“ゴッド”ウソップは見た!

“ゴッド”ウソップは見た!

レイレイ


麦わら一味のマスコット『ウタ』。海賊“麦わらのルフィ”の最初の仲間。12年前、彼がまだ幼い子供だった頃

から彼と共に過ごしてきた彼の親友にして生きた人形。

その正体はホビホビの実によって玩具へと変えられ、全ての人間の記憶から抹消された、彼の幼馴染。


トンタッタ族と出会い彼らのSOP作戦の詳細を知る上で知ったホビホビの実の恐るべき呪い。だが彼らの仲間である生き人形もまたその呪いの被害者であるとウソップが気付いたとき、彼の中で逃げようとする気持ちは無くなった。


SOP作戦が成功し、全ての玩具が人間に戻ったとき、危なっかしい足取りで自分に近づいてきた、明らかにサイズの合わない子供用のドレスを着た、赤と白の2色の不思議な髪色をした少女。


『ヴゾッ…ブ、アリが…ど…う』


泣きながら、まるで長い間言葉を話せなかったかのようにたどたどしく自分へ感謝の言葉を口にした少女。

彼女こそが自分達と共に東の海からここまで共に冒険した『ウタ』なのだと、すぐに察しがついた。

女性だとは本人がジェスチャーで自己申告していたが、まさかこんな美人だとは思わなかった。年頃は自分やルフィと同じか、少し上だろうか。おそらく玩具にされた当時から体が年齢相応に成長したのだろう。子供用の服が破れあられもない姿に…!?


…サンジではないが不意打ちで刺激が強すぎたせいか、鼻血を噴き出してしまったのはキャプテン・ウソップ一生の不覚だ。


即座に合流したロビンの能力で目隠しされ、その間にロビンが調達した服をウタに着せて何とか人前に出しても大丈夫なようにしてくれていた。


やめてくれロビン、そんなゴミを見るような目で俺を見るな。明らかにウタを庇う立ち位置に立つな。おれはサンジじゃねえ!


そのあと、巨人に抱えられて何故か神扱いされたり、ドフラミンゴに最高額の懸賞金をかけられるとか色々あったが何とかルフィやゾロと合流するために王の台地へ辿り着いた。まあ、ボロボロで立てない俺は小人達に運んでもらったんだが…。


王の台地に居たルフィは明らかにいつものルフィと違っていた。初めはウタの姿に動揺したのかと思った。あいつ作戦もろくに聞いてなかったせいでウタが人間だってことも聞かずに通信を切りやがったからな。

…そう思ったんだが、なんだかこっちを、もっと言えばウタを見たルフィはどこか怯えてるようだった。

しかもあろうことか俺たちに、ウタに声もかけずに逃げるように王宮に向かおうとしやがった!

あいつ、ウタがお前に会いたがってたのわかってんのか!何やってんだ!?


即座に横にいたゾロが肩を掴んで止めてくれたが、そうじゃなけりゃさっさと台地から飛び降りて行きそうだった。それどころかゾロの腕を振り払って、やはり立ち去ろうとしていやがる。流石に文句を言ってやろうと口を開こうとした時…、


ウタ「ルフィ…?」


ウタがつぶやくように、だがまるで親と逸れた子供のような、そんな縋るような弱々しい声で俺達の船長の名前を呼ぶ。

人間に戻ってから今までも、たどたどしくしか話せなかったウタが、何故かあいつの名前をはっきりと発音して。


ルフィが立ち止まった。隣にいた俺でも聞き逃しそうなか細い声だ。距離もあるし周りもうるさいのに、まるで今のウタの声が聞こえたかのように。


あいつのトレードマークでもある麦わら帽子を深く被り、こちらに表情を見せないルフィが近づいてくる。


ウタ「る、ふぃ…」


さっきとは異なり、やはりたどたどしい口調でウタがルフィの名前を読んだ。まるで迷子の子供が親とあったかのような、そんな喜びと安心が混ざった声色で。


俺からルフィの表情は見えない。だが、怯えていたルフィの雰囲気が明らかに変化したのは分かった。


ルフィは自分の宝物でもある麦わら帽子をウタに預けた。その声色と手付きは、普段の脳天気なルフィから想像もできないほど優しく、暖かだった。


ルフィ「ロビン、ウソップ、ありがとう」

ロビン「ええ」

ウソップ「おう」


ルフィの真剣な様子から、心からの感謝なのだと理解した。

何言ってやがる。仲間を助けるのは当たり前だろう。ロビンもそう思ったのだろう。特に誇るでも恩に着せるでもなく、短く感謝を受け取る。


あいつは嬉しそうにニカッと笑い、トラ男を抱えて走り出した。どうやら改めて王宮へ向うようだ。


ルフィ「ロビン!ウソップ!…ウタを頼む」


あいつが俺達に頼み事をしてきた。しかもいつになく真面目な口調で。

そこで何となく察した。あいつにとってウタは、ただ12年間一緒にいた仲間、というわけじゃないらしい。そういえば気にしてなかったが、そもそもウタが玩具になった時期はおかしい。ドレスローザをドフラミンゴが支配したのは10年前だ。12年間玩具だったウタは、じゃあいつどこで、玩具にされた?

もしかしたらウタは、玩具にされる前からルフィと知り合いだったのかもしれない。


ウソップ(だがまあ、今それを問い詰めるのは野暮か)


ルフィに被せてもらった麦わら帽子のつばを握りしめ、ポロポロと涙を流しているウタを見て、今そんな無粋なことをするのはやめておくべきだと、そう思った。



その後、ヴィオラが復活しルフィ達を騙して玩具にしようとしているシュガーを見つけた。どうすればもう一度気絶させられるかと悩んでいた時、ウタが自分に任せてほしい、手伝ってほしいとまだ覚束ない口調と必死な身振り手振りで伝えて来た。


他でもないウタの頼みだ。それに他に妙案も出ない。

ウタを信じてあいつの頼み通り、小電伝虫を音声がシュガーに届く位置へ撃ち込む。


そこからの展開は驚きの連続だった。

呼吸を整え、集中していたウタは、徐ろに自分の持っている電伝虫に歌いかけた。その歌声は、さっきまでたどたどしく喋っていたのと比べ物にならない程に流暢で、その上とんでもなく上手かった。

ウタの持つ電伝虫は俺がシュガーの近くに撃ち込んだ小電伝虫と繋がっている。その電伝虫から響いたウタを聞いた瞬間、シュガーが崩れ落ちたと、能力でシュガーを監視していたヴィオラが報告した。


ウタウタの実、後になって聞いたウタの悪魔の実の能力。

歌を聞いた人間を眠らせ、ウタの見ている夢の世界“ウタワールド”へと連れて行く破格の能力。使うだけでかなり体力を消耗するらしく、一曲歌い終わり、シュガーと決着をつけたウタは疲れて眠っちまった。

お陰でルフィ達が玩具にされることは無くなった。お手柄だぜ、ウタ!


その後、ルフィがドフラミンゴと戦いドフラミンゴを追い詰めた辺で、王の台地まで鳥カゴがたどり着き次第に切り刻まれていくため、なんとか目を覚ましたウタや合流した革命軍のコアラと魚人のハック達と共に下に降り、混乱している国民達に避難と鳥カゴを押してなんとしてでもルフィが復活するまでの時間を稼ごうとしてたんだが…。




すまねェ、ルフィ。まさかあんなことになるなんて、俺がついていながら、本当にすまねェ…!!

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