scene 1
ベッドの上で、俺は有馬の手首を左手で押さえつけ、唇を合わせる。
有馬は、こちらをじっと見上げて、少し顔を赤らめながら、どこかぎこちなく、それを受け入れる。
その柔らかさ、温かさに、俺の、彼女を愛おしく思うどこかが、震えた。
だがその一方で、俺を突き動かす嗜虐的な感情が、有馬の反応を受けて、高ぶる。
可愛いじゃないか。
ただ、俺はその昏い感情に突き動かされて行動する。彼女のそういう反応を、喜びながら。
そうか、従順に、俺を受け入れようとしてくれるのか。
しばし俺は、あえて控えめに彼女の唇を楽しむ。
上気した彼女は、ただ、こちらに応じる。
それでも、流石にしっかりと唇は閉じている。
まぁ、そこまでなんだろう。
俺は突如、彼女の上唇を啄んだ。
「……っ」
彼女がびくりと震えた。
やはり可愛いな。
そのタイミングで、俺は彼女の唇を押し開け、舌を侵入させる。
有馬が、その美しい瞳を大きく見開いた。
それでも、有馬は、まるで義務として俺を受け入れようとするかのように、口を開ける。
俺は容赦なくその中に舌を差し入れ、有馬の舌に触れた。
温かな、柔らかな感触。
たどたどしく応じようとしながらも、俺が触れるたびに、有馬の舌は僅かに動いて逃げる。ただ、それでも追いかけると、やがて、恐る恐る、こちらに合わせてくる。
そのぎこちなさが、なおさら俺の感情を高ぶらせる。
俺は、有馬の口内を蹂躙しながら、有馬の舌を弄びながら、もう右手で、有馬の体を、胸を、まさぐり始めた。柔らかな膨らみの感触。
「───!」
有馬の体がびくりと震えた。目をつぶり、逃れようと、体をくねらす。
だが、俺の左手は、有馬の手首をしっかりと抑え込み、その動きを封じる。
もう恥ずかしくなったのか。全ては、これからなのに。
俺はそのまましばらく、有馬の口内を楽しみながら、その体のあちこちを撫でまわし、反応を楽しんだ。
そのうち、俺はその手を下にずらしてゆく。
俺は右手で有馬の大腿を軽く撫でた。上質な布の感触と、彼女の体温を感じる。
また彼女がぶるっと震えた。
背中をそらせ、強く体をひねり、逃れようとする。
俺はゆっくりと彼女から唇を話す。
「……は……ふぅっ……」
唇を解放された有馬が、ゆっくりを目を開ける。
どこか悄然としながら、荒い息でこちらを見上げていた。
彼女の眼には、涙が浮かんでいた。
その表情に、俺のどこかが、一瞬正気に引き戻される。
「……有馬」
今、俺は何をやっていた。
彼女に、何をしていた。
何を楽しんでいた。
有馬を押さえつけていた、左手を離す。
ただ、有馬を見下ろす。
ただ、彼女を、彼女を『そのように』したい。
その欲望が高まる。
自らの罪深さを自覚しながら。
でも、抑えられない自分の心が、欲望が。
その心の高まりの中で、俺はただ、彼女を見下ろす。
しばらく有馬は荒く息を吐いていた。彼女の唇は唾液で滑っていた。穢したのは、当然、自分だった。
そして、有馬はこちらを見ると、小さく笑って言った。
「ホント乱暴」
その口調はあくまで明るく。
何とか、その心のうちを感じさせないよう、努めているようで。
そのような有馬の声に。仕草に。俺はとても愛おしいものを感じながらも。
一方で、そのような気丈な姿勢は、俺にとっては、さらに何かの引き金になるものだった。
俺は、自分の心に、その昏い欲望に慄きながらも、自分がただそれに染まっていくのを感じていた。息が荒くなる。自分が良くわからなくなる。
動かないと。
行わないと。
有馬を、そのようにしないと。
有馬は大切だ。
大切だから、そうするのだ。
そうしないと。
さあ。
俺は、そうしたいのだし、そのようにしなければ、いけない。
……ごめん。
俺は何かに突き動かされるように、有馬の上半身を掴んだ。
そして、そのまま手を滑らせる。震える手で、強引に有馬のブラウスを、開こうとする。
「ちょっと、焦らないで……無理に引っ張らないで……ボタンが傷む……自分で外せるから…」
有馬は、小さく抗議の声を上げた。その声は、冷静さを保っているようで、どこか震えていた。動揺と恐れが、その声に滲んでいるのが感じられた。
その声に、俺の何処かは自らの罪を感じ、深く沈む。だが、俺の心の別のどこかは、さらに感情を高ぶらせる。高ぶった感情が、ただ、俺を突き動かす。
有馬は、もどかしく動く俺の手に、控えめに、自らの手を添え、動きを導いた。
彼女を包む、薄い、柔らかな一枚布が明らかになる。
そのフィットした布が、彼女の曲線を美しく際立たせていた。
俺はただそこに顔を埋める。彼女の体温と、汗の匂い。そして、彼女の感触。
有馬は小さく呻いた。