シロップ村の戦い2

シロップ村の戦い2


『海岸についたぞーーっ!!!』

「上陸だ野郎どもォ!!村を荒して屋敷を目指せ!!!」

『うおおおーーーっ!!!』



「来ねェなァ…朝なのに……」

「寝坊でもしてんじゃねェのか?」

「………あのさ、気のせいかしら。北の方でオーッて声が聞こえるの…」

「私も……なんというか少し地響きも聞こえるような…」


ナミとウタがそう言うように、確かに遠くからオオオーーーッという声や地響きが響いてくる。そして北の方からというナミの発言にウソップはギクリとする。密会していた海岸からやってくるものだとばかり思っていたために北にもある上陸地点からやってくる可能性に気が回っていなかったのだ。おまけに北にはルフィ達の停泊させている船とナミの宝まで置いてある。急がなければ宝も取られ村も襲われてしまう。


「20秒でそこ行くぞ!!!」

「ちっきしょおせっかくの油作戦が台なしだ!!」

「私達もルフィに続こう!」

「ええ、急がな………」ツルン!

「おいナミ!!何やってんだ」

「きゃああ!助けて落ちるっ!!」


油だらけの坂に落ちないよう気をつけようと言っていた当人がその油に足を取られ、おまけにゾロの服を引っ張り道連れにしてしまう。だがこれ幸いにとゾロを足蹴にしてナミは油坂を抜けるが、身代わりにゾロが下まで落ちていってしまった。


「うわーーーっ」

「あ…わるいっ!宝が危ないの!!なんとかはい上がって!!」

「ゾロがんばれー!!」

「………!!あの女殺す!!」


ゾロを置いて北の海岸へ向かい始めたウタとナミ。我先にと飛び出し北へまっすぐ向かっていくルフィ。それを追い村には絶対に入らせないと意気込むウソップ。そうこうしている内にクロネコ海賊団は坂を登り始め村へ侵入しようとしたその時、何者かによって海賊団の面々は吹き飛ばされる。


「坂の上に誰かいるぞ!!!」

「!!てめェは……」

「おれの名はキャプテン・ウソップ!!!お前らをず〜〜〜っとここで待っていた!!!た…戦いの準備は万端だ!!!死にたくなきゃさっさと引き返せ!!!」


北の海岸の迎撃一番乗りは我らがキャプテン・ウソップであった。迷子にでもなったのか、先に突っ走っていたルフィはその場にはいなかった。このままではまずいとウソップは十八番であるウソをついた。


「……忠告だ!!!今の内に引き返さねェと、一億人のおれの部下どもがお前らをつぶすことになる!!!」


子供以下のウソであったが、それを信じる男が一人いた。


「何ィ!!?一億人!!?す…すげェ」


クロネコ海賊団現船長・ジャンゴである。どうやら彼は自身の催眠にもかかるように、結構単純な奴のようだ。だが騙されたと知り、激昂するジャンゴの元へある一報が入る。


「ジャンゴ船長大変です!!」

「そうか!!まずいな!!」

「いえマズくはありません!!あの妙な船で宝が見つかりました!!」


そうして指を指された先には五百万ベリーはくだらない宝の入った袋が運ばれてきた。ナミの宝である。だがそれを見たウソップはまたさらなるウソと作戦を思いつく。


「それはおれの宝だァ!!!だが!!!やるっ!!!」

「何!?宝をくれる!!?」

「そうだ!!!その宝に免じてここはひとつ!!!引き返してください!!!」


まさかの買収作戦である。これには人の風上にも置けんと海賊団の面々はどよめきを隠せない。だが船長であるジャンゴはいたって冷静であった。


「……バカか…この宝は当然いただくが、それでおれ達が引き返す理由はない!!」


言い返すことの出来ないもっともな言い分である。その言い分にさらに畳み掛けるように催眠術師は例の輪っかを取り出す。


「わかったらワン・ツー・ジャンゴで"道を空けろ" ワン…ツー…ジャン」

「バカなこと言ってんじゃないわよ!!!」ガン!!

