システゴとアンペロと俺くんで飲み会
ガチムチダイナレスリング珍しく今晩は皆ほとんど出払ってしまい、家に残っている面子の方が少ないぐらいだ。
その残った面子ことシステゴくんとアンペロくんを誘って提案してみる。
「この三人で飲み会しようよ」
「ああ、あの噂に聞く全裸飲み会ですね」
「ッス」
「いやキングとアンガから何聞かされてるか知らないけど普通に飲もうよ!?」
悪ノリして『よしそれでいこう!』といきたい欲求もあったがアンペロくんが絶対嫌がるので自重。
というかシステゴくんは全裸飲み会だとして同席してくれるのか。
……普通に受け入れそうだなぁ、今のシステゴくん。
とはいえ今回はそんな普通じゃない普通ではなく普通な普通でいきます。
普通にキッチンに向かい普通にテーブルに着き、鍋の油を火にかけ冷凍枝豆を流水に晒し冷凍ポテトを鍋にぶち込んでお酒を出して……
「システゴくんは何飲む?」
「じゃあマスターに合わせてカシオレで」
「了解、アンペロくんも今日はカシオレ飲む?」
「ッス」
「アンペロはいつも皆に合わせて無理してビール飲んでるもんな」
「ッ!?」
「こーらシステゴくん気づいててもそういうこと言わない……じゃあおつまみ仕上がるのまだだけど先に乾杯だけしちゃおうか」
「はい」
「ウッス」
「それじゃあ、せーの」
「「「乾杯!」」」
今回は缶ではなくカシスリキュールから作ったカシオレを三人分。
三つのグラスを各々掲げて音を鳴らし、呷る。
とはいえ俺は口当たりの良さに調子に乗ると潰れるため先ずは一口だけだが。
二人は既にグラス半分ほどが空いている、ダイナレスラーの肝臓が羨ましい。
「とりあえずポテトと枝豆準備したけど他に欲しいのある?」
「あっ、マスター俺も手伝いますよ」
「ありがたいけど今日は大丈夫、それでシステゴくんのオーダーは?」
「……冷奴ともろきゅう?」
「カシオレに?」
「二杯目以降はカシスウーロンにします」
「OK、じゃあアンペロくん」
「お肉」
「手早くできるカクテルに合う奴か……鶏のムニエルでいいかな?」
「ッス」
オーダーを聞いてから先に仕上がった枝豆とポテトをテーブルに並べて、調理開始。
鶏もも肉は筋や余分な脂肪を軽く掃除して厚みが均一になるように包丁を入れ、フォークで穴を開けて塩胡椒を揉み込み小麦粉をはたく。
オリーブオイルで皮目からしっかり焼き目を入れつつ蓋をして中まで火を通す。
焼いている間にきゅうりを拍子木切りにしてもろみ味噌を添えてもろきゅうを、絹ごし豆腐を水切りして一人分に切り分けネギやおろし生姜などの薬味を準備して冷奴を拵える。
「ムニエルはもうちょっと待ってね、はいもろきゅうと冷奴」
「はいどうも……あの、マスター……その焼肉のタレは?」
「ああ、これはこうやってお醤油の代わりに冷奴にかけるとね」
そういいつつ豆腐の上から焼肉のタレをかけて刻みネギを盛った。
二人が信じられないものを見る顔をしたので差し出して味見をさせる。
恐る恐る箸を伸ばした二人だったが、いざ口にすると拍子抜けしたような顔をしていた。
「案外悪くないですね……焼肉のタレってこんなに甘くてフルーティだったんだ……」
「豆腐と思って食べると脳がバグる……」
高評価かと思ったが二人とも自分の冷奴には醤油をかけ始めたので、受け入れられるが積極的にはなれない程度の味だったらしい。
「これ結構好きなんだけどなぁ……」
「否定はしませんけど、それは冷奴じゃないと思います」
「そっかぁ……」
いい時間になったので鶏のムニエルの様子を見てくる。
火が中まで通ったことを確認し、蓋をとって火を強め表面がパリパリになるように仕上げ、火から下ろし一口大にカットしてレモンを添えた。
「はいお待たせ、ドライパセリとお塩置いておくから好みで使ってね」
「あのマスター……その鰻のタレと粉山椒は?」
「鶏の山椒焼きも食べたいと思ったけど別で作るのも面倒だから味変で対応することにした」
「なぁマスター、さっきから変なもんばっかり食おうとしてるけど酔ってんのか?」
「失礼な、こういうオリジナリティを出そうとした失敗作の積み重ねの上に君らの毎日食べている美味しい食事があるというのに」
「失敗してんじゃねーか!?」
「一般的には失敗作の範疇だろうと個人的なお気に入りを楽しむ分にはいいじゃん」
「マスターから借りた漫画にもありましたよね、明らかにゲテモノっぽくても一回は試して見る料理人……」
散々な言われようだが、まあ自覚はあるので苦笑いで流す。
小皿に取った鶏のムニエルに鰻のタレをかけ、その表面を覆うほどの山椒を振りかけると二人の顔が引き攣った。
気にせずそのまま一口でパクリ。
「くうぅ、この舌が痺れる刺激がいい……」
「そういやコイツやたらと辛い中華大好き人間だったわ」
「最近は頻度減らしたりサイドメニューにこっそり潜ませるようにしてたの、自覚して自重してたんですね……」
「俺の好みとは別でちゃんとみんなの満足第一のメニューにしてるじゃん」
「何でこのバカ舌からあの料理が出来上がるんだ……?」
アンペロも酒が回ってきたのか饒舌になりツッコミもキレキレで容赦がない。
「ふふふ」
「何笑ってるんだよ気持ち悪ィ」
「いや、俺もアンガと同じ枠扱いだと思うと愛されてるんだなあって」
「ハァ!? ざけんじゃねえぞテメェ!!」
「ええー、別にアンガのこと好きなのは隠す必要ないじゃん」
「ちげーし、あのバカはそういうのじゃねーし!!」
「ねえアンペロ、そうやって必死になるの完全に逆効果だと思うから落ち着いたほうがいいよ」
「システゴてめぇっ!!」
「あっ、ゴメン……」
「じゃあここは一つ俺のパンクラトプスへの熱い想いを語ることでバランスを取ろう」
「それお前が惚気聞かせたいだけだろ止めろ」
「バレた? じゃあシステゴくんのコエロへの思いの丈をどうぞ」
「えぇー、俺ですか? ……いやまあ好きか嫌いで言えば好きではあるんですけど、なんというか」
「そろそろ付き合ってあげたら?」
「今まで恋愛とかしたことないのに色々すっ飛ばされたお陰でよくわからなくなってるんですよ正直」
「うわぁ……」
「その責任を取れというわけでもないですがまあ、自分の中で納得いくまでは保留するつもりです」
「真面目な顔して理由つけてるけど実際はキングさんとかカパプテラと遊びたいだけだろお前」
「へへっ、まあそれもありますけどね」
「アンペロももしかしてアンキロからアンガを奪わないような配慮?」
「だからちげーつってんだろいい加減しばくぞゴルァ!?」
「もうマスター、いじられてるときのアンペロが可愛いのは俺も分かりますがやりすぎはよくないですよ」
「はっ!? バッカお前何言ってんだよ!?」
「ごめん言わせて、なにその可愛い反応」
「二人して可愛い可愛いいうなよもー!!」
酒のせいだけではないアンペロくんの頰の紅潮にシステゴくんと俺の二人で生温かい視線を送りながら、キングとアンガ相手の時とはまた違った馬鹿騒ぎを楽しんだ一晩なのであった。