サーヴァントは夢なんか見ない

サーヴァントは夢なんか見ない

最後の「誰か」は、父かマスターか、それとも他の誰かか。

≪超閲覧注意≫

・流血、拷問等の残酷な描写あり

・死刑、自殺未遂の描写

・とにかく暗い

・地獄な癖に夢なのか精神攻撃なのかよく分からないふんわりとした設定












 気がつくと、彼は処刑場に立っていた。目の前にはたくさんの絞首台と、数え切れない程の首を括られて吊るされた死体。その顔の全てに彼は見覚えがあった。

 彼は処刑台の上に登った。彼らの首がくくられた縄が目の前にある。持っていたナイフで縄を切ろうとするが、硬くてギコギコと音がするだけでなかなか切れない。それでも少しずつ縄は細くなり、やがて吊るしているものの重さに耐えきれなくなって千切れてしまう。縄に吊るされていた男が地へと落ちていく。

「…あ。」

 彼は慌ててその体を掴み地面に落ちぬよう支えようとするが、重さに耐えきれるわけもなく彼も一緒に落ちてしまう。しかしその男が地面に潰されることが彼には我慢ならなかったのだろう、彼はみずから男の下敷きになり潰された。しばらくして彼は泥だらけになりながらその亡骸の下から這い出る。すると死体の周りの地面が大きく凹み、棺桶のような穴になった。彼は、落ちていたシャベルを手に持って男の遺体を埋めた。そして持っていた道具を手放すと、もう一度絞首台へと登る。


 二人目の縄は、茨のように棘が付いていた。それでも彼は怯むことなく縄を握って、ナイフで切っていく。棘が手に食い込んで血が流れていく。やがて前と同じようにロープが千切れ、死体ごと落ちようとする。彼は思わずロープを握って止めようとした。ここで初めて彼の顔が歪んだ。棘が手のひらを引き裂き、滑るようにロープは落ちていった。彼は痛みを忘れ、しまったといった様子で下を見た。しかしその遺体は空中でずたずたに裂け、地上につく頃には布一片だけが残されていただけであった。


 しばらくしてふらりと立ち上がった彼は、三人目の縄に取り掛かる。今度は一人目と同じ普通のロープだった。真っ赤に染まった手で、もう慣れたような手付きでロープを切断していく。千切れたところからロープがぐるぐると手首に巻き付いて、ロープが切れたと同時に引っ張られるように彼も落ちていく。落ちた先に地面はなく、深い水が満たしていた。死体と共に彼は水の中、光の届かないところまで沈む。手首のロープは硬く決して解けることはない。酸素がなくなって意識が途絶えようとしたその時、死体と水は跡形もなく消えた。彼は咳き込んで飲み込んだ水を吐き出すと、ふらふらとした足並みでもう一度立ち上がって歩き出す。


 その後も彼は何度も、何度も繰り返した。ロープを切るたびに彼は倒れた。燃やされ、毒で苦しめられ、大地に飲まれ、雷に打たれる。見も心も凍るほどの吹雪が襲ってきたかと思えば、激痛を伴う飢えと渇きが彼を苛んだりもした。しかし、気絶することは許されず、引き裂かれるような痛みを耐えながら彼はただひたすらに繰り返す。誰が見てもいつ倒れてもおかしくないと判断するほどにぼろぼろになっても、彼は立ち止まることもなく何度でも立ち上がって進む。

 彼は理解していた、これは罰だと。この痛みはは紛れもなく自分が害してきた者たちの苦しみで、彼らの心からの叫びなのだと。彼らの憤り、恨み、憂い、蟠りを受け取って耐えることだけが、罪のない彼らを犠牲にしてきた自分にできるせめてもの償いなのだと彼は信じて疑わない。やがて縄の輪は数えられる程に減っていき、最後に一本のロープだけが残された。


 それは、何も吊るされていない空のロープ。彼はその輪の正面に立つ。ちょうど頭がすっぽり入るぐらいの大きさの輪っかから向こう側を見つめる。

 …何もない。何もなかった。そのロープを潜った先には虚無が広がっていた。楽しいことなど一つもないのに、自然と口角が上がり、血と涙と泥で汚れた顔に笑みが溢れる。彼はついに両手をロープに伸ばし、歪みきった微笑みを浮かべた。そして、輪を首に通し、虚(そら)へと飛び込もうとした、その時───。




「──ダメだ」

 突然、後ろから抱きとめられる。まるでこのまま踏み込もうとするのを止めるかのように。

「……あ、」

 ロープが音もなく千切れ、風で飛ばされる。手を伸ばしたけれど、驚くほど強い力で引き止められているから、風すらも掴めない。

 後ろにいるのは、一体誰なのだろう。さっきまではいなかったのに。誰だろうとここにいるわけがない…これは俺の贖罪なのだから。救いなんてあってはならない、のに。

 嗚咽する声が聞こえる。後ろの誰かは俺の背中に頭を擦り付けて、涙を流し続けている。ごめんなさい、優しい誰か。こんな夢であなたを傷つけてごめんなさい。どうか、気にしないで。彼らも俺も、もう全て終わったことなのです。それが空想であれ現実であれ、彼らはとっくの昔に埋葬されたのです。咎があるのは、彼らの命を奪っただけでは飽き足らず墓から掘り返して遺体を弄ぶような夢を見る俺なのだから…その優しさを俺に向けないで。あなたは、もっと愛と希望に溢れたものだけを見るべきなのです。

 そんな言葉は声にならず、ただ風と共に消えていった。















──────

あとがき

これが彼の深層風景なのか、失意の庭やアフロディーテがしてきたような精神攻撃か、はたまたシェイクスピアの宝具のような精神攻撃なのかは最後の誰かだけが知っている。彼の願いが歪んだ形で具現化してしまったのかもしれないし、それともそう誘導されてしまったたけで本当は違ったのかもしれません。

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