「!!?…何だあの女は!!?」

「船長!!道を空けてる場合じゃないでしょ!!」


両者好き放題に振る舞っているがそこへナミが檄を飛ばす。


「その船の宝は私のよ!!!1ベリーたりともあげないわ!!しっかり持ってなさい、今取り返してやるから!!!」


宝を取られるばかりか勝手に献上されそうになった事に怒りを露わにするナミとそれに抗議するウソップ、その両名をまぁまぁとなだめようとするウタ。だがナミが言うには殴った事は助けてあげたのだと言う。


「言い忘れたけどあいつのリングを最後まで見ちゃダメ。あいつは催眠術師なの!」

「さ…催眠…!?」

「ああ…だから眠くなっちゃったのかな」

「で?ルフィは?一番に走ってったでしょ!?」

「さァな。おじけづいたか道にでも迷ってんのか…」

「じゃあ道に迷ってるね間違いなく。あいつ昔っからそういうとこあるから!」


ルフィが道に迷って目的地に着かないことは今に始まった話ではないと、昔から彼のことを知る幼馴染は苦笑する。だが今は目の前の敵をどうにかせねば。


「よし…ブチのめせ!!おれが援護する!!」

「な…?なんで私達が!!あんな大軍相手にできるわけないでしょ!私達はか弱い女の子なのよ!!」

「男だからってナメんなよ!!おれなんかビビっちまって足ガクガクなんだぞ!!ほら!!」

「ほらみて私なみだぐんでるっ」

「ぜんぜんカラカラじゃねェか」


ナミとウソップの情けない言い争いに付き合ってられんとクロネコ海賊団が動き出そうとした時、大軍を前に一人躍り出た者がいた。ウタである。


「全くもう…2人ともしょうがないんだから。下がってて!私がいく!!」

「な…!無茶すんな!!あんな数1人で相手できるわけねェだろ!?」

「そうよウタ!ルフィ達を待ちましょ!!ね!?」

「大丈夫大丈夫!むしろ今はあの2人はいない方がちょうどいいから!さっき言ったよね…私"歌う"って!!」


確かに先程、それぞれが何をできるかと問われた時に彼女は「歌う」と言っていたが、歌ってどうにかなるとはナミとウソップには到底思えなかった。


「歌うって…!!それで敵の奴らを聞き惚れさせて足を止めようってのか!?無理に決まってんだろ!!」

「んー当たらずも遠からずってやつかな…まあ見てて!でも、耳は塞いどいてね。あんたの言う通り"聞き惚れ"させちゃうから!!」


そう言い残しスーッと大きく息を吸い込み始めるウタ。何が何だか分からないが、あまりにも自信たっぷりに言われたものだからとにかく耳を塞ごうと両耳に両手をあてがうナミとウソップ。ウオオオーーっ!!!と海賊達が坂を駆け上がる最中、その雄叫びを遮るかの如くウタの歌が"北の海岸の坂"という名のステージに響き渡る。


「​────新時代はこの未来だ

世界中全部 変えてしまえば…」

「なに呑気に歌ってんだこらァ!!!」

「​───変えてしまえば…!!」


ウタの頭めがけて振り下ろされたかに見えた斧が音符のような何かによって受け止められている。


「な!?なんだこりゃ!!?」

「残念、今の私にそんなもの意味ないよ!」

「ふざけんな!食らえェ!!」


今度は横から剣を振られたがそれも同様に防がれてしまう。


「だからァ、そういうのは意味ないんだって」

「くそ!なんなんだこりゃあ!?全然攻撃が通らねェ!!」


無数の男達がウタに切りかかるもどこからともなく無数の音符が集まってきて盾を作り、向かってくる刃を弾き返した。何度切りつけても、同じように弾き返され、男達はウタに傷一つつけることもできない。


「わけわかんねェ!なんなんだよこれェ!!」

「わからなくていいよ!でもさすがに何度も切りつけられると気分良くないなー……よし!あんた達みんな歌にしてあげる!!"ペンタグランマ"!!!


そう言いウタが右手を高く掲げると、手のひらから五本の黒い線が現れた。楽譜に使われる五線譜のようだ。その線がウタを囲って切りつけていた海賊達にしゅるしゅると巻きついていく。黒い線に巻きつかれた海賊達はゆっくりと上昇していき、パン!と巻きついた線が弾け、宙には五線譜が浮かんだ。線と線の間には海賊達が張りついている。


「うぅ…動けねェ…!!」

「な、なんだありゃあ!!こんなの聞いてねェよォ!!!」

「ったくもう、大の大人がべそかかないでよ」


目の前に広がる信じ難い光景を前にまだ捕まっていない海賊達が涙目になりながら慌てて逃げ出すが、それに対してウタが人差し指を向ける。指先から伸びた五線譜が逃げる海賊達を絡め取り、既に捕まった海賊達と同じように五線譜に張りつけにした。そうして出来上がった二つの五線譜が結合すると、一つの譜面を形成した。先程ウタが歌った「新時代」の譜面だ。


