スリラーバーク編inウタPart6
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ウソップを抱え現れたのは山程の塩の入った袋を手にしたガイコツ剣士・ブルックであった。ウソップから助けられたお礼を言われ、フランキーからお前動けるのかと問われたブルックはこれまでの経緯を話し始める。
「確かに…重傷だった私!!体をひきずり厨房へ塩を探しに行きましたところ!!牛乳を発見しまして、おいしく戴きこの通り!!!」
「イヤどんだけカルシウム効いてんだ!!!」
「牛乳で骨折治りますよね!!!」
「ウソつけ!!!」
ウソみたいな話ではあったが何にせよ、間一髪で大量の塩が手に入ったのだ。厨房への道が閉ざされた以上ブルックの持ってきた塩が最後の希望。残り少ない朝までの時間にその塩をオーズの口に放り込みモリアを倒すために全員戦闘態勢へと移る。
「キシシシ!!おれが戦いの場に出向いてやった事に感謝しろ!!…そして充分に気をつけるんだな………!!おれはただ乗ってるだけじゃねェ…!!!最高の悪夢を見せてやろう」
モリアの宣言に対抗するかのようにブルックも影を取り戻して頂いた大恩を返そうと共に戦うと宣言するが骨身がきしみ動けない。その塩しっかり持ってろとゾロが駆け出しウタはダイヤルを切り替え、フランキーも対怪物用砲弾で真っ向勝負をする構えだ。
そこへウソップが先手必勝とパチンコを引き絞る。
「ウタ、フランキー頼む!!!必殺"特用油星"」
「任せて!!」
「オウよしきた」
ウタの音響槍の穂先から、フランキーの口からそれぞれ炎が吹き出しその交差地点をウソップの放った油星が通過しその姿を変える。
「変化!!"スーパーサイズ火の鳥星"!!!」
「どわっ!!あちちち!!」
見事オーズの顔面に命中したが、熱がるオーズをそんな感覚は人間時代の思い込みだから落ち着いて火を払えとモリアが命じる。そのやり取りはモリアがついたことでオーズに頭脳がついた事をより明確にするものであった。
だが少なくとも一瞬の隙は作れた。次なる攻撃を仕掛けるためにチョッパーはゾロを崩壊しかかってる塔の前で投げ飛ばす姿勢をとる。
「今の内だゾローー!!!」
「よし!!」
「とう!!」
勢いよく投げ飛ばされたゾロは三本の刀を交錯させるように構えると塔のてっぺんから落下しながらその刀を振るう。
「"三刀流" "大・仏・斬り"!!!」
「くらいやがれ!!!"ジェンガ砲"!!!」
ゾロが蹴りだしやすいサイズに斬り捌いた塔をサンジが蹴り飛ばし、オーズの横っ腹に命中させる。手応えアリと残る塔をそらそらそらとオーズへ向けて蹴り飛ばす。
しかし、2度目は食らわんとオーズは右腕を振りかぶり迎撃しようとする。
「ん〜〜!!!こんにゃろォ!!!」
「どわァ〜!!!塔が飛んでくる!!」
「しまった!!利用されちまった!!!おい!!ケガねェか!!?」
オーズが殴り返した塔は近くにいたウタやウソップ達に降り掛かってしまった。
だがそんな瓦礫の雨が降る中、手頃な瓦礫にゴムを縫い合わせ即席兵器を作ったウソップがそのスリングを引き絞っていた。
「……新兵器…"クワガタ"…!!!」
「準備はいいか!?ウソップ!!」
「いいけどお前これシャレで作ったんだ、後どうなっても知らねェぞ」
「大丈夫だバカヤロー今週のおれは特にスーパーなんだぜ!!」
そう言いフランキーは巨大パチンコの中心にドカッと座りどてっ腹に頼むぜと要求し、ウソップもそれに応えオーズのどてっ腹めがけて狙撃する。
「いけ!!"必殺" "鉄人彗星"!!!」
「ん〜〜〜!!スーパーな勢いだ!!覚悟しやがれ!!コイツは海獣・海王類相手に使う"迫撃砲"!!!風穴開けたらァ!!!くらえ!!!モリア!!!」
どてっ腹、つまりその腹の中にいるモリアを狙ったフランキーの迫撃砲はドドドドと撃ち出されたが、貫いたのはオーズの後ろにある屋敷であった。
オーズはルフィ由来の身のこなしにより左腕で全身を支え体全体を横に向けて回避していたのだ。そしてその体勢のまま空中で躱すことも出来ない無防備なフランキーへ向けて右足を振り抜きメインマストへ叩きつける。
「うわあ〜〜!!!フランキ〜〜!!!」
「フランキー!!」
「まだだオーズ!!わずかに息がある。とどめを刺せ!!」
「はい」
喋ることも動くことも出来ない瀕死のフランキーへモリアに指示されたままにオーズは右足を天高く上げる。皆がフランキーを助けようと駆け出したその時、オーズの真上に黒雲が浮かび上がる。
「"サンダーボルト=" "テンポ"!!!」
「うおっ!!!」
黒雲から放たれた雷がオーズを貫き、ヒザをつかせる程の衝撃を与える。こんな攻撃が出来る奴は世界ひろしといえどそう多くはない。ましてやこのスリラーバークにいる者ならばナミしかいない。そう思い周囲を見渡し、ほどなくしてサンジはナミを見つける。
「いた!!ナミさんだー!!
