スクラッチウタと幸運を掴まされた人

スクラッチウタと幸運を掴まされた人




 せっかくの歌姫ウタのライブなのに、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。目を覚ました時には周りには誰もおらず、たった一人で観客席に寝転んでいた。


「おはよう、目が覚めたんだね♥」


 声をかけられて、身体を起こして周囲を見渡すと声の主に気が付いた。いや、その美声を聞いた時点でそれが誰なのかすぐに分ったが、信じることができなかった。あの憧れの歌姫ウタが、天使の羽根を広げてふわふわと空を飛んで、自分のほうに近づいてくるではないか。

 彼女は目の前に降り立つと、微笑みながらこちらに向かって人差し指を向ける。正確には、手にずっと握りしめていた『くじ』を指さしているのだとわかった。


「それは私からファンのみんなに向けた特別な『ご褒美』♥ 君だけ、まだスクラッチしてしてなかったよね。それをスクラッチしないと帰れないようになってるんだよ。ね、スクラッチ……してほしいな♥ ……んー?もしかしてやり方がわからないのかな?じゃあウタが優しく教えてあげるね。ほら、このコインを手に取って……♥」


 緊張で戸惑っていると、ウタが背後に瞬間的に移動した。ピタリとくっついて、柔らかいものが背中に当たる感触がする。いいにおいがする。

 近くで見ると、いつも配信をしていた彼女とはどこか様子が違っているような気がする。髪の毛先はふわふわと柔らかそうにカールしているし、元気いっぱいの少女というよりは優しいお姉さんといった雰囲気を醸し出している。

 見惚れていると彼女の手がそっと自分のに重なり、コインを握らされる。そのまま手を優しく動かして、くじの上を前後させられる。


 カリ…… カリ…… カリ……


「削ろう~♥ まだ見ぬ夢さがして~♥ くすっ、なにが当たるかなぁ……?♥」


 三つある丸に囲まれた欄を、彼女の楽し気な歌声に導かれながらひとつひとつ削っていく……。そこに隠れていた数値の合計で、貰える品が変わるのだと丁寧に説明を受けた。下位の賞は、うちわやタオルといったウタのライブグッズ。上位の賞は、サイン入りTDやウタとの握手券。どれもファンなら貰って嬉しい垂涎の限定アイテムばかりだ。今、二つ目の丸を削り終えたところで、タオルは確実に入手できる数値になった。そして最後の丸を削ると……。


「あ♥ すっごぉい……♥ 大当たりだね♥」


 はじめはそれが数字だとわからなかった。目を凝らしてよくみれば、ゼロがいくつあるのかわからないほどびっしりと詰め込まれているのだった。上位の賞がもらえる数値など軽く超えてしまっている、文字通り桁違いのポイント。これが何を意味しているのかわからず、背後のウタの顔を見た。彼女は……うっとりと目を細め、熱を帯びた表情でこちらを見ていた。


「おめでとう♥ これを当てた君にはぁ……本当の本当に特別な『ご褒美』をあげちゃうね……♥ おいで♥」


 ウタが指を鳴らすと、視界が瞬間的に変わる。見渡すと、ここからさっきまで自分が座っていたスペースが見える。どうやらライブ会場のステージの、まさにど真ん中に移動させられたらしい。さらにウタの手によってステージ上に大きなベッドが作り出され、その上に身体が横たえられる。


「賞品は……『ウタ』だよ♥ ウタが君のしたいこと♥ ずっとしたかったこと♥ なーんでも叶えてあげる♥♥♥ 君の心も全部見通して……♥ ぜんぶぜんぶ♥♥ してあげるね♥♥♥」


 ウタは身体をまたいで馬乗りになると、顔を近づけて唇を重ねてきた。舌が差し込まれ、にゅるにゅると口内を犯される。驚きこそすれ、抵抗しようという気にはなれなかった。彼女は本当に、したかったことを叶えてくれているのだから。服を脱がされ、体の上を指が這い、爪の先でかりかりと優しく愛撫される感触に悶え、もっとしてほしいとせがむ。


「んちゅ……♥ 君のこと、好きだよ♥ ずっとずっと……ウタとふたりっきりで、ここに居ようね……♥♥♥」




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