ジャヤ島inアド3
ロッシ4輪でも速い…。アドの予想通り、黒ひげ海賊団は麦わらの一味を標的に動き出そうとしていた。
ジャヤの街中を征く黒ひげ海賊団一行だが、ティーチは何かの気配を感じ、街中で一番高い搭のある教会を見上げる。
「ん?おいオーガー、あそこに誰かいねえか?」
オーガーがライフルのスコープを覗くと…。
「あれは女?スナイパーライフルを構えて―――」
銃弾が無数に放たれたが、ティーチはギリギリの所で転びながらも避けた。
「ゼハハハ!命拾いしたぜ…おい誰だ!」
ライフルを背中に掛け、二丁の拳銃を持つ一人の少女が、搭からひらりと降りた。その姿を見てティーチの顔色が変わる。
「久しぶりじゃねえかアド!こんなところで何やってるんだ?」
「…久しぶりですね。私は人を探して家出中なんですよ。サッチさんを殺して奪った悪魔の実は美味しかったですか?」
剣呑な鋭い雰囲気を醸し出すアドだが、ティーチは全く臆せず言葉を続ける。
「あぁ、味は最悪だったが、最高の気分だったぜ!仕方なかったんだ。俺はあれがどうしても欲しかったからな。」
「次は誰かの首を手みやげに七武海に入りたいらしいですね?」
それを聞いたティーチはそれまでの豪快な笑みから一転、壮絶な恐ろしい笑顔になった。
「よく知ってるじゃねえか…その通りだ。俺の目的の為には、七武海の立場が必要なんでなァ。先ずは麦わらの首を足掛かりに――――」
武装硬化した銃身とティーチの右腕がぶつかる。
「ゼハハハ!相変わらずすげえ速さだ。俺は今お前に手を出したくねぇ。赤髪を敵にまわすのは時期尚早だ。俺とお前が戦う理由はねえはずだが?」
「ルフィは私の大切な友達だ…!」
「おおそうか、そういうことか。なら、仕方ねぇな…守ってみろよ!!」
バージェスが側面から殴りかかるが、アドは真上に飛んだ。
「一体どこへ…。」
いきおい余って前進気勢のままだったバージェスは、背中に違和感を感じて振り返ると、自身の背中に立つアドが銃を突き付ける姿が映った。
見かねたオーガーが弾丸の雨をアドに浴びせたが、アドは全てひらりと避けると、オーガーに右腕に正確な銃撃を一発。オーガーは銃を持てなくなり戦闘不能に。
「これが蜃気楼のアドですか。成る程凄まじい基礎能力と動体視力…。」
研ぎ澄まされた見聞色の覇気による見聞殺しと、ナギナギの実は相性抜群だ。相手に未来を見せることなく、逆に自分は相手の行動を未来視できる。しかも能力で自らから発生する音は出ない。余程の覇気の使い手でない限り全く動きが読めない。
「お前らは手をだすんじゃねえ!頭が吹き飛ぶぞ!」
そう言って仲間を退避させ、アドと改めて向かい合ったティーチは、一瞬悩んだ表情を浮かべた直後、黒いモヤのようなものを体から発生させ初めた。
「今お前に俺の能力の手の内を明かすと後々厄介そうだが、しょうがねえ…。」
そう言った矢先、ティーチの左肩に銃撃が当たる。
「ぐわぁあああああ!痛ぇ!」
「ヤミヤミの実は痛みも飲み込む…でしたっけ?」
あれ?昔文献で見たことがあるけどヤミヤミの実はロギア系のはず。
なのに"覇気を纏わせていない銃撃"を何で受け流せていない?
「ハァ、ハァ…。お前は読書が好きで、考古学のことも一緒に話したことがあったから知ってると思ってたぜ。そうだ、俺は闇の引力を手に入れたんだ。但し、この能力についてお前は知らないことがある…闇水!」
(なに、この気持ち悪い感じは――)
瞬間、パッと左手を開いて漆黒の渦を発生させたティーチにアドは引き寄せられた。アドは右肩をティーチに掴まれながらも、左手で銃撃を行うが…。
「…!!!」
「自分の銃から音がするなんてのは久しぶりじゃねえか…?」
アドは脇腹に蹴りを入れられ、近くの家に突っ込んだ。
「ゲホ…肋骨が1、2本逝っちゃったかな…。」
(…全てを飲み込む引力って記述があったけど、こういうことか…。)
「勘づいたみてえだな。俺は全ての能力者に、防御不能の攻撃力を得た!」
「へぇ…でも過剰な覇気は能力を制する…防御できるはず。」
「この力からは能力者は逃れられないぜ。たとえ"覇気で"防御したとしてもな。言ったはずだぜ、防御不能だと…闇水!」
咄嗟に体に武装硬化を纏ったが、引き寄せられてしまうし、掴まれた瞬間やはり能力は使えなくなってしまう。
(本当は取っておきだから使いたくなかったけど仕方ない、かな。)
アドはある特殊な弾丸を銃に込め、みぞおちを殴られると同時に放った。
「ぐわぁあああああ!」
「ゴホ…。えへへ…効きますよね、それは。」
「なんだ、力が抜ける…まさか、海楼石の弾丸か!?」
動揺するティーチ。しかし生まれつき体の弱いアドの体力はもう限界に近かった。
(ここまでやれば、ルフィは襲われない…かな?)
その時、ティーチの視界にG-2と書かれた海軍の軍艦が見えた。
「チィ…騒ぎを嗅ぎ付けてきやがった。しかも一人強え覇気の奴が乗ってやがるな…お前ら、麦わらを狙うのは一旦止めてずらかるぞ!」
逃げて行く黒ひげ海賊団の船が麦わらの一味とは違う方角なことを確かめ、近くにあった壁にもたれかかったアドは、海の向こうで上がった巨大な水柱を眺めていた。
(ルフィ、ちゃんと空島行けたかな。)
時を待たずして無数の海兵に囲まれたアド。
右腕を上げて拳銃を構えるが、もう動く気力はない。意識も朦朧とし始めている。
しかし、満身創痍とは言え相手が相手だからなのか海兵達は警戒し、なかなか捕縛しようとしない。
「お前が蜃気楼のアド、赤髪の娘だな。」
「…。」
一人の海兵がアドに近づき、手錠をかける。しかし、他の海兵と違い不思議と敵対心は感じない。その海兵が耳打ちをしてきた。
『俺がなんとかしてやる。とりあえず一旦大人しく捕まっておけ。』
え、どうして…?
薄れゆく意識の中で最後に視たのは、何故か海軍の軍服を着ているエースだった。