シャンクス♀とバギー♀の場合part1
海賊の端くれである以上、一晩いくらだの、股開くために船に乗せられてるのかだの、そういった揶揄には慣れっこだ。
敵船との戦闘中、他の大柄な男性クルーに混じって女で子供のシャンクスとバギーは良くも悪くも目立ってしまうから。
勿論ニヤけた顔でそんな暴言を吐いた者はロジャーを始めとした保護者のクルー達によって海の藻屑と化す。
彼らは自分たちの育ててきた可愛い可愛いクソガキどもがそういう目で見られることを許さないし、自分たちがそんな行為をしでかすゲス野郎だと認識されることも許さない。
自分の齢の半分にも満たない女児なんて誰が慰み者にするか……新入りでさえ、酒を飲みながら赤い顔で愚痴をこぼし、傍らの見習いチビたちの頭をぐしゃぐしゃと撫でる気の良い奴だった。
戦闘においてのみならず、シャンクスもバギーも周りの大人たちに何だかんだと守られて生きてきた。
とてもありがたいことだと思う。
そのありがたみを再確認できる、という一点のみでは、残念ながら悪夢の責苦に対する気休めではあれ特効薬には至らなかったけれど。
「バギー、今日も私が少しでも多く守ってやるからな」
散乱した血液と削げた皮膚の破片に囲まれ、シャンクスは呟いた。
時間帯は昼過ぎだろうか。今日は朝から鞭打ちを喰らい、シャンクスは背中に夥しい傷跡を刻んでいるし、庇われたバギーも完全に無傷とはいかなかった。
今日は××聖30歳のお誕生日なので記念に30人の男たちで貴様らを犯す、と昨日の内に意味不明な宣告されていたので、これからが本番だというのに身体へのダメージはとっくに黄色信号だ。
しかし限界の状態で生き続ければ生き物は順応しようとするのか、このまま気絶したら死ぬかもしれない、と思いながら意識を失い次に目を覚ませないことはまだ無い。幸か不幸か。
「ひっく、ぐすっ……頼んでねぇよ……そんなコト……」
まだ鞭打ちの痕が痛むバギーが鼻をすすりつつ悪態を返す。
痛いのに涙を我慢する意味が分からない、泣きたい時は泣くタイプなのが彼女だ。
反面、シャンクスのほうはというと泣いてさえいなければ己の勝ちだとばかりの気丈さで涙を流さない分、堪えるために嚙み締めた唇が山犬の牙にでも齧られたみたいに血だらけになっていた。
そんな口元で姉妹分を安心させようと笑顔なんぞ浮かべているものだから、一周してホラー映画の殺人鬼みたいな雰囲気がある。
だが、シャンクスの微笑みが物理的に血塗られていても心の奥のほうでちょっと安堵してしまう辺り、バギーのメンタルもやはり参っていた。
「ああ、誰にも頼まれてないな。私が勝手にやりたがってるだけだ」
「んだよそれ……。別に止めやしねぇけど、やりすぎてアタシより先に死ぬんじゃねぇぞ」
一人でアイツらの相手全部やるなんて無理だからな、と付け加えられた言葉は、自分にも相手にも向けられたものだ。
バギーの体を庇うことでシャンクスの心は守られている。ただ与えられるだけでない、お互いに利のある行いだとわかっているからこそ、バギーは自分のプライドをそこまで失わずに済んでいる。
——アタシがこいつにそこそこ守られてやってるから、コイツの心もそこそこ守られてるんだ。
膝を抱えて隣り合う腐れ縁の赤毛を横目に見つめる。
バギーの存在が無ければ、シャンクスがここまで精神を保つことは難しかっただろう。
そしてシャンクスが居なければ、憎たらしいことに彼女よりも肉体の脆弱な自分は今頃おっ死んでいただろうとバギーは考えている。
つまりこれは適材適所。自分たちは心と体を守り合う、未だ対等な仲なのだ。