シロップ村の戦い
─────珍獣だらけの島を発ち数日後、4人の男女が2隻の小舟に揺られ目指すは偉大なる航路"グランドライン"。しかし、それに待ったをかける一人の航海士がいた。
「無謀だわ」
「何が?」
「このまま"偉大なる航路"へ入ること!」
この先の旅路を憂慮する航海士・ナミとこの2隻の小舟の船長・ルフィは今後の航海についての話し合いを始める。確かにこのままかの"偉大なる航路"に挑むのは無謀と言える。何故ならば…
「確かにな!この前たわしのおっさんから果物いっぱい貰ったけど、やっぱ肉がないと力が」
「食糧のこと言ってんじゃないわよ!!」
「このまま酒が飲めねェってんのもなんかつれェしな」
「私はパンケーキが恋しいなァ」
「飲食から頭を離せっ!!」
ナミの憂慮する事とは別にやれ肉だの酒だのパンケーキだの自分たちの欲求を満たそうと発言するルフィと剣士・ゾロ、そして歌姫・ウタ。確かに食糧問題も考慮すべき事案ではあるがその前に解決しなければいけない課題がいくつもある。その中で最もどうにかせねばならないのが…船だ。
彼らの向かう"偉大なる航路"にはワンピースを求める強者達が強力な船に乗りひしめき合っている。船員の頭数はもちろん、たった2隻の小舟ではあっという間に"偉大なる航路"に呑まれてしまうのは自明の理だった。そこでナミはある提案を持ちかける。
「で?何すんだ?」
「"準備"するの!先をしっかり考えてね。ここから少し南へ行けば村があるわ。ひとまずそこへ!しっかりした船が手に入ればベストなんだけど」
「肉を食うぞ!!!」
"偉大なる航路"へ入る前の準備をするため、一同は南へ進路を変え突き進む。その先に待ち構えるのは新たな冒険か、はたまた戦いか。そんな彼らをよそに、海岸で一人遥か彼方の水平線を見据える若者がいた。
「嗚呼今日も…あっちの海から朗らかに一日が始まる!!」
──────────────
「ひっさびさの大地!私一番乗りー!!」
「あったなー本当に大陸が!」
「何言ってんの当然でしょ。地図の通り進んだんだから」
「へーっ」
東の海のとある大陸に到着したルフィら一行。我先にと船を岸につける前に陸へ飛び出すウタを尻目にルフィとゾロ、ナミはそれぞれの船を岸に固定する。
「この奥にむらがあんのか?」
「うん。小さな村みたいだけど」
今後の予定を確認する3人の海賊と彼らと手を組んだ泥棒の計4人。そんな彼らを見下ろす同じく4人組の者達がいた。
「おいたまねぎ!あれか?お前の言う海賊ってのは……」
「はいっ!帆に海賊マークを見ました!!」
「ぜんぜんこわそうじゃねぇ」
「おれもそう思う」
彼ら4人組の名前は"ウソップ海賊団"。ナミの言う小さな村、"シロップ村"で1人の青年と3人の子供で結成された小さな海賊団もとい、海賊ごっこに興じる者達である。たまねぎという男の子がナミの乗っている小舟につけられた"道化のバギー"のマークを発見し、本物の海賊がやってきたとウソップ海賊団へ報告したことにより、現在彼らは村を守るため偵察任務中なのである。
「ふーっ久しぶりに地面に下りた」
「お前ずっとねてたもんな」
先程から全く海賊らしい素振りを見せない彼らにウソップ海賊団のリーダー・ウソップは本当に海賊かどうか訝してんでいたが、その逡巡は一瞬の内に打ち砕かれる。
「ところでさっきから気になってたんだが、あいつら何だ」
そう言い、ゾロの指さす先にはウソップ海賊団の4人組がいた。勘の鋭いゾロには既に偵察任務はお見通しだったのだ。
