スリラーバーク編inウタPart1
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『ゴースト船〜!!!』
ヨホホー…と歌のような何かを響かせながら漂う船を発見し、絶叫する麦わらの一味の一行。ウソップが悪霊の鼻唄だから呪われるぞ!海へ引きずり込まれるぞ!!と騒ぐ。
ゴースト船と断定したその船からは相も変わらず鼻唄が聞こえてくる。
「……この船に…誰が乗ってるっていうの………?」
「この歌……?どこかで聞いたような……」
「フン、敵なら斬るまでだ」
「いるぞ、なにか」
ギギギと船体を軋ませながらゆっくりと近づくゴースト船から、その鼻唄を歌う者の正体が見えてくる。うっすらと、うっすらと見えてきたその者の姿に一行は目を見張る。
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アフロのガイコツが優雅に茶を飲みながら見下ろしてくるその光景に一行はただただその場に固まり、ガイコツを乗せたゴースト船が離れていくのを眺めることしか出来なかった。が、深い霧が覆う魔の三角地帯(フロリアントライアングル)に至るまでに宝船があるのではないかと噂し、何より今のガイコツの正体を知りたい船長の興味心からゴースト船に船をつけ乗り込む次第となる。
くじで決まり、船長・ルフィと共に乗り込むことになったのはゾロとウタの2人であった。
「ったくなんでおれが行かなきゃならねェんだ…」
「だからおれ一人でいいって」
「ダメだよルフィ!あんたがアホやってサニー号が呪われたら大変だもん!!それにくじで決まったんだからゾロも文句言わないの!!」
「ゾロ、お前『宝船』で刀探ししてェんだったろ?」
「そうだが…これがマトモな刀を積んでるような『宝船』にゃ見えねェしさっきの動くガイコツ見たろ?」
「あいつが宝の番人だ。とにかくあいつを探そう!!」
ゴースト船から垂れ下がっていたロープをやいのやいのと騒ぎながら登る面々であったが、それを見下ろすガイコツが一人。見下ろす目などありはしないがジッと見つめられ思わずギャアァアァ…!!!と叫んでしまった面々をウソップが悪霊退散、悪霊退散と念じルフィ達の安らかな眠りを願う。
「ごきげんよう!!!ヨホホホ!!!先程はどうも失礼!!目が合ったのに挨拶もできなくて!!!」
叫んでしまったものの何とか無事にゴースト船に乗り込むことに成功したルフィ達は紳士なガイコツから挨拶を受ける。ガイコツがアフロで喋るその姿にルフィは面白がり、改めて見るその異形っぷりにウタは少し怯えるような表情を覗かせ、どういう原理で動いてるんだとゾロは困惑する。
そんな3人をよそに喋るガイコツアフロのブルックはウタに目をつける。
「オヤオヤ!!そちら実に麗しきお嬢さん!!んビューーティフォー!!!」
「えっいやァそんなこと…あるけど!!」
「私美人に目がないんです!!ガイコツだから目はないんですけども!!ヨホホホホ!!」
喋るガイコツであることを棚に上げ談笑していた2人だったが、次にブルックから飛んできたのは先程までの紳士な応対からは考えられないものであった。
「パンツ見せて貰ってもよろしいですか?」
「見せるかっ!!!」
あまりにも直球すぎるセクハラ発言に思わず持参していた愛槍の持ち手の部分で殴り飛ばすウタ。それを受けたブルックは手厳シィー!!!と横たわる。
「骨身にしみました!!ガイコツなだけに!!!」
「うっさ…!!!上手いこと言うねあんた」
「感心してる場合か!!」
「うははははは!!お前うんこでるのか?」
「それ以前の疑問が山程あんだろうが!!!」
「あ、うんこは出ますよ」
「てめェも答えんな!!!」
やりたい放題する3人にツッコミの嵐を降らせるゾロであったが、気を取り直して目の前の珍妙な生物の正体やこの船で何があったのか、この霧の深い海ではどんな事が起きるのかについて問いただす。
「あ、それなら私からも質問!さっきの鼻唄ってなにかの…」
