サボと「きょうだい」
「まずは・・・事実確認だ・・・!」
そう言った革命軍総司令官ドラゴンの声色は動揺を隠しきれないでいた。
地図を見るのを辞め、思わずドラゴンさんの方を見る。それなりに長い時間をドラゴンさん下で過ごしてきたが、ここまで動揺している姿は記憶に無いからだ。
ドラゴンさんの周りには既に人だかりができており、その人だかり近づくと同じ革命軍のコアラが2種類の新聞記事を差し出してきた。
最初の記事は数日前の日付のもので、海軍本部の大佐が天竜人を殴り飛ばした記事だ。海兵にも骨がある奴が居るもんだと思った記憶がある。確かモンキー・D・ルフィという名前でその名前を見た時に何故か頭痛がして記事を見るのを辞めたんだっけか。
・・・また少し頭が痛くなってきた。それでもドラゴンさんが動揺している理由が気になり次の記事に目を通す。
次の記事はその海兵ともう1人ウタという海兵が海軍大将である赤犬に討たれたという記事だ。
死体はマグマに焼かれ酷い有様だった様だが、所持品等からルフィウタ両名と断定された様だ。
『サボ!』
『サボ』
『サ〜ボ〜』
頭痛がより酷くなる。頭を抑える。何かが頭の中に流れ込んでくる。
そばかすのある男の子と麦わら帽子を被っている男の子と髪の色が丁度頭の真ん中あたりで赤と白に分かれている女の子・・・そしてもう1人これはもしかして俺なのか?
なんなんだこれは?あの3人は誰なんだ?更に頭痛が酷くなり、痛みに耐え切れず膝をつく・・・
『海賊に・・・いや、睨むなよウタ。じゃあやるぞ。海賊に海兵と俺たちは別々の道を歩む事になるかも知れねェけど、おれたち4人の絆は"きょうだい"としてつなぐ‼︎
どこで何をやろうとこの絆は切れねェ‼︎』
動悸が激しい・・・息も苦しく・・・
「サボ!?」
「サボ君!?」
「いきなりどうしたんだ!?」
ドラゴンさんがコアラが仲間達が声を掛けてくれる。それに応えようとして口を開くが上手く言葉が出ない・・・
『これでおれ達は今日から』
『きょうだいだ‼︎』
『おう!』
『うん!』
「あ・・・」
その瞬間、サボの声にならない叫び声がバルティゴ中に響いた。
「いやだ!ウタとはきょうだいにならねェ‼︎」
「私も!ルフィとはきょうだいにはなりたくない‼︎」
ダダンの所からくすねた酒と4つの盃を前に喧嘩を始める2人を見て俺とエースは顔を見合わせる。
2人が喧嘩をするのは正直予想が出来た。普段から競い合っている2人の事だからどちらが兄か姉になるかで争うんだろうなとエースと話していた。
だから2人揃ってきょうだいになりたくないと言っている今の状況は予想外だ。
苦楽を共にしたとはいえ、海賊を嫌うウタがおれ達ときょうだいになりたくないと言うのならばまだ分かる。
だが、ルフィもウタもおれ達2人とならば良いが、それぞれルフィ/ウタとはきょうだいになりたくないと言う。
とりあえず、このままでは埒があかないので、言い争いを続ける2人を引き離し、エースはウタと俺はルフィと話をする事にした。
「なぁ、なんでウタとはきょうだいになりたくないんだ?」
「・・・」
ダンマリか
「なぁ、まさかウタが嫌いなのか?」
「そんなわけねェだろ!!!」
勢いよく、首を横に振る。とりあえずは深刻な問題ではなさそうだ。
「じゃあなんで」
「・・・」
またダンマリか
「なぁ、ルフィ。あいつらには秘密にしとくからさ。話してみろよ」
ルフィは何かを言い淀んでいるかの様に口をモゴモゴさせている。まだ決心がつかない様だ。
「俺はお前の兄貴になるんだ。だから俺を信じてくれよルフィ」
「だ、だってよぉ・・・」
ルフィはようやくおすおずと話し始めた。
パチリと目が覚める。
視界には見慣れた天井が広がっている。
「良かった!目が覚めたんだね」
丁度よく部屋に入って来たコアラと目が合う。
「もう!急に倒れたと思ったら、何日も目が覚めないから本当に心配したんだからね!」
そう言うコアラの手には水の入った桶とタオルがある。看病していてくれたのだろう。
「そうだ。ドラゴンさん達に知らせないと」
程なくして、コアラの知らせを受け部屋にやって来たドラゴンさん達に俺は記憶が戻った事、そしてルフィ達とは義兄弟だった事を話した。
「俺はあいつらが酷い目に合っていたのに知らなかった!助けに行けなかった!あいつらを失っちまった!それだけじゃねェ!あいつらを忘れた!こんなんじゃあいつに!・・・エースに合わせる顔がねェ!!」
「ならまだ失っていないとしたらどうする?」
「え?」
ドラゴンさんから手渡された書類に目を通す。それには
「八方手を尽くして手に入れた情報だまず間違い無い」
ルフィとウタの生存情報が載っていた。
「まだ間に合うんだよサボ君」
「これより歌姫ウタと我が息子ルフィを助けに行く。お前も来るか?サボ」
「もちろんですよド・・・え?息子?」
「そうなんだよルフィ君ってドラゴンさんの息子さんなんだって」
その瞬間、サボの驚きの声がバルティゴ中に響いた。
俺達革命軍はルフィとウタを保護する事に成功した。
ルフィ達の追手である海軍本部大将黄猿が俺達との戦いを避け、早々に撤退した為である。
今ルフィ達は手当てを受け食事を摂った後、安らかな表情で穏やかな寝息を立てている。
2人共、俺の手を握っている状態だから俺は動けない状態だ。
「サボ君と会えて本当に安心したんだね」
「まぁ、直ぐには信じては貰えなかったけどな」
『貴方・・・誰?』
『次はお前が相手か!?』
『馬鹿を言うな。大事な弟と妹を助けに来たんだよ』
『大事な弟と妹ォ!あのな‼︎おれ達をそう呼べるのは海賊やってるエースと‼︎昔に死んだ・・・!?』
『嘘・・・まさか本当にあの!?』
『久しぶりだな。ルフィ、ウタ』
黄猿が撤退した後のやり取りを思い出し、思わず笑ってしまう。
あの後、2人が抱きついてきたり色々あって結局ドラゴンさんは父親と名乗れず仕舞いだ。正直、申し訳なく思う。
「本当に間に合って良かったよね」
「ああ。きょうだいを救えて良かった」
きょうだいという単語である事を思い出し、笑みが溢れる。
「なぁ、コアラ知ってるか?実のきょうだいは結婚できねェが義理のきょうだいなら結婚できるんだぜ?」
「なんでそんな当たり前の事を?サボ君まさか・・・」
「俺じゃねェよ。ただ、世の中にそんな当たり前の事も知らねェ子供も居るんだよ。そうだよな?ルフィ」