『うわああああ見つかったァ〜〜〜〜!!!』
「おいお前ら!!!逃げるな!!!」
リーダーの願いも虚しく、3人の子供達はその場から逃げ出してしまう。残ってしまったリーダーとそれを見上げる4人の海賊?達。そんな状況下でも村を守るためと青年は1人立ち向かっていく。
「おれはこの村に君臨する大海賊団を率いるウソップ!!!人々はおれを称えさらに称え"わが船長"キャプテン・ウソップと呼ぶ!!!」
続けて八千万の部下がいるからとこの村を攻めるのはやめろと忠告するウソップ。だがそれをナミが間髪入れずにツッコミを入れる。
「うそでしょ」
「ゲッ!!ばれた!!」
「ほらばれたって言った」
「ばれたって言っちまったァ〜〜っ!!おのれ策士め!!!」
「はっはっはっはっはっは お前面白ェなーっ!!」
「ほんとほんと!てゆうか鼻長っ!!」
「おいてめェらおれをコケにするな!!」
ウソップとナミによる即興コントに大笑いするルフィと鼻の長さが変なツボに入いったウタ。
そんな彼らに対しウソップは負けじとハッタリをかましてこの場を収めようと奮起するが、彼らが村に対して害意がないと判断すると、村のめし屋へと案内しそこで話をすることとなった。
──────────────
「何!?仲間を!?仲間とでかい船か!」
「ああそうなんだ」
「はーーっそりゃ大冒険だな!!」
めし屋にてシロップ村を訪れた経緯を話しながら久々にありつけた肉を食いちぎるルフィ、愛しのパンケーキをかっこむウタ、酒とつまみを楽しむゾロ、食後に水を1杯飲み込むナミ、そしてそんな彼らを見渡すウソップ。
仲間と船を探しているという彼らの願いを聞いたウソップは1つ思い当たる節があると言わんばかりに話し始める。
「まァ大帆船ってわけにゃいかねェが船があるとすりゃこの村で持ってんのはあそこしかねェな。」
「あそこって?」
「この村に場違いな大富豪の屋敷が一軒たってる。その主だ」
だがその主がまだいたいけな病弱の少女で寝たきりであることを神妙な面持ちで話すウソップ。それに対してなぜそんな娘が主なのかとナミが問おうとしたその矢先…
「おばさん!!肉追加!!」
「私はパンケーキ!ホイップましまし!!」
「おれも酒っ!!」
「てめェら話聞いてんのか!!?」
まるで興味がないとばかりに自分たちの欲望を満たそうとする三バカをよそにウソップは例の屋敷の主の身の上話について話し始める。1年ほど前に病気で両親を失い、遺された莫大な遺産と豪邸、十数人の執事達を相続したこと。だが、どれほど金があろうと両親を失った彼女にとってこれほど不幸な状況はない。そう嘆くウソップを見てナミは「やめ!」とテーブルを叩く。
「この村で船の事は諦めましょ。また別の町か村をあたればいいわ」
「そうだな急ぐ旅でもねェし!肉食ったし!いっぱい買い込んでいこう!」
「ところでお前ら、仲間を探してると言ってたな……!」
「うん。だれかいるか?」
「おれが船長になってやってもいいぜ!!!」
『ごめんなさい』
「はえェなおい!!」
船がダメならばと仲間として自身を売り込んだウソップであったが、4人揃っての拒否を受け思わず声を荒らげてしまう。
さて、そんな愉快な彼らをよそにとある3人組がめし屋に近づいてくる。にんじん・ピーマン・たまねぎのウソップ海賊団の子供達だ。ルフィ達によってめし屋に自分達のキャプテン・ウソップが連れ込まれたと勘違いし、今か今かと乗り込もうとしているところである。ウソップ海賊団けっせい以来のそうぜつな戦いが今、始まる。
ばんっ!!