「お前は少し黙ってろ!!今はそれより他に聞かなきゃあならねェことがだな…」
自分も自分もと疑問を投げかけるウタとそれを制止するゾロであったが、そんな2人を気に留めずにルフィが前へ歩み寄る。そして…
「そんな事よりお前、おれの仲間になれ!!!」
「ええ、いいですよ」
内容はともかくまだ聞きたいことがあったにも関わらずルフィが仲間へと勧誘し、ブルックもそれに応えてしまう。何者も寄せつけない速さで展開されてしまったその応酬に付き添いで来た2人はただ「うおおおおおおいっ!!!」と叫ぶしかなかった。
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ところ変わってサニー号の芝生甲板。そこには新しく仲間に加わることとなってしまったブルックが死んで骨だけと称して自己紹介を行っていた。
『ふざけんな!!!何だコイツは!!!』
「ヨホホホ、おやおや手厳シィーー!!」
だが当然サニー号に待機していた面々はふざけるなと簡単に受け入れることはなかった。こんな珍妙な喋って動いてアフロなガイコツがいるわけがねェとウソップはその存在を否定する。にも関わらずブルックはゴースト船にて発したセクハラをナミとロビンにも行い「見せるかっ!!!」とナミから凄まじい勢いで蹴りを入れられる。
そんな惨憺たる現状を憂いたサンジがルフィを問い詰める。
「おいルフィ!!!こいつは何だ!!」
「面白ェだろ、仲間にした」
「したじゃねェよ何だこのセクハラガイコツは!!!」
そしてそのセクハラガイコツたる所以を向けられたナミもウタとゾロに迫る。
「ちょっとあんた達!!何でこんなことになってんのよ!!?」
「面目ねェ」
「そんなに怒らないでよナミ!ほら、それにさっきの鼻唄とか私まだ聞きたいことが…」
「ウ〜タ〜?」
「ごめんなさい」
そう熱くなっては仕方ないと、船内に入り夕食にしようとブルックが提案する。てめェが決めんな!とサンジらは怒るが実際問題船長が連れてきてしまったものはどうしようもないので、ひとまずは飯にしようとダイニングに移動する。
広々としたダイニングでは、素晴らしい船と評され設計者であり造り手でもあるフランキーが見る目あるじゃねェかとガイコツアフロと馴れ合う他、お腹の皮と背中の皮がくっつきそうと言いながらガイコツだから2つともないんですけども!というスカルジョークにルフィとウタが手を叩き笑う。
なんともカオスな状況が続いているがひとまず食え!とサンジが出来上がった飯をテーブルに並べ楽しい楽しい夕食の時間が始まる。そうしてなんだかんだで食事も済ませ、とにかくブルックの正体に迫ろうと皆が問いただすと、一度数十年前に死んだものの"ヨミヨミの実"という悪魔の実により復活したのだとブルックは言う。
その昔海賊をしていたブルックは恐ろしく強い同業者に出くわし全滅し、ついに"ヨミヨミの実"の能力が発動し復活する筈が霧の深い海で死んでしまったがために中々自分の死体を見つけられず、ようやく見つけた時には白骨化していたのだという。
「それで喋るガイコツの完成か!白骨でもちゃんと蘇っちまうところが"悪魔の実"の恐ろしい所だな」
「ほんと、不思議な能力がたくさんあるんだね」
「もう半分呪いじゃねェのか」
「その"実"はもう役目を果たしてカナヅチだけ残ってんだろ」
アフロに関しては毛根強かったんですと押しきられたが、とにかくお前はオバケじゃなくて人間なんだなとウソップが聞くとオバケ大嫌いですから!!とブルックは答える。何を言ってるのやらと言わんばかりにナミが鏡を向けると途端にブルックがやめて下さいと怯え出す。
向けられた鏡に一緒に映っていたウソップがなにかに気づき、ちょっと待てとチョッパーと共にブルックを抑え鏡に注目するとそこには…
「お前何で………!!鏡に映らねェんだ!!?」
「ほんとかー!!?すげーーな!!!」
『バ…吸血鬼(バンパイア)か!!!?』
皆が一斉に警戒及び驚愕する中、ウソップがさらなる発見をする。
