ササカイ
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「サーサーキー…おい、聞こえてるのか?」
「ササキ~…酒が足りないぞ!持ってこい!…んん~」
「はい!只今お持ちしました!!」
「おー…ありがとよ…でな、ササキ~その島はな…」
「なあ、ササキ様、固まってね?」
「ああ、ピクリともしないな」
「カイドウ様にあんな風にされちまったらな…もしかしておれ達、野暮?」
「え~でもおれ達ササキ様の直属の部下なんだぜ?野暮じゃないんじゃないか?」
「……おい、お前ら…ピーチクパーチク煩いぞ」
「あ、ササキ様が喋った」
「でもすごい小声」
「大丈夫っすよ。カイドウ様大声とかそんなに気にしないっすよ多分。この前もクイーン様のライブ聴きながら寝てたし」
「そういう問題じゃねえ…」
百獣海賊団飛び六法の一人、ササキは今とても困っていた。尊敬しているカイドウが、へべけれになってササキを抱き込んでくるのだ。しかも半分寝かけている。
顔が、近けえ…手でか…髪つやつやだ…カイドウさんの角、やっぱりイカスな…なんか島について話してる…遠征のことか?…かわいい…あ、酒溢した
ササキの脳内では取り留めのないことがぽろぽろと浮かんでは解けていく。内容だけなら好きな娘と偶然近づいた男子中学生のようだったが、ササキは立派な大人でカイドウもかわいい女の子ではなく鬼のように強い大男だった。
だが、だが、カイドウさんが甘えてくるなんて、この状況は狙ってもなかなか起こらない。いや肩ぐらい組んでくれるかもしれねぇ時もあるが、この密着感。半端ねえ。
ササキは内心かなり有頂天だった。
「なあおい、ササキィ。さっきから返事がねェじゃねぇかよぉ…おれといても、つまんねぇってのかよぉ…」
「違う!違うんだカイドウさん!すまねぇ。少し酒にあてられてただけだ。それで、島の植物が珍しかったのか?」
「ああ、そうだ…黄色くてよぉ…」
横たわるようにして左腕をササキの胴体に回していたカイドウはササキの腹を徐に撫で始めた。ギョギョンとササキの背筋が伸びる。
「ちょうど、こんくらいに丸くて…葉っぱがな、これはお前には似てなかったが…やっぱ似てるなァ」
「…そうか。おれに似てる植物が、あったのか…」
「うん…みんな、言ってたぞ…」
「そうか…それを態々言いに?」
「言いに来ちゃダメなのかよ~」
「いや、そんなことはない。嬉しいさ」
「ウォロロ…なら、いい」
やべぇめっちゃかわいい。え?おれに似てる植物があって?それを話したくて?え?かわいい~ってか腹を撫でるのは、カイドウ様、ヤバいぜ。おれだって男なんだ。あんたも男だけど。そんな風に腹を撫でられたら興奮してきちまう。部下がいるのに!今こそおれを助けるなりなんなりするべきではないか?部下!
「なあ、ササキ様めっちゃ百面相してるな?」
「カメラ持ってくりゃ良かったぜ」
「嬉しそうだな…だがあくまでも己の内に秘めておく、かー!男前だぜ!ササキ隊長!!」
「分かったから、お前うるせーよ」
「カイドウ様にあんなに迫られるなんて…こええ…」
「おれは変わってほしい」
「なんかカイドウ様の髪っていい匂いしそうだよな」
「流石に夢見すぎじゃね?」
「でもあの艶…可能性はあるわよ」
なんの役にもたちゃしねぇな!このお調子者どもめ!退室しろ!
ササキはカイドウの杯に酒を注ぎながらドキドキ鳴る心臓をどうにかしようとした。しかし、この甘えをおれ以外にもしているカイドウ様を想像すると、途端に心臓も思考も大人しくなった。カイドウ様はおれだけの上司ではない。二万人の部下の総大将なのだ。
カイドウは律儀で真面目で酒乱だが時折気まぐれに絡んでくることがある。下っ端の失言に暴力を執行したり、部下を誉めたり名指ししたり、その時々でバリエーション豊かだ。これもその一環に過ぎない。その筈だ。
やれやれと内省しながら酒を呷ると、ふと視線を感じる。先ほどまでうとうとしていたカイドウがササキの顔をじっと見つめているではないか。
「おれがこうするのはお前だからだぜ?ササキよォ」
「は?」
「ウォロロロ!話してぇことは話せたからな、おれは向こうに行ってるぜ」
またな、ササキ
大きい体を滑らかに動かしてカイドウはのしのしと歩いていく。ササキは今度こそ固まってしまって引き留めることも出来ない。
ふぁさりとカイドウの髪が一筋ササキの顔を撫でた。なんか、いい匂いがした…
カイドウ様がおれだからって言った…おれだから…おれだから!?
「やべっ隊長が息してないかも」
「そんなバカな!いや、あれは効くよな」
「きぶっていいっすか?」
「隊長~しっかりしてください!あんたがいなくなったら、おれ達どうすりゃいいんすか~!?」
「……テメェら、余韻にくらい浸らせろ!」
百獣海賊団は今日も平和だった。