『ウソップ海賊団 参上っ!!』
「ん?」
「なにあれ…」
「さー何だろうな…」
突然のしゅうげきに遭いながらもまるで狼狽えることなくウソップ海賊団の3人組を見下ろすルフィ達。相対するウソップ海賊団の面々は目の前の光景に1つ疑問が浮かび上がる。われらが船長キャプテン・ウソップがいないのである。
「お…おい海賊達っ!!」
「われらが船長キャプテン・ウソップをどこへやった!!」
「キャプテンを返せ!!」
動揺する3人組など気にもとめず食後のティータイムを楽しむルフィとウタであっが、ほぼ同時にカップを置くと何気ない食事の感想を口にする。
「はーっうまかった!肉っ!!」
「たくさん食べれてすっごい幸せな気分♡」
「!!え…にく…幸せ……って!?まさか…キャプテン……!!」
3人のとんでもない勘違いが発生したことを見て取れたナミはクスリと笑い、ゾロはいたずらっ子のような様相を3人に向けて話しかける。
「お前らのキャプテンならな…」
「な…何だ!!何をした……!!」
「さっき………喰っちまった」
『ぎいやあああああ鬼ババア〜〜〜〜っ!!!』
「何で私を見てんのよ!!!」
ゾロの衝撃発言とナミの鬼のような形相を向けられたことにより泡を吹いて倒れてしまうウソップ海賊団の3人組。だがすぐに起き上がり誤解は解かれる。それと同時になぜウソップがこの場にいないかの理由が明かされる事となる。現在の時間はウソップにとって何よりも大事なものなのである。なんでも、屋敷へ赴き病弱な主へ向けてウソをつきに行く時間とのことだ。「だめじゃねェか」とルフィはツッコミを入れるが、ウソップ海賊団の面々は口々に立派だと答える。
なぜならば、彼は1年前から両親を失い失意のどん底にいた屋敷の主・カヤを元気づけようとウソつきの"おせっさい"を焼いているのだ。そんな"しきり屋"で"ホラ吹き"なウソップの話を聞いたルフィはナミの制止を振り切り、やっぱり船を貰いに行こうと村一番の屋敷へ向けて出発する。
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「こんにちはーっ 船くださーい。さあ入ろう」
「あいさつした意味あんのか……」
「ああ…止めてもムダなのね」
「そうそう。ルフィは何言っても聞かないからね!」
「だな。つきあうしかねェか」
止める意味などないと悟るナミと、はなから知ってるからとルフィの行動を全肯定するウタ、やれやれと付き添うゾロの3人に連れられウソップ海賊団の3人組も一緒に屋敷へお邪魔(不法侵入)していく。
「────手柄をたてたおれを人は称えこう呼んだ」
「キャープテーン!!」
「そう…キャプテ…げっ!!お前ら何しに来たんだ!!」
「この人が連れて来いって…」
そうルフィを指さして示され、カヤは誰かと問うと即座にウソップが新たなウソップ海賊団の一員だと紹介する。あまりの自然さゆえに否定するのが1歩遅れたルフィであったが、構わずカヤへ話しかける。
「頼み?私に?」
「ああ!おれ達はさでっかい船がほしいん…」
「君達 そこで何をしてる!!」
勝手に入られては困ると怒りを露わにして登場したのは屋敷の執事の1人、クラハドールであった。
「あのね、クラハドールこの人達は…」
「今は結構!理由なら後でキッチリ聞かせて頂きます!!さあ君達帰ってくれたまえ。それとも何か言いたい事があるかね?」
「あのさおれ船が欲しいんだけど」
「ダメだ」
あまりの拒否速度にガックリと意気消沈するルフィをウタとゾロが慰める横で、クラハドールは鼻の長い青年に目をつけた。
「君は…ウソップ君だね…君の噂はよく聞いてるよ。村で評判だからね」