んナミさ〜〜〜ん!!!」
「ちょっと呼ばないでよ気づかれるでしょ!!?」
「よがった!!フガイねェおれを許してくれ"〜!!よがった〜〜ナミ"さん無事だ〜〜!!!」
「ウルセェなコイツは」
サンジの猛烈なアピールによりオーズは自分に雷を浴びせた張本人をすぐに見つけてしまう。そこへ左腕を撃ち抜く構えを見せる。
「"ゴムゴムの〜〜"!!!」
「何??何?まさか伸びるの!?」
「届かねェだろ?アレ」
「フランキーを移動させろ!!!今の内だ!!」
人間時代の思い込みからか、到底届かないような距離からパンチを撃とうとするオーズを見て隙が出来たとフランキーを移動させようとする。
だが次の瞬間、信じ難い事態が発生してしまう。
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オーズの放ったそれはまるでゴムのように伸び、ナミが立っていた崩れかかった橋を破壊する。
橋と共にやられてしまったかと思われたナミであったが、ロビンが能力により咲かせた無数の腕でナミを抱え、自分達の居場所まで運び救出する。
一方の敵方、オーズもなんかいつもの感じだと伸びた左腕を見つめていた。
「驚いたわね…大丈夫?ナミ…!!」
「ハァ…ハァッありがと。お陰様で…!!」
「マズイ事が起きたぞ今…!!!」
「あいつの腕が何で伸びるんだ!!?」
「絶対おかしい…!!ゴム人間はこの世にルフィ一人だけのはずなのに!!!」
明らかに動揺する一行を見下ろしながら笑みを浮かべるモリアを見たゾロは奴が何かしやがったと勘ぐるが、そこへオーズが右足を振り抜く。
「"ゴムゴムの"…!!"鞭ィ"!!!!」
伸びないことが唯一体のサイズ以外でのルフィとの戦闘力における差異であったのに伸びてしまえばまるっきりルフィの化け物だ。ゴムの性質で鞭のようにしなる蹴りを繰り出した後、大きく飛び上がったオーズは首をさらに上へ伸ばし、勢いをつけた頭を振り下ろす。
「"ゴムゴムのォ〜〜〜"!!!」
「来るぞ!!!」
「"鐘"ェ!!!」
『ぐわああ〜〜〜〜〜っ!!!』
「しっしっしっし!!体伸びたら調子出てきたぞー!!"槍"ィ!!!」
『どわあ〜〜っ!!!』
ゴムのようにしなる体を用いた本物のルフィのように放たれたその攻撃の数々は、これまでのものよりも攻撃力を遥かに増していた。能力者でもないオーズの体がなぜ伸びるのかとモリアに問いかけると気分をよくしたモリアがその謎に答えを示す。
「キシシシシ!!そうだこれがおれの見せる悪夢!!カゲカゲの能力"影革命"!!!最高だろう!!?」
ドスゥンとオーズが着地した事を確認するとモリアは答え合わせの続きを始める。
「"影"とは"実体"に追従するもの。これが『常識』……!!!"実体"と"影"は必ず同じ形をしているもの…これが『鉄則』。だが今!!オーズに従うべきオーズの影はおれの分身が潜り込み支配している!!」
オーズの影にモリアの分身が入り込むことでオーズの影は今やモリアの思うがままにその姿を変えることが出来るそうだ。そして先程の鉄則通り同じ形でなくてはならないが為に変化する"影"に合わせて"実体"が変化する。これがオーズがゴム人間のようになったことの答え"影革命"だ。
求めていた答えが返ってきはしたが、なおさら全く近寄れねェと嘆く麦わらの一味に対してモリアはさらなる悪夢を見せる。
「実際ゴムより厄介さ…!!!こいつの影を丸くすれば…オーズも丸くなる!!!」
「お!?」
「"オーズボール"!!!キシシシ!!!」
モリアがオーズの影の形を丸くさせたことでオーズの実体もそれに追従し丸くなり、麦わらの一味の周囲にボカンドゴンと跳ねさせ襲わせる。
だがそこへおいおいとオーズが止める。
「ちょっと待てご主人様っ!!おれのケンカだ、邪魔をするなよ!!」
