ステフー✖️アルピニスタ
「おじさま、いこ♡」
「わ、わかったから…」
ずるずると若いウマに引きずられていくやや歳のいったおっさんウマを見つけ、ため息をつく。あれはどう見ても○交、あるいは今流行りのp活だ。p活に励むウマたちもいるのだな、と世界の広さを実感する。ただ、揉め事を起こされたら溜まったものでもないのだが。
……そんな他人事の感想も、おっさんウマの懇願するような視線でどこかへ追いやられる。
フーリッシュだ。愚息の奴が、困ったように若いウマに引きずられている。芦毛の通る者全てが見惚れそうな美しいウマに。
……あれ、凱旋門賞覇者では?
大雨をものともせず、数多の強豪もねじ伏せてやってきた女王。たしか今、イギリスにいると聞いていたが。
「ごきげんよう、お部屋を一つ…宿泊で!」
「……はい」
芦毛の女王は愚息の腕をがっちりとホールドしながら(当然そのふくよかな胸も当たっている)、ニコニコと鍵を受け取った。一体全体、何があったらこんな状況を見る羽目になるんだ。
「失礼いたしますわ!……さ、おじさま、久々の逢瀬楽しみましょう!」
ーーーーー
どうしてこうなった。なぜ“勝ち目は薄くほぼチャレンジで行った最高峰海外G1で眼前で勝利した女王”に腕をホールドされながらラブホに行かねばならんのだ。俺と彼女はその一戦でしかまともに戦っていないのに。
「おじさま、綺麗なプールがあるわ!一緒に入りましょう?」
「ちょっとおじさんにはきついかなぁ」
ただでさえ老体に鞭打ち(その言葉の通り)、かつあの大雨で走った。その結果引退に繋がる怪我を負ったのだが。
それを再会したばかりの彼女に自嘲気味に言うと、口をあんぐりと開けた。
『ジャパンカップは?…出ないの?』
『出ない出ない』
その瞬間、どこかへ連絡をかけたアル。流れるような英語のせいでよくわからないがその電話の相手まで驚いていることがわかる。
ぴ、と切ったあと、がっしりと身体を掴まれる。
『次走はジャパンカップを予定していましたが、あなたが出ないのなら私も出ませんわ。そのまま引退して、貴方を私の初種付相手にいたします』
『………はい?』
こうして今に至る。まったく、お嬢様の行動力のなんたるや。なぜこんなおじさんに執着するのだろうか。それともただ、金目当てか。
「…いい加減教えて欲しいんだけど、なんで俺なの?他にもっと若くてデカくて強いウマはいっぱいいるだろうに」
「…んもう、あの日。凱旋門賞の後のこと忘れちゃったのですか?」
凱旋門賞の後。嫌なことが思い浮かぶ。まさか、まさか……
「あの日、あなたはあなたの…その、アレを私にお見せになったでしょう?ですから責任をとっていただかないと…」
そう。凱旋門賞が終わり、思っていたよりも疲労していた自分は他人が入っているシャワー室に入ってしまった。それだけならば逃げれば済む話だ。しかし驚いたのか好奇心ゆえか近づいてきた女王……アルに、自身のソレを勃ててしまったのだ。
そのまま逃げたアルに謝罪を言うこともできず、日本での突然の再会に驚いているうちにまさかこんなことになるなんて。
「…あの時は本当にごめん。でも責任ったって、わざわざこんなことまでしなくても…君にはもっといい相手が…」
「あら、自分のペ○スを乙女に見せつけておいて?」
「乙女なんだったらソレを口に出すな!!!」
まったく、外国の調子に合わせると碌なことにならない。だがしかし、彼女の猛追にかかり気味になっている自分がいた。
「わ、わかった。幾ら払えば…」
「お金なんて、私には有り余るほどありますの。欲しいのは……衰えてもまだ、縋り付いてレースに勝利したあなたの、」
とん、と細く白い指が胸に当たる。
何が彼女を触発したのか分からないが、どうやら俺は相当に彼女のお気に入りになってしまったらしい。にこりと微笑む姿は天使のようなのに、考えることは悪魔のようだ。
「……こんな種無しで良ければ」
やはり、世界最強の女王のマークは逃れられないようだ。