コルイスホラゲパロのやつ

コルイスホラゲパロのやつ



ホラー、流血描写あり

無駄に長い すまんやで





「おや、その花、■■県の△△山にある○○湖にしか咲かない××という固有種ではないですか」

褪せた写真を僕の背後から覗き見て、小さく写った花をトントンと指差しながら、そう当たり前の様に言ったのは保健医だった。

「は?」

「ンンン、今が見頃ですから行かれるのでしたら早めがよろしいかと」

そう笑い、保健医は通り過ぎて行った。

落ちかけた陽が、静かに夜を連れてきていた。


──本当だった。

家に帰り早速検索しても引っ掛からず半信半疑だったが何度かワードを追加すれば何年も前に更新が途絶えたブログがヒットした。


……『××』■■県△△山のこの湖にしか咲かない黄の縁取りがある真っ黒な天竺牡丹。

……この環境でしか咲かず栽培は困難故に奇跡の花

……今は廃村となった○○村

「○○村……」

この褪せた写真はその村を写したものだった。

長年の疑問が呆気なく氷解し、少し笑ってしまった。




僕には血の繋がった家族は愚か血縁者がいない。

気がつけば養父と義姉兄と共にいた。

それが当たり前だと思っていたし、疑問に思った事もなかった。

本当に偶然だった。

掃除をしていた際にひらりと、この褪せた写真が舞い落ちたのだ。


湖の畔、村を背景に映る僕によく似た、柔く笑む男。


それとなく聞いた事もあったが優しい養父は困った様に笑ってはぐらかすのだ。

義姉も義兄も、気にするなと笑って言ってくれる。

それを見て僕は何も言えなかった。

でも、

自分の出自が知りたかった。

自分を理解しなければ、あの優しい人達を家族と呼んではいけない気がして。

……一緒にいてはいけない気がして。


■■県△△山

三時間もあればいける。

──僕はもう高校生だ、子供じゃない。

──自分の出自を確かめに行かなければ。

最低限の荷物だけをリュックサックに詰めて土曜の早朝、何も告げずに優しい人達を起こさぬ様に、静かに家を出た。





湖の畔にはあの天竺牡丹が咲き誇っていた。

鏡の様に静かな水面に花が映る景色は幻想的で思わず息を飲んだ。

事前に調べた通りの廃村だった 。

褪せて傷んだ家屋が寂しげに佇むだけの場所。

周りを見渡せば、褪せた景色の先に立派な屋敷が見える、少し高い位置に見えるそれは寺の様にも見えた。

(此処に僕の出自にまつわる何かがあるのか…?)

携帯端末で写真を撮る。液晶画面越しの光景はどこか違う世界の様で。

それにきっと、この先何度も訪れる事も無い場所だ、そう思うと名残惜しくて何度も撮影した。

そこらに転がる家具、錆び付いた看板、壊れた玩具。

非日常の様な景色を携帯端末で撮り続けた。

「えっ…」

刹那、誰かが通り過ぎた。

一瞬だったが背の高い、褐色肌に黒髪の男だった気がした。

──こんな場所で?

──廃村になって数十年も経っているのに?

「待て…!」

後を追う。

男の背は誘う様に進んで行く。

「待ってくれ!」

必死に走り曲がり角を曲がった先には、飛び出した木材に引っ掛かった黒い布が靡いていた。

(単なる見間違いだったか…)

よく考えれば当たり前だ。

電車を乗り継ぎ、数本しかないバスに揺られ、まともに整備されていない山道を歩いてこんな場所、誰が来るのか。

(陽が落ちる前に帰らなくては)

バスの時間もあって長居は出来ない。

自分の出自にまつわる何かを早く探さなくては。

そう思い、視線を反らした刹那。

くすんだ硝子越しに──

目が、合った。

「っ!?」

誰かいる。

それも一人ではない。

先程までは無かった気配がぞろぞろと這い出てくる。

「──■■■■■」

「───■式を」

「──■度こそ」

物影から現れた農具や刃物を手にした人影がにじり寄る。

走った。 

走って、走って、走って──

肩を強く掴まれて 抵抗虚しくそのまま引き摺られて台に寝かされ──

「うっ…!」

顔を隠した男達がこちらに歩み寄る。

その手には見た事もない金属の器具が握られていた。

「儀■を」

「■■を■に捧ぐ」

けたたましい鐘の音がガンガンと頭を殴る。

嫌な汗が吹き出す。これから何が行われるのか、金属の器具が何なのか。

僕は知っている。

──嫌だ。

男達がこちらの白装束を寛げる。

白装束など着ていなかった筈だ。

なのに、何故。

嫌な湿り気を帯びた空気に晒され一気に粟立つ肌に、嫌に冷たい金属が触れた。

──嫌だ、嫌だ。

激しさを増す鐘の音。

「■■を、輝■る■■を!」

男が手にした金属がギラリと鈍く輝くのが見えて──。

刹那、途轍もない痛みと熱が弾ぜて視界を白黒に焼いた。

痛い!

叫ぼうとしたが喉の奥から苦く熱い物がせり上がって上手く声が出せない。

痛い、痛い!誰か!!

