シチーさ

シチーさ

名無しの権兵衛

「バカ、いくじなし」


いや、バカはアタシだ。いくじなしもアタシだ。アンタがつまづいただけの、ただの事故だってわかってるのに期待した。アンタがこのまま流されて、事故じゃなく本当に押し倒したことにしてくれないかって……


アンタはバカだけどその場の雰囲気に流される奴じゃないってわかってんのに……アンタが何よりアタシの事を大切に想ってくれてるってわかってるのに……アンタがアタシの上っ面じゃなくて『アタシ』を見てくれてるってわかってるのに……さ。なのに、そんな事を期待するなんて本当にバカだ。


そういうつもりで着てたわけじゃないけど、よく考えたら大胆なナイトウェアにアンタがらしくなくなってくれたら。アタシがアンタを好きだからって色々すっ飛ばしてくれたら……。そうすればアンタに告らずにすむのにって思っちゃうなんて本当にバカだ。


怖かった。アンタに断られるのが、アンタがアタシを好きだっていうのがただの自惚れなのかどうか知るのが………


だから、そのまま突き進むところまで突き進みたかった。そうしたらこんな恐怖から逃れられる。なあなあで物事が進んでくれるからって。


でも、アンタは逃げた。そりゃそうだ。アタシが好きになったのはそういうヤツだから。大切な事を適当に済まさない人。バカで不器用で暑苦しくて、ウザったいくらいに真面目な人。目の前の、自分を好きな女の子がそれで構わないと思っていても自分を抑えられるような人。


…………直接謝らなきゃ、と思いつつ電話じゃなくてメッセを送るしかできないあたり、アタシはドのつく臆病者らしい。………明日、明日になったらなんとしてでも謝ろう。そんでもって——この半端な関係を終わらせよう。


例え、スマホの写真でもアンタの顔を見てると勇気が出てくる。………情けないなぁ、こうしてアンタに励まされてる気にならないと、正直な気持ちを伝えられる気さえしないんだもんさ。自分で言うのもなんだけど、勝ち確な勝負なのに。ただ——


———アンタに好きだっていうだけなのにさ



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