シュミレーターによる戦闘訓練

シュミレーターによる戦闘訓練


「ははっ!!やっぱり戦闘はこうじゃなきゃなぁ!」

「晴信!前に出すぎないようにして下さいよ!」

「久々の戦闘なんですし、多めに見てあげましょうよ。」

あぁ。あぁ。あぁ!!

たのしい。うれしい。爽快だ!!

シュミレーターで再現されたエネミーを手に持った武器で容赦なく屠る。

手も足も自らの思うままに扱うことができ、呼気は戦闘時特有の少しの息苦しさはあるものの、爽やかな空気を取り込むことが出来ている。

同行をしてきた景虎と沖田の声がそれぞれの場所から聞こえてくる。

急に自らを襲った生前の病気の症状のせいでここ最近は動くことが苦痛だった日が続いていたが、今日は何だか何でも出来そうな心持ちになる。

キョロキョロと次のエネミーを探すために周りを見渡すが想定していた数が終わってしまったのか一緒にレイシフトした仲間たちの姿しか無い。しぶしぶと構えていた武器を降ろし後ろで指示をしていたマスターのもとへと足を進める。

「シュミレーションはこれで終わりか……?」

「んぐぅ。」

「今日は本当に調子が良いみたいだな。だが、張り切り過ぎるのは危険だ。症状の改善はされていないのだから、早々に戻るべきだな。」

まだまだ暴れたりないため、コテリと首を傾げながらも眉をハの字にしてマスターへと問いかける。一目でがっかりしているのが分かるように大袈裟に肩を落としながらマスターの顔を覗き込めば、何故か胸を抑えてうめき声をあげていた。

その動作の意味が分からなかったためコテリと反対側に首を傾げると同行していたアスクレピオスが淡々と言葉を発した。

「君が暴れたりない気持ちは僕らには凄く分かるけど、焦り過ぎてもいけないだろう。」

「ちぇっ……分かったよ。マスター、また調子のいい時は必ず戦闘に誘ってくれよ。」

「今回みたいに、アスクレピオスか婦長に了承貰えたらね。……それじゃあ、カルデアに戻ろうか。」

高杉がニコニコ微笑みながら言う言葉に不満を漏らしながらも了承する。藤丸の顔を覗き込んだまま真剣な表情で己の気持ちを伝えると彼は肩を竦めながらも、条件付きであるものの了承をしてくれた。バレないように小さくガッツポーズを取りながらも彼がカルデアとやり取りしやすいように距離を取る。

「シュミレーションが開いていたら、今度は私と川中島しましょうね!」

「………うるせぇよ。」

一度も血を吐かなかったからか安心したように景虎が話しかけてくる。吐血するようになってから目がグルグルしている景虎ばかりを見ていたため、それ以前のいつも通りの態度を取る彼女に帰れとは言えずに悪態をつく。

彼女の顔を睨みつけるために顔の向きを変えるとシュミレーションで再現されただけの魔術師のエネミーが消えること無く地面に倒れ伏した状態で存在していた。不審に思い、一歩近づこうと足を進めるとまだ息があったのかガバリと上半身を起き上がらせ魔術を此方へと打ち込んでくる。思わず景虎の体を押し、攻撃の範囲外へと突き飛ばす。急なことだったため、その光を自分は躱すことは出来ずに眩い光によって何もかもが見えなくなってしまった。



光が弱まって来たため恐る恐る目を開けると先程までの見晴らしの良い草原ではなく、鬱蒼とした木々が生い茂っている景色へと周りの風景が変わってしまっている。

もしかしたら、先程の光は転移の術だったのかもしれない。キョロキョロと周りを見渡すとがさりと何が草を踏みしめる音が複数聞こえてくる。

「こりゃあ、けったいなお出迎えで。」

己を取り囲むようにして林から此方に敵意を向けてくる大量のエネミーと相対する。

「暴れ足りなかったんだ、全員消してばしてやらぁ!!」

吠えるようにして言葉を吐きながらも襲いかかってくるエネミーに武器を向けた。

「次!」

飛び掛かってきた狼を一刀両断する。

「まだまだぁ!」

剣を向けてくる敵をヒラリと躱し振り向きざまに斬りつける。

「この程度か!!」

突進してきた猪に当たらないようにほんの少しだけ体をずらしながらも武器を叩き付ける。

「一斉にかかってー………ぐっ!?」

隙を伺っているのか此方を睨みつけながら距離を取り続けたままのエネミーを挑発するように言葉をかけるが、急に頭が激痛に襲われる。

「くっっそ……。……ひ……ぅ……げほ!ごほ!」

ガンガン痛む頭を抑えながらも飛び掛かってきたエネミーを何とか斬り伏せる。だが、急に空気を取り込むことが出来なくなり喉が惹きつり咳込んでしまう。

「はっ……はっ……げほっ、ごほっ!!」

別方向から襲いかかってきたエネミーの攻撃を何とか避けるものの、避けきれなかったのか何処かがザクリと切れる音がした。だが真新しい傷の痛みよりも己の内側から生み出される様々な痛みに意識を取られてしまう。

