コンポートとモブ男
おれの話ィ? ……そうだなァ、あの悪名高きビッグ・マム海賊団の長女、シャーロット・コンポートと酒を酌み交わしたことがあるって言ったら、あんた信じるか?
こんな場末の酒場で飲んだくれてるオッサンがよォ、
今や四皇なんて謳われるような海賊の一味――しかも実の娘だ! そんな女と並んで酒を飲んだんだぜ!?
ハハハ……嘘みてェだよな? わかってる。冗談だとでも思って聞いてくれよ。おれァずっと、この話を誰かに自慢したかったんだ……小心者だから、あんたに話すのが初めてなんだがな。
もうずいぶん昔の話だ。おれがまだ二十歳そこそこの頃だったかな。貧乏人で、日々の暮らしにも精一杯だったおれは、酒を飲むことだけが生き甲斐だった。
その日も、仕事が終わってから飲みに来たのさ。そこはボロボロの、安酒ばかり並ぶ酒場でよォ。でも、そんなところじゃねェとおれみてェな奴は満足に酔えねェんだ。金がねェからよ。
んで、その店で一番安い酒を頼んで、浴びるように飲んでいた時。海賊がやって来たのさ。――そう、ビッグ・マム海賊団だ。ま、そうだと知ったのは後でなんだがな。海賊だってことはわかったが、まさかそんな有名なとこだとは思わなかった。略奪するようなモンもねェ田舎だったしよォ。
男や女がゾロゾロ入って来て、その内の一人が、カウンターで飲んでいたおれの横に座ったのさ。
その女は、美しい緑色の髪をしててな。口紅なんか紫で、毒々しいっつうの? そんな感じだったんだが、綺麗な顔立ちによく似合ってて、おれァ思わず見惚れちまって。ぼんやりと女を眺めてたら、そいつがこう言ったのさ。
「んでも、こんなボロ屋で時間を潰さないといけないことに関しては、一切が謎のままだねぇ」
女の隣にいる仲間に話しかけてたんだな。それを聞いておれは、理由はわからねェが、この美女はそう長い時間ここにいるわけじゃねェって知った。んで、酒を飲んで気が大きくなっちまってたおれは彼女の手を取って――。
「こう言ったんだろう? 「美しいレディ、どうか僕に一時の幸せを頂けませんか?」」
「そうそう、そうだよ! ……え」
「ふふふ、美人だなんだと、そう褒められると照れるねぇ。んでも、そこまで言うのに、今あんたが話している人間の正体に気づかないなんてね」
フルーツなどが盛り付けられた美味しそうなパフェグラスを頭に乗せ、豊かな緑髪を背中に広げる大柄な女。彼女が目を引く紫の唇を笑みの形にした時、男はようやく、己の話している相手が“シャーロット・コンポート”その人であるとわかったのである。