スケベルドデーモン

スケベルドデーモン


ある洞窟の奥深くで、一つの「卵」が脈動していた。


「お゛っ……❤お゛っ……❤」


その「卵」を胎に抱えたのは、そばかすのある赤い髪の女だ。もうどれだけも手入れされていないだろう髪の毛は、

粘液と砂埃で固まり、乱雑に跳ね返っている。

身体は黒い粘液のようなものと触手によって覆われており、身体の前面、顔から腹部に掛けてが露出しているのみで、

その四肢は粘液と触手の中に埋もれている。或いは、既にそれすらも無いのかも知れない。

かつて「カントリーナ」と呼ばれたその娘は、今や時折口から嬌声のようなものを漏らしながら小さく身体を震わせるのみだ。

その足元(と思われる位置)には、彼女の腹部に無理やり取り付けられたような巨大な黒い「卵」の誕生を待つかのように、

様々な異形の生物たちが集まっている。


「……お゛っ❤」


嬌声を上げ、ひと際に大きくカントリーナが跳ねた。その反応に異形たちは耳障りな声を上げながら騒ぎ立てる。

めり、と。「卵」が内側からひしゃげ、ゴム質を思わせる殻が伸びる。それは次第に張力の限界へと達し、内側から出ようとする

「何か」を押さえつけられなくなっていく。


「お゛っ❤お゛っ❤あ゛っ❤」


誕生に快楽を伴っているのか、カントリーナが目を見開いて声を上げる。その間にも、めりめりと「卵」は裂け始め、

内側の「何か」は外へと押し通り始めていた。


ずるり。


中から、「何か」が現れる。それは、黒い外套を被っているように見えた。頭から突き出たそれは、次第に肩、胸、腰と身体を出し、

べしゃりと地面に転がった。粘液に塗れた外套のまま。


「……ん……」


むくりと、「何か」が起き上がった。ゆっくりと起き上がり、しっかりとその両足で地面を踏みしめる。

左右を見て、状況を確認し、それは一度身震いをした。外套が騒めき、波打った。


「———っはぁあぁぁぁぁ……っ❤」


ばさり。外套が割れ、広がった。否、それは外套ではなかったのだ。

内側には薄汚れた、肉を思わせるピンクの色に染まっている。グキグキと変形しながら、それはフードの部分を収納し、広がる。

それは肉の翼であった。四枚の被膜、強靭な筋繊維によって形成された翼であったのだ。


「はぁ……」


大きく伸びをして、彼女は腕を下ろした。かつての美しい金色の髪の毛はくすみ、頭部からは曲がりくねった角が生える。

尾骶骨からは黒く艶やかな尻尾が伸び、その先端は目と牙の無い蛇のようにパクパクと開閉している。

健康的な色をしていた色は今や人の肌とは思えぬ紫に染まり、身体中に赤く輝く不気味な文様が刻み込まれている。

そんな彼女の足元に、耳障りな鳴き声を響かせながら異形たちが殺到する。それを認めた彼女は、くすりと笑って手を広げる。


「おいで。飾らせてあげる」


一層に異形たちが騒ぎ立てた。まず、その丸出しの乳房に星型の、ヒトデのような生き物が張り付いた。乳首に円形に並ぶ歯を立て、

胸を揉みしだくかのように5つの肢体でガッチリと掴む。


「いっひ❤久々だねぇ❤君が一番最初に取りついたんだよね❤」


かつてより二回りは大きくなり、臍を隠さんばかりに肥大化した乳房が抱き着かれた衝撃に揺れた。

次いで、まるで王冠のような形状をした奇怪な生物が彼女の頭部に嵌まり込んだ。それと同時にその身体から黒く細いものが

飛び出ると共に、彼女の鼻腔から彼女の内側へと侵入する。


「ぴぺっ❤❤えへ、えぇへへへ……❤そうそう、サークレットに擬態してこんな事したんだよねぇ❤」