「あ…ああ、ありがとう。あんたもおれをキャプテン・ウソップと呼んでくれてもいいぜ。おれを称えるあまりにな」
それから始まったのは執事と青年による舌戦であった。途中、ウソップが海賊の息子であることが執事の口により明かされた際にはルフィとウタが多少反応したが、そんなものなどお構い無しにと執事は海賊であるウソップの父親を侮辱し続ける。あまりにも酷い言い草であったため、手を出してしまうウソップであったがそれでも自分は海賊である父親を誇りに思うと何度も主張し続ける。
「───おれが海賊の血を引いてるその誇りだけは!!偽るわけにはいかねェんだ!!!おれは海賊の息子だ!!!」
「………そうか!!あいつ……!!思い出した………!!」
「…!!やっぱりそうだよね…!!あの顔つきとか雰囲気とか…!!」
ルフィとウタの2人が何かに気づいたとて、ウソップとクラハドールによる言い争いは止まりはしない。ウソップが再び暴力に訴えかけようとしたその時、カヤが叫ぶ。
「やめてウソップさん!!!もうこれ以上暴力は…!!!」
「…………!!」
「悪い人じゃないんです。クラハドールは…!ただ私のためを思って過剰になっているだけなの………!!」
「……………出ていきたまえ…ここは君のような野蛮な男の来るところではない!!!二度とこの屋敷へは近づくな!!!」
「ああ…わかったよ。言われなくても出てってやる。もう二度とここへはこねェ!!!」
「………キャプテン…………!!」
「ウソップさん…」
「このヤロー羊っ!!キャプテンはそんな男じゃないぞ!!」
「そうだ!!っばーか!!」
「ばーか!!」
『ばーか!!!』
「何でお前らも一緒になってんだ」
にんじん達のばか連呼に呼応するルフィとウタにツッコミを入れつつ2人を回収するゾロ。ナミは執事に凄まれてビビり散らしたにんじん達を回収し屋敷を後にすることにより侵入騒動は一旦の収束を見せる。
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「ねぇルフィとウタどこいったの?」
「さあな。キャプテンを追っかけてったんだろ」
それを聞いたにんじんとピーマンはキャプテンなら海岸だ!と口々に言う。どうやらかのキャプテンは何かあるとそこに行くらしい。
一人いつもの海岸に腰を落とし佇んでいるウソップ。そんな男の前に突然麦わら帽子のあの男が降ってくる。
「よっ ここにいたのか」
「ぶっ!!!なんだてめェか普通に声かけろバカ!!」
「おっす!こんなとこでなにしてんの?」
「うおっ!!?う、後ろから急に声かけんなっての!!」
普通に声をかけろというから後ろからごく普通に声をかけたのにビビられてしまい若干不満げな表情を見せるウタであったが、すぐにルフィが本題に入るぞとばかりにある話題を切り出した。ウソップの父親についてである。
「ヤソップだろ、お前の父ちゃん」
「……!………え…!?お前!!何でそれを知ってんだ!!」
「子供の頃に会った事があるんだ」
「ちなみに私もヤソップの事は知ってるし、なんなら同じ船に乗ってた事もあるよ!」
「何!?本当か!?おれの親父と!?」
『うん』
ウソップとヤソップの顔がそっくりであることや今何処にいるかは分からない事、そしてヤソップが今は"赤髪海賊団"の船に乗っている事をウソップに教えた二人であったが、思わぬビッグネーム出現によりウソップは気を動転させる。
「シャンクスだとォ!!?」
「なんだシャンクス知ってんのか!?」
「当たり前だ!そりゃお前大海賊じゃねェか!!!そんなにすげえ船に乗ってんのかウチの親父は!!!」
「すごいも何も、ヤソップの射撃の腕は世界一よ!!」
「確かに!ヤソップが的を外したとこは見たことなかったな!」
───────
ズドォン!!
