ジュリと先生のサラちゃん

ジュリと先生のサラちゃん


どのくらい意識を失っていたのだろう。

ほんの刹那にも、ずっと眠っていたかのようにも思える気怠さは

身体の芯から響くような疼痛にかき消された。

それに導かれるように視線を移せば眼下に映るのはぼってりと大きく丸く膨らんだ腹。

尻の中にいた子は気絶している間に出ていったらしい。

ぽっかりと空いた菊座の寂しさを紛らわすように胎の奥が蠢く気配がする。


……先生の子だ


そっと腹を撫でればそれに応えるように中にいるものが脈打つ。

膣に入れる前の、ひもじそうな様子とはうって変わって元気に動いている様子に思わず笑みが溢れる。


……正気ではなかった


いくらお腹を空かせているだろうとはいえ、自分の手で産み出した、

この悪夢の元凶の一体に自身の純潔を捧げて胎に導くなど狂気でしかない。

それでもジュリがそれを選んでしまったのは、そうでもしないと本当に狂っていたからに他ならない。


既に銃声は何処からも聞こえず、聞こえるのは悦楽と痛みに塗れたうめき声だけ。

かつて清潔さを保っていたキッチンとそこから見える食堂も、粘液と体液に塗れ、

芳しい匂いを漂わせていたはずのここも、青臭い粘液の臭いと、弄ばれた雌の出す淫臭に塗りつぶされていた。


……もう取り返しはつかない


先輩たる少女はボコボコと蠢く腹を投げ出してぐったりと横たわり、

股の間から顔を出す触手に彼女と同じヘイローが浮かんでいるのはまるで彼女がそれになってしまったかのようだ。

先輩をよく連れ去っていた美食研究会の部長は他より一回りも二回りも大きい触手が尻穴を前後するたびに

その美貌に似合わぬ下品な嬌声をあげる楽器と化している。

彼女にとって大事な先生は、最初に産んだこの子以外寄り付くものもいなかったのか他よりは身奇麗だが

キヴォトス人でさえこの有様と化す凌辱を受けたせいか未だ目を覚まさない。


この惨状を作ったのはジュリだ。

彼女が意図してやったものではないとはいえ、彼女が産み出したものがこの惨状を作り出した。

もしこの状況が解決したとしても壊れてしまったものは直らない。

人が彼女を見る目は昨日までとは決定的に異なるだろう。


……どうしてこうなってしまったのだろう


上弦を描いていた目尻はいつしか下弦に、溢れるのは笑いではなくすすり泣きの声。

絶望で狂いそうになる心を、大切な人の産んだこれを受け入れる事で誤魔化そうとした。

だが改めてこの悪夢のような現実を直視すればそれも出来ない。

ひび割れた心が砕け散りそうな瞬間、一際大きな鼓動が腹を叩いた。


……え


鼓動は一度だけでは終わらずどくりどくりと腹を揺らす。

ばしゃりと膣穴から噴き出すのは触手の粘液でもない乳白色の液体だ。

一体何が起こっているのかわからぬ内に、先程まで何も受け入れた事のなかった子宮が締まる。


……まさか


そんな事があるわけがない。

既に産まれたものが、ヒトの腹に入ったとして、そんな事は。

そんな思いとは裏腹に腹の中の子がもぞりと動き、そしてずるずると出口へと降りていく。

本来は激痛を伴うはずのソレは、どこまでも優しい快感だった。

どことなくおっかなびっくりと膣穴を這う手がもたらすものは、本来触手たちが無理やり与えてくる激烈な快楽とも違う。

ジュリが愛撫のようなそれに悶える内に、遂に中にいたものは秘唇を割り開き、外界へと姿を見せた。


おぎゃあ


ジュリは呆然とそれを見た。

沼のような暗緑色だったはずのそれは、緑がかった白い肌をしていた。まばらな髪は新緑の色。

ただの粘液と触手の中間のようだった姿は、今や目を、耳を、鼻を、口を備えたそれだ。

ヘイローはジュリと同じ剣を組み合わせた形だが、空のような青。

産み落とされたそれは、人の赤子の姿をしていた。


おぎゃあおぎゃあ


そしてその腹から繋がっているものはジュリの秘唇の奥へと続いていた。

先生の子。

違う。

先生の子だったもの。

先生と、ジュリの子だ。


おずおずと手を伸ばし、泣く我が子を胸へと抱く。

眠る前より大きく張り詰めていた乳房を子の口へと含ませれば大人しく吸い始めた。

その様子にジュリは笑った。

正気なのか狂っているのかもわからぬまま、己の胸の内にある歓びのままに笑った。

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