみれで傷だらけにも関わらず、本当に痛みなどないとばかりにルフィに倒される前の鋭い目つきのまま足下で狼狽える連中を見下ろす。
麦わらの一味も倒れ、切り札の影も使い切った自分達に勝ち目はないと諦め、急いで光りの差さない暗い森へ帰ろうとする被害者の会一同であったが、そこへ一人の男が立ち上がる。ゾロだ。
「……ルフィに何が起きたか知らねェが…充分な追い込みだ」
オーズの巨体から攻撃を叩き込まれてまだ立つその姿にどっちがゾンビかわかりゃしないと驚愕する連中だったが、ゾロだけでなく先程避難させておいた麦わらの一味と無事だった2人がその場からいなくなっていることに気がつく。
全員逃げたのかと辺りを見渡していると今度はもう動けやしないと踏んでいたルフィまで拳を支えに立ち上がろうとしていた。
「ハァ……もうちょっと…足りなかったか……!!……あと一撃入りゃ…………!!!…くっそー…やっぱさっきのは疲れたな…ロビン!!!」
「ええいるわよ」
「うわ!!逃げてなかった」
「上へ飛びてェんだ!!」
「じゃ足場を作るわ」
「私にも…できる事があるならば………!!!」
「おわー!!白骨死体まで動きだした!!!えーー何で!!?」
「よし…ブルック頼みがあるっ!!!」
「そう来ると思った!もう全員サポート態勢に入ってるわ!!」
「うおーさっきのねーちゃんそこに!?」
一度逃げ出したのかと思われた麦わらの一味達が続々と姿を現し、ルフィをサポートしようとオーズが立ち上がった瞬間に迎撃の準備を始めていた一行は、それぞれの役目を果たさんと動き出していたのだ。
「ウタちゃん、チョッパー急げ!!日が昇る!!」
『うん!!』
「使えそうか!?フランキー!!」
「充分だ手ェ貸せ!!」
微塵も諦めていない麦わらの一味に驚かされるばかりだった被害者の会一同はゾロから邪魔だと言われ、その言葉に甘えて彼らを邪魔しないようにとその場を離れる。
こうして反撃する舞台の整った麦わらの一味がロビンの能力発動を合図に動き出す。
「"脚場咲き(ピエルナフルール)"!!」
「行きます、ヨホホ!!」
「頼む!!」
「ヨホホホホ〜!!」
メインマストに咲いた脚場を伝い、ルフィを抱えたブルックが持ち前の身軽さで登っていく。
それを止めようと手を伸ばすオーズの周辺に雲のようなものが広がっていく。
「ん…!?何だコリャ、煙?雲?」
「天候は『雨』"冷気泡(クールボール)"!"レイン=テンポ"!!!」
「うわっぷっ!!」
生み出された雲に冷気を送ったナミは魔法使いの如く雨を降らせオーズを水浸しにする。
そこへ応急配管工事を完了させたフランキーとウソップが襲来する。
「"風・来・砲(クー・ド・ヴァン)"!!!目一杯回せー!!!」
「回すーー!!!」
「発射!!特大冷凍庫の超低温冷気砲!!!」
「!!?わっ…凍った!!動けねェ!!」
オーズが眠っていた特大冷凍庫からもたらされる冷気を発射し、雨に濡らされていたオーズの足下を凍らせ身動きを取れなくさせたのだ。
何とかしてその場を動こうともがき体をよじるオーズの後方上空ではウタとサンジが飛躍していた。
「…しかしレディーを蹴り飛ばすのはどうも……!!」
「私なら大丈夫だから!!思いっきりお願い!!!」
「ああ行くぜウタちゃん!!"空軍(アルメ・ド・レール)"…"歌姫(プリンセス)シュート"!!!」
「……よし!!行っけェ!!!」
サンジにより蹴り飛ばされたウタはスリラーバークを動かす舵としての役目を持つ鎖へその手に持つ槍を引っ掛け、オーズへ向けて飛ばす。
「!!?うげっ鎖っ!!!」
「やったァ!!!すげーウタ、サンジ!!」
「ありがとう!」
「どうも!」
見るからに重い鎖をオーズへ引っ掛けた2人は軽快に地上へと降り立ち、その遥か上空ではルフィが投げろとブルックへ命令していた。
「ホントに投げますよっ!!?」
「大丈夫だ!!おれはゴムだ!!!」
「お気をつけて!!」
「"ギア3"!!"骨風船"」
「ん?」
掛けられた鎖をうっとおしそうにするオーズの下へ両腕を膨らませたルフィが凄まじい勢いで降下していく。
そこへチョッパーからオーズの腹を引かせてくれと言われたゾロが刀をグルグルと回し始める。
「"三刀流" "奥義"!!!
