ステラ脳破壊
ブレイン・クラッシャー日はすっかり暮れて、不気味なほど大きな月が空を漂う夜
私__ステラはただただ一人走っていました。目指すのは古くに廃棄された館。
イレーヌちゃんやソフィアちゃんに何も言わずに飛び出したのは理由がありました。その付近で「あの時」の悪魔と似たような姿を見たとあっては、私はいても立ってもいられなかったのです。
きっとあの悪魔こそが、エリスお姉様の居所を知っているのだから
エリスお姉様が失踪してしまったあの日、私はお姉様といっしょにあの悪魔と対峙していました。特殊な人型の悪魔で、金髪の女性のような、それでいて常人ならぬ風貌の悪魔でした。
でも、特異なのは見た目止まりで、私の目からもさほど強くはないように見えました。エリスお姉様と一緒なら負けるわけないと思えるほどに。
あの悪魔が謎の鏡のような小物を使い始めるまでは。その小物はたちまち私達の衣に宿る力を吸い上げてしまい、聖武具を解除させられてしまいました。
敵前での聖武具が使えない危機、それでも戦おうとした私は、エリスお姉様に遮られ、先に逃げるよう言われました。エリスお姉様を置いていくなんて出来ない、そう言いかけた私の声はエリスお姉様の真剣な表情の前に引っ込んでしまいました。必ず帰る。その言葉を信じて、私は戦線を離脱しました。
拠点へと戻るといち早く帰っていたイレーヌちゃんとソフィアちゃんがいて、私は泣きながら二人に事情を説明しました。二人は私を責めるどころか慰めてくれて、エリスさんならきっと帰ってきてくれると言ってくれて、泣き疲れた私はそのまま眠ってしまいました。
翌朝、エリスお姉様は帰ってきませんでした。
お二人は私の事を気遣って、悪魔退治と捜索を続けてくれていますが、それに甘えるわけにはいきませんでした。
あの時私が一緒に戦えていれば、もっと強ければ、そう思うと悔しくて悔しくて、一人で塞ぎ込んでいるわけにはいかなかったのです。
「いた…!」館へと向かい、目的地が目に見えるほど近付いてきた時、私は神の速さを持つ使者の力をその身に纏い、救乙女カスピテルとしての姿へとなり、いつでも戦えるよう備えました。
館の中へと足を進めると、倒すべき敵である悪魔は我が物顔で寛いでいました。
「……!そこのあなた!」
「…………?あなたは…ああ、あの時逃げられた子だ!」
やはり喋れる、悪魔の中では喋れるほど知性が高いのは珍しい、だからこそあのような狡猾な罠を仕掛けられたのだろう。私は即座に周りを見渡し、あの時の小物が見当たらないことを確認した。
あの時は何もできなかったけど、今なら…!
「今度こそはあなたを倒し、祓ってみせます!」
「ふうん?やってみたらぁ?臆病者のステラちゃんに出来るのかなぁ?」
「…!?なんで私の名前を知っているんですか!」
「えへへ、なんでかなぁ?」
まずい、ノセられている。これ以上の会話は無意味と判断し、私は悪魔へと斬りかかりました。
「あらあら?意外と強いんだねステラちゃん?」
「バカにしないで!」
実際悪魔の言うとおり、私はエリスお姉様が失踪してからずっと戦闘訓練を続けていました。その甲斐あって一人でだって戦えるくらい強くなったのです。今度こそエリスお姉様一人に無茶させないために、そのためにもこの悪魔を倒して、エリスお姉様の居場所を聞き出さなければ…!
「あっマズっ」「!もらった!」
悪魔が体勢を崩し、すかさず急所へと狙いめがけて槍を突きだす。
仕留めた。そう思っていたから、死角からの攻撃に気付けませんでした。
「!?ぐっ…」「いやー、危ない危ない♥危うくとどめ刺されちゃう所だったよ」
(この悪魔、仲間がいたの…!?)
迂闊だった、罠を仕掛けるくらい知能があるなら、徒党を組むことなんて十分考えられました。後ろから取り抑える悪魔は、同じく人型のようでした。
「結局、一人じゃ何もできないんだねステラちゃん♥」
「……!黙れ!エリスお姉様を返せ!!」
煽り立てるような悪魔の言葉に、私は思わず声を上げてしまいました。悪魔はしばらく訝しむと、納得したように
「ああなるほど、エリスちゃんがどこにいるのか分からなくて私の事探してたんだ!健気だねえ」とあやすように言い、続けて言う言葉に私の脳内は真っ白になりました。
「でも良かったね!エリスちゃんとまたあえて」「えっ?」
まさか、そんなはずは、だってこの組み伏せてる手は、完全に悪魔のそれで、人間のものではない、あり得ない、私は錆びついた機械のように、ゆっくりと首を動かして自らを取り抑える悪魔の方へと顔を向けると
「久しぶり、ステラちゃん…♥」「お、ねえさま?」
ずっと会いたくて、謝りたくて、力になりたかった憧れの人は、悪魔の姿となっていたのです。
脳破壊本編へ続く