「ひゃーすげェーーっ」
「さすがヤソップやるぅ〜!」
「はは!なァにおれはアリの眉間にだってブチ込めるぜ」
「おれにはなっ ウタ、ルフィ!!ちょうどお前らくらいの年頃の息子がいるんだ!!」
「うん聞いたよ何度も!あきた!」
「まだまだだ何度でも聞け!!」
「ぎゃあーーーっ!!」
「アハハハ!ルフィにグラスががっちり〜!!」
「悲しい別れだったが仕方がなかったっ 理由は1つ!!海賊旗がおれを呼んでいたからだっ!!!」
───────
思い起こされたのはヤソップがフーシャ村で過ごしていた頃の記憶。ことある事にルフィとウタに射撃の腕を見せたり息子の話を始めたり、そして極めつけの一言が「海賊旗がおれを呼んでいたからだっ」である事をルフィとウタがお互いあったあったそんな事!と話しているのを横から聞きながらウソップは目を輝かせていた。
「ヤソップは立派な海賊だった!!」
「ね!まさしく海賊そのものだったよ!!」
「………そうだろう!?そうなんだ!!こんな果てがあるかも分からねェ海へ飛び出して命をはって生きてる親父をおれは誇りに思ってる!!」
ルフィとウタから父親の話を聞いたウソップはやはり親父は偉大で立派な自分の誇りであることを再認識すると同時に、それをバカにし踏みにじった執事はやはり嫌いだとも再認識する。
「うん!!あいつもおれは嫌いだ!!」
「私も!!ヤソップの事直接見たわけでもないくせに!!でもあんた、もうお嬢様の所へは行かないの?」
「………さァな…あの執事が頭でも下げてきやがったらいってやってもいいけどよ!」
「あの執事がか?」
「そうあの執事あの執事…あの執事が何でここにいんだァ!?」
ルフィの指さす先、崖の下には例の執事・クラハドールとウソップも見かけたことの無い謎の男がいた。クラハドールはその男を"ジャンゴ"と呼び、村のまん中で寝ていやがってと悪態を着いている。何やらただならぬ雰囲気だが、次に2人の間で交わされた会話の内容は衝撃的なものであった。
「それで…計画の準備はできてるんだろうな」
「ああもちろんだ。いつでもイけるぜ"お嬢様暗殺計画"」
「暗殺なんて聞こえの悪い言い方はよせジャンゴ」
「ああそうだった事故…!事故だったよな"キャプテン・クロ"」
暗殺、事故、"キャプテン・クロ"…不穏な言葉ばかりが飛び交うその会話に崖の上の3人は眉をひそめた。
「おいあいつら何言ってんだ…?」
「……そんな事はおれが聞きてェよ。でも待てよ………!!キャプテン・クロって名は知ってる…!!」
"キャプテン・クロ"…それは計算された略奪を繰り返すことで有名であった海賊の名だ。しかしその当人は3年前に海軍に捕まり処刑されたはず。そんなウソップの疑問はすぐに崖の下の2人の男の会話により晴らされる。
3年前、キャプテン・クロは部下を身代わりに仕立て上げ、世間的にキャプテン・クロは処刑された。そして本人は名をクラハドールと偽りこの村へやってきたという。そしてその最終目標は莫大な財産を持つカヤを不運な事故を装い始末し、その財産を"ごく自然に"相続する事であった。その為に3年もの月日を費やし周囲からの信頼を得て、"執事クラハドールに私の財産を全て譲る"という遺書が遺されていてもおかしくない状況を作り上げたというのだ。
「………えらい事だ……!!!えらい事聞いちまった………!!!」
「おい何なんだなんかやばそうだな」
「やばいなんてもんじゃないよルフィ!あのお嬢様が殺されちゃう!」
「そうだぞお前ずっと聞いてたんじゃねェのか!!やばすぎるぜ本物だ!!あいつら!!」
カヤはずっと狙われていたのだ。3年もの間コツコツと、確実に。死を装い近づいたキャプテン・クロに。大変な奴を殴ってしまった…殺されると、先程の己の行動を後悔するウソップ。だがそれだけではない。
