クレしんコラボ〜嵐を呼ぶ五歳児!〜

クレしんコラボ〜嵐を呼ぶ五歳児!〜


 その少年は、ブタと共に現れた。


「ほっほーい!」

「ぎゃああ! 落ちる落ちる誰かワタシを助けろー!?」


 ここはデリシャスフィールド。時はまさにゴッソリウバウゾーとのバトルの真っ最中。

 我らがデリシャスパーティープリキュアが、ゴッソリウバウゾーの猛攻に攻めあぐねていたその時、デリシャスフィールドの天空に次元の穴が開き、彼らが現れたのである!

 宇宙のような星空がゆらめくその空間から落ちてきたイガグリ頭で赤シャツ半ズボンのちんちくりんな男の子と、その隣でやけに喚き立てるブタが、ゴッソリウバウゾーの頭の上にポスンと落っこちた。


「お?」

「ぶへ」

「ウバ!?」


 ゴッソリウバウゾーの体表は案外柔らかいのか、二人(?)が落ちた部分がむにゅりんと凹み、衝撃を吸収した。

 突然の事態に、ゴッソリウバウゾーも、そして対峙するデパプリメンバーとそのサポーターであるローズマリーまでもが状況を理解できず固まってしまう中、ぽよよん、と気の抜ける音と共に二人が跳ね返り、宙を舞って地面に落ちそうになった。

 危ない、と叫んだのは誰だっただろうか、助けようとするも反応が遅れてしまったデパプリメンバーのすぐそばを白銀の風が駆け抜けた。

 地面に落ちるよりも早く、ブラックペッパーが男の子とブタを抱き止めてそのまま離れた場所まで駆け抜けた。


「この子たちはわたしに任せて、ゴッソリウバウゾーを倒すんだ、プレシャス!」

「うん、わかった! ありがとう、ブラペ!」


 キュアプレシャス、スパイシー、ヤムヤム、フィナーレの四人が並び立ち、そこにエナジー妖精コメコメが力を貸す。


「プリキュア・ライトマイデリシャス!」


 コメコメも加えた五人の合体技が煌びやかにゴッソリウバウゾーを包み込む。

 その光景をブラックペッパーに抱き抱えられたその男の子も目の当たりにし、驚きの声を挙げていた。


「おお〜。すごいすご〜い、オラもやりたいゾー」

「わ、こらお前、大人しくしろ! あ、ブタ落としちまった」

「ぶひ!?」


 ブラペの腕の中から肩によじ登り出した男の子を下ろそうと悪戦苦闘するブラペをよそに、プリキュアたちが浄化技の締めにパーティーキャンドルタクトの先端に灯る光を吹き消した。


「ふぅ〜……」


 美しく煌びやかな戦乙女たちの吐息に合わせて、ブラペの耳元にも生ぬるい吐息が吹きかけられた。


「ふぅ〜」

「あはぁん!?」

「ほおほお、お兄さん可愛い声で鳴きますなぁ」

「何しやがんだお前ぇ!?」

「はむ」

「あっ💕」


 背中にしがみつかれた男の子から耳をはむはむされ、ブラペの足元がふらついた。


「ぶへ!?」

「やべ、また踏んじまった」

「いい加減にしろぉ!? ワタシを誰だと思ってるんだ! 私は救いのヒーローぶりぶり──」

「はむはむ、ぺろ」

「あおっ!? ばかやろう耳に舌を入れるな!? あ、蹴っちまった」

「ぶひー!?!?」


 宙を舞ったブタが地平線の彼方に消えていった。

 その下ではゴッソリウバウゾーが綺麗さっぱり浄化されたところだった。


「オナカイッパイデース」

「ごちそうさまでした。……ブラペ〜、こっちは終わったよ〜って、何やってるの?」


 駆け寄ってきたキュアプレシャスの前では、男の子を引き剥がそうと背中に手を回して悪戦苦闘するブラペと、木の幹を容易く移動する昆虫のように逃げ回りながら彼の手を掻い潜る男の子という光景があった。


「くそ、マントの中に潜り込まれた──うひひひひ!? やめろくすぐるな、このおバカ! あははは!? あ、ぷ,プレシャス良いところに! コイツを何とかしてくれ!?」

「ブラペ、楽しそうだね?」

「そう見えてんのはお前だけだよ!? あひひひひひ!?」


 悶え笑うブラペが地面に倒れ込みそうになったので、流石にこれは(男の子の身が)危ないと判断したプリキュアたちの手で、男の子は引き剥がされた。

 くすぐられ過ぎて地面に座り込んでしまったブラペの横で、その男の子はプリキュアたちを見上げた。


「オラ、野原しんのすけ。五歳。おねーさんたちは?」

「あたしはゆい──むぐ!?」


 プレシャスの口をヤムヤムが塞いだ。


「ゆいぴょん本名言っちゃダメだよ──むぐ!?」


 ヤムヤムの口にスパイシーの手。


「だからゆいもらんも言っちゃってるから──むぐ!?」

「三人とも落ち着くんだ……」


 スパイシーの口を塞いでフィナーレがフィナーレを飾った。

 彼女は咳払いをして改めて自己紹介した。


「……私たちはデリシャスパーティープリキュア。私はその一員であるキュアフィナーレ。この三人はキュアプレシャス、キュアヤムヤム、キュアスパイシー。こちらの男性はローズマリー、そしてそこで疲れ果てているのはブラックペッパーだ」