「た、助けてくれェ!!ジャンゴ船長!!」

「さて…と!これでもう安心かな!!……うーん、でも何であいつは"こっち"に来なかったんだろ?」


そう言いウタは出来上がった譜面と坂の下を見比べる。坂を駆け上がってきた海賊達は捕まえたが、その中にも坂の下にも海賊団船長のジャンゴがいないのだ。


「………ま!いっか!!これで"向こう"は圧倒的にこっちが有利になったね!!」



​───────​───────​────



「……おっといけねェ!あの小娘が耳を塞げと言うからおれも思わず塞いじまうばかりか目まで瞑っちまったぜ!!……ん??……ゲゲ!!?なんじゃこりゃあ!!?」


ウタが歌い始める前、耳は塞いどいてねという自分に向けられていない発言をなぜか真に受け、耳を塞いでいたジャンゴの目の前には信じられない光景が広がっていた。そしてそれは、同じく耳を塞いでいたナミとウソップも例外ではなかった。


「なに…これ…!?どうなってるの……」

「なんでみんな眠っちまってんだ!?」


ウソップの言う通り、ウタへ襲いかかろうと坂を駆け上がってきた海賊達はウタの歌を聞いた瞬間、眠りに落ちてしまったのだ。それはウタが歌い終わった今もなお続いている。


「お前も催眠術師かなんかだったのか!!」

「催眠?そんなちゃちなもんじゃないよ。私のこれはね…」


ウタがそう言おうとした瞬間、坂の上から発せられた声が遮ってしまう。


「おいおいなんだよこりゃ。ほとんどぶっ倒れてんじゃねェか」

「ああ…多分ウタがやったんだろ。まあとにかく…」

「ナミてめェ!!!よくもおれを足蹴にしやがったな!!!」

「ウソップこの野郎!!!北ってどっちかちゃんと言っとけぇ!!!」


迷いに迷って辿り着いたルフィと油作戦に唯一ひっかけられたゾロの2人である。


「あ!ルフィにゾロ!!やっと来たんだ!」

「全く!あんた達おっそいのよ来んのが!!」

「!てめェがおれを陥れたんだろうがよ!!」

「だいたいだなー!!北とか北じゃないとかそうゆうのでわかるわけないだろ!!」

「何ィ!?お前自信持ってまっ先に走り出し…いやいや待て待て!今はそれよりも!!」


やんややんやと言い争いをしていた面々であったが、ウソップが一旦落ち着けと言わんばかりに待ったをかける。


「なァお前…さっきウタがやったとかなんとか言ってたよな?なんか知ってんのか?」

「ん?ああそういや言ってなかったな。ウタはよ、おれと同じ"悪魔の実"の能力者なんだ」

「な…!!悪魔の実!!?ほんとなのウタ!?」

「ええそうよ!私は"ウタウタの実"を食べた歌人間!歌で新時代を作る女よ!!」


ルフィのみならずウタまでもが悪魔の実の能力者であったことに一同は驚愕する。


「こりゃ驚いた…!お前も悪魔の実の能力者だったのか」

「悪魔の実の…!!って、悪魔の実ってなんだ?」

「食ったら一生カナヅチになって泳げなくなる代わりに色んな能力を手に入れられるんだ。おれも"ゴムゴムの実"を食ったゴム人間だぞ!」

「まさかウタまで能力者だっただなんて…ていうか何よウタウタって!?そんなあんた専用みたいな悪魔の実があるの!?」

「そう言われても、物心つく前からこの能力が一緒だったもの。仕方ないでしょ」


色々な情報が錯綜するなか、ウソップが本題に話を引き戻そうと切り返す。


「まァとにかくお前が普通の人間じゃねェって事はよーくわかった!それで、あいつらはなんでぐっすり眠ってんだ?」

「ああこれ?これはね…私の歌を聞いた人は私に心を取り込まれて眠っちゃうの。それで取り込まれた人の精神だけはウタワールドっていう別の世界に飛んで…簡単に言うとみんな同じ夢の世界に行くって感じかな」

「ん〜…?なんかよくわかんねェけど…とにかくこいつらはもう起きねェのか?」

「そうよ。私が眠らない限りはね」

「…そうか!よォしとにかくこれで形勢逆転だ!!おれの作戦どーり!!!」

「何ィ!?そうだったのかァ!!!」

「ウソに決まってるでしょルフィ」


過程や理屈はどうあれ、ウタの歌により形成が逆転したのは紛れもない事実。この芳しくない状況にジャンゴは苦虫を噛み潰すような表情を見せる。そこへまだ宝はないかと小舟を漁っていた5、6人程の海賊が戻ってくる。


