サービス精神
正史ローもifローもほぼ全く出ないクルー達が話してばかりのSSです。
口調とかキャラとか色々怪しいです。
キャーとポーラタング号に黄色いが野太い悲鳴が上がる。
その悲鳴を聞いたこの海賊団のキャプテンであるトラファルガー・ローは、また彼の中の誰かが何かやったのだろうとため息をつきながらもそこへ向かうことはしなかった。
数ヵ月前に突然ポーラタング号へやって来た彼は『他の世界のトラファルガー・ロー』だと名乗った。
見るも無惨なその姿に、自分たちのキャプテンである『この世界のトラファルガー・ロー』と酷似した容姿に相反するようなあまりにも違う振る舞い。誰しもが疑問を持ち、説明を求めた。それに彼は応え、ことの経緯を説明した。そのあまりにも悲惨な内容に、あるものは戦慄を覚え、あるものは涙ぐみ、あるものは怒りで震えていた。
そして最後に彼は自分の存在について説明をした。
自分はこの身体の持ち主の精神を守るために現れた人格であること。
自分以外にも存在し、本人格を除けば合わせて二十人存在すること。
「それが誰なのかはみんなわかってるだろ?」
最後はそう締めくくり、誰なのか明かすことはなかった。
事実、キャプテンを含め総勢二十一名のクルー達はその振る舞いから勘づき、他の世界のローの体が回復して自由に動けるようになると確信した。
なぜなら――
「う、上目遣い……中身がローさんじゃなくても、これは可愛すぎる!」
――彼らは、この世界のクルー達がキャプテンにやって欲しいことを、完璧に把握していたからである!
怪我がある程度治ると、他の世界のロー本人以外が表に出ているときはクルー達がやって欲しいことを、ファンサに応えるようにジャンジャンし始めた。
「その白いツナギは……!」
「こっちの方が着なれているからな。……!
あァ、似合うだろ?」
「似合います~♡」
あるときは、お揃いのツナギとキャプテンの真似で歓声をあげさせ。
「ベポはこの歌が好きなのか?今度歌おうか?」
「えっ?!いいの!!」
あるときはその言葉がきっかけでポーラタング号内がライブ会場と化し。
「今のはもしかしてウインク?!も、もう一回!もう一回!」
「……(パチンッ)」
またあるときはウインクでクルー達を悩殺した。
他にも着て欲しい服を持ちよった結果始まったファッションショー、誰が一緒に寝るか争う添い寝大会、本の読み聞かせの席の争奪戦etc.……。
これらの出来事が確たる証拠となった。
こんな風に自分達がキャプテンにやって欲しいことを完璧に把握している集団なんて一つしか存在しない。
それはハートの海賊団である。
というわけで、『ローさんの中にいるのは他の世界のハートの海賊団のクルー達だ』という確信は共通したものになっていた。
このように、おおむねみんなの需要に答えている彼だが、いまいちこの行動の意図が理解できていない人も存在した。それはこの世界のロー自身である。
彼も中に存在するのが他の世界のハートの海賊団のクルー達だという確信はあった。しかし、その確信は彼らの行動の意図とは繋がらなかった。せいぜい、悪ふざけという予想が限界である。
そのため、さすがにこんな好き勝手やらせていいのかと見かね、他の人格よりもずっと短い時間しか現れない、他の世界のローの人格に問いかけたことがある。
「おれがうみだした人格とはいえ、みんなが幸せにやっているならこれ以上のことはない。おれが弱いせいで無駄なもんまで背負わせちまったからな……」
「…………」
その問いに対して、他の世界のローは消えそうな声で笑いながら答えた。その笑顔を見てからこの世界のローはこのことに関して何も口にしなくなった。
そんなこんなで今日も彼らは自分達(とこの世界のハートの海賊団)の欲求を満たしていた。
「今日はペンギンか」
この世界のローと船番を交代したシャチが彼のところへやって来るなりそう話しかけた。その言葉に他の世界のペンギンはもちろん、この世界のクルー達も目を丸くした。
他の世界のロー周りには誰が表に出ていてもいつも人がいる。今回はこの世界のロー以外のクルーが全員集まっていた。
「おっやっぱりシャチにはわかるんだな。誰が表に出ていても見た目はキャプテンだからパッと見じゃわかりにくいハズなのに」
「当たり前だろ。何年一緒にいると思ってんだ」
他の世界のペンギンが上目遣いをやめてシャチに話しかけるとシャチはニッと笑いながら答えた。
「……なァ、お前ら全員に何回かあったし、そろそろお前らのこと聞いていいか?」
入ってきた扉から移動し、他の世界のペンギンの前に座って問いかけた。その声は少し強ばっていた。
「えっおれらのことを赤裸々にするって?キャーッエッチー♡」
「そこまでは言ってねェよ」
他の世界のペンギンはふざけつつも真面目に拒否しなかった。だからシャチはそのまま口を開いた。
「表に出てねェときの人格ってどうなってるんだ?」