「キシシシ、ああ悪かった……!!邪魔するつもりはねェ…!!おれはあくまで補助に徹する。さァ一人ずつ確実に潰していけオーズ!!」
モリアの命令のまま確実に潰していこうとするオーズを見かねたゾロは倒れて動かないフランキーへ目をやるとすぐにオーズの下へ駆け出し、ウタとサンジもそれに続く。
前衛3人が前へ駆け出したのを確認したナミは先程自らが知ってしまったことを話そうか悩む中、ウソップに改めて現在の状況を確認する。この場にルフィ本人がいないのは恐らくモリアにスカされてしまったこと、そして目の前の化け物ルフィゾンビを倒してからモリアを倒さないとみんなの影は戻らないことを。
「もう朝になるわよ!?」
「それが敵の狙いなんだからやるしかねェだろ!!」
「すいませんっ!!!お願いを一つ聞いて下さい!!!」
「わっ!!ガイコツあんた一緒にいたの!?」
そこへブルックが何やら頼み事を後衛にいた3人、ナミ・ウソップ・ロビンへ嘆願する。それを聞いた3人は三者三様の反応を見せながらも願いを聞き届け、言われた通りに行動を開始する。
ロビンの能力により咲いた腕を何重にも巻き、その状態のままウソップが引き絞る巨大パチンコのスリングにブルックが乗り込み、そこから撃ち出された先へ貫通するようにナミが黒雲を配置することで全ての準備が完了する。
「"黒雲(ダーククラウド)=テンポ"!!!」
「また"クワガタ"を使うとは!!」
「どうぞお願い致します!!!恩を返せぬ無念以上に痛いものなどありません!!!骨身を惜しまず!!!頑張りますっ!!!」
「よーし行って来いっ!!!」
そうして射出されたブルックは剣を胸元に携え刃先を目標に向かって突き立てながら飛んでいく。そこへロビンが巻き付けた腕を一気に外し回転を加える。
「"回転蔓(スラロームバイン)"!!」
「ヨホホホホ!!ぎゃあああ!!!骨が透けるほど感電したァ〜〜!!!───って私元々骨だけでした!!!さァ行きますよ!!」
回転に加えナミの設置した黒雲を通過した事で骨身に雷撃を纏わせスカルジョークと共に目標であるオーズへ向けて爆進していくブルック。その姿はまさに雷の矢の如く。
「"雷骨剣" "革命舞曲(ガボット)ボンナバン"!!!!」
多数の協力をもって放たれたブルック渾身の一撃はオーズの肩を貫いた。当人はオーズの後ろの屋敷に刺さって抜けなくなってしまったが、肩を貫かれた事により出来た隙を狙い攻撃を繋げようとゾロとウタが動き出す。
「上出来だホネ…!!二刀流"弐斬り" "登楼"!!!!」
「このスキ無駄にはしない!!"心を込めた追想曲(スピリトーゾ・リコンダンツァ)"!!!」
「どわ!!!」
2人の繰り出した三本の斬撃はオーズを出血させる事に成功する。オーズは反撃しようとするが思い直し、背後に刺さったままのにっくきガイコツから先にとどめを刺さんと右足を天高く伸ばす。
「"ゴムゴムの"……!!!"戦斧"!!!」
『ブルック〜〜っ!!!』
強烈なかかと落としにより屋敷は崩壊し、そこに刺さっていたブルックにも甚大なダメージが入ってしまう。ブルックがその身を犠牲に作った隙を無駄にしないようにとウソップが攻撃を続ける。
「必殺"アトラス彗星"!!!」
「ドゥあァ〜〜〜〜〜!!!効くかァ〜〜〜!!!次はお前だァ〜〜!!!鼻の奴〜〜っ!!!」
「うわ狙われた」
「ウソップファイト!!」
左腕の一振りでウソップの狙撃を弾き狙いを定めたオーズは自らが崩壊させた屋敷の上にしゃがみこみながら両腕を後ろ手にして、勢いよく前へと突き出す。
「"ゴムゴムの"…"バズーカ"!!!」
「ぎゃあ〜〜!!!死んだ〜〜」
「……ん?伸びなくなった」
オーズが放とうとしたルフィ往年の必殺技"ゴムゴムのバズーカ"は伸びることなく不発に終わった。一体何が起こったのかとウソップが辺りを見渡すとロビンが腕を組み何やら技を繰り出していた。