「なっ!?何があったんすかジャンゴ船長!!これは一体…!!」

「うっせェ!!こっちの方が聞きてェよ!!…だが向こうが催眠じみた事をやってくんならこちらとしても催眠術師としての意地がある。おい野郎ども!相手が何をしてこようともこっちが強くなりゃ関係ねェ…!!さァこの輪をじっと見ろ………!!ワン・ツー・ジャンゴでお前らは強くなる。あの女の歌になど聞く耳は持たず!!だんだんだんだん強くなる!!」

「何やってんだあいつら」

「…さァな」

「催眠術よきっと…!!思い込みで強くなろうとしてんの!ばっかみたい!」


催眠術で思い込みによって強くなる。馬鹿げた話だと静観していたルフィ達5人。だが次起きた出来事によってその思い込みは本物だと悟ることとなる。


「ワーン!!ツー!!ジャンゴ!!!」

『ウオオオオーーーッ!!!!』

「何!?あいつら凄い形相!!」

「ふふん!ここも任せてみんな!!私達の代わりにあいつらをやっつけてくれる助っ人達を呼ぶね!!みんなー!!起きて起きてー!!悪ーい人達がこの坂を登ろうとしてるよ!みんなで食い止めちゃおう!!!」


ウタがそう呼びかけるとウタによって眠らされていた海賊達が眠ったままフラフラと身体だけが起き上がる。


「うおっ!起きた!!どうなってんだこれ!?」

「私の歌で眠らされた人達はね、私の呼びかけに応じて、私の指示した通りに身体を動かしてくれるの!すごいでしょ」


フラフラと身体だけ起こし坂を通さないぞとばかりに海賊達が道を塞ぐ。


「フン!また奇妙な技を…!!だが本場の催眠術の前にはそんな小細工無力だ!!行けっ!!邪魔する奴らは誰であろうとひねり潰せ!!!」

「!来るよみんな!!迎え撃って!!」


ジャンゴとウタ、それぞれの指示のもとぶつかり合うクロネコ海賊団の面々。同士討ちになるかと思われたその激突であったが、決着はすぐについた。ジャンゴ側のクロネコ海賊団の勝利である。催眠術により強化された少数の海賊達により大勢の海賊達が為す術なく吹き飛ばさてしまったのだ。


