コンサングィナモリー

コンサングィナモリー

心理的ジェネティック・セクシュアル・アトラクション

 思い出したくなかったな、と扉間は心の中で溜息を吐いた。このタイミングでなければもう少し冷静になれたはずだが、こういうことが無ければ思い出すことも無かったのだろうなという確信が扉間にはあった。目の前の男を扉間は見た。答えを待っている。黙ったままでいるのは不味いと扉間が口を開く。その声色は僅かではあったが普段より硬い。

「考える時間が欲しい」

「いいぞ、じっくり考えてくれ」

考えてくれと言うわりには、自分が振られるということを一切考えていないことが伝わる声。扉間は柱間のそういう自信家なところは嫌いではなかったし、客観的に見て根拠のない自信でもない。だが、扉間の胃に言葉に出来ない重たいものが落ちてきたのも事実だった。柱間のことを傷つけたくない。それは確かに扉間の本心だが、すぐに頷くことが出来ないあたり、そればかりでもなかった。

「じゃあ、オレはこれで」

「駅まで送ろう」

「いや、申し訳ないから良い」

「どこか寄るところでもあるのか?」

そう訊かれて扉間は正直にないと答えた。あると誤魔化したところでついて行くと言うのは目に見えている。少なくとも、言動から察するに柱間は告白を保留した相手と一緒に居ることを気まずいと思うタイプではない。自然な雰囲気で、柱間が扉間の横に並んだ。落ち着く。けれども落ち着かない。扉間は相反する感情に眩暈がした。今まで扉間はこの落ち着くという感情を恋情に近しいものと解釈していたが、前世の記憶が戻ったことで違う可能性が高いことを突き付けられた。

 扉間が柱間を見た。見たところで何が変わるわけでもなく、ただ自分一人居心地が悪い思いをするだけだと解っていながらも扉間は見てしまった。脳が混乱で誤作動を起こしているのかもしれなかった。扉間の心情など知らない柱間が自分を見る視線に気づき、にっこりと笑った。それに曖昧に笑い、扉間が再び歩き始める。歩いているうちに珍しくお互い何も喋っていないことに扉間が気付き、ついもう一度隣に居る柱間の方を見た。

「ん?」

「あ、いや、静かだなと思って」

扉間の問いかけに柱間が黙って白い頬を撫ぜた。今までもされたことのないスキンシップに混乱する扉間を後目に柱間が、漸くお前が思い出してくれたからな、と強引に抱き寄せ耳元で囁いた。咄嗟に離れようとした扉間を腰に回した腕で抑え、柱間が優しく微笑んだ。

「離してくれっ」

「そう気にせずとも誰もおらんぞ?」

「柱間、頼む」

「兄者だ。扉間」

腕の力が強まる。抜け出そうと藻掻く扉間を宥めるように柱間が唇に軽いキスを落とした。記憶があるにも関わらず自分に愛を告げたことも、記憶が戻ったと分かっても告白を撤回するどころか性的な接触をすることも扉間には理解ができなかった。確かに、今は兄弟ではない。血も繋がっていない。でも、お互いに兄弟として育った記憶がある。ひどい禁忌を犯しているようで恋人になりたいとは扉間は思えなかった。

「兄弟に戻りたいのか?それともオレと恋人になりたいのか。どっちなんだ」

「選ぶ必要などないであろう?オレたちは兄弟で恋人だ」

そもそも返事をしていないと言おうにも、柱間の有無を言わせぬ雰囲気に呑まれ扉間が口を噤む。黙ったままの扉間の髪を撫で、柱間が記憶が急に戻ってしんどいな?と見当違いの気遣いをした。その手が嫌でないのに、どうしても感じる柱間の雄としての欲や優しさの部分が受け入れ難くて扉間は唇をきつく噛んだ。そのせいで滲んできた血を柱間が舌で舐めとる。ああ、もう兄弟だけの関係は望めないんだなと察した扉間が一言、兄者と呼んだ。柱間は今日一番の笑顔を見せ、扉間の唇に再び重ねるだけのキスをした。

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