「"八十輪咲き(オチェンタフルール)"『四本樹(クワトロマーノ)』…"ホールド"!!!」
「ぬぬぬ……!!………何だァ!?この手は!!!うっとうしい!!!」
「ちょっと影の操作、やめて貰えないかしら…」
「……はァ?」
「うおー!!いいぞロビーン!!!折っちまえそのまま!!!」
視界に入るもの全てに花を咲かせるように手足を生やせるロビンの能力はオーズの腹の中にいるモリアも例外ではなかった。四本の巨大な腕でモリアの両腕と首をガッチリホールドし抑えることで、モリアによる影の操作をやめさせていたのだ。
影の操作をやめさせながらもなお己を見据えさらに首の締め付けをキツくするロビンを心底鬱陶しく見ながらモリアは口を開く。
「……!!キシシ。オ…オエ苦しい………!!これでおれを封じたつもりなのか………?つまらんマネしてくれるじゃねェか…"欠片蝙蝠(ブリックバット)"!!!」
オーズに忍ばさせた自身の影を表に出し、モリアはそれを分裂させ蝙蝠のようにさせた影の兵隊をロビンへ向けて飛ばす。
「うっ!!"二十輪咲き(ペインタフルール)"『金盞花(カンデュラ)』!!」
襲い来る蝙蝠の大群を肘から咲かせた腕の風車で防ごうとするロビンだったが、無防備な足元に噛みつかれ遂にはその場に押し倒されてしまう。
なおも噛み付こうと群がる蝙蝠共からロビンを守ろうとサンジが両者の間に躍り出る。
「ん〜〜ん何をしてんだロビンちゃんにィ〜〜!!!」
ドガガガガと蝙蝠共は蹴り飛ばされたがすぐにある一点に、ロビンの後ろへその影の塊を集合させモリアの影としての形を作り上げる。
「……!?モリアの影!?」
「キシシシ………オェ、キシシシ…さァ遠隔能力勝負といこうか…なかなか効くぜおめェの締め!!」
相当首を締められながらも遠隔能力勝負などと戦いの本質を惑わすようなことを言うモリアに対して、ロビンは冷静にモリア本体を仕留めようとホールドを強める。
「『四本樹(クワトロマーノ)』…」
「おう!!」
「…………!!『クラッチ』!!!」
「グギャ〜〜〜〜〜!!!」
ロビンの十八番技であるクラッチが決まりモリアの首が後方へ直角に折れ曲がり、ナミとウソップが仕留めたと歓喜に湧く中、それ以外の強者4人は何かがおかしい事に気付く。
その何かにいち早く勘づいたゾロがロビンへ後ろの影に気を付けろと叫ぶと、それに呼応するかのようにモリアの影に変化が現れる。
「キシシシシ…おしかったな…だが残念。おれと影法師(ドッペルマン)はいつでも居場所を逆転できるんだ」
「え!?何でモリアがここに!?」
「入れ代わっただと!?…じゃああっちにいるのは…」
「したがって今オーズの腹にいるのはさっきまでここにいたおれの"影"。関節技など効かねェ『影武者』」
自身の影、影法師(ドッペルマン)と首を折られる寸前で入れ代わりロビンの関節技を無力化したというのだ。影ゆえに折られることのない影武者がケラケラと笑う中、ロビンの後方に立ち影を掴み取ったモリアは影を掴んだのとは逆の腕で巨大鋏を持ち出し、そして。
「勝負あり…」
「あっ」
「ロビンちゃ…」
ジョキン!と鋏が影を切り取る音と共にロビンの意識が奪われる。影を切り取られた者はしばらく目を覚ますことはない。
これによりロビンが事実上の戦闘不能に追い込まれてしまった。
「…やられた!!ロビンまで…!!!」
「うわああロビ〜ン!!ロビンまで影を取られたァ〜!!!」
「キシシシ───さてこれで3人目消去」
一人また一人と味方が減らされる中、ようやく千載一遇のチャンスが来たとウタがモリアの下へ駆け出す。
「やっとこっちの舞台まで降りてきたわねモリア!!能力勝負がお望みなら今度は私の番っ!!!」
