シークレットルート 諦めなかった想い

シークレットルート 諦めなかった想い

1


あの日からすでに数年が経過していた。

あの日というのはーーー


「ウタ、元気かなぁ…」


ルフィが恋を諦めた日だ。

あの時は酷かったとルフィは回想する。


「じいちゃんに散々殴られるし、どんだけおれをそばに置いておきたかったんだよ…」


現在ルフィは海外のとある国で父であるドラゴン、兄であるサボの手伝いをしていた。

仕事の内容はここでは話せないことだが、今ではすっかり幹部の一人だ。一人の男としても落ち着き、かつての明るさは鳴りを潜めている。


「………ん?電話…」


突然電話がかかってくる。相手はサボだ。


「もしもし、どうしたんだ?サボ」

「おう!ルフィ!突然だが、明日、急に日本に帰ることになった。お前も着いてこい!」


急に国を移動することを伝えられる。

今月で5回目だ。


「またかよ…しかもなんで日本なんだよ…あの時みたいにじいちゃんに殴られるじゃねェか…」

「大丈夫だ!もう話は通してあるから!じゃあ準備しといてくれ!」

「あ!おい!サボ!」


要件だけさっさと告げ、電話を切るサボ。

思わず用件人間め…と毒づくルフィ。


「……とりあえず準備するか…行きたくねェなぁ…」


思い浮かべるのは初恋の少女。

初恋は結局実らなかったが、それでも彼女が他の男といるところを考えると吐きそうになる。


「……幸せなら、それでいいか…」


そんなことを考えながら、さっさと準備のために本部に戻るのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……久しぶりだな…この場所も…」


翌日、日本の空港に朝早くに降り立ったルフィ。

ルフィは日本の空気を懐かしんでいた。


「ん?あそこか…」


見覚えのある顔が並んでるのを発見し、そこに向かう。

こちらに気付き、むすっとした顔を向けるのは祖父ガープ。

隣にいて、笑顔を浮かべていたのは初恋の少女の父親…シャンクスだった。


「ふん…一端の顔つきになりおって…」

「久しいな!ルフィ!元気だったか?」

「ああ!久しぶり!じいちゃん!シャンクス!」


久しぶりの二人に思わず笑みがこぼれる。


「む?……そんな顔もまだできたんじゃな…」

「ん?どんな顔だ?」


ガープが不思議なことを言うが、それ以上は何も言わない。


「いやー!お前が急に海外に行くってなった時は驚いたぞ!しかもあんな仕事をしてるなんてな!」

「いて、いてぇよ!そんなバンバン叩くな!」


久しぶりに会ったせいか妙にテンションが高いシャンクス。

逆にガープはテンションこそ低いがルフィのことを見る目は穏やかだ。


「もうお前酒飲めるだろ?今日は一緒に飲もう!ガープさん!あんたもどうだ?」

「わしゃあこれから仕事じゃ…せっかく孫が帰ってきたと言うのにな!」


二人が会話をしているがそんなことよりも思考を巡らせる。

シャンクスに飲みに誘われたが、間違いなく家で飲むことになるだろう。


そうするとあの少女に出会う羽目になる。

そこまで考えて、もうすでに結婚して家を出てるんじゃないかという結論に至る。

凄まじい自傷ダメージになったが


「ほらじいちゃん…また仏のおっさんに怒られるぞ…でも来てくれてありがとな」

「ぐぬぬ…せっかくの孫と過ごす時間が……今日ぐらいはゆっくりせい…」


トボトボと歩いて行くじいちゃん。

まぁ…いつまで居れるのかもわからないしな…


「おし!早速家に行くぞ!今日は朝から飲むぞー!」

「おい!腕引っ張んな!」


本当になぜか上機嫌なシャンクス。

その理由は家についてから判明することになる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「帰ったぞ〜!」