「カヤも殺される!!!村も襲われる…やべェ…!!マジでやべェ…!!!!」
そんなウソップの逡巡をよそにルフィはすくっと立ち上がり、息を大きく吸い上げる。
「おいお前ら!!!お嬢様を殺すな!!!!」
「!!!誰だ…!!!」
ウタとウソップの制止も空しくルフィは叫んでしまう。
「ばかやろう!!見つかっちまったじゃねェか!!」
「ルフィまずいよ!早く隠れないと!!」
「………やあ これは…ウソップ君じゃありませんか…隣の娘も見覚えがある」
「うわあああっ!!おれまで見つかっちまった!!!」
見つかったのなら仕方ないとウタは割り切り姿勢を正すが、ウソップは何も聞いてません一体なんの話しやらと得意のウソでその場を乗り切ろうとするが…
「ぜんぶ聞いた」
「私も」
「おいっ!!!」
隠してももはや無意味とあっさり白状してしまうルフィとウタ。そんな2人を見てジャンゴは紐に括り付けられた輪っかを取り出す。
「仕方ねェな…おい貴様ら。この輪をよく見るんだ」
「なんだ」じーっ
「変な輪っか」じーっ
「や…やばいぜ飛び道具だ!!殺されるっ!!」
「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる。ワーン…ツー…」
「隠れろ!!やられるぞ!!」
「ジャンゴ」
ワン・ツー・ジャンゴの合図と同時に輪っかを見つめ続けていたルフィ・ウタ・ジャンゴの3名が眠りに落ちてしまう。後ろに倒れるジャンゴを「まだそのクセなおってねェのか」とクロが支えるが、前に、つまり崖の下に向かって倒れるルフィとウタを支える者は誰もいない。
ドゴォン!!!
大きな音を立てて落下してしまった2人の男女。男の方は頭から。女の方はそれに覆い被さる形で落ちてしまう。あの高さから落ちて生きてはいまいと誰もが確信した。
「………くそォ!!!殺しやがった!!!あのやろう!!!」
「もう一匹をどうする。殺しとくか」
「必要ない。あいつがどう騒ごうと無駄な事だ」
そう言い、わざとらしく明日の計画について話し始めるキャプテン・クロ。ウソつきで名の通っているウソップがいくら騒いだところで計画に支障はない。
村へ戻り何とかこの事態を皆に伝えようと駆け回るウソップ。3年ぶりのクロネコ海賊団の面々へ向け存分に暴れろと檄を飛ばすキャプテン・クロ。崖下に落下後もスカピーと眠りこけるルフィとウタ。三者三様の様相を呈するこの村の行方は果たして…
──────────────
「えーーっ!!!」
「カヤさんが殺される!?」
「村も襲われるって本当なの!?」
「ああ、そう言ってた」
「私もこの耳で聞いたよ。間違いない」
キャプテン・クロの明日の計画を皆に伝えようと駆け回るウソップを見つけたゾロ達は海岸にいるルフィ達の元へ駆けつけ、事情を聞いていた。
「…それで何でお前らはここで寝てたんだよ」
「それがなーおれ達崖の上にいたと思うんだよなー」
「なんでこんなとこで寝てたんだろうね?」
寝ぼけてる2人はともかく、そんな計画があることを先に知れたのだからさっさと逃げればいいとナミが提案する。それもそうだと急いで逃げる準備をしようと走り出すウソップ海賊団の3人組。それを見かけたルフィとウタははっ!とする。
『やばいっ!!』
「どうした」
「食糧早く買い込まねェと肉屋も逃げちまう!!」
「私のパンケーキも!!」
───────
「みんなちゃんと話を聞いてくれよ!!今度こそ本当なんだ!!!」
「今度こそとっ捕まえてやる!!」
「カヤとにかくおれを信じろ!!この村から逃げるんだ!!!」
「とんでもない悪党は…あなたじゃないっ!!!」
「お嬢様から離れろォーっ!!!」
ズドォン!!
