スマホ講座のススメ
ワンダーアキュートとタップダンスシチートレーニング帰り、寮の近くをタップダンスシチーが歩いていると身知ったウマ娘を見掛けた。
ワンダーアキュート、ダートで走っている生徒。
ほんわりした髪を揺らして、何やら手元を熱心に眺めているようだった。
「ここをこう。あれ、違うのかしら」
「Hi! どうしたんだい?」
「ほわぁ」
少し緩慢な動きで驚く彼女に、タップダンスシチーは笑う。
しかし彼女の手元を見て、思わず目を丸くした。
……持っていたのは、スマホだった。
あの未だにガラケーを愛用している彼女が、スマホ。
「Oh……随分大冒険に出たじゃないか」
「最近の“けーたい”ってのは、難しいのねぇ。触った所が勝手に動くのよ」
「何だってスマホを? あのFlip phoneが遂にサービス終了しちまったのかい?」
「実は、香港に旅行することになったの。そしたら向こうは“すまほ”しかダメだって言われてねぇ。けーたい屋さんもお勧めしてくれたから、買い換えたのよ」
でも、文字も打てないのよねぇ、と朗らかに彼女は言う。
画面を見る限り初期設定は終わっているようだが、基礎的な操作が出来ていないようだ。
これも縁、乗り掛かった船と言うやつだろう。
タップダンスシチーは彼女の肩を叩いた。
「アタシが教えてあげるよ」
「いいのかい?」
「もちろん! ロマンを目指して新天地に旅立つ手伝いぐらいはするさ!」
「ろまん? よく分からないけど……ありがたいねぇ」
とはいえ流石に日も暮れてきた道端で教える訳にも行かず、二人は翌日また会う約束をして別れた。
タップダンスシチーの教えの甲斐があって暫くの間、ワンダーアキュートはスマホをほんの少しだけ触れる様になった。
そして、タップダンスシチーとワンダーアキュートは互いに認識だけしていた存在から、会えば雑談をするぐらいには仲良くなったのだった。
不思議な縁、不思議な絆は未だに続いている。
ちなみに、ワンダーアキュートが香港旅行から帰ってきて早々にガラケーに戻したことを、タップダンスシチーはまだ知らない。