コルサ御御足活劇:ハッサク先生救出

コルサ御御足活劇:ハッサク先生救出



あらすじ:コルサさんがフット団(オリジナル組織)に連れ攫われたハッサクさんを助けにいく話です。

注意:コルサさんに蹴られたい踏まれたいという欲望に基づいて書かれているので、コルサさんがポケモンバトルではなくリアルバトル(脚技)をしています。それに伴いコルサさん身体能力が原作よりも上昇しています。予めご了承ください。


本編

深夜、ボウルタウンに続く山道を歩む大柄な男がいた。男の名前はハッサク。今日はボウルタウンで友人のコルサと夕食を取るつもりであったのだが、その日に限ってアカデミーとリーグの仕事が殺到し残業を余儀なくされたのである。


「すっかり遅くなってしまいましたですよ……お詫びにコルさんが気になっていたという林檎酒を買ってみましたが、気に入ってくれますでしょうか」


ハッサクがボウルタウンの入り口に付近に着くと、ふと風車が止まっている事に気がついた。「なんとコルさんも深夜にジムバトルでしたか……お互い大変ですね。」


今日はゆっくりコルさんのジムの試合を見ましょうか。ハッサクがそう考えている時、すでに背後から不審な人物が複数忍び寄っていた。いずれも『F』の文字がプリントされたヘルメットにサングラスを装着し、素顔は分からない。


ハッサクは疲労とコルサに会える楽しみで、自分が狙われている事にまるで気がついていなかった。自分の体が、背後から飛び込んできた縄に絞められるのを感じた時にはすでに遅かった。口を白い布で縛られ、米俵のような姿になってしまったハッサクは、ヘルメットの集団に担がれて崖の方へと連れ攫われてしまった。





「うぐっ」

しばらく崖を進んだ後に、ハッサクは洞窟へと乱雑に放り投げられた。赤土の粒が顔の皮膚を擦る。歯を食いしばって衝撃を耐え、ハッサクはノコッチのように身体をうねらせ、うつ伏せになって顔をあげる。時間帯は深夜だが、洞窟の中はランタンの光でうすぼんやりと明るい。


ハッサクの視線の先、サングラス越しに自分を見下ろす奇抜なヘルメットの人物が2人。ハッサクは2人を睨みつけながら声をあげた。

「あ、あにゃたゃたゃち……」

が、口布が邪魔して上手くいかない。


ヘルメットの1人が産まれたてのセビエにでも話しかけるかのように腰を下ろし、わざとらしく首をかしげた。

「何か、仰られましたか?何か、言いたい事がおありですか?ハッサクさん」

「ぬぅー……」ハッサクは唸った。


「どうします?外してあげますか?」

しゃがんだヘルメットが、もう1人の方を向いて尋ねた。

「外したらこちらの事噛みますかね?フカマルみたいに」

ハッサクはフカマル先輩と自分を両方とも馬鹿にされたように感じ、顔を顰めた。

「……」

尋ねられたヘルメットは顎に手を当てて沈思黙考した。


「スマホロトムの音声機能は?」

「電源ごとOFFにしてます」

「モンスターボールは?」

「全部没収しました」

「なるほど、なら良いのではないでしょうか」

「分かりました。」

指示に従い、ハッサクの口を塞いでいた白布を解いた。


「スゥー、ハァー……けほ」

口元を解放されたハッサクは深呼吸をし、砂を吸って咽せた。

「……あなたたちは何者ですか。一体何のために小生を連れ去ったのです」

ハッサクはヘルメット達に再び問うた。

「なるほどそれが質問。良いでしょう、お答えします。」


「自己紹介をしましょう。我々は『フット団』!その活動理念は『コルサさんの御御足に蹴っていただく、踏んでいただく』こと!」


言い終わると同時に、団員達は一斉に『F』ポーズを決めた。ハッサクの目の前にいる2人のみならず、その他に洞窟内にいる4人、さらに外で見張る2人まで、特性シンクロを持ったカラミンゴを連想させる見事な一体感である。


