スナロレの一部だよ

スナロレの一部だよ




「俺、サッカー選手になれる才能なんてねーよ?」

とは何度も言っていたが、サエ・イトシとの試合後から明らかにその才覚をメキメキと表したのを間近で見ていたのでその不安は本当に悩み損でしかないということをわかって欲しい。

「大丈夫だよ」

緩くカーブのかかった髪を撫でる。

俺の原石、絶対にその才能を腐らせたりはしない。

「そうだロレンツォ。サッカー選手になれたら俺の使ってるヘッドバンドあげようか?」

「は?いや別にいらねぇけど……」

「普通に断るねぇ」

「だぁー、俺には似合わねぇだろ。OK?」

「そんなことはないさ。でもない方が男前がバレなくてすむか。俺だけの特権って感じ」

「だぁ〜…スナッフィー、無駄に俺を口説いてもなぁんもねぇよ、OK?」

「俺とサッカーしてくれる見返りがあるじゃん」

「だぁー、スナッフィーが見限らねぇ限りは一緒だよぉ?俺ぇ」

うん、知ってる。でもそんなキミが自らの意思で決めてくれるのがいいんじゃないか。

まぁ、まだまだゆっくり満たせていけばいいか。焦りは禁物。お披露目はもう少し先でいい。


まだ子どものままでいてもいいんだよ。

「だぁーなになにぃ?」

両頬を包んで、わしわしと髪を掻き上げながら撫で上げる。つい犬を撫でるみたいな、ほっぺを挟んでみたり目の下の隈を撫でてみたりして。チュッと鼻先にキスをするとくすぐったそうに笑って嬉しそうに笑っていた。

「もう少し、大人になるのは待ってほしいな」

「だぁー、しょうがねぇなぁ♪スナッフィーは」

ほっぺを合わせて親愛の挨拶をして、ゆっくりと離れる。

昔は頭を撫でるのも挨拶も嫌がられたものだけれど、今は一日一度のこの挨拶を待っていて、やると本当に幸福だと思うように金の歯を自慢そうに見せて笑ってくれて、その笑顔が昔のあいつに似ていて、重ねては悪いと思うけれどその笑顔を見ると安心するんだ。

「さぁ俺と、サッカーをしよう」

(おんなじ夢を見よう)


過呼吸のスナロレ



……は?…………はぁ?……?…??……???何を言ってるんだ、コイツ。頭が狂ってんのか?Tu, pazzo bastardo!

目の前が赤くなる。心臓がバクバクいっていて、赤くなった視野が狭くなって、頭からは熱くて冷たい汗が流れて落ちて行く。


「落ち着いて、ロレンツォ!!」

「ロレンツォ、ダメだ!絶対に殴るな!!」


身体が重い。なんでこいつら俺にまとわりついてんだぁ?おかしいだろ?おかしいことを言ってる奴を押さえろよ。

頭が重い。

俺いま、なんて言われた?

「次の試合には出さない」って、言われたんだぜ?前の練習試合でプロを抑えて得点取って、ゴール止めた俺を。他のやつじゃなくて、俺を使わないって言ったんだぜ?

……俺が、孤児だから?スナッフィーの七光で生きてるやつだから?俺のプレーがきしょいから?

なぁんもわかんねぇ。どうしたらいいんだ?

夢に報いることに手が届きそうになった俺に、楽しみだと笑ったスナッフィーをまた裏切ることになるんだろ?

ふざけんじゃねぇ!!!クソッタレな人生しか歩まなかったからクソッタレな未来しかないって?……あぁ、本当に…どうしようもねぇな…。必要ねぇだろ、こんな人生。OK?


「………ごめんな、ロレンツォ。本当は俺もお前に出てほしい。でもこれは…スナッフィー…の、希望なんだ」


「っ、は?」


すな、っふぃー、が?


「はっ、はぁっ、ひっ……ひゅっ、かはっ」


息の仕方が分からない。

息、いき、すなっふぃー…、 いき が

すなっふぃがいなきゃ、

おれ さっかー ゆめが、

なんにもできなくて

いき の すなっふぃと、 ゆめ

しかたも…

なんも、 どうして

サッカーが…

おれ、の、 じんせ……



「ロレンツォ?どうした、大丈夫か?」


「…すなっ……お゛ぇっ……っ、かひっ、…すな、ふぃ…おれ、…かひゅっ…」


「過呼吸だな、あ〜他の人らはもう行っていいから。…ロレンツォ、落ち着いて。ゆっくり、俺の手に集中して」


「すなっ、…ひっ、ひぐっ…おれっ、さ、っえ」


「うん、聞くから。大丈夫だから。息、吐いて」


「ひっ…すっ、ひゅっ、は、はっ、はっ」


「じょーず。次はもう少し長く吐いて」


「ひっ、はっ、はぁ……はっ、ひっ、はぁ…ひぃ………ふ、ふぅ…」


「いーこ、いーこだね。大丈夫、俺はここにいるから。大丈夫、だーいじょうぶだから、ちゃんと俺はここにいるよ」


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