此方の攻撃の勢いが落ちたのが分かったのかジリジリとエネミー達が距離を詰めるようにして近づいてくる。

「………はっ!……こんな所で倒れる訳ないだろう!我こそは甲斐の国の主、武田信玄!!貴様らのような有象無象に倒れるほど!安い命だと思うなぁ!!」

気を飛ばさないようにするためにも己を鼓舞するように言葉を吐き出しながらも襲いかかってくるエネミーに武器を振りかぶった。

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ーー・ー・ー・ー 


「マスター!方向は此方で大丈夫ですか!?」

「ダ・ヴィンチちゃん!晴信さんが居る位置まで後、どれ位!?」

『あと10キロメートル程だ!転移魔法を使うエネミーなんて想定していなかったんだ。・・・・済まない。バグに気が付かずにレイシフトさせて……』

「反省会は後です!引き続きマスターと高杉さんはしっかりと捕まってて下さいね!」

「本当に便利だな!このジェット!僕でも作れないかな!?」

「マスター。人影が見えるぞ。」

風の勢いに声が消えないように叫びながら方生月毛に乗りながらも確認する。藤丸がカルデアからの通信で受け答えしていたダ・ヴィンチに確認すると、彼女は申し訳無さそうにしながらも大体の距離を教えてくれる。

それぞれの腕に藤丸と高杉を抱えてジェットで並走する沖田が声を掛け、高杉が暗い気分を吹き飛ばすようにしたかったのかケラケラ笑いながら話しかけてくる。景虎の前に乗せられじっと前を見つめていたアスクレピオスが聞き取れるように言葉を呟く。

「晴信さん!」

「………………。」

「マスター、様子がおかしいです。……アスクレピオス、一度降りてもらってもいいですか?ちょっと先に行って声を掛けてみます。」

立っていられるのなら、怪我は多くはないのだろうと安心したのか藤丸が声をかけるが晴信は背を向けたまま微動だにしない。距離を空けて沖田も景虎も止まり、アスクレピオスに方生月毛の背から下りてもらう。景虎だけが反応の無い晴信へとゆっくりと近づいていく。

「晴信、見つけましたよ!さあ、カルデアに帰りましょう!」

声をかけながら景虎が近づくと振り向きながらぶおんっと武器を振るってくる。

「どうしたんですか!?はるのー………」

槍で受け流し、振り返った晴信の顔を見ながら声をかけようとするが言葉を続ける事が出来ない。

此方へと振り返った彼の瞳はぼんやりとした空虚な色をたたえどこも見ておらず、口元はベットリと血で汚れておりぼたぼたと次から次へと血が滑り落ち続けている。

晴信はゆらりと体を揺らしながらも歩を進め、大振りで武器を此方へと叩き込もうとしてくる。

「晴信!目を覚まして下さい!!」

「………ひゅー………ぜー………ひゅー………。」

ボロボロな状態の彼に武器を振るうのが躊躇われ攻撃を避けながらも声を掛け続けるが嫌な音をたてながらも小さく呼吸を繰り返すだけで此方に気がついた様子はない。晴信は更に近づこうとしたのか足を前に進めようとするが一歩前に足を出した瞬間ガクンと膝が折れその場へ跪いてしまう。

「晴信!しっかりして下さい、晴信!!」

「……………あ…………?」

がっちりと武器を握ったままの掌を何とか開き彼の武器を危なくないように遠くへ放り投げてペチペチと頬を叩き続ける。ぼんやりとしたままだった彼の瞳の焦点がゆらゆらと定まり始めた。

「晴信!!」

「………か……げ………?」

ようやっと反応が返りそうな状況になったためほっとして彼の名前を呼びかけるが晴信はこちらの名前を呼び終わる前にごふりと力なく血を吐き出し、グラリとその体が地面へと倒れかかる。完全に地面にぶつかる前に何とか体を抱え込み、体を横たえさせる。

「晴信!晴信!晴信!!」

「………………。」

熱があるのか触れる場所は熱いのに顔色はまるで紙のように血の気が無い。ゆさゆさと体を揺するが晴信はピクリとも動かずに力なく倒れ伏している。胸が僅かに上下するたびに何かが詰まっているのかゼコゼコと音を伴いながらも今にも消え失せそうな呼吸が彼から漏れている。

「それでは駄目だ。血が喉に詰まって呼吸がちゃんと出来ていない。横向きにして肩甲骨の間を力強く叩け。」

「私が前から支えますので、景虎さんは背中を叩き続けて下さい!」

「わ、わかりました!」

いつの間にか近づいて来ていたのかアスクレピオスが背後からそう声を掛けてくる。沖田が己の横にしゃがみ込み、晴信の体の向きを変えて支えてくれる。慌てて彼の背後に回り、一定の間隔で教えてもらった場所を叩いてみる。

「…………ひぅ………かはっ………げほっごほっごほっ!!」

晴信はビクリと痙攣した後びしゃりと大量の血を吐き出し、ひゅーひゅーと力のない呼吸を繰り返し始める。そうしてカタカタと不規則に体を震えさせ始めた。

「マスター、早く戻ろう!シュミレーターとはいえ、血の匂いでまた何かバグが発生してモンスターが襲いかかってくる可能性がある。」

「レイシフトの準備も医務室の準備も出来たって!」

周囲を警戒しながら話す高杉の声とカルデアと通信を繋ぎ続けていたマスターの声が聞こえてくる。べっとりと血に濡れ、意識が戻らないままカタカタ震え続ける晴信に少しでも体温を分け与えるようにぎゅうっと体を抱え込みながらも景虎はレイシフト特有の光へと包まれていった。

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