「……はぁ?」

一方でハッサクの口からは素直な困惑が漏れた。小生を攫う理由は、コルさんに蹴られたいから?里から差し向けられた刺客だと言われた方がまだ納得できるのだが。


「……小生はあなた達の趣味嗜好を否定はしません。芸術に正解や間違いなどございませんから。しかしですよ、それはあなた達の頭の中に留めておきべきものです。」

「それは正論ですね」団員の1人が返す。

「だが我々の情熱は正論で止まる事はありません」「ふざけるんじゃありませんよ!」


「ふざけるなど!……知り合いのアカデミー生から、コルサさんが美術の授業にお呼ばれした事があると聞いています。ハッサクさん、あなたの授業で。」

「……ええ、コルさんをお呼びしましたよ。それが?」


「そこで彼は何と言ったか!『やりたいことを、自由にやれば良い』と!だから我々は決行したのです!」

「いい加減になさい!違います!コルさんは決して、この蛮行を肯定する意味で言ったのではない!」

「解釈の仕方など人それぞれ、正解も間違いもない。」


ハッサクは地べたに伏しながらも、竜の咆哮のように声を張り上げて説教をした。しかし狂人達には届くはずもない。


「……ハッサクさん、我々に協力していただきます。あなたの悲鳴が必要なのです」「悲鳴?何をするつもりです!?」「あなたは痛みにただ悶え、叫べばいいだけの事」「そんな、放しなさい!」

ハッサクは目隠しをされ、担ぎ上げられて施術台の上に載せられた。身体を捻り横に転がって逃れようとするが、すぐに拘束された。


「やめなさい……ぐわああああーーッ!!」ハッサクのばくおんぱとも言うべき絶叫が、洞窟の外までも響き渡った。




その数分前、洞窟の横から密かに様子を伺う1人の男がいた。男の名はコルサ。風車に登ってジムテストの様子を見ていた折、ハッサクが何者かに誘拐される場面を目撃し、ジムテストを中止して救助に駆けつけたのだ。フット団の見張りは己が崇拝する対象が近くにいる事に気が付いていない。


しかし救助を急ぐなら岩陰に隠れる事なく、手持ちのポケモン達を素早く展開し、制圧するべきである。コルサも最初はそうするつもりだったが、それには大きな問題があった。


いざ出撃せんと懐に手を入れた時に、モンスターボールが3つしかなかった事に気が付いたのだ。ゲーム本編をプレイ済みの読者諸賢はきっとお察しできる事だろう、コルサはハッサクの救助を急ぐあまり、ジムテスト用の手持ちを連れて来てしまったのである。


彼女達は使えない。これは決して手持ちを侮辱する意味ではなく、彼女達に何かあっては困るという心配の意味を持つ。故にコルサはポケモンに頼る事なく己の身体一つで敵を蹴散らし、救助しなければならない。コルサが自分の脚の強さに自信があったのは幸いである(そうでなければ風車から飛び降りたりしないだろう)


ふと、洞窟の中からハッサクと犯人とのやりとりが聞こえてきた。

「……知り合いのアカデミー生から、コルサさんが美術の授業にお呼ばれした事があると聞いています。ハッサクさん、あなたの授業で。」

「……ええ、コルさんをお呼びしましたよ。それが?」

「そこで彼は何と言ったか!『やりたいことを、自由にやれば良い』と!だから我々は決行したのです!」


((違う!違う!断じて違う!))

フット団の身勝手な主張はコルサの逆鱗に触れた。歯軋りをし、拳を震わせ、しかし声に出さず静かに怒った。己の人生と向き合って未来ある生徒に向けて真剣に考えて発言した事を、大事な人を傷つける為の都合の良い免罪符にされた事に、これ以上なく腹が立った。月光が照らして淡く輝く白い顔、その額には幾つもの青筋が立つ。ハッサクを絶対に助け出すという覚悟は、灰色の瞳を銀色に輝かせた。




「やめなさい、ぐわああああーーッ!!

コルサはハッサクの悲鳴を聞き、即座に走り出した……否、思考よりも先に身体が動いていた!そして見張りの前に現れると、踏み込みをバネに高く跳躍!