"三・千・世・界"!!!」
「今だな!?行くぞ!!」
ゾロの攻撃を食らい腹を引かされ、サンジが舵を操作するレバーを動かした事により鎖が巻き取られ、オーズの体が一直線に固定される。
「いいぞサンジ!!オーズの背骨は今まっすぐだ!!」
これまでの麦わらの一味による攻撃により本来S字に曲がり衝撃を和らげるはずのオーズの背骨がまっすぐに伸びきり、あらゆるダメージや衝撃を受け止める状態となったのだ。
そこへルフィがとどめの一撃を叩き込む事でオーズを再起不能に追い込もうとする。
「行ってルフィ!!」
「ご武運を!」
「特大のバズーカをくらえ!!」
「……ハァ そんなもん…!!"バズーカ"で打ち返してやる!!!ゴムゴムの……!?動かねェ………!!!あれ??右腕が動かねェ〜〜!!!伸びもしねェ」
ルフィの膨らんだ両腕以上の大きさを誇る自身の両腕で打ち返そうとするオーズであったが、右腕がブラーンと力なく垂れるのみで全く微動だにしなかった。
ブルックの雷の矢の如き一突きから始まったオーズの右腕への集中攻撃が功を奏し、魔人の片腕をもいだも同然の状況へ追い込んだのだ。
「ダメージに気づかないのはゾンビの弱点ね」
「てめェの影だ。ケジメつけろルフィ」
「"ゴムゴムの"ォ…!!!」
モリアも気絶し体を伸ばすことも出来ず、抵抗する手段を失ったオーズは振り下ろされるルフィの攻撃をただ待つことしか出来なかった。
『う!!…うお〜行け〜〜〜!!やっちまえ麦わらァ〜〜!!!』
「どうだ!!」
「ぶっ飛ばせルフィ〜!!!」
「"巨人の(ギガント)"」
ルフィ渾身の一撃によりまっすぐ伸ばされたオーズの背骨はダイレクトに衝撃を叩き込まれ、ボキボキバキと為す術なく粉々に粉砕され倒されてしまう。
その一部始終を目撃したスリラーバーク中のゾンビ達はあそこまでやられてはゾンビでも立てねェとオーズの完全敗北を悟っていた。
スリラーバークの行く末を案じる者、たいしたモンだと感心する者、とんでもない奴らを招いてしまったと後悔する者、モリアの身を案じる者等、一口にゾンビといえどもその反応は様々であった。
動揺の広がる死者達に対し、勝利を掴み取った生者達は今度こそやったと歓喜していた。
『ありがとうお前ら最高だァ!!!やっぱり希望の星だったァ!!!』
勝利に湧く被害者の会一同だったが、ギア3の反動で縮み転がっていたルフィを見て驚愕する。
そんな中、足下が凍ったまま地面に倒れていたオーズは痛くねェのに動かねェと困惑しており、それを見たチョッパーはどこまで生命をバカにした能力なんだと憤っていた。
朝日が差し込み、始め戦いは終わったと麦わらの一味が腰を落ち着ける中、一人メインマストの上にいたブルックは何か違和感を感じていた。
「…………何でしょうか、このゾクゾクする様な感覚は…!!」
多少の驚きはあれど勝った勝ったと喜ぶ連中と寝っ転がっているルフィへ、ウソップが急かすように声をかける。
「おいルフィ!!!早くお前らの影を取り戻せ!!!喜んでいる場合か!!てめェら全員消滅しちまうぞ!!!」
「影…そうだ!!急がにゃあ」
「さァモリアを叩き起こして影を返して貰うのよ!!!朝日はそこまで来てる!!!」
モリアを起こそうと動き出したその時、オーズの腹の中から何者かがのそのそと出てくる。
「……………!!起こすにゃ及ばねェ………!!」
『モリア!!!』
傷だらけであっても起き上がってきた自分達の主人にゾンビ達は歓喜する。
自分達の影を切り取った影の支配者の存在に狼狽えながらも、影を返せと啖呵を切る被害者の会一同に対してモリアは歯牙にもかけない様子で見下していた。
「キシシ…ガキのケンカじゃあるめェし…………!!!本物の海賊には"死"さえ脅しにならねェ…おめェら"森の負け犬"共が関わっていたとは…麦わらの過剰なパワーアップの謎が解けた…!!!」
己の能力を利用するとは忌々しいと負け犬達に毒を吐くモリアだったが、すぐにルフィへ向き直る。
「"麦わら"ァ、てめェよくもおれのスリラーバークをこうもメチャクチャにしてくれやがったな……!!!」
「お前がおれ達の航海を邪魔するからだろ!!!日が差す前に早く影を返せ!!!」
「航海を続けてもてめェらの力量じゃ死ぬだけだ…"新世界"には遠く及ばねェ…!!!なかなか筋のいい部下も揃ってる様だが
全て失う!!!ハァ…なぜだかわかるか!!?」
突然何かを語り出したモリアであったが話してる時間などなく、周囲は早く影を取り返してくれとルフィに頼み込む。
だがそんなやり取りをよそにモリアの一人語りは止まらなかった。
「おれは体験から答えを出した。大きく名を馳せた有能な部下達を、なぜおれは失ったのか………!!!
仲間なんざ生きてるから失うんだ!!!
全員が始めから死んでいるゾンビならば何も失う物はねェ!!!ゾンビなら不死身で!!浄化しても代えのきく無限の兵士!!!おれはこの死者の軍団で再び海賊王の座を狙う!!てめェらは影でおれの部下になる事を幸せに思え!!!」
過去に何があったのか、それはモリアのみぞ知ることであったが、モリアの足から紐のような何かが伸ばされ周囲へ散開し、生者達には目もくれずスリラーバーク中の死者達へとくっついていく。
(さァスリラーバークの全ての影達よ……!!!このおれの力となれ!!!"影の集合地(シャドーズ・アスガルド)")
影の支配者の鶴の一声で死者に入れられた影が抜かれ、紐を伝いモリアへと吸収されていく。
吸収された影はモリアの力となり、それを受け入れたモリアはその体を徐々に巨大化させていく。
「麦わらァ……!!!おめェが取り込んだ影は……100体ってとこか……!?ならばおれは200……300…600…700…」
島中の影、それはこれまでモリアに尽くしてきたゾンビの影達も、強力な将軍ゾンビの影も、ルフィを始めとした麦わらの一味の影も取り込まれ、そして……