次いで、植物のようなものが彼女の腰に巻き付いた。葛にも似たそれは幾つもの「壺」に似た器官を持ち、たちまちに彼女は

腰に幾つもの袋をぶら下げたような装いとなり、最後にその植物は自らの根を彼女の菊門に差し込み、根を張った。


「お゛お゛っ❤は、ははぁ❤君のせいで精液欲しくなって大変だったよねぇッ❤」


呼応するように、様々な異形の生物たちが彼女の身体にへばりついていく。スライムが彼女の四肢を覆い、その左腕には触手を

生やした鎧が取り付き巨大なシルエットを形作る。ぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃと彼女を着飾っていく。

そして最後、彼女の股を覆う生物が飛びついた時、それを彼女は手で留めた。


「ちょっと待ってね❤まだ、「入ってる」からさぁ……ん゛っ❤」


ぬぢゅり、彼女の指が自らの秘所を割り開いてねじ込まれた。


「お゛❤お゛❤お゛❤お゛❤」


快楽に口を窄め、間抜けな喘ぎ声を上げながら、自らの胎から彼女はそれを引っ張り出す。

ぬるついた持ち手、鍔ではぎょろぎょろと巨大な目玉が周囲を見やり、その周辺に生える触手は彼女の手に絡みつく。

ずぬるるるる、と引き出されるのはどす黒い色をした肉の刀身。幾つもの段差は引き抜くたびに彼女の膣壁を引っかき、

獣のような喘ぎ声を上げさせる。


「お゛っへぇぇぇぇぇッ❤❤」


ぬぼん!でろりと肉の刀身が抜け落ち、彼女の膣はぽっかりと空いたように広まった。そこを隠すように、最後の一匹が張り付く。

ぬめぬめと蠢く触手と瞳は、暫くすると抗議の声を上げる様に異音を鳴らす。


「えっへへぇ……ごめんねぇ、「お兄ちゃん」……❤でも、産まれたんだからお披露目しなきゃあ……❤」


未だ快楽の余韻に浸りながらも、彼女はそう言う。「兄」と呼ばれた異形は渋々と言った形で異音を収めた。

次第に肉の刀身は変形し、硬質化していく。ピキパキと音を立てて変形したそれは、今や禍々しい形状を持つ、

鋼の刀身へと変異していた。


「ひひっ……❤私、変わっちゃった……❤」


魔王みたいに、なっちゃったぁ……❤

ずちゃ、と粘質な音を響かせて歩を進めようとした彼女は、ふと後ろを振り返る。未だ痙攣して虚ろな目をしたカントリーナが居る。

彼女は踵を返してカントリーナに近寄ると、彼女の顔に指を這わせた。


「……ありがとね、あなたのお陰で産まれ直せたよ。あなたを探して此処に入ったから、私は私になれたの」


だから、これは御礼。聞こえているのかいないのか、虚ろな瞳のカントリーナに彼女は、かつて「勇者」と呼ばれた女は、

口付けをした。舌で口をこじ開け、唇を重ね、


ぷちゅり、と。


その口から、「何か」を注ぎ込んだ。ごくりと生理的反射でカントリーナはそれを飲み込み、目を見開いた。


「お゛っ!?お゛お゛お゛お゛お゛っ❤❤」

「あっはははははははぁ❤耐えれるかな?耐えられるよね❤私を産みなおせたんだものッ❤」


ビキビキとカントリーナの身体に血管が浮かび上がり、悲鳴とも嬌声とも取れぬ叫びをあげた。

かつての「勇者」はそれを見て笑う。


「耐えられたら、特別な卑猥獣になれるよッ❤頑張って耐えてね、「お母さん」っ❤いひっ❤いひひひひっ❤」


ひとしきり笑い、彼女は翼を変形させて自分の身体を覆い隠した。傍から見れば、黒い外套を纏った姿にしか見えない。

さぁ、外へ向かおう。これから「私たち」の繁栄を、始めよう。


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