夜這い猫と百舌鳥

夜這い猫と百舌鳥

ベリーメロン


 バクバクと鳴り響く心臓、忙しなく揺れる山猫のような長耳と尻尾。

 かれこれ数分間はこうして目の前の扉を見つめて、フェリジットは固まっていた。

 シャンプーの淡く落ち着いた香りに反し、桃色の髪の毛先を弄りまわす様子はその緊張を顕著に表している。

 敵からは畏怖と蔑称の意味も含めて仇花なんて呼ばれる彼女だが、もじもじと考え込む様子は乙女のようだった。


(よ、よし!落ち着いた!そろそろ行こう……いや、でもちょっと……)

「――扉の前で気配がしていたが……どうしたんだ、フェリジット?」


 悪戯に時間を消費し迷い続けるフェリジット。そんな彼女の決心がつく前に、部屋の扉は開け放たれる。

 部屋の主である片翼の鳥人シュライグは、不思議そうな表情でフェリジットを眺めていた。


「え、あっ、いや……」

「何故そんな格好をしてるのかは知らないが風邪を引くぞ?」


 フェリジットの服装を見てそんなことを言い出すシュライグ。

 薄いローブこそ羽織っていたものの、下着が透けて丸見えのネグリジェをフェリジットは着ていた。

 普段から多少露出の激しい服装はするフェリジットだが、このような『露骨』なモノはまず着ない。

 それでもシュライグは顔色すら変えずに上着を貸そうと言って部屋に戻ろうとしてしまう。


「ま、待って!少し話がしたくて……部屋に入れてくれない?」


 このままではきっと上着を被せられてそのまま帰される。そう確信したフェリジットは慌ててシュライグの袖を掴んだ。


「…………」


 少しだけ困惑したらしいシュライグだが、しばらくすると頷いてくれる。

 こんな夜に、女を部屋に上げるということを彼はどれくらい気にしてくれているのだろうか。

 もしかすると付き合いが長すぎてそう見てくれてない可能性もあるのでは?とフェリジットは感じてしまう。


 部屋に上げてもらい適当な場所に座り込む。男所帯な鉄獣戦線において、女性陣を除けば部屋をまともに片付けているのはシュライグやルガルくらいだろう。

 彼のペットであるメカモズが数羽窓辺に止まっているが、今は休眠状態のようだ。


「それで、話というのは?」


 切り出されてフェリジットは口ごもる。

 色々悩みつつもゆっくりと口を開いた。


「さ、最近さ……アンタ女の子達からよく声かけられてるじゃない?」


 視線を泳がせつつ、最近シュライグの周りに集まる女達のことを思い返す。

 生まれた時から片翼だったゆえに羽無しと故郷では蔑まれてきたシュライグだが、鉄獣戦線として活躍するにつれて彼は他所の女達に話し掛けられることが多くなっていた。

 十二獣の女頭領やLL(リリカル・ルスキニア)やハーピィの女鳥人たち。見目麗しい彼女達は甘く囀ずりながらシュライグを誘っていた。


「それがどうした?」


 キョトンとするシュライグだが、フェリジットは悩ましくなる。

 シュライグが取られてしまうかもしれない。自分の物でもないのに、そう考えてしまったなんてフェリジットは中々言い出せなかったのだ。


「あ、いやー……えっとさ、気に入った子といたのかなーって」

「気に入った、とは?」

「お、思い切り誘われてたじゃん!」


 顔を赤くしながらあまりよく分かってなさそうなシュライグに言葉をぶつける。

 やっと言いたいことの意味がわかったらしいシュライグは顎に手を当てて少し考えてから口を開いた。


「……そういうのは受け入れていないな」


 興味が無さげな言葉だった。あれだけ見目麗しい女達に囲まれてもそういう感情は懐かなかったというのだろうか。

 フェリジットがしている格好にも特に感じることはないのだろうか。

 そんな彼に胸の内のモヤモヤが頂点に達したフェリジットは、身を乗り出すようにシュライグに迫っていく。


「じゃあさ……アタシには何か思ったりする?」


 言いながらシュライグの鍛え上げられたむないたに手をのばす。

 鳥人は華奢なものが多いが、シュライグはずいぶんと鍛えているらしい。硬い胸板に手を這わせつつ、割れた腹筋も触っていく。


「……フェリジット」


 きっと強く困惑しているだろうと、フェリジットは理解していた。

 けれどここでブレーキをかけてしまえばもう何も進まない気がして、そのまま彼に抱きついていく。

 硬い胸板にフェリジットの豊満な乳房が押し当てられ、激しく鳴り響く心臓の音を直接伝える。


「本気で嫌だったらぶっ飛ばしてよ」


 我ながらずるいことを言っているとフェリジットは思う。

 本当に言わなければいけないことを言わずに、仲間に優しいシュライグがそんなことできないこともわかっているのに。口下手だが優しい彼が、強く否定して傷つけるような言葉を吐けないことも。