「よく見りゃお前"影"もねェじゃねェか!!!」
「うわぁーー!!!本当だ!!!お前は実は何者なんだー!!!」
「ズズ…」
「いや落ちつくとこかよ!!!」
「こっちは騒いでんだぞお前の事で!!!」
鏡に映らず影もない。喋るガイコツであることに加えてとんでもない事実が露呈したブルックは何故か冷静であった。そしてガイコツであることと影がない事とは全く別のお話であることを語り出す。
数年前にある男に影を奪われ、直射日光を浴びれば体が消滅し鏡や写真に映ることもない光に拒まれる存在となってしまったとの事だった。そんな散々な人生にも関わらずヨホホホホと明るく笑うブルックに大丈夫かとウソップが問うとなおも明るく朗らかにブルックは答える。
「今日はなんて素敵な日でしょう!!!人に逢えた!!!」
そう言うと少し俯きがちになりながらブルックは続ける。
「今日か明日か日の変わり目もわからないこの霧の深い海でたった一人舵のきかない大きな船にただ揺られてさ迷うこと数十年!!私本っっ当に寂しかったんですよ!!!寂しくて怖くて…!!!死にたかった!!!」
人は"喜び"あなた達は"喜び"と言い、ルフィにも仲間に誘ってくれたことに感謝と同時に本当は断らなければと話す。太陽の下では生きていけないこの体ではついていけないと理由を説明したブルックに対してルフィは何言ってんだよ水くせェ!と返す。
「だったらおれが取り返してやるよ!!!そういや誰かに取られたっつったな。誰だ!!?どこにいるんだ!!」
会ったばかりの自分のためにそこまで言ってくれる若人に感激しつつもそれは言えない言いませんと再三ブルックは釘を刺す。そんな中、話題を変えようと懐からブルックはバイオリンを取り出し歌を歌いましょう!と言い出す。
「私は楽器が自慢なのです!!海賊船では"音楽家"をやってました」
「えーー〜〜っ!!?本当かァ!!?頼むから仲間に入れよバカヤロー!!」
「楽器が得意なの!?私歌う!!歌うよ!!!」
「ヨホホ!!では楽しい舟唄を一曲いきましょうか!!…!!」
楽しい舟唄が響き渡ると思われたその時、サニー号に響いたのはブルックの悲鳴であった。
「ギャアァアアァア!!!」
「おい何だどうした」
「ゴ…ゴースト〜〜!!」
「うわーーー!!何かいるーー!!」
ブルックが見上げる先にいたのはフィーと浮きながらゴーストと呼ぶ以外にない存在がこちらを見つめていた。そしてゴーストに気を取られていると突如船体が激しく揺れ出す。なにか思い当たることがあるのかブルックが急いで扉を開け外へと飛び出し、今起こった事態をルフィ達に話し出す。
「見てください!!前方が門で閉ざされました!!!今の振動はコレです!!これは門の裏側!!…という事は!!船の後方を見て下さい!!」
そう言い、ダイニングと医務室を抜け船の後方に移動したルフィ達の目の前には信じ難い光景が広がっていた。そこへもしやとブルックが口を開く。
「あなた方『流し樽』を海で拾ったなんてことは?」
「あ…!!拾ったぞ!!!」
『流し樽』、確かにこの魔の三角地帯に入る前に拾い開けると中から赤い発光弾が打ち上がり、何者かに狙われるかもしれないと話していたがそれももう数時間前の話だ。
「それが罠なのです。この船はその時から狙われていたのです!!」
「狙うって!?どういう意味だ!?この船は今ずっとここに泊まってたのに
何で"島"がそこにあるんだよ!!!」
「これは海をさ迷う"ゴースト島"…!!!『スリラーバーク』!!!!」
「さ迷う島…!?"記録指針"は何も反応してないわ…!!」
「そうでしょう。この島は遠い"西の海"からやって来たのですから!」
そう言うとブルックはダイニングに戻り自分の腕にかけていた杖を再び手に取り腕にかけ、サニー号の船首へと軽々とジャンプする。そしてその場でクルッと振り向き、海岸で錨など下ろさずに脱出して下さいと忠告する。
出逢えたことと美味しい食事に、一生忘れませんと感謝の意を添えて飛び立つ。
