クローンきりやくんが見たもの

クローンきりやくんが見たもの


 今日は生体クローンの耐久実験、そしてじんこーせいめい?のテスト戦闘。二つまとめて行われるのは、それぞれの研究所が割と近いからだ。

 自分はクローンの検死を命じられ、隣室で待機していた。そう長くない時間の後、分厚いドアが開いた。見慣れない男性──向こうの研究員だろう人が、血まみれな誰かの手を引いてやってきた。そのまま出ていくのかと思ったけれど、こっちの研究員と立ち話を始めた。

「それが──ですか」

「ええ、擬似心拍や赤面・発汗機能も搭載しています」

「ゆくゆくは意識を移植するんでしょう?」

「さすが、耳が早い」

「しかしおとなしいですね。よく躾けられている、どうやったんです?」

「これは戦闘用の試験機ですから。思考力を限界まで削ってパワーを積んでいます。これでもまあ、挨拶くらいは……ほら」

 向こうの研究員に促され、部屋にいた数名へ順に頭を下げる誰か。スイッチを押したら動く機械みたいに、繰り返すおじぎは全部が同じスピードと角度だ。瞬きひとつしない瞳には何の意思もなかった。ああ、彼もいのちじゃないんだ、と直感した。

「次はお前の仕事だ」

「……はい」

 回収されたクローンは、いろんな関節がダメな方に曲がっている。検分するまでもない。とんでもないパワーで殴られ、蹴られ、へし折られたのがわかる。

 クローンの表情は苦しそうだ。反対に、血まみれだったあの人は……あれは、何も感じていない。ううん、感じることができないんだ。

 怒りは無かった。それどころか、自分も考える力をなくしてしまえば、あんなふうに怖さも痛みも感じなくなるのかな、と思った。


(CRに行ってから)


「……自分、大先生のクローンっぽいの見たことあるよ」

 本人がいない隙に言ってみれば、名人は顔色を変えた。

「飛彩さんの⁉︎」

「うん。最近思い出した。じんこーせいめいって言ってたから、クローンじゃないかもしれないけど、顔はそっくりだった」

「それってもしかして……」

 ポッピーがホワイトボードに『人工生命』と書いた。

「こんな漢字かなっ?」

「わかんない。一回しか見たことないし」

「飛彩さんのクローン……院長がそんなことさせるとは思えないけど……」

 ポッピーが「訳わかんない〜ピヨる〜」と頭を抱えたとき、CRの自動ドアが開いた。怒った顔の大先生が入ってくる。どうしよう、聞かれてた? と思ったけど、後ろに別の人たちがいた。ゲーム病患者じゃなさそうだ。

「微熱があるだけなのに、どうしてこんな地下へ……」

「俺の後ろに隠れて。何かあれば盾にはなるから」

「……びょういん、知らない。でもわかる……ここ、少し違うびょういん」

 知っている顔なのに、知らない人たちだった。

 一人は名人そっくりだけどヒーローもののかばんを持ってて、一人はヨレヨレの白衣を着た神……よりちょっと老けたおじさんで、最後の一人は、

 あの日見た、鏡飛彩先生にそっくりだと思い出したばかりの「誰か」だった。


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