「うっ!?」見張りの肩をストンピングし、その反動でさらに高く宙を舞う。そして高度で威力が2段階上昇したドロップキックを、流れるようにもう1人の胴体に食らわせた!「グエーッ!」そのキックで見張りはあばらを骨折!因果応報!


コルサは砂煙を巻き上げながら後退り着地。すっくと立ち上がり、倒れた見張りを洞窟の入り口前で山積みにした。そして深く息を吸い込み、うす明るい洞窟の中に向かって大音声を張り上げた!

「そこにいる不届きな誘拐犯ども、出てくるがいい!!」


「何っ」中にいた団員達は、一斉に洞窟の入り口を見やった。その視線が集まる先にいたのは、積み重ねた見張りの背を右脚で踏みつけ、念入りに革靴で踏み躙るコルサの姿だった。

((あいつ、抜け駆けなんてズルい))((革靴が滑らか……すべすべしたい))((痛そう、ぐりぐりされたい!))((なんという美脚、堪んない!))


敵の視線を集めたコルサは、左手の甲を向けて手招く。銀色の瞳が挑発的に光った。


「仲間になんて事をしたのですか!?」

団員の1人が挑発に乗り、コルサの元へと走り出した。しかしこれが仲間を思いやっての行動ではない事は、決して想像に難くないだろう。((わたしも踏んでください!!))


団員が入り口前の細い通路に差し掛かる。コルサは見張りを踏んでいた右脚を離し、後ろへと高く引き絞る。そして次の瞬間、コルサはなんと、積み上がった見張りの身体をサッカーボールの如く蹴り飛ばした!踏み躙られて蹴飛ばされる、フット団にとってはご褒美だ!


「へぶっ」

団員は予想外の攻撃に避ける事すら叶わなず、走った勢いのまま蹴られた仲間と正面衝突し、十の字になって倒れた。反応できたとして細い通路では避けられない。


「コルさん、いらっしゃったのですか!?ンアァーーッ!?」「動かないでください!余計痛くなりたいのですか!?」

コルサの声に遅れて反応したハッサクが悲鳴を上げた。さらに痛めつけられているようだ。逆に挑発されている。洞窟の中から出て来る気配もない。


これ以上待つのは得策ではないと判断したコルサは、救助を急ぐため洞窟の中へと疾走。途中、入り口付近で蹴飛ばした仲間に巻き込まれた団員の顔面を意図せず踏みつけた。





コルサは洞窟の広間にたどり着くまでの数秒で内部の状況を把握した。残りの団員は目に入るだけで3名。その奥、ホワイトボードで囲まれた所からハッサクの絶叫が聞こえる。そこは狭いから居て1人か。


痛い痛い痛い!!がアッ……ハッ……」

ハッサクの悲鳴は声が枯れ、代わりに嗚咽のようなしゃくり上げる声が混じるようになった。彼に我慢の限界が近づいている、もはや一刻の猶予もない!


コルサは加速し、地面を抉る踏み込みから跳びはねる!であいがしら、1番近い団員に本日二度目のドロップキック!

「おごーッ!?」

疾走の勢いを乗せた槍のような蹴りが鳩尾にクリーンヒットし、壁に向かって吹き飛び激突!衝撃で団員は気絶!


「えっ」

いとも簡単に吹き飛んだ仲間を見て呆然とする団員。その油断した足元に、コルサは即座に接近し足払いを仕掛けた。

「うわっ」

体勢を崩して前のめりに落下する団員。しかし、そのまま地面に身体を打ちつける事は、下から振り上げられる右脚が許さなかった。


「うがッ!?」

コルサは、バレエダンサーのようにしなやかに上半身をアーチ状に逸らしながら、同時に右脚の強烈な蹴り上げで敵の顎を狩る!蹴り上げられた団員は無様に宙にまうが、コルサは高らかに伸びた右脚を構え、後ろ回し蹴りを叩き込んだ!


