コルボ山での一騒動
・孫新星時空前提。原作√か海賊団√かは不明。
・ルフィが加わってサボが砲撃されるまでのどこかの期間。
・捏造しかない。
―――――――
何てことの無い一日の筈だった。
「じゃ、行ってくる」
「行って来い。迷子にはなるなよ」
「ゾロじゃねェんだし、誰がなるか!!」
「ケンカ売ってんのか?」
「そっちもデカい肉ちゃんと取ってきてくれよ!?」
「アッパッパ!誰に言ってんだ任せとけって」
まだ夜明けを迎えたばかりの薄暗い時間帯に、山奥に建てられた小屋から賑やかな声が響く。
わぁわぁぎゃあぎゃぁと騒がしく転がり出して走り出す6つの小さな影。力にも機転にも長けた2人を先頭に、気を抜けば姿が見えなくなる天性の迷子と特に小さな末弟を間に挟み、目端が利いてしっかり者の2人が後尾を追い掛ける。なる程あれならば途中で逸れる事もそこらの獣に遅れを取る事も無いだろう。
6人で5色という中々にカラフルな頭が元気よく駆けていくを見送って、見送りに出ていた2人――アプーとキラーはくるりと後ろを振り返った。
「お前らもそろそろ起きとけよー。ロクな獲物とれなかったらガキどもに馬鹿にされっちまうぞ?」
「……うるさい」
「ほら起きろ。もう日は昇ったぞ」
「………起きる」
視線の先に居るのは小屋の床で呻く残りの兄弟達だ。
どうにも朝に弱いらしい3人は先の騒々しさで漸く目を覚ました様子で、それでも未だに動きは鈍い。
普段であれば呆れつつ放置しておくところだが、生憎今日に限ってはあまり時間の余裕が無い。布団を引き剥がしてゴロゴロと転がされた3人…ドレークとホーキンス、ローもそれはわかっている様子で、何時にも増して人相は悪いままだが二度寝を決め込む事は無く起き上がる事に成功していた。
それでも、起きてしまえば後は早い。
慣れた手順に慣れた場所だ。今更特に準備する事も無く、縄や網をいくつか手早く身に付けて、5人は先に出た弟妹達とは逆の山奥へと足を向けた。
それは、何という事の無い朝の一幕。
いつもと少しだけ違うのは、今日は凡そ1年ぶりに上の兄達(と祖父)がこの山にやってくる日だという事。
ならばと出迎えの支度をするのもいつもの事で、張り切った下の弟妹達があれこれ駆け回るのもいつもの事だった。
山での狩りか街での調達か。たらふく食べられるだけの食料を集め、山では流石に手に入らない嗜好品や贅沢品を王国の街で手に入れる。それはいつもの日課を少しだけ拡張したもので、何百どころか千を超えて繰り返した日常だ。
おおよそ希望性で成り立つ役割分担は日によって偏りがあり、誰がどこを担当しても概ね成り立つ程度には皆慣れも実績もあった。
だからその日上の5人と下の6人に分かれたのは本当にただの偶然で、それが"最悪"に転がり落ちたのは、ただひたすらに彼らの運が悪かったというだけの話。
それでもせめてもう少し何かが違っていればと、そう思う事は止められなかった。
「……何か、遅くないか?」
その場の全員が思っていた事を初めに言葉にしたのはドレークだった。
朝から山に繰り出す事3回。
いささか生育不良な顔ぶれを抱えているとは言っても、山にも狩りにも慣れて力もついた男兄弟が揃えばやれる事も多く、積み上げた戦果は熊が2に鰐が4に大きめの魚が10。ついでに茸や野草や果物まで集めて、これだけあれば里帰りしてくる兄達も大食いな弟妹達も勿論自分達も腹一杯になるだろうと言える量だ。
余ればダダン達に分けてやるのも良いだろうかと話しながら、火を熾し湯を沸かし初め……そこで零された呟きに、未だ帰って来ない6人に彼らの意識が向いた。
「確かに、遅いな」
「どこかでゾロがはぐれたか?」
一番有り得そうな可能性を話しながら、どこか落ち着かない気分で視線を交わし合う。
見上げた太陽の位置は既に頂点を過ぎている。
兄達(と爺)の来訪予定は午後からで、だからこそ間に合うようにと朝早くから駆け出して行った下の弟妹達。
山を越えグレイターミナルを抜け、街に入り込んで目的の物を手に入れる。並の子供どころか並の大人でも難儀するだろう道程も、有り余る体力と子供に似合わぬ身体能力を持つあの6人にとってみれば日課の散歩にさえ近い。……未だ身体が年相応に戻りきらないドレークやローと比べれば、あるいは上回る程には体力もあり力もあり、何より荒事にも相応に慣れている。
ましてや今日はただ買い出しに向かっただけで、ゴロツキ相手の乱闘や略奪は目的では無い。例え絡まれたとしても、逃げに徹すれば捕まえられる者などそうは居ない。何より、血の気も多ければ手も足も早い性格だが、そのあたりの見極めや分別が出来ない程の馬鹿なガキでも無い。
ふらふらと何処かに行きかねない下2人がいささか気になりはするが、本人達の気質は至って素直で兄姉達が言い聞かせればちゃんと従うだろう。
――だとすれば、考えられるのは。
「――ホーキンス」
「ああ」
ただ一言のやり取りで、ぴりりと空気が硬度を増した。
獲物の下処理を放り出し馴染みのカードを手繰り始めたホーキンスの横で、常の軽妙さを落としたアプーが指示を飛ばす。
"ドレークとローはダダン達に説明した後入れ違いにならねぇ様に此処を見張れ"
"キラーはフーシャ村に行け。ジジイ達が来てたら引き摺ってでも連れて来い"
否を唱える者は居ない。
思い出すのは、今はすでに末弟として馴染んだ子供がまだ来たばかりの頃。……海賊に捕まりあわや命を落としかける寸前までいったあの日も、今と似た胸騒ぎがしていた。
そして、その懸念と不安は現実の物となる。
占いに何を見たのか血の気が引いた表情で何も言わずに駆け出したホーキンスとそれを追って姿を消したアプーは、たった2人のまま戻って来た。
「あいつらが攫われた」
ただ一言そう告げたその手には、末弟が肌身離さず身に付けていた筈の麦わら帽子が握られていた。
――――
この後はキラーとベッジを担いでウルージさんを従えたガープが到着→ガープの船に皆で乗り込んで年少組がボロボロだけど取り返しがつかなくなる前に救出…の流れ。