「な…!!あの数を相手に一気に……!なんてパワーだっ!!!」

「そんな…!!本当に催眠がかかってる!!!」

「あっちゃあ……こりゃあちょっとまずいね……」


大勢の同士達を薙ぎ倒しながらもなお催眠術により強化された海賊達は坂を駆け上がってくる。


「お前ら坂の上へ上がってろ!!ここはおれ達がやる…!!」


ゾロがそういうとウソップら3人は坂の上へ上り始める。いざ迎え撃たんと刀を抜き始めるゾロは隣にいる一切身動きを取らない麦わらの男へ声をかける。


「おいルフィ!!ルフィ!?」

「うおああああーーーーっ!!!!」

『お前も催眠にかかってんのかァ!!!!』


なんとルフィまで強くなる思い込みをする催眠にかかってしまっていた。そのまま坂を下り海賊達と激突する。


「ゴムゴムのっ!!!銃乱打!!!!」

『うぎゃあああ!!!』


ゴムゴムの銃乱打により敵を蹴散らしたルフィであったが、勢いそのままに直進し、クロネコ海賊団の船首にしがみつく。


「…な、何する気だ…!?」

「ぬうあああああああっ」

「いけーっルフィーっ!」


なんと船首をもぎとってしまった。そのまま振り返り船首を持ってクロネコ海賊団に襲いかかろうとした所をジャンゴの催眠によって眠らされてしまう。


「やりやがったあのガキ…!!これじゃ計画もままならねェ…!C・クロにこんなもん見られちまったら…こいつらは勿論おれ達まで皆殺しだ!!!」

「なんかほぼ全滅って感じするわね」

「おい…そんな事よりあいつが船首の下敷きに!!」

「ルフィなら……大丈夫だよォ……」

「?どうしたウタ、眠そうだな」

「うん…ウタウタの能力を使うとね……体力の消耗が激しくて…すぐ眠くなっちゃうの……ふわぁ……あーもうダメ…あと……よろしく………」パタン

「おい寝るなよ!!お前が寝たら眠らせた奴らが起きちまうだろ!?もうちょっと頑張ってくれよ!!!」


ウソップの願いはウタのスカピーと眠る表情と鼻ちょうちんによって叶う事はないと嫌でも思い知らされる。


「うわああ!!おいやべェだろコレっ!!」

「大丈夫だ。そんな大事にはならねェよ。ウタが眠らせてた奴らならほら…お目覚めのようだが、さっき吹き飛ばされたせいで思うように身体が動かせねェようだぜ」


ゾロの言う通り、先程の催眠術により強化された海賊達の攻撃により吹き飛ばされた面々はうあぁ…と呻くのに精いっぱいでまともに起き上がることすら敵わないようだった。

そんな中、船首をもぎ取られた船から2人の男の声が響いてきた。


「おいおいブチ!!来て見ろよえれェこった船首が折れてる!!!」

「なに船首がァ!!?おいおいどういう理由で折れるんだ!!」

「は…あ…あの声は、船の番人"ニャーバン・兄弟"!!」

「何かまだ船に居るみたいだぜ…」

「そうか まだあいつらがいた…!!!」


​───────​───────


(ここからは原作通り話が進むので決着後まで大幅カット)


​───────​───────



朝7時、この時間にはいつも村1番のホラ吹き坊主が騒ぎ立てる時間だがそんな気配は微塵とない。ある者は寝坊し、ある者はやる気が出ないと、ある者は昨日少し強く言い過ぎたかとそわそわする。

ウソップ海賊団のにんじんら3人組は一足先に帰路につき帰宅していた。そして、その海賊団のキャプテンはというと…


「ありがとう!!お前たちのお陰だよ。お前たちがいなかったら、村は守りきれなかった」

「何言ってやがんだ。お前が何もしなきゃおれは動かなかったぜ」

「おれも」

「うーん…ルフィ……私まだねむいよー……」

「寝てなさい。…うふふ、どうでもいいじゃないそんな事。宝が手に入ったんだし♡」


斬ってのびて、歌って盗んでの戦いを繰り広げた4人を前にしたウソップは自分の胸に決めていた決意をあらわにする。


「おれはこの機会に一つ、ハラに決めたことがある」



​───────​───────



「………!ふーっとれた!」

「バカだなのどを鍛えねェから魚の骨なんかひっかかるんだ」

「そうだよルフィ。のどを鍛えないからあんたはいつまでたっても音痴なのよ」

「あんたらに言っとくけどね、フツー魚を食べたらこういう形跡が残るもんなのよ」


例のめし屋にて4人仲良く焼き魚定食を注文し、食事を楽しみそろそろ出るかと席を立とうとした瞬間、店の扉が開かれる。そこに立っていたのは件のお嬢様、カヤであった。寝てなくて平気なのかとナミが気遣うが、もう甘えてばかりもいられないとカヤは奮起する。


「それよりみなさん…船、必要なんですよね!」

「くれるのか!?船っ!!」


​───────​───────



「へぇ」

「キャラヴェル!」

「羊さん!!」

「うおーっ」


カヤに連れられた海岸で待ち受けていたものは執事・メリーと、カーヴェル造り三角帆使用の船尾中央舵方式キャラヴェル"ゴーイングメリー号"であった。

クロネコ海賊団を追い払ったお礼にと受け取った船の説明はナミに任せ、ルフィは改めていい船だと感心する。


「航海に要りそうなものは全て積んでおきましたから」

「ありがとう!ふんだりけったりだな!!」

「それを言うなら一難去ってまた一難!」

「至れり尽くせりだアホども」


完全にIQが溶けきっている会話の途中、謎の球体が叫びながら猛進してくる。カバンいっぱいに荷物を詰め込んだウソップだ。


「何やってんだあいつ」

「とりあえず止めとくか。このコースは船に直撃だ」

ドスゥン!!

「………!!わ……わりいな…」

『おう』


ウソップの顔面に直接蹴りを入れることで出航前に船がダメになるという最悪のケースを避けた後、新たに船を得たルフィ達とそれとは別に船出を決意したウソップがカヤに続きルフィ達にも別れを告げようとする。


「お前らも元気でな。またどっかで会おうぜ」

「なんで?」

「あ?なんでってお前、愛想のねェ野郎だな…これから同じ海賊やるってんだからそのうち海で会ったり…」

「何言ってんだよ早く乗れよ」

「早くしないとおいてっちゃうよ」


ウソップにはルフィ達の言っていることがいまいち理解できなかった。乗れ?おいてく?なんのことだろう。


「おれ達もう仲間だろ」


本音を言えば寂しかった。この先1人でやっていけるのだろうかと不安だった。そんな中かけられた言葉は自分が何よりも欲しい言葉だった。


「キャ……!!キャプテンはおれだろうな!!!」

「ばかいえ!!おれが船長だ!!!」


​────こうして新たな船と仲間を加えた一行は夢を追い求め"偉大なる航路"を目指す、世はまさに大海賊時代!!



「新しい船と仲間に!!乾盃だーっ!!!」

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