白黒の視界の隅で自分を取り囲む全ての人間が笑っているのが見えた。

口々に何か言っている様だがそれが何かは分からない。

ただ、この惨状を喜んでいる事だけは理解できた。

何度も、何度も金属が振り下ろされる。熱が、痛みが何度も弾ぜては溶け落ちる様な感覚がした。

だれか。

男が僕の体内に手を突っ込んで何かを掴んだ。

痛みに激しく脈打つ肉塊、熱を送り出す命の起源。

歓声、歓喜、熱狂。

だれ、か。

暗く堕ちる意識の果てで、数多の人間の絶叫と、狂った様な男の笑い声が聞こえた気がした。




「っは!?」

肌に張り付く布の不快さに沈んだ意識が浮上する。

「今のは…?」

夢だったとでもいうのだろうか。

じわりと冷たい汗が首筋を這った。

「……ここは」

廃村にいた筈だ、なのに此処は──。

「あの屋敷、なのか…?」

目の前の門扉は固く閉ざされびくともしない。塀を登ろうにも高いそれには返しがついていて無理そうだ。

「何が…」

つい先程までは昼だった筈だ、なのに陽の落ちきった暗い空が不機嫌に鳴っている。

時間を確かめようと手にした携帯端末の画面は暗く動かない。予備のモバイルバッテリーを差しても何の反応も無い。

「ふ……ぅ…」

無意識に震えた。

初夏だというのに異様に寒い。このまま雨に降られては低体温で動けなくなるかもしれない。

「……」

振り返れば屋敷がある。

まるで手招きするように、チロチロと朽ちた提灯が揺れていた。


一層冷たい風が吹く、湿った青い匂いがする、……雨が降る。


意を決して扉に手を掛けた。

重々しい見た目とは裏腹に、すんなりと僕を招き入れてくれる。

扉の先、蟠った闇が嬉しそうに揺れた気がした。







ED3  2世は無事ミクトランパに行けるが代わりにイスカリくんが座敷牢に捕らえられるED



「ありがとう」

先程までの恐ろしかった形相が嘘の様に、男は優しく微笑んだ。

男の傷だらけの身体が癒えていく。

遠くに焚火の柔らかな光が見えて、それに向かって男は振り返らずに歩いて行く。

その背を見送りながら、僕は何故か涙を流していた。

冷たく悲しい雨はいつの間にか止んで、慰める様に暖かな陽が上り始めていた。

(帰ろう)

自分の出自は結局分からずじまいだったが、それでもあの優しい人達──家族に会いたかった。

きっと怒られるがそれでもいい。

屋敷を背に僕は歩きだした。

「……■…■…■■」

背後から声がした気がした。

「?」

その声に、振り返ってはいけなかったのだ。

「■テ■マ…!行■■■でくれ…ム■■マ…!!」

無数の白い手が伸びてきたところで、意識が途切れた。




「う………」

熱せられた蝋の匂いに目が覚めた。

頼りない蝋燭の明かりに照らされた、見知らぬ天井、見知らぬ格子、見知らぬ足枷。

否、見覚えがある。

此処は、彼が閉じ込められていた───。

「何故…!?」

足枷は硬く外れそうにない。

帰らなくては、帰りたいんだ家族の元に。

「■■■マ」

「ひっ…!」

狭い牢に、僕以外の誰ががいる。

それが、闇から這い出てくる。

「ム■スマ…■っと……やっ■……」

褪せた金髪、恐ろしく白い肌、蟠った死の匂い。

強く、強く抱き締められて───。


蝋燭の火が消えた。





ED4  うっかりコルテスに同情してしまったED



冷たく悲しい雨は止まない。

彼を見送り走った。

閉ざされた門扉は微かに開いていた。

(今なら出れる…!)

やっと帰れる。

そう思い強くぬかるんだ地面を蹴り上げた。

「■■■■」

雨音に混じって、声がした。

止せばいいのに、足を止めてしまった。

「ムテ■マ……」

振り返れば、何とか退けた金髪の男がふらふらと手を伸ばしていた。

「■テス…マ…行■な…い■■れ…!」

雨に打たれ、悲痛な声でこちらに手を伸ばす姿は泣いている様だった。

(同じだ……)

血の繋がった家族がいないことをクラスメイトに揶揄されて、雨の中家族を探した幼い頃の自分と。

──僕には血が繋がらないが、大切に思う家族がいる。

──ではこの男には誰がいてくれるのだろうか?

この誰もいない場所に、独り永遠に縛られ続けるのだろうか。

「イスカリ!」

背後から家族の声がした。

必死に自分を呼ぶ優しい声。

(でもこの男には──)

ギィ、と門扉が閉じ始めた。

急いで出なければきっと永遠に此処から出ることは出来ない。

それなのに。

気づけば男の手を握っていた。

伏せられた男の顔がゆっくり上げられていく。

驚愕と安堵に潤んだ碧い瞳とかち合う。

つい先程まで、恐ろしいと思っていた男はこんな、迷子の様な顔をしていたのか。

「イスカリ!」

優しい声が悲痛な声に変わっていく。

雨は止まない。

扉は閉じていく。

「ムテ…スマ…」

「ムテスマじゃない、僕はイスカリだ」

イスカリ。

男はそう呟き僕の頬に手を添えた。

温かくも冷たくもない手が、彼をこの世の者ではないと教えてくれた。

「イスカリ!イスカリ!駄目!!」

悲痛な声が雨音に溶けた。

扉は閉じて、僕は此処に、彼に永遠に縛られ続けるのだろう。







Report Page