「ん〜!?てめェは1億の小娘か…!!何かあるとは思ってたがやはり能力者か!!でなきゃてめェみてェなガキに億なんて額は……」
「そんな減らず口はすぐにたたけなくなるよ!!」
そう言い地を蹴り、モリアの頭上ほどの高さまで飛び上がり音響槍を大きく振りかぶる。
「そのらっきょ頭カチ割ってやる!!!"重々しい受難曲(グラーヴェ・パッション)"!!!」
「フン!!中々悪くねェ一撃だが…てめェみてェな勢いだけのガキにおれの頭は割れねェよ…!!」
勢いよく振り下ろしたその一撃はモリアの持つ巨大鋏によって真剣白刃取りの要領で挟まれ防がれてしまう。そのまま身動き取れずに終わるかと思われたその時、全体重を挟まれ固定された槍にかけ棒高跳びのようにして空を駆け、鋏を乗り越えモリアの真正面まで接近する。
その距離と、何より両手がロビンの影と鋏で埋まってるモリアが次にウタが仕掛けるであろう攻撃を避けようがない。そう確信したウソップとナミがロビンの関節技の時以上の盛り上がりを見せる。
「うおお〜!!!あの距離で両手も埋まってる!!イケるぞこりゃあ!!!」
「やっちゃえウター!!!」
「何だ!?何をするつもりだ!!?」
「これで終わらせる…!!"静かなる子守唄(クワイエット・ララバイ)"───♪」
ウタの綴る小さな小さな子守唄。だがそれには当然ウタウタの能力の真骨頂たる心を取り込む力を持ってしてモリアの耳へ贈られる。消え入るような声量で歌うことで狙った相手のみの心を取り込む技によってモリアをウタワールドに招待し、現実とウタワールドの双方向からモリアをタコ殴りにして決着させようとしたウタの秘策。
だがその策は遥か彼方、オーズの腹の中からの笑い声によって日の目を見ることは叶わなかった。
「キシシシシ!!声を媒介にして発動する能力か…?悪ィな最近"耳"が遠くてよ!!!」
「"耳"…!?また入れ代わりやがったのか!!?」
オーズの腹の中から憎き影の支配者本体がいたはずの場所へ振り向くと、そこにいたのは頭部からスー…と影と入れ代わるモリアがいた。ウタが何か良からぬことを企んでると察したモリアは瞬時に声など届かない影武者と入れ代わり難を逃れたのだ。
そこへサンジが凄まじい勢いで回転しその脚に熱を帯びさせ影に消えゆくモリアへ迫る。
「"悪魔風" "脚"!!!…んのクソ野郎が!!!ロビンちゃんの影を返せェ〜〜!!!」
「もう遅ェよ……"欠片蝙蝠(ブリックバット)"」
「"最上級挽き肉(エクストラアッシ)"…くそ間に合わねェか…!!うわっ!!」
「キャアッ!!」
影と入れ代わる最中、その影の一部をまた蝙蝠へと形を変え接近していたウタとサンジへ噛みつかせる。2人はその蝙蝠達をすぐに振りほどいたが、蝙蝠達もしつこく噛みつきはせずにオーズとモリアの元へ戻っていく。
こうしてモリアがオーズの腹の中から出てくるというチャンスを逃しロビンの影まで取られるばかりか、モリアがオーズの腹の中にいるという状況もオーズの影にモリアの影が入り込み変形自在のルフィゾンビを相手にしなければならないという窮地も変わらないままとなってしまった。
「キシシシシ!!………そして全てが元通り……!!!悪ィなオーズ……少し遊んで来ちまった」
「コノヤロー!!ご主人様!!おれのケンカだっつってんのにィ!!その女のとどめはおれが刺してやるーー!!!"ゴムゴムの"ォ〜〜!!!」
「また伸びる様になっちまった!!ちょっとその技逃げ場がねェって!!!」
「ウソでしょ!?意識のないロビンに!!?」
「ウタ!!サンジ!!ロビン!!逃げろ〜!!!」
ウソップとナミの悲痛な訴えをオーズは聞き入れることはなく、再び伸びるようになったその両腕をめいいっぱい後方へ伸ばし撃ち出す。
それに対し動けないロビンを庇う様に立つウタとサンジは自身を鼓舞する歌を歌い、回転させた脚に熱を纏わせ対抗していく。
