クロコダイルの、
『帰り道で軍艦二隻を沈めました』
という報告書にアニキがどこに行ったか聞けば
「山登ってくの見ました」
という答えと同時に大きな音と一斉に飛び立つ鳥の大群とかすかに見える黒い羽根。
それを目指して山の中腹にたどり着くとぬいぐるみを抱き枕にして眠るセラフィムを見つけて更にうんざりする。
ぬいぐるみは起きているのかどうか見た目には判断がつかず縫い付けられたボタンの形と小さな黒い翼をじっと見た。
ホビホビの能力を知っているとこのぬいぐるみは誰か、という話になる。
ミステリーにでもなりそうな話だがこの島にいるギルドメンバーから来島した人物までリストにしていたので推理もくそもない。
昔の兄と同じ顔を持ったセラフィムの写真とその横にメモ書きされた(S・キャラバン)という字を読んでもやはり何も思い出す事ができず能力の恐ろしさに鳥肌が立つ。
使用した本人からも忘れられたぬいぐるみは最初から傍にいたという事になっていてセラフィムは片時も離そうとせず常に隣に置く姿に舌打ちが出るし、その度にアニキからの
「行儀悪いよ」
という叱りが苛立ちが更に募る原因にもなっていた。
キャラバンの行動から契約内容はおそらく、という当たりを付けると殴り付けたくなる。
「クロ」
声に振り返ると兄が木の実を持って立っていた。担いでいる袋を見るにどうやら果実を採りに山に入ったらしい。
「ただいま」
「⋯⋯報告書は直接渡せと言っただろう」
「渡してくれるって言われたし問題ないかなって。見てこれサルナシ! 帰ったら食べようと思って」
楽しそうに話す声にセラフィムが目を覚ましてアニキを視界にいれた途端に嬉しそうに駆け寄っていく。
「ヨーグルトに入れると美味しいって聞いたんだけどあるかな」
「さあな」
どうやら起きていたらしいキャラバンはアリゲーターとしっかりと手を繋いでいる。
それは元からだっただろうかと思いだそうとしたがやはり出てくる記憶は全てぬいぐるみの姿でまた舌打ちがでる。
「クロ」
「戻るぞ。軍艦の事を詳しく話せ毎回大雑把に書きやがって」
返事を待たずに歩きだすと返事を返した直後に
「あれ柿だよね! クロちょっと手伝って!」
ともう違う方向に走り出している。
それがいつもの姿だろう。
どこかで酷く安堵している事が不愉快で仕方がなかった。