シュライグに絡むリズ姉
猫の獣人と狼の獣人のカップルが誕生した。
猫の方は私と仲がよく、恋愛に関する相談を持ちかけられたこともある。
いいと思う、とか、頑張ってね、とか、当たり障りのないことしか答えられなかった。
…正直に白状したが、私にはそういった経験がないのだ――そしてすごく意外そうな顔された。
「シュライグも知ってたんだ?」
「噂になっていたからな。俺も影ながら応援していた」
「へえ〜…意外」
異種獣人間の恋愛は、正直言ってあまり一般的ではない。
なんならタブー視する人もいる。
生理現象や生活習慣、文化も違うし、子供を授かりにくいという話もある。
幸せになるのは難しい組合せ。
世間一般的には、そういうものだと認識されていた。
通常、男女の関係にはなりえない……だからこそ、この10年ちょっと、ルガルとシュライグとはきょうだいのような、本当の家族同然のような関係性を持てたのだと思う。
異種に恋愛感情なんて普通持たない。
家族に恋愛感情なんて普通持たない。
―――おかしいのは私だけだ。
「シュライグにはそういうのないの?お姉ちゃんそろそろ心配になってきたな〜」
「残念ながらないな」
ほっとしてしまった自分にチョップでも食らわせたくなる。
シュライグにも、いずれ素敵な鳥獣族の恋人ができるのだろう。
私ははたして応援できるだろうか。
小姑になる自分が容易に想像できる。
「そういうフェリジットにはないのか?」
「いやー困ったことにね。気になる人はいるんだけどねえ」
「…………そうか、まあ、いるよな」
少し沈黙したシュライグは、ちびりと酒を飲んで続けた。
「ちなみに、誰か聞いていいか?」
「えっ…、いやグイグイくるわね?さっきの噂話といいシュライグって前からそうだったっけ??」
「いやまあ……興味はあるぞ。それに別族同士で幸せになれるなんてめでたいじゃないか。戦線の理念が叶った例というか…」
いやーしゃべるしゃべる。
シュライグがこんなに話すなんて。しかも恋バナで!
いっそのこと白状してすっきりしちゃおうかな?
シュライグならきっと引かずに聞いてくれる…?
………あーでも、流石に本人にこんなこと言ったら引かれちゃうかな…?
それに、いまのなんだかんだ言って心地いい関係を崩したくない…
「んで、そういうシュライグ君には気になる人はいるのかな?ん??」
「質問に質問で返すのはよくない…、あと近い、フェリジット」
「聞いていいのは聞かれる覚悟がある奴だけよ〜」
「飲み過ぎだ、ちょっと…」
「ねえ〜教えてよお〜」
…眠くなってきちゃった。
シュライグにもたれかかる。
あんなに細くてちんちくりんだったのに…ずいぶん逞しくなった。
どんどん私の知らないシュライグになっていく……。
さみしいけど、しょうがないね。
恋人になれる人が羨ましいけど。
家族だから、こんなことができるのだ。
これも今のうち…。
もたれかかって寝息を立て始めたフェリジットを、倒れないようにそっと引き剥がす。
完全に落ちている。
自分は本当に警戒されていないらしい。
「まったく…俺だって男なんだぞ」
もっとも、彼女には男として認識されていないようだが。
少し傷つく。
「俺が気になっているのは」
思い切って口に出してみた。
寝台に寝かせても、彼女は寝息をたてている。
「フェリジットなんだがな…」
無防備なその体に、ため息をついて毛布をかけてやった。