コユキとゲーセンで遊ぶ話
「どうやら……私は。ここまで、みたいだね」
「道半ばでゴメン、コユキ。あとは、頼むね」
全身ズタボロになった先生が、私に声をかける。
手にしている銃に残弾は既に無く。
後は物量にすりつぶされておしまい。
そんな結末が見えてしまっている。それでも私は抗おうとしているけど、おそらく届かない。
せめて、声だけでも。
「──ちょっと待ってください先生!」
「だから言ったじゃないですか!!そっちは敵が多すぎるから!」
「行かないで先生!止まって下さい!」
「待って、待って!先生ぇ───!!」
このゲーム、私側だとほとんど手だし出来ないんですから!!!
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ステージ3-2。
それが私たちの最終成績だった。
──2時間前。
珍しく早めに手の空いた先生と、今日もシャーレに遊びに来ていた私は。
近くのゲームセンターへと繰り出していた。
以前のリベンジも兼ねていたのだけど、久しぶりに来てみると新しいゲームが導入されていた。
なんでも二人一組で遊ぶシューティングゲームらしく。
一人はFPS視点で銃で敵を倒していくシューター。ただし敵は正面だけでなく物陰や頭上、背後等々から波状攻撃のように仕掛けてくる。
これを一人で捌くのはとてもじゃないが難しい。
そこでもう一人の出番。
こちらは俯瞰視点でゲーム画面を見ており、基本的には敵を倒したりは出来ない。
その分敵の来る方向やタイミングを把握し、適切にもう一人に情報を渡すことが役目。いわばオペレーター。
もう一人が敵を倒すごとに稼いだスコアを消費して、援護を行うことも可能。
役割分担された二人組で高スコアを競え!
とまあ、そんなゲームだった。
せっかくだし遊んでみよう、ということになったんだけど。
流れで何となく銃型のコントローラーを握ろうとしたところで。
ふと、名案を閃いた。
「ね、先生。このゲーム、先生がシューターやってくださいよ!」
「えぇ?いいけど私、銃なんて扱いなれてないよ?」
「それより、普段から慣れてるコユキがやった方が──」
良いんじゃない?
そう続けようとした先生の発言に被せる様に。
「はーぁ、分かって無いですねぇ先生!」
「無論適切な分担で行けばそうでしょうが!絶対それじゃあ面白くありませんよ!」
「というか、先生がオペレートなんかしたら絶対にこのゲーム、ヌルゲーと化します」
大体、先生は普段ゲームどころか実戦で指揮を執っているのだ。
その腕前でオペレートなんかしたら多分、このゲームの難易度が壊れてしまう。
それに。
私だって、普段先生がやっている事をちょっとでもいいから体験してみたい。
少しだけでも、同じ景色が見られるかも。
そんな後半の思いは気恥ずかしいので、咳払いで誤魔化し。
私の握っていたコントローラーを差し出した。
「こほん。とにかく、普段の役回りと逆。これで行きましょう!」
「絶対にそっちの方が楽しいですよ、先生!」
「確かに。そうだね。じゃあそれでやってみようか」
そう言って先生は差し出したコントローラーを握って。
私はオペレーター用の無線機型コントローラーを握る。
そうして──。
「いやあ。射撃戦を指揮するのと自分で撃つのだと、全く勝手が違うね」
「後半はもう大慌てだったよ」
「そうですねぇ。私も最初は上手く出来てたと思ったんですけど……」
上から下から横から背後から。
そんな風に次々と現れる敵に優先順位をつけて、分かりやすくシューター側に伝えて。
合間を見て援護も投げる。
指揮には、実際に銃を持って前線で戦うとのは別の技術が要求されることを改めて思い知った。
「それにしても、先生はいつもあんなことを実戦でやられてたんですね」
無論今のはゲームだけど。もしあれが実戦なら。
自分の指揮一つで前線が崩壊するかも。そう考えると嫌な汗が流れる。
あまり好きではないんだけど。
それでもまだ、前線に参加している方が良いかもしれない。
肉体的には疲れるけど、精神的には。
だいぶ、楽だ。
「いやあ、そういうなら私もだよ」
「改めて思ったよ。みんなには危険な所を担当させているなって」
「せめて、指揮だけは十全に取らないとね」
そう先生がつぶやいたところで。
「……あー!もう!ちょっと変な空気になっちゃったじゃないですか!」
「いいですか先生!これはゲーム、ゲームなんです!」
「もっと楽しくいきましょう!」
自分の頭にも浮かんでいた考えも一緒に、先生への言葉で吹き飛ばす。
せっかくの楽しい時間だ。自分で削ってしまうのはあまりにも勿体ない。
「よし!一通りやり方も掴んだ所で!リベンジと参りましょう!」
「さあ、もう1プレイです!」
そう先生を促して。
コインを入れ、次のプレイの準備を始める。
「さあ!まだまだ遊びますよ、先生!」
────その後。
シューティングゲーム以外にも様々なゲームに熱中し。
すっかり遅くなってからのセミナーへの帰還となり。
頭から角の生えた算術ようか、こほん、ユウカ先輩に大目玉を食らったのはまた別の話。