ジミナ・セーネンVSアイリス・ミドガル

ジミナ・セーネンVSアイリス・ミドガル


武神祭初戦、アイリスは目の前の翌日には顔も忘れているであろう印象も残らない青年を相手に奇妙な違和感を覚えていた。

アイリス(体軸、体捌き、重心全てにおいて論外、それこそいっそわざとらしく見える程に。にも関わらずここまで勝ち上がってきた酷く不気味な強者それが彼…。さてどうしたものか)

守護霊(あーあ、めんどくせえ相手にぶつかっちまったな、おめぇ)

とそこで普段はこういう場で沈黙を保つ師の声が頭の中に木霊してきたことに彼女は酷く驚き、そしてそれが紛れもない「事実」であると次の瞬間思い知らされた。


え?


自分が自分を見てる、いや見上げてる。

地面から、首の獲られた人形さながらのように立っている自分の体を

「首だけ」になってしまった自分が。


アイリス「ッッッっっ!」

それは高い予測視ゆえに見えたモノ、そして目の前の彼が自身に見せてきた幻影。


アイリスはこと此処に至って師の言葉と自身の未熟さを思い知りそして悟った


アイリス(手を抜いて試合える強者じゃない…これは死合いにならないと戦うことすら許されない相手!)


そして、血肉飛び合い刃交わる戦いの剣戟が火蓋を斬って始まった


守護霊(どうする?代わってやろうかぁ?)

アイリス(黙っててください!)

焦りと緊張が混じる心中に師の愉快げな声音が響くのを流しながら自身の手筋を探る。

アイリス(単純な飛び込みはダメ、また殺される。すり足で距離を徐々に潰す?これもダメ、普通の方法じゃ彼の間合いは崩せない。だとしたら…)

加速した思考の中でアイリスは目の前の青年、ジミナの底知れぬ実力を畏怖まじりに分析し、そして初手を決定した。


アイリス「殺す気で行きます、どうか死なないでください」

そして駆けた。


一足駆け、集まっていた観客そして目の前の絶対者にすら一瞬そう見えただろう単調な動き、否歩法。

事実その単調さ故に絶対者は近づいてくる彼女の剣を素手で振り払う動作に入り始め、そして気がついた。

ジミナ/シド(あれ?ちょっと遠い?)


おかしな、酷く可笑しな事だった。両者の距離が近いのに何故か距離が詰まりきらない。

彼女が「速いはず」の一足駆けで近づいてるにも関わらず何故か彼の振り払いが先に空を切り始めている。

完全に把握しているはずの絶対者の間合いが「欺かれ」、「崩れている」。今にも打ち出されかねない王女の剣戟がまさしく機先を制してる。


ソレは特異なる技能、いやいっそ「異能」と呼んでも差し支えない異なる歩法。純粋な速度やタイミングでは到底再現できない悍ましき間合い殺し。


その歩法、名を無形という。


アイリス(獲った!)

そう必殺を確信した彼女を誰も責められぬだろう、それほどまでにその異能の技は完璧な体勢的有利を生み出していた。


そう相手が目の前にいる「怪物」ではなければ


ジミナ/シド「君、最っっ高だね」


そう聞こえた、

決して聞こえない程までに極まった時間の中で、確かにそう聞こえた。聞き覚えのある声で、それこそ最近聞いたかもしれない声音で。


そして「両者」の剣戟の音が鳴り響いた。


アイリス(!!!!!!!)


男は空を切ったのと逆の手で逆手持ちに自身の剣を引き抜き、女の全力を受け止めていた。

片手で構えた刃で、軽々と。それが始まりの合図だった


会場において剣戟の音が絶え間なく木霊する。両者の鋼が交差する。


アイリス(どんな力だ!全く、人間のそれじゃない!)

守護霊(いやそこじゃあねえだろ、肝は)

アイリスは一瞬頭に疑問符を浮かべ、遅れて気づいた

アイリス(さっきの攻防。速さで上を行かれた?無形を見切られた?違う、手が空振った時体軸がブレでなかった…あの一連の流れが想定内だったんだ)


そう相手はこと「戦い」において自身を上回る基礎を収めた文字通りの「怪物」。

まだ死合いは終わらない。


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