「お邪魔します」


誰もいないはずなのに帰ってきたと告げるシャンクス。

やはりテンションがおかしい。


「なぁシャンクス。誰もいないのにそう言うのはおかしくないか?」

「……………そうだな!お前が来てテンション上がっちまってるんだ!」


そう言うとおれの腕を引っ張り、リビングに早足で移動するシャンクス。

慌ててそれについて行く。


「だから引っ張んなって…」


リビングに続くドアが開かれる。

懐かしい光景が目に入る。

そしてーーー


「おかえりなさい。シャンクス………ルフィ」

「……は…?なんで…」


思い出の少女の美しく成長した姿がそこにはあった。

特徴的だった髪は下ろされ、明るい雰囲気は鳴りを潜め、穏やかな雰囲気を纏っていた。


「おう!連れてきたぞ!じゃあおれは少し出かけるからな。終わったら言ってくれ」

「は!?おい!シャンクス!?」


そう言って、家から飛び出して行くシャンクス。

今ここにいるのはルフィとウタの二人だけだ。


「……とりあえず座ろっか?」

「…………おう」


数年前と何も変わっていない位置に並んで座る二人。

そのまま話さずに時間が過ぎる。

口を先に開いたのはウタだった。


「本当に久しぶりだね…あの時はびっくりしたよ。急に海外に行ってそのまま帰ってこなくなっちゃうんだもん」

「……急な話で悪かった。父ちゃんが帰ってくるなんて滅多にないから勢いで着いていっちまったんだ」


ウタに嘘をつく。本当はウタが他の男と一緒にいるところなんて見たくなかったから。

あのままだったら取り返しのつかないことをしてしまいそうだったから。


「まあ、その話はもういいよ。それにしてもルフィ。男らしくなったね、すごいかっこよくなった」

「ウタもすっげェ綺麗になったな。なんて言えばいいかわからねェけど…」

「ふふっ、ありがとう。そりゃ、頑張ったからね。好きになった男に振り向いてもらうために…」


ウタの微かに頬を赤らめ、恥ずかしそうに言う姿を見て、ルフィの胸に耐え難い激痛が走る。

思わず胸を押さえる。

ウタはそれに気づかず、話を続ける。


「あの日にね、初めて恋を知ったの。恋ってすごいよね。その人のことを考えただけでーー」

「やめてくれ……」


ウタが恋について話をしようとするのを止める。

すでに粉々になったはずの心がひび割れて行くのを感じる。


「お前の口から…そんなこと…」

「………でもね…私…その恋を諦めそうになったんだ」


ウタは止まらない。


「その人に酷いことしちゃって、その人が勇気を出してくれたのにそれを無下にして……今思えば、その人に無理やりされてもおかしくないことをしてたの…」

「…………?」


何かがおかしいことにそこで気づく。


「酷い話だよね…その人はずっと私を想ってくれてたのに、それに気づいたのはその人がいなくなってからなの…」

「………………」


「恋に気づいたのもその人がいなくなってから。でも私のせいで最悪の形で初恋は終わったの…」


ウタは話を続ける。

ルフィは何かに気付きながらも黙って聞く。


「ううん…終わらせようと思ったんだけど、諦めきれなかったの」

「……え…?」


「だってその人は…12年間も私を想ってくれてたんだよ?それなのに私が気づいて1日で諦めるわけにはいかないでしょ……まぁ…その人が別の人を見つけてたのなら諦めるつもりだったけど…」

「……………」


「でね…諦めないって決めたんだけど、その人がどこにいるのかわからなくて大変だったんだよね。無事かどうかもわからなかったし………だから私ね!」


「世界に名が響くような歌手になることにしたの!」


「世界中にファンができれば、色んな国の情報を手に入れられるでしょ!そうしたらその人の情報も手に入ると思ったの!」

「………行動力すげェな…」


初恋を諦めないために世界最高峰の歌手になると言ったウタを見て、呆れるルフィ。


「だってそれだけしないとその人に顔向けできないんだもん」

「そんなことねェだろ……お前だったらどんなやつでも受け入れてくれるだろ…」


「そっか…じゃあ他にも言いたいことあったけど言うね!」

「………………」


ルフィは顔を上げない。

気づいているからだ

ウタのその諦めなかったやつが誰なのかということに…

そして、自分はウタを諦めることが出来ていなかったということに…


「ルフィ、私はあなたが好きです。大好きです。最低なことをしてしまった私だけど…どうか隣にいてくれませんか?隣に置いてくれませんか?」」

「……………お、れは」


言葉が詰まる。顔を上げれない

詰まるのはこんな声を聞いてほしくないから。

上げれないのはこんな顔を見られたくないから。


「お、れも…お前が、好きだ…!諦めきれねぇ…!離れててもずっとずっとお前のことを考えてた…!」

「……私もそうだよ…ずっとあなたのことだけを想って歌ってた」


泣きじゃくった顔でウタに返事をするルフィ。

涙を浮かべ、顔を赤らめながらそれを受け取るウタ。


「ウタ…!」

「わ…!…久しぶりだね、こうやって抱き合うのも…」


感情を抑えきれずにウタを抱きしめるルフィ。

それを穏やかな表情で抱きしめ返す。


「もう離したくねェ!ずっとそばにいてくれ!おれのそばで笑っててくれ!」

「絶対に離さないよ…ずっとそばにいるよ…あなたのそばであなたと一緒に笑い続けるよ…」



二人で誓う。そばにいることを、もう離れないことを、ずっと笑顔でいることを。

そしてーーー


「……ずっと愛してる…ウタ…!」

「……私も…永遠に愛してるよ…ルフィ…」


互いに口づけを交わし、永遠の愛を誓った。



Report Page