「説明が難しいな……例えるなら一つの部屋の中にまとめているような状態か?表に出るためのドアがあって、そこから様子見はできるけど基本的には閉じていて見えない……みたいな。これでいいか?」
頭を捻りながら他の世界のペンギンは答える。ふわふわとした概念的な話になるため説明が難しかった。
「あァ……なら、今おれたちが何を話してもローさんには聞こえないんだな」
だけど、その答えで求めていた状況であることは十分伝わっていた。
「……何が聞きたい?」
何を聞こうとしているか他の世界のペンギンも薄々勘づいてはいた。しかし、あえてそう問いかけた。
「お前らが自分は多重人格っていうからおれたちも調べたわけよ。……普通はこうやって多重人格であることを楽しんだりはしないんだってさ」
「つまり、おれたちのキャプテンが嘘をついてる……とでも言いたいのか?」
「いや、そうじゃねェ……もっと単純な話だろ、これは。ま、信じがたいと言えばそうだろうけどな」
そこまで言うとシャチは言葉を切り、顔を下げた。そして一度顔を上げ、もう一度目を合わせた。
「お前、本物……いや、ローさんと同じ世界のペンギンだな。他のやつらも同じ……死んだあとローさんに取り憑いているんだろ」
シャチがそう言うと、他の世界のペンギンはローの身体でこの世界のペンギンが笑ったときのようにニッと笑った。
「あァ、バレた?」
「当たり前だろ。何年一緒にいると思ってるんだ」
それを聞いてシャチも同じようにニッと笑った。
「……て、言ってもおれらはみんな同じ時期に気づいたがな。もちろんキャプテンも」
「いつから気づいたんだ?」
椅子に座り直した他の世界のペンギンが問いかけた。その顔にはまだニヤニヤとした笑みが浮かんでいた。
「おれたちが確信したのはローさんの身体が自由に動けるようになってからだ。キャプテンは聞いてねェからわかんねェ。それまでも振る舞いで何となく勘づいていたが、ローさんのつくりだした人格だと言われてもギリギリ納得してた。
だけどあの行動はダメだろ。だって」
「『ローさんがあんな完璧におれたちがやって欲しいことを把握しているわけがない』」
「違いねェ!」
この世界の二十名のクルー達が何の合図もなく、一言一句きれいにハモったのを見て、他の世界のペンギンは爆笑した。
多重人格はあくまでも本人の頭の中からうみだしたものである。そのため、本人が知らないもの、理解していないものが人格として現れるわけがない。
この世界のローがクルー達の願望を把握していないなら、他の世界のローも同じだと考え、彼らに違和感を感じるのは自然である。
「せっかくバレたんだったらやってみたいことやってもいいか?そっちの世界のおれ、一回取り憑かせてくれ」
「えっおれ?……まァ、いいけど……そのあとでちゃんとおれ達の質問に何でも答えろよな」
この世界のペンギンはその提案に若干驚きながらも、交換条件を出しながら了承した。その条件に対して他の世界のペンギンは頷いた。
「……よし、じゃあ、悪ィけど力抜いてくれ」
「お、おう……わかった」
二、三言何かを呟いたあと、他の世界のペンギンが話しかける。緊張した面持ちのままペンギンが頷いた。
それから数分、あるいは数秒後。この世界のペンギンの身体が、ペンギンから見て右側に倒れだした。
「おい!いきなりどうしたんだよ!」
「いや……右腕って結構重いな」
突然倒れたペンギンを周りのクルー達が支えると、ペンギンの顔が苦笑いを浮かべた。それを見て、他の世界のペンギンが今取り憑いたのだと気づいた。
「にしても、同一存在みてェなもんだしいけると思っていたが結構キツイなこれ……欲求というか存在というか自我が強い『当たり前だ!おれの身体だぞ!』だよなァ……死んでからそのあたりは大分弱まってるし、押し負ける。ムリだわ」
そう誰に話しかけるでもなく言うと、ペンギンの身体から力が抜けた。そして、即座に起き上がったペンギンは周りを確認し、右手を頭に当てながらため息をついた。
「おれたちがそのあたり強くないとはいえ、全員…………あァ、なるほど…………」
他の世界のローの身体に戻りそう呟くと、他の世界のペンギンは顔から笑みを消した。そして黙って冷や汗が背中をつたっているのを感じていた。
「一人用の席に無理やり座ってくるような真似しやがって……ちゃんと約束覚えてるよな。じゃないと割に合わねェ」
表情が変わった他の世界のペンギンに対して、ある程度落ち着いたペンギンが手を当てたまま話しかける。その声には若干の苛立ちが含まれていた。
「あァ……わかってる。何が聞きたいんだ?」
その呼びかけに対して、ハッと気づいて反応した。
「どうしてこんなことしてるの?」
「それはお前らが一番わかってるだろ」
ベポの質問に他の世界のペンギンは間を空けずに答えた。
「だから、そっちのキャプテンだけがいねェ今、おれたちのキャプテンと付き合いが一番長いだろうおれに話しかけてきた……違うか?