「ではまた!!ご縁があればどこかの海で!!!」
「おい!!待てブルック!!」
「ちょっとあんた能力者でしょ!?」
「飛び込んでどうすんだよ!!!」
能力者が海に飛び込むなど自殺行為に等しい。にも関わらず飛び込んだブルックを心配した一行であったがその思いはいとも容易く裏切られることとなる。
「海の上を走ってる!!!」
「うおースゲェ!!!」
とてつもない脚力により水面を蹴りだし海の上を走り去るブルックを見送るとナミはとにかくあいつの言う通りにしようと提案する。
「何が起きてるのかわからないけど!!完全にヤバイわこの島っ!!」
だが当の船長とその幼馴染はわくわくそわそわを隠す素振りもなく振り返る。
「…ん?」
「なにか言った?」
『こいつら行く気満々だァー!!!』
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死んで骨だけのブルックがスリラーバークと呼んだ島へ消えてから一行は今自分達が置かれた状況を整理していた。先程自分達を見つめていたゴーストはあの島の住人なのかそっちの方へ飛んで行ったこと、霧でわかりづらいが口の門の延長に延びる壁が島を取り囲んでるようにみえることからサニー号は島と共に巨大な壁の内側に閉じ込められたということ、そうして島が動いているならば錨を下ろせるわけもねェということを。
とにかく呪われる前に脱出しようと息巻くウソップに続くかのようにナミとチョッパーがガタガタと震え出す。
「聞いてみんな私…!!実は『島に入ってはいけない病』になったみたい」
「おれも!!おれもそれ!!!」
だがそんな2人とは対称的に網と籠を用意し上陸準備?を整えたルフィとウタがやってくる。
「よし!じゃ船つけろ!!」
「島が見えたなら上陸しないと!!」
「『冒険準備万端病』かお前らは!!!」
まてまて考え直せとウソップは2人に訴えかける。島にそびえ立つ不吉な建物をオバケ屋敷と称して悪霊ってもんをナメてるぞと。だがこうなった時の2人にウソップの訴えなど届くわけもなく…
「何言ってるの。私達はちゃんと細心の注意を払いながら…ね?」
「ああ!さっきのゴーストを捕まえて飼うんだ」
「ナメすぎだっ!!!」
どう見ても先程見たゴーストが収まるとは思えないサイズの虫かごを掲げる2人は何よりと続ける。
「大切な仲間を連れ戻さなきゃな」
「サンジ!!海賊弁当ちょーだい!!!」
「仲間って…おれァ反対だからな!!!ガイコツなんか仲間にいたら怖くて夜も眠れねェよ!!!」
島に乗り込むばかりかあのガイコツアフロのブルックを仲間にすることまで既定路線であることに異を唱えるウソップであったが、少なくともこの場で島に乗り込むことを否定するのはガタガタと震える3人以外いないことを表すかのように大きな包を持ってロビンが現れる。
「お弁当受け取ったわよ」
「ルフィ!!フランキー!!おめェらしっかりウタちゃんとロビンちゃんを守るんだぞ」
「未知の島の冒険ってのはぞくぞくするもんだな」
「フランキーとロビンも行くの!?」
「好きなの、スリル♡」
船員の半数以上が乗り気なところに上陸反対組も仕方ないと諦めの様相を呈する。さて上陸するには小舟を使うというこの状況下で、フランキーがまだ見せてねェとっておき「ソルジャードックシステム」"チャンネル2"の存在を明かし始める。
「"0"の外輪と"1" "3"はもう見せて貰ったけど、"2"と"4"はまだ空だってお前言ってたろ」
ウソップの言う通り、最初に「ソルジャードックシステム」の説明を受けた時にはそう言われていた。が、フランキーにとって"2"の存在はとっておきなので隠しておいたと言うのだ。
「上陸する気のねェ奴らは試し乗りしてみろ!!」
「望むところだ!!」
「ソルジャードックシステム"チャンネル2"!!!」
「何だ何だ何が飛び出すんだ!?」
今度は一体どんな物が飛び出すのか今か今かとルフィだけでなく皆が前のめりになりながらその時を待つ。そして現れたのは…
「出動!!買い出し船っ!!