 フェリジットはシュライグの首筋に軽く口付けをしつつ、彼のズボンを撫でていく。硬くズボンを押し上げているソレに、何故か嬉しくなってしまう自分が嫌だった。


(アタシじゃなくても硬くなるのかな……)


 そんな考えを打ち払うように、チャックを降ろして窮屈そうにしていたソレを引きずり出す。

 ガチガチに硬くなった肉の槍はフェリジットが思っていた以上に大きかった。


「すっごい、熱い……」


 少し怯えがちになりながら触れていく。

 フェリジットの指先が触れただけで軽く跳ねたソレに、耳をピコピコ揺らしながらも触り始めた。

 柔らかいように見えて、とても硬い。血管を浮き上がらせながら反り立つそれはまるで別の生き物のようだ。


「くっ……」

「ごめん、痛かった?」


 軽く謝りつつフェリジットは少しだけ身を引く。止めるわけではない。座り込んだシュライグの前に屈み込むと、肉棒をより観察するように顔を近付けた。


(すごい、匂い……)


 鼻を近づけると雄の匂いがする。

 汗と尿の入り混じった独特の香りだが、不思議と不快ではない。むしろ、どこか落ちついてしまう。

 昔はこの匂いが嫌いで嫌いで仕方なかったのにな……とフェリジットは遠い目でぼやいた。


「んっ……れろ……」


 舌先でゆっくりと舐め始めていく。

 しょっぱくて苦味のある先走り液の味わいは相変わらず慣れないものだが、それでもフェリジットは丁寧に舐めて愛おしそうに触れていった。


「ちゅぱ、れりゅ……ふぅ、じゅる……」


 唾液をたっぷり絡ませつつ、裏筋をなぞるように下から上になぞり上げる。

 フェリジットが山猫の獣人であるゆえか、少しザラザラとする舌は刺激としては非常に強いのだろう。耳を澄ませばくぐもったシュライグの声が聞こえた。

 痛くないようにフェリジットも気を付けていたからか、シュライグは強い快感に目を細めた。

 そのまま口いっぱいに肉棒を頬張ると、本格的に奉仕を始めていく。


「んむ、んぅっ……ちゅ、じゅぷ……はぁ、あむ……」


 喉奥まで深く飲み込み、ゆっくり顔を動かしていく。

 頭を上下に動かす度にシュライグの息遣いが激しくなり、感じてくれていることにフェリジットは喜びを覚えてしまう。

 より激しく口淫を続ければ、シュライグが果てるまでは早かった。


「う、く……フェリジット……」


 出てしまいそうなことを告げたいのだろう。だがフェリジットはそのまま続けていく。

 限界が近いのか、シュライグの腰が微かに震える。それを合図にフェリジットは一気に動きを強めた。


「ぐっ……」

「んくっ……んんぅぅっ……」


 肉棒が脈打ち、大量の精液をフェリジットの喉に注いでいく。

 目を細めつつ、ゆっくり嚥下するフェリジット。シュライグはそれを見ていることしかできなかった。


「んっ……はぁ、はぁ……中々上手いでしょ?」


 どうして?と言いたげなシュライグに、フェリジットは目を細めつつ答えた。


「昔、生きるためにお金が必要だったから……アタシみたいな親もコネもないガキができることなんてそれくらいだったから」


 キットには内緒にしといてね?と付け加える。

 親のいないフェリジットは泥棒猫と蔑まれるくらいには、そういう人生を送っていた。妹のキットを養い、その日を生き抜くためだけにもそういうことにも手を出す必要があった。