ま、おれじゃなくてシャチや……まァベポでもいいし、表に出てなかったらおれら三人から誰かを呼んでただろうけどな」
そう続いた言葉にこの世界のクルー達は何も返せなかった。他の世界のペンギンの言う通りだからである。
「……なら質問を変える。どうして嘘をついてるんだ?」
「それも同じ……おれたちのキャプテンを守るためだ。
お前らだってわかるだろ。キャプテンが、おれたちが傷つくのに耐えられるわけがないって。あのままだと身体と心のどちらか、あるいは両方が限界を迎えていた。ただでさえ、ギリギリだったってのに……ちょっと考えたらわかったハズなのに、おれ達はあの人を苦しめたんだ」
質問に答えながら頭の中で思い出していた。
『すまねェ……おれのせいで……許してくれとは言わねェ、言えねェ……でも、すまねェ……すまねェ……』
自分達が死んでから初めて存在を認知してくれたときの悲痛な謝罪を
『止めろ、止めてくれ!……おれはそんなことをさせたいわけじゃねェ。おれはお前達が側に、いや居なくてもただ幸せならそれだけでいいんだ……!』
表に出ようとするキャプテンを無理やり押さえ、他のクルーが出ようとしているときの必死の叫びを
『死んだあとまでお前達を苦しめるなら、おれが生きてる意味はない』
何度もキャプテンを守ろうとした結果、限界を迎えかけた昏い声を
そしてその時くらいから始まった口枷を噛む行為と少しずつ広まるのが速くなっていく白い肌を
それらを思い出しながら、歯噛みをする。
ただ見るしかできないのが悔しかった。そうさせてしまった自分達が許せなかった。
「だから、キャプテンに言い続けたんだ。おれたちはキャプテンがうみだした人格だって。……おれたちはキャプテンの一部でクルー達本人が傷ついてるわけじゃねェって。
キャプテンがどんなものであれ傷つくのをただ見ているなんておれたちには無理だった。それを何とかするにはこれしか思い付かなかったんだ」
どうせ折る骨もなければくたびれない身体だ。何をしてでも絶対にキャプテンを守って助けてみせる。
そんな彼らの決意が今の状態を生み出していた。
「あ、今おれたちが表に出ているのはリハビリのためだからな。最後の数ヵ月はずっとおれたちが出ていたせいで身体があるという感覚を忘れさせてしまったんだ。だから、身体は何ともなくてもキャプテン自身が情報量でダウンしてしまって表に何日も出られない……ということが何回もあった。だったらその間はせめておれたちが身体を使って体力を増やそう、ということになったんだよ」
パッと顔を上げる。その顔にはもう苦しそうな表情はなかった。
「……あんなことをしていたのは何でだ?」
他の世界のローがあまり表に出られない理由をクルー達は嘘だとは思わなかった。他の世界のローが表に出ているときはずっと疲れていたし、『情報量で酔った』と自分達のキャプテンが言っているのを何度も見たからである。
だけど、彼ら(と自分達)が楽しいだけのあの行動の数々の動機はいまいちわからなかった。
「おれたちのキャプテンに言われたんだよ。
『ずっと辛いことをさせてすまなかった。できればおれの身体を使って楽しんで欲しい』って……。そんなこと言われたら全力で楽しむしかないだろ。変な精神つけやがって……いや、強化か?
まァ、でもこの状態も遠からず終わるな」
「『え?』」
突然告げられた言葉にクルー達は困惑した。今の状態が普通ではないとはいえ、まだまだ続くものだと考えていたからだ。
「……少しずつ、キャプテンの中に居づらくなってる。みんながおれたちのキャプテンのことを大切にしてくれてるから、大事なもんを取り戻せてるんだ。
おれたちにはできなかったことだ。……ありがとう。本当に感謝してもしきれない」
「……お前らはそれでいいのか?」
クルー達の誰かがポツリと問いかけた。誰もが口にせずとも同じことを考えていた。
「おれたちはキャプテンのことが大好きなんだよ。キャプテンが笑顔になるなら、それで十分だ」
そう少し寂しげながらも満足そうに微笑むのを見て、何も言えなかった。
同じ立場なら自分達も同じように思うことを理解してしまったから、何も言うことはできなかった。
このあとしばらくたってからifローにも色々とバレてなんやかんやあるし、なんやかんやでifミンゴ倒したあとにifクルー達はifローの代わりに遺灰ダイヤに宿ってifローと一緒にいる。つまりハッピーエンド
続かない