───────
あれから村や屋敷を駆け回るも誰一人として、カヤでさえウソップの話を信じてはくれなかった。途中、銃撃された左腕をかばいながら村から離れるウソップ。その目からは大粒の涙が零れ落ちていた。そんな中、キャプテンと呼ぶ声がウソップの耳に届く。ウソップ海賊団の面々とルフィ達だ。涙を拭い、ウソップは声をかける。
「…よお!!お前らか!…げっ!!お前らっ!!生きてたのか!!」
「生きてた?」
「ええ、さっき起きたところよ」
「ずっと寝てましたこの2人」
あの高さから落ちてなお生きていた2人にホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、ピーマンから海賊達のことを早くみんなに話さなきゃ!と提案される。だがそれに対してウソップは笑いながら返した。
「はっはっはっは!!いつものウソに決まってんだろ!!あの執事の野郎ムカついたんで海賊にしたててやろうと思ったんだ!!」
『ん?』
「えーっ!!ウソだったんですか!?」
「なーんだせっかく大事件だと思ったのに」
「くっそー麦わらの兄ちゃん達もキャプテンのさしがねか!!」
『え?』
ルフィとウタにはウソップの言動がその場では理解できなかった。キャプテン・クロの計画は間違いなくこの耳で聞いている。だがそれを直接聞いていないにんじん達は人を傷つけるようなウソをついたキャプテンをけいべつすると、それぞれの家へと帰っていってしまう。
──────────────
日が沈み、三日月が照らす海岸にルフィ達とウソップは戻っていた。
「おれはウソつきだからよ、ハナっから信じてもらえるわけなかったんだ。おれが甘かった!!」
「甘かったって言っても事実は事実。海賊は本当に来ちゃうんでしょ?」
ナミの言う通り、クロネコ海賊団らは間違いなく村を襲撃しカヤを殺してしまう。だがそんな事など起こらないと高を括っている村民達は明日もまた平和な一日が来ると信じて疑わない。ではどうすればいいのか?そんな問題を解決する策をウソップは宣言する。
「だからおれはこの海岸で海賊どもを迎え撃ち!!!この一件をウソにする!!!!それがウソつきとして!!おれの通すべき筋ってもんだ!!!!」
たとえ腕に銃弾をブチ込まれてもホウキ持って追いかけ回されようとも、自分の育った大事な村を、みんなを守りたいと心の底から訴えるウソップをルフィ達は放ってはおけなくなった。
「とんだお人好しだぜ。子分までつき放して一人出陣とは…!!」
「よしおれ達も加勢する」
「当然私もいくよ!」
「言っとくけど宝は全部私の物よ!」
「え…お前ら……一緒に戦ってくれるのか……!?な…何で…」
「だって敵は大勢いるんだろ?」
「恐ェって顔に書いてあるぜ」
相手は大勢、しかも本物の海賊であのキャプテン・クロの海賊団だ。恐くないわけがない。虚勢を張っても足が震えて止まらない。
「おれは同情なら受ける気はねェ!!てめェら帰れ!!帰れ帰れ!!」
「笑ってなんかないでしょ?立派だと思うから手を貸すの!」
「同情なんかで命懸けるか!」
「!!う………!!………!!…お…お前ら…………!!………!!!」
強力な4人の助っ人を加えた海賊団迎撃チームは作戦を企てる。敵が来る海岸から村へ入るのは1本の坂道のみで他は絶壁。つまりその坂道さえ死守すれば村が襲われる事はない。口で言うのは簡単だが、決して楽なものではない。
「後は戦力次第…お前ら何ができる?」
「斬る」
「のびる」
「歌う」
「盗む」
「隠れる」
『お前は戦えよ!!』
それからは色んな策を論じていったが、一つの作戦に集約された。それは坂道全てを大量の油で敷きつめてまともに坂を登れなくさせ、そのスキに敵をブチのめす作戦だ。
「逆に自分達が滑り落ちなきゃいいけどね。蟻地獄に飛び込む様なものだもん」
「アハハハ!ツルツルだー!」
「お前よくこんなチョコザイな事思いつくなー」
「そりゃそうだ!!!おれはチョコザイさとパチンコの腕にかけては絶対の自信を持ってる!!!」
「!……夜明けだ。来るぞ…」