「徒花って呼ばれるのも、まあ間違ってないわね」


 自嘲気味に笑いつつ、フェリジットはネグリジェを捲り上げて肌を晒していく。

 均整の取れた美しい肉体は、戦いでできた多少の傷はあれど美しさを保っている。

 そんな裸体にシュライグのソレがまた硬さを取り戻すのを見て、フェリジットは微笑んだ。

 座り込んだままの彼と向かい合うように腰を降ろしていく。屹立した肉棒へと濡れ始めた秘所が触れてからフェリジットは囁いた。


「安心して、ココはハジメテだから……つぅっっ」


 その言葉にシュライグは驚いたようだったが、フェリジットは止められる前に腰を一気に降ろす。

 身体を売ってもソコだけは使わせず、守ってきた処女を今喪失した。

 痛みに歯を食いしばりながら、フェリジットは彼に抱きつく。


「動く、からっ……」

「待て、フェリジット……くっ……」

「待たな、いっ……アタシがこうしたいのよ……」


 うっすら涙を浮かべながら、フェリジットはゆっくりと動き始める。

 破瓜の血の感触にシュライグは珍しく慌てたように制止したが、フェリジットは苦悶の声を漏らしながらも止まらない。


「はぁっ、あっ……くぅ……ふっ……」

「フェリジット、無理をするんじゃない……」

「だ、大丈夫……だからっ……」


 フェリジットはシュライグの背中に手を回しつつ腰を振っていく。

 まだ痛みはあるが、それでも少しずつ慣れてくる。戦士として戦場を駆けていたゆえに、痛みに慣れるまでは早かった。

 血と愛液で滑りが良くなってきたのを見計らい、徐々にペースを上げていく。


「んっ、くっ……ふっ……はっ、はっ……」

「ぐっ……」

「はっ、はっ……んっ、んぅっ……♡」


 荒い吐息と共にシュライグの上で踊るフェリジット。

 その表情は快楽に蕩け始め、いつもはピンと立った耳も垂れてきている。


「フェリジット……」

「いいからっ……何も言わなくて、良いから……」


 何か言いたげなシュライグだったが、それでもフェリジットの言葉に従って黙った。

 彼の肩に手を置いて支えにしつつ、フェリジットは上下運動を繰り返す。

 最初の頃はぎこちなかったが、次第に動きも水音も激しくなっていく。


「はぁ、んっ……ふっ……くぅ、んっ……♡」


 腹のナカでシュライグのモノが膨らんでくるのをフェリジットは感じた。

 シュライグも気付いたのだろう。制止の声をかけるがフェリジット腰を止めない。そのまま引き絞るように膣を引き締めて、射精を促していく。


「ぐっ……」

「んんぅっっ……はぁ、はぁっ……」


 くぐもった声と共に熱い奔流がフェリジットのナカを満たしていく。

 こんな形で受け入れることになったのを少しだけ後悔したが、幸福感の方が勝っていた。

 そして、緊張が緩んだからか自然と口も緩んでしまう。


「好き…………」


 ポツリと告げてシュライグの目を見据える。驚いて固まる彼を見て、フェリジットは自分が言ったことを今頃理解したがもう止まらなかった。


「アンタが、他の子に取られるなんてヤダ……」


 言いたかったことがドンドン溢れていく。

 それを静かに聞いてくれているらしいシュライグに、フェリジットは積もり積もったものをぶつけてしまう。

 自然と視界が歪んで瞳は潤んでいた。


「……それは、本気で言っているんだな?」

「当たり前でしょ……こんなことしないわよ」


 尋ねてきたシュライグに当たるように言葉にする。

 色々吐き出していっぱいいっぱいになっているフェリジットは、シュライグの変化に気づいていなかった。


「そうか」


 そんな言葉と共に今度は強く抱き締められる。ぎょっとして固まるフェリジットへと、シュライグは囁いた。


「ならば、もう我慢しなくていいんだな?」


 意味がわからずに顔を見上げたところでフェリジットの唇は塞がれた。

 驚く間もなく舌が入り込み、フェリジットの舌と絡み合う。


「んむぅっ!?」


 驚きの声を漏らすが、それもすぐにシュライグのキスによって掻き消されてしまう。

 激しい接吻に翻弄され、頭の中が真っ白にされていく。やがてゆっくりと時間をかけて解放されれば、さっきまでのしっとりとした雰囲気は崩れていた。


「はぁ、はぁ……え、えぇ……?」


 狼狽えるフェリジットをシュライグはさらに強く抱き締める。

 あの普段は物静かであまり喋らず、感情を表に出してこない男が見せる強い執着。

 それに驚きつつもやっと言葉と行動の意味を理解した彼女は思わず尋ねていた。


「もしかして、そういうこと……?」

「ああ」

「シュライグも、アタシを?」

「ああ」


 端的に答えられ、フェリジットは目を丸くする。あれだけ悩んでいたのがバカらしくなり、思わずクスリと笑ってしまう。

 そして随分と遠回りなことをしていたことに一気に恥ずかしくなったところで、シュライグは囁いてきた。


「もうこれで、俺も我慢する必要はないようだ」

「へ?」


 今度は押し倒されてフェリジットは借りてきた猫のように固まる。

 再び挿入されればすでに先の行為の痛みはない。


「あっ♡」


 そこからは完全にシュライグのペースだった。何度も注がれ、愛されて、シュライグのモノにされていく。

 発情期の猫のように喘ぎ続けたフェリジットだが、その表情はとても幸せそうだったという。

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