グラン・テゾーロでの一幕
世界最大級の船にして究極のエンターテインメント・シティ、“グラン・テゾーロ”
その一角に一人の男が囚われていた
全身の半分以上を黄金の台座に塗り込められ、その傍にはオブジェの装飾のように三本の刀が突き刺さっている
そして背中には大きな黒い翼があるようだが、それも今は黄金色に変わり果てている
現在この船を訪れている麦わらの一味の一人、ロロノア・ゾロだった
「気分はいかがかな、“海賊狩り”?」
ゾロの目の前に一人の男が現れる
この絢爛な街の王、“黄金帝”ギルド・テゾーロだ
「最悪だな」
尊大な笑みを浮かべるテゾーロに、ゾロは静かに吐き捨てる
その声色には煮えるような怒気が込められていた
「もう間もなく君の公開処刑のチケットの販売が開始する。3億2千万の首が飛ぶ瞬間に、誰もが興奮するだろうね」
「言ってろ。おれを踏みつけたその足、たたっ斬る」
「強がりは歓迎するよ。ショーが盛り上がるからな」
テゾーロはそう言って笑い、台座の周りを優雅に歩いた
「ところで、以前世界政府関係の客から奇妙な話を聞いたんだ」
暫くコツコツと靴音を鳴らしていたテゾーロの足が不意に止まる
「黒い翼を持つ、不思議な種族の話をね」
直後、ゾロの目が大きく見開かれた
「政府はその種族を血眼になって探していて、情報提供の報酬として1億ベリーを約束しているらしい。もしや、君がそうなのかな?」
テゾーロの問いかけにゾロは「さあな」と答える
「確かにおれの翼は生まれつきだが、そんな種族の話なんて聞いたことねェ」
ゾロの首に一筋の汗が滲む
脳裏に浮かぶのは、2年間世話になったある男の顔
テゾーロは「そうか」とだけ返して話を進める
「では、仮に君がその政府の探す種族であるとして、私から提案があるんだ」
そう言うとテゾーロはゾロの耳元で囁いた
「私の元で働かないか?」
「おれに、部下になれってことか?」
ゾロの問いかけにテゾーロは頷く
「知っての通りここは完全な中立地。一度ここに身を置いてしまえば、政府も海軍も手出しはできない。実のところ、私も政府の連中は嫌いでね。そんな政府に狙われてるであろう君を助けたくなったんだ」
先程と違い穏やかな声色でテゾーロは語る
「君が頷いてくれさえすれば公開処刑は取りやめにする。もちろん、麦わらの一味の借金も帳消しにしよう。君は一生の安全が保証され、仲間達も無事にここを出られる。悪い話ではないだろう?」
優しく微笑むテゾーロに、ゾロは静かに口を開いた
「寝言は寝て言え」
はっきりとした言葉にテゾーロの口元がピクリとひくつく
そしてポケットから子電伝虫を取り出すと、淡々とした声で命令を発した
「チケット販売を開始しろ」
部下達との通信を終えたテゾーロは子電伝虫をポケットにしまい、「残念だ」とだけ言うとその場を後にした