シュライグがモヤっとするはなし
マスター君描写ありまけた~~~~~~~~~
どんよりしたマスターの声が部屋中に響く。
シュライグのマスターは以前のランクマッチではシュライグ達鉄獣戦線を使用していたが、先週から突然オルフェゴールを組み出し、現在はそれでランクマッチに挑戦していた。
そのため鉄獣戦線の面々はその間暇な時間を過ごしており、シュライグはフェリジットやキットの外出中の留守を守るために待機していた。
マスターの様子を見るにどうやらこのごろは負けが込んできているらしい。
そして先ほどから何度も聞こえてくるその声は回数を重ねるごとに暗く低く陰鬱になっている。
さらに今回で連続して3回目
そこから導かれる答えにシュライグは嘆息した。
「降格したな……」
ランクマッチは非情である。
彼は相当沼にハマっていたらしい。
オルフェゴールたちは即座に次のデュエルに移行しようとする彼を止め、デュエル画面から引きはがし反省会をすると言いくるめてリビングへと引きずってきた。
シュライグはとりあえず暖かい紅茶を入れる。
銘柄はよくわからないものの香り付きのものであること、マスターが好んで購入していることはシュライグも知っていた。
不服そうに茶をすするマスターに今日のデュエルの調子を聞くとあまり覚えていなかったらしく隣のガラテアに確認をとっている。
「13戦5勝といったところだ」
発声機能のない彼女に代わって彼女の製作者であるニンギルスが返答をよこした。
さんざんな結果にマスターは突っ伏している。
どうやら相剣に連続でぶつかったらしく、相剣への、特に承影への愚痴をつぶやいていた。
「こちらの効果のトリガーが除外である以上承影の効果は致命的だ。こればかりはどうしようもない」
ある程度は君の判断で彼の効果を回避することだとニンギルスはにべもなく言った。
対策を考えるに越したことはないということで、手札によってはどうしようもない状況もあるものの、仮想展開と妨害への対応を話し合い、反省会はお開きとなった。
クソが……とつぶやくマスターを横目にニンギルス以下オルフェゴールはデッキへと戻っていった。
マスターは気が抜けたようにテーブルに突っ伏している。
どうやらやる気がそがれてしまったようでデュエルに戻ろうとする様子はない。
そのままぶつぶつと俺はMDから始めた勢だ紙勢に勝てるわけないじゃんだのといいわけをつぶやいている。
そんなマスターを見ながらシュライグは元気づけたいと思い少し彼に近づいた。
彼とは2か月前からの付き合いである。
そこまで長い付き合いというわけでもないが、ある程度の性格等はわかってきていた。
彼は非常に面食いである。
どういうところに惹かれるかまではよくわからないが今まで組んできたデッキはほぼすべて見た目で選んでいる……と聞いている。
そのせいで資産がすぐになくなってしまうし、デッキストレージはパーツのそろわない仮組のデッキで埋まってしまうとけらけらと笑っていた。
シュライグは彼を気の多いやつだと思う。
最近オルフェゴールを組んだ時もデストロイフェニックスガイ導入のためシュライグが貯めておけと口を酸っぱくして言っていたCPをつぎ込んだほどである。
流石にあきれたし他の精霊たちにも怒られていたが、そのころのシュライグはまさか自分がランクマッチで使用されない状況になるとは思ってすらいなかった。
それを思い出したシュライグはふと胸にちくりとした痛みを感じた。
言語化できない感情がごちゃごちゃ湧きあがり、言いようのない不安に襲われる。
シュライグは彼と初めて会ったときを思い出していた。
彼が鉄獣戦線を組みシュライグに会った際、鉄獣戦線の見た目が好みで組んだとはっきり言っていた。
ただ理由はそれだけではなく、強いデッキを組んでランクマでプラチナ1に行ってみたいというのもあると苦笑していた。
実際組んだシーズンのランクマッチではプラチナ1に到達した。
はじめての登頂に喜んでいた彼の顔ははっきり覚えている。
ではどうしてこのごろのランクマッチで使用されない?
確かにデスフェニがどこからでも飛んでくる環境は鉄獣戦線にとっては向かい風になったかもしれない。
でも鉄獣はいまだに環境トップ層だ……少なくとも今は。
彼は今自分たちをどう見ているのだろうか。シュライグは考える。
当初は強さと見た目両方だと言っていた。では今は?
シュライグは考える。
(他のデッキと比べて俺たちが求められていたのは強さ、じゃあ、強くなければ彼は使わないのか?使ってもらえない……必要と、され、な…い…)
それは嫌だ
恐怖にも似た感情に突き動かされる。
シュライグは突っ伏したままのマスターに手を伸ばした。
そうなるくらいなら……俺は
(いや、何を考えているんだ俺は)
とっさに手を引っ込め目を逸らし、よくわからない方向にすっ飛んでいく思考を抑える。
恐る恐る確認するとマスターはまだ突っ伏したままだった。
さっき自分はどんな顔をしていただろうか。見られなかっただろうか。
こういう時にはどうすればいいのだろう、シュライグには経験がない。
「こうなったらルムマだルムマ!行くぞシュライグ!」
その声は再度思考の海に沈みゆくシュライグを引っ張り上げた。
声の方向ではガバリと起き上がりこっちを向いたマスターがいた。
「オルフェゴールは……」
「わからん!スランプだ!そういうことにする!気分転換だ気分転換!」
ヤケクソ気味に彼は叫ぶ。
「前は純使ってたけど十二使うか!ドランシア呼んでくる!ああそういえばデスフェニ入れられるんだっけ組みなおさなあかんな!出張セットのスペースは……」
急に元気になった。
シュライグは面食らってマスターに向き直る。
そこにはいつものようにデッキ編成画面で一喜一憂する彼の姿があった・
先ほど頭を覆っていた妙な思考は完全に吹っ飛んだ。
ただ胸の奥の靄はいまだそこにある。
「なあマスター」
「へ?」
気の抜けた返事だ
「なんでもな……いや、ちょっといいか?」
困惑する彼の体を衝動に任せ引っ張り、そのまま抱き寄せる。
聞こえてくる抗議の声をシュライグはぼんやりと聞き流していた。
自分でもどうしてこんなことをするのかわからない。
わからないが、そうしたいと思った。ということにしておく。
そうしている間はどうやら靄が消えたように感じる。
充足感が体中に満ちるのを感じ、シュライグは少し震えた。
連絡を受けたらしいドランシアの足音が聞こえるまで、シュライグは彼を腕の中に閉じ込めていた。
このマスター君はただ気分でデッキを選んでいるのでオルフェ握ってるのも鉄獣戦線握ってるのもなんとなくです
CPが足りなさ過ぎて組んだ奴まで砕こうとするアホって感じ
実際俺が最近鉄獣からオルフェに移行したので書きました