「「ぐわぁーッ!?」」

団員は最後に残った仲間の元へ一直線に飛び、激突!鮮やかで華麗な、芸術家に相応しい蹴り技であった。





広間にいた団員3人を倒し終え、残心するコルサ。敵がいない事を確認したコルサはハッサクが囚われている所まで走り、四方を囲むホワイトボードの一つを乱雑に蹴飛ばす。そこで見たシュールな絵面に、コルサは一瞬困惑した。


なんとそこには、身体をロープと施術台で二重に拘束され、目隠しでうつ伏せになるハッサクと、その足元でマッサージらしき事をしている白衣の団員がいたのだ!


ハッサクは革靴と靴下が脱がされて足の裏が出ていた事から、おそらくは激痛を伴う足ツボマッサージをされていたのだと思われる。ハッサクの悲鳴はその痛みに耐えかねて発せられていたのだろう。


「あっ」

マッサージ担当の団員がコルサに気付き、後ずさった。コルサは銀色の目で睨みつけながら、団員に一歩、二歩とじりじりと近づき、壁際へと追い詰め、その腹部を右脚で踏み躙る。


「うぐぅ……」

壁と脚できつく圧迫され、呻き声を上げている団員。全体重を乗せられており、今にも腹が潰れそうだ。

「キサマか。先程ハッさんの説教にワタシの言葉を不適切に引用し、ワタシだけでなくハッさんと思春期どもまで愚弄したのは」

「そ、そうです……」

コルサは下手人に顔を近づけ凄んだ。銀色の虹彩から溢れる怒りは覇気となり、下手人に背筋が凍り付くほどの畏怖を引き起こす。


「ワタシの言った事は概ね合ってはいるが……肝心な事が足りていない。」

「ひっ」

「やりたい事を自由にやれば良い……ただし、『人に迷惑をかけない程度』にだッッ!!」

「ひいぃーーッ!!」


コルサの語気が強まる!アマージョの女王の威厳に勝るとも劣らぬ迫力だ!

「授業はしっかり聞かんかこの、愚か者がァァァァーーーーーッッ!!!」

コルサは腹を踏み躙っていた右脚を高く振り上げ、風切り音と共に、下手人の腹部に渾身の回し蹴りを、ぶち込む!!

「オゴーッ!?」

攻撃を受けて尚有り余るすさまじき運動エネルギーが、下手人を壁に叩きつける!同心円状に入る亀裂!壁をズルズルと滑り、前に倒れ伏す下手人!


これにてフット団は全員気絶!なんと、なんとアヴァンギャルドな救出劇か!





「……さて、ハッさん!」「コルさん……」「今助ける!待っててくれ!」

コルサはハッサクの施術台の拘束を解き、体を縛っていた縄を腰元のカッターナイフで切り、目隠しを外す。

「ありがとう、ございます……」


つい先程まで絶叫していたハッサクは息を整え、ゆっくりと感謝の言葉を紡いだ。コルサの気高く勇敢で、それでいて柔らかに煌めく銀の瞳をしっかりと見つめて。

「良いのだよハッさん……昔ワタシを命を挺して救ってくれたのだから、これくらい大した事はない。」


コルサはハッサクを施術台から起こして座らせ、靴と靴下を履かせた。

「コルさんは本当に危ない中、小生の為にお一人で奮闘なされて……」

「ハーッハッハ!当然の事だ。しかしだハッさん、続きがあるならこんな場所じゃなくて、ボウルタウンに帰ってからだ。」「ええ、そうですね。」


ハッサクはコルサの肩に支えられるように歩みを進め、2人は洞窟を出てボウルタウンの入り口まで来た。空はまだ夜闇の中であったが、2人を祝福するように星々が輝いている。


ハッサクはふと、ある事を思い出した。「そうでした、小生は遅くなったお詫びにコルさんが気になっていたという林檎酒を買っていましたが……落としてしまったようで。いやはや、申し訳ないですよ」

「気にする事はない!実はワタシも今晩の楽しみにその酒を買っていたのだ。一緒に飲まないか、ハッさん?」「はい!」


ハッサクとコルサは互いに微笑みを交わす。ボウルタウンの風車は穏やかな風を受けてゆっくりと回りながら、2人の帰りを歓迎した。

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