スターの条件
「お父様、本当に私はお父様の娘なんでしょうか」
ソファの上でうつぶせになりながら、こちらの太ももに顔を預けてくる娘は、誰がどう見ても分かるくらいに沈んでいた
走れるレースが無い
オークスは展開がハマっただけ
親父と違って、一辺倒な競馬しか出来ない
精神面が脆い
"ゴールドシップの馬券を買わない奴は馬鹿だが、ユーバーレーベンの馬券を買う奴は馬鹿"
「一部の心無い人の声だとは分かっています。でも…」
同期の皆が華々しい活躍を見せる中、中々次の結果を出せず燻っている自分が悲しく、悔しい
そう言って、震えながら涙を流した
「お父様みたいに、皆の期待を背負えるスターになりたかったです。もっと沢山大きなレースを勝って、沢山の人に愛してもらえて。誰が見ても、一目で私だって分かって貰える様な」
娘は十分すぎるくらいに、よくやってくれている
まず、あの世界で勝つと言うこと自体、競走馬で居られること自体が奇跡に近い
この世界で生き残っていることその物が、娘が愛されている証拠に他ならない
だが、今苦しんでいる娘がそれを分かっていないとは思えない
むしろ、それが分かるからこそ苦悩しているのだ
「オマエも真面目だなあ」
「お父様とは似ていないって良く言われます。影も薄いですし」
「いんや、オマエは間違いなくゴルシちゃんの娘だぜ」
ファンの声に応えようとする、その心意気とか、な
それに変顔とか、似てる所沢山あるんだぜ?
と思わず余計なことも口に出しそうになった
競走馬が大成することは、少ない
だが、だからこそもしもを、その次を
人は期待する
次がある、なんて気安い言葉もかけられない
そう言った後、その"次"が無くターフを去っていった仲間を、沢山知っている
様々な考えが交差した
だが、何も出来ない父親ではありたくなくて、せめてもの愛情を伝えるべく、娘の身体を撫でた
その愛情が重荷になることを知っていても
こうすることしか出来ない
「…やっぱり、お父様はお優しいです」
そう言う娘の表情は、こちらには見えない
ただ、時間だけが過ぎていく
娘の、自分の中の何かが解決した訳では無い
明日のことは、誰にも分からない
でも、それでも思わずには、伝えずにはいられない
ユーバーレーベンは、ゴールドシップの最高の娘だと