「"バズーカ"!!!」
「"強き詠唱曲(フォルテ・アリア)"!!!」
「"悪魔風脚"!!!」
「"繰り返す協奏曲(ダカーポ・コンチェルト)"!!!くゥ…!!!」
「"揚げ物盛合せ(フリットアソルティ)"!!!ぬゥ…!!!」
「なぬ!?」
「うおー!!!それた〜!!」
より破壊力の増した2人の斬り払いと蹴り技はそれぞれが右腕、左腕の手の平へと命中しオーズ渾身のバズーカを受け流す。
受け流されたバズーカが地面へと衝突すると島全体を揺らすほどの衝撃が走り、2人がどれほど強力な一撃に抗ったかが一目瞭然となる。
息も絶え絶えになりながらもロビンを安全なところへとサンジがウソップへ指示を飛ばす中、忽然と姿を消していたチョッパーがオーズの肩から叫び、真っ向から抗おうとする3人の下へその声が届く。
「おーいサンジ〜〜!!ウタ〜〜!!ゾロ〜〜!!」
「チョッパー!!?あんた何でそんなとこに!!?」
「…探してたんだ…!!500年前のオーズの"死因"を!!」
「!?死因!?」
「大悪党が寿命を待たず死んだのなら"外傷"が原因の可能性は高い」
「ん?あっ!こんなとこに!!」
オーズに居場所を気取られながらもチョッパーは言葉を続ける。
今チョッパーが立っている右肩に繋がっている元々のオーズのものでは無い右腕を狙えと3人へ伝える。ホグバックの手により天才的に復元されてはいるが、その継ぎ目には酷い凍傷の跡があるというのだ。断定は出来ないが、500年前に魔人と呼ばれる程の怪物でも自然の力には敵わず、氷の国を彷徨い凍死したのだろうと。なぜならば…
「なぜなら500年の昔もきっと…オーズは…裸だったから!!!」
『そんなアホに負けたくねェ〜!!!!』
推察ではあるが裸で氷の国を彷徨い凍死したアホに負けたくないと3人がショックを受ける中、チョッパーは淡々と言葉を紡ぐ。
ゾンビは痛みを感じずともダメージは残り蓄積されるからこの腕一本使えなくできれば攻撃力は半減すると。
「とにかくこの一点に」
「何をゴチャゴチャ人の肩で!!!チビ人間め!!!」
「うわっ!!」
「チョッパー!!!」
「大丈夫!!?」
オーズの左腕によるゲンコツはチョッパーを潰してしまったかと思われたが、馴染み深いいつもの人獣型となることでオーズの作った握りこぶしの隙間に収まり難を逃れていた。
「今のパンチだって自分の体を痛めつけてる事もゾンビのお前にはわからないんだな!!」
「え!?手の中に」
「おれはチビだからお前の拳のすき間は洞窟みたいなもんだ!!"ランブル"!!"飛力強化(ジャンピングポイント)" "腕力強化(アームポイント)"!!」
ランブルボールにより脚を発達させ高く飛び上がり、腕を肥大化させて次の攻撃に備えるチョッパーの下へ垂れ下がっていたオーズの右腕を駆け抜けて来たサンジがアシストする。
「よくかわした!!手ェかすぞチョッパー!!」
「サンジ!!頼むよ!!」
「"空軍(アルメ・ド・レール)"」
「"刻蹄"」
『"桜(ロゼオ)シュート"!!!!』
「オウ!?」
チョッパーとサンジの合体技はオーズをぐらつかせその右腕には桜柄の跡を残す程の大きなダメージを与える。
だがそのダメージによる痛みを感じないオーズは同じとこばかりを攻撃する一行に辟易としつつ、効かないものは効かないと吐き捨てる。だがそれに対しチョッパーは必ず効いてくると反論する。
「痛みは人体を守る信号なのにそれがないなんて、強みでも何でもない!!」
「勝手に言ってろ!!」
チョッパーの反論に聞く耳を持たないオーズはそのまま空中に飛び上がり、宙で身動きの取れない2人に対して容赦ない連撃を浴びせんと予備動作を開始する。
「おい!!マズイぞ二人共!!!」
「何とか逃げて!!!」
「"ゴムゴムの"ォ〜〜!!!」
「……まいったな…」
「やべ………!!」