「おねーさんたち、お笑い芸人?」

「否定したいがこの有様では苦しいな…」


 額に指を当てて頭痛を堪えるフィナーレの代わりにローズマリーがしんのすけに問いかけた。


「しんのすけ君はどこからやってきたの?」

「上」


 と空を指差したしんのすけにつられて、みんなして空を見上げた。

 いつもの見慣れた空が晴れ渡っていた。


「来た方向を訊いた訳じゃねえよ!?」


 思わずツッコミを入れてしまったブラペに、しんのすけはやれやれとため息をついた。


「もぉ〜、ああ言えばこう言う」

「言わせてるのはお前だ!」


 いきりたったブラペの肩をフィナーレが抑えた。


「落ち着け、ブラペ。五歳児相手に本気でツッコむんじゃない。それよりもしんのすけくん。君のお父さんやお母さんは一緒なのか?」

「とーちゃんとかーちゃんとひまわりとシロはかすかべでお留守番してるゾ」

「春日部とはまた遠いな。では何か、君は一人でおいしーなタウンへやってきたのか?」

「ひとりじゃないゾ。ぶりぶりざえもんといっしょだったゾ」

「ぶりぶりざえもん? あぁ、あのブタさんか……おい、ブラペ。ブタさんはどこへ行った?」

「へ? ……あー!? どこかに蹴っ飛ばしちまってそれっきりだ!?」

「何だと!? ブラペ、君はなんてことをしているんだ!?」

「動物さんを蹴っ飛ばすなんて、ブラペ、あなたは最低です!」

「食材に対する感謝が足りないよね〜。プレシャスもそう思うでしょ?」

「うん。おばあちゃん言ってた。いただきますは生命への感謝だって」

「そうだゾ、ぶりぺ。まったくこれだから最近の若いモノは」

「蹴っ飛ばしたのは不可抗力だし、いきなり最低呼ばわりとかスパイシーのキャラ違うし、ブタはブタでもナチュラルに食材扱いしてんじゃねえし、ぶりぺじゃなくてブラペだし、そもそも蹴っ飛ばしたのはお前にくすぐられたからだ!」

「お兄さん、さてはツッコミ体質ですな?」

「やらせてんのはお前らだ!!」


 全力のツッコミで精魂疲れ果てたブラペに代わり、ローズマリーが状況をまとめた。


「とりあえずあのブタさん……プリティサエモンちゃんを探さなきゃいけないわね」

「違うぞ。ぶりぶりざえもんだゾ」

「豚バラサーモン?」と、プレシャス。

「おお、美味しそうだゾ」

「そういえば今夜は拓海が豚バラ肉炒め作ってくれるって言ってたっけ──むぐっ!?」

「ゆいぴょん、また正体バレそうなこと言ってるよ──むぐっ!?」

「…………──むぐっ!?」


 私なんにも言ってないのに!? というスパイシーの非難の目を受け、フィナーレは慌ててその塞いでいた口を離した。


「す、すまない。何となくやらなければ行けない流れのような気がして!?」

「おねーさんたち、やっぱりお笑いの人?」

「否定できないが本業ではない、と言わせてくれ」

「ほおほお、オトナのじじょーってヤツですな」


 話が進まないので、ローズマリーが割り込んだ。


「とにかく、ぶりぶりざえもんちゃんがこのデリシャスフィールドのどこかにいるはずよ。彼を探しましょう」


 もちろん反対する者など居ない。

 しんのすけが拳を頭上に向かって振り上げた。


「みんなオラといっしょにぶりぶりざえもんを探すゾ! オー!」

「「「「「「おー!」」」」」」

「かすかべぼうえいたい、ファイヤー!」

「「「「「「ふぁ、ファイヤー…?」」」」」」

「声が小さいゾ! ファイヤー!!」

「「「「「「ふぁ、ファイヤー!!」」」」」」


 よく分からないノリに付き合わされて叫んだ声が、デリシャスフィールドの荒野に響き渡る。

 その余韻も消えないうちに、新たな声が荒野に轟いた。


「働きなさい、ゴッソリウバウゾー!」


 そう、これはブンドル団の女幹部セクレトルーが怪物を召喚するときの掛け声。そして、


「ゴッソリウバウゾー!!」


 怪物がその存在を