ミニメリー2号!!!」
「ギャ〜〜〜メ〜リ〜〜〜い!!!」
「うお〜〜〜!!ベリ"〜〜〜!!!」
「4人乗り蒸気機関『外輪船(パドルシップ)』だ!!!」
あの勇ましく果敢に戦ったメリー号の意思を継いだ小舟の出現に一行は歓喜の嵐に呑まれる。
「最高の心遣いだな」
「こんな買い出し船ならいくらでも買い出すぞおれは」
「うほーかわれーー早くかわれーー!!」
「私も早くメリーに乗りたーい!!」
「待ておれ達はこれから実際に乗るんだ。ひとまずあいつらに堪能させてやれ」
こうしてサニー号の巡航を補助する兵士達「ソルジャードックシステム」の全容が明かされそれに対してルフィがお前の考え方大好きだフランキー!とじゃれ合う中、サンジとウタは深い霧に消えたミニメリーがいるであろう方向へ目をやる。
「おいナミさん達遅ェな」
「遅いね、どうしたんだろ」
その時、ガコン!!という船が何かに座礁したかのような音と共に「キャアアアァ!!!」という悲鳴が聞こえてきた。ナミのものだ。
「ナ!!!ナミさーーーん!!?どうした!!?何があったんだーー!!?」
「何やってんだアイツら、霧で何も見えねェ」
「だけど島の方からよ」
「お前らァ!!!おーーーい!!!早くおれもミニメリーに乗せてくれーーっ!!!」
「そうじゃねェだろ!!!ナミさんの身の心配をしやがれ!!!」
「おめェこそあと二人の心配をしやがれ」
「今の悲鳴、ゴーストに呪い殺されたのかしら…」
「そんな恐いこと言わないでよロビン…とにかく船を近づけようよルフィ」
やいのやいのと騒いでいたがとにかく、ナミ達の身に何かあったことは明白だ。すぐに救出に行こうと船を動かそうとしたその時、突如錨が下ろされてしまう。芝生甲板に全員揃っているため誰も触っていないことは明らかで、つい先日一流の職人達の手で造られたばかりのサニー号に歯車の緩みなどあるわけがない。
とにかくこのままでは船がバランスを失ってしまう。急いで錨を巻き上げようとすると、今度はバン!!と何かが開かれる音がする。
「ん!?」
「……!?何だハッチが勝手に開いた!?…誰か触ったか!?」
「いや…誰も近づいてやしねェ」
次々とサニー号の設備が勝手に作動する怪奇現象に襲われる一行であったが、次に起こった現象はいよいよ自分達に直接降りかかることになる。ルフィの口がにょーんと横にひとりでに伸び始めたのだ。
「ん?ん?」
「おいルフィ!!てめェ何やってんだこんな時にふざけやがって!!!」
「にっ!!ひがうんら!!ひがうひがう(違うんだ!!違う違う!!) おえあんおやっえええよ!!(おれ何もやってねェよ!!)」
「何がやってねェだ!!じゃその口は何だ!!」
サンジの言う通りふざけているようにしか見えなかったがルフィも何が起きているか全く分からないといった風体であった。その後、伸びきった口がルフィの顔面にバチンと戻ると開けられたハッチに飛び込みズボッと嵌ってしまう。やはり遊んでいるようにしか見えない光景であったが、ルフィがハッチに嵌る直前「ガルル…」という猛獣のような声がしたのをウタとロビンは聴き逃していなかった。
だがその正体を探る暇もなく次なる怪奇現象が一行を襲う。ゾロの腰に差された名刀"三代鬼徹"がひとりでに抜かれルフィの元へ飛んで行ったのだ。
フランキーがルフィを蹴りあげることで難を逃れたものの、この場に他の誰かがいることは言い逃れようもない。
「やっぱりゴーストの仕業か……?それとも超能力者か何かか……?」
「………!!誰かに触られた感覚はあったぞ」
「…さっき猛獣の唸り声を聞いたわ」
