シュラリズ浜辺

シュラリズ浜辺


 鉄獣戦線のメンバーは海に来ていた。

 慰安旅行のようなものである。海に向かって叫ぶ者や一目散に泳ぎ始める者、モーターボートを自作して水上スキーに洒落こむ者、それぞれ楽しんでいた。

 フェリジットとシュライグが浜辺に取り残される。フェリジットは氷菓子を片手に本をめくりながら、パラソルの下で休んでいた。シュライグが黙々とバケツとスコップを使い几帳面に砂の城を作っている。細部まで意匠を凝らすのは彼の趣味だろう。


 熱い夏に浮かされて、浜辺では恋が生まれる。ただこの二人に限ってはそんなことはなかった。

「浜辺でも暑い……」

読んでいた小説に栞をはさむ。フェリジットは暑さに負けていた。泳げない彼女は他のメンバーの手前言い出すことは出来なかった。実はフェリジットは山に行きたかったのだ。

「まあ、他のみんなが楽しそうだからいいか」

本心からそう思う。フェリジットは不満には思わない。他のメンバーに楽しい思い出ができればそれでいい。また山に行く機会もあるだろう。

「で、シュライグは何を作っているの?」

「これか。今度の戦いの場所になる教導の城だ。航空部隊を配備してあるのが特徴で、ここの攻略が鍵になる」

「へぇ、それってどんなやつなの?」

 フェリジットの何気ない一言がシュライグのスイッチを押した。

 男には押してはいけないスイッチが存在する。どんなに寡黙な男でもその話題を振ってしまえば、延々と喋り始めるあれである。例外なくシュライグにも存在していた。

「昔の空は翼を持つ者だけが独占していたんだ。しかし辺境部族がジェットエンジンの設計図を入手した時に……いや、ここは旋回性能の向上に伴う空中戦の激化から話した方がいいのか。翼を持つ部族が空の主役の座を失った戦いが……設計図以前の代用燃料のエピソードは捨てがたい。研究者たちが思いもよらない場所から……」

「えぇ……」

 シュライグは空に憧れていた。鉄の翼や彼が空を眺めている時の顔を知っているから理解できる

 ただ飛行機の話題をシュライグに振るのはやめよう。フェリジットはそう思った


 シュライグは砂糖入りの炭酸水を二つ持ってきていた。フェリジットは本から目線を上げる。

「飲むか?」

「飲む」

 すでに氷菓子を食べ終えていたフェリジットは受け取る。

それからの特に会話もない。穏やかに時間だけが過ぎていく。二人は側にいて別々のことをしているのに居心地が良かった。


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