『猛獣!?』
「私も……それに声を反響させてみたんだけど、私達とは別に誰かがいるのは間違いないよ!!でもどこにいるのやら全然……」
積み重なる証言によりその"誰か"に迫っていく一行であったが、その"誰か"の正体が如何ようであってもここが得体の知れない場所であることは間違いない。行方不明のナミ達を心配したサンジが船を一行に任せて飛び立つ。
「おれは島へ3人を助けに行って来る!!!」
勇ましく飛び上がったサンジだったが、その足が何かに掴まれたかのような感覚が走り、そして。
「ほげーっ!!!」
『えーっ!!?かっこ悪っ!!!』
ほげーっと情けない声を上げながら船体に激突したサンジであったが、直後ふわふわと浮き出し甲板の上へ投げ飛ばされる。ゾロからほげーをバカにされサンジが激昂する、いつもであれば喧嘩が起こるようなやり取りであったがそうも言ってられないと一行は周囲への警戒をさらに強める。
「…おれ達を船からも出さねェ気か…!?」
「目的が見えねェな…殺す気ならいくらでも攻撃できるハズだ!!」
「あっ」
目的不明の攻撃を受ける中、次に標的にされたのはロビンであった。何かに捕まったかのような体勢をとった後、べローンと舐められ猛獣の声と共に段々と押し倒されていく光景を目の当たりにしたサンジが怒りのままに突撃する。
「おのれコノ好き勝手やりやがって!!!…おっ!?ロビンちゃんー!!」
何かに足を引っ掛けられたのか不自然に転びロビンの前へと投げ出されるサンジ。だがそんな2人を見て"何か"がすぐそばにいることを確信したウタがマイクを手にする。
「今なら絶対何かがすぐそばにいる!!もう一回反響させて正確な位置を割り出し……てェ!!?」
「ウタ!?どうした!!?」
ロビンとサンジに続き今度はウタに被害が及んだのかと一行全員がそちらの方へと視線を送ると、そこには不自然にお尻の形を歪ませ涙目となっていたウタがいた。
「な…何かが私の後ろにィ…!!ちょっほんとっヤダ離してっ!!いやァ!!!」
「ウタから離れろォ!!!」
凄まじい剣幕でウタの背後にいるガルルル!と鳴く"何か"に向けて拳を振り抜くルフィであったがその"何か"を殴り飛ばす事は叶わず拳は空を切る。
どこへ行った!と"何か"を探すルフィであったが、へなへなとしゃがみ込んだ幼馴染に視線を合わせる為に自分もしゃがみ話しかける。
「ウタ!!大丈夫か!?どっか変なとこねェか!!?」
「ウウゥ……ルフィ〜!!ずっと何かが私を掴んで離さなくて……怖かったァ……!!」
「ああ…それに本当に猛獣の声もしたな!!どこだ猛獣ゴースト!!!隠れてないで出てこい!!ぶっ飛ばしてやる!!!」
だがそんな迫力を出したところで"何か"が姿を表すはずもなく、ルフィの叫びのみが虚しくこだまする。かと思われたその時、ドォン!という激しい音と共にサニー号が大きく揺れる。
「波だ!!塀の中で不自然な波が!!船が流されてくぞ!!!」
「クソ…敵は消えたか…?おい『ほげー』錨を上げろ、船の自由が効かねェ!!!」
「誰が『ほげー』じゃコラ!!!」
そうこうしているうちにナミ達が消えたと思われる島の方向から離れて行ってしまう一行。どうにか出来ないのかとフランキーにルフィは船の秘密兵器で何とかしてくれと嘆願する。
「よし"飛び出すびっくりプール"ってのがあるぜ!!!」
『楽しそうだなー!!アホか!!!』
結局何もすることが出来ずに波の赴くままサニー号とついでにブルックの乗っていた船が流されていく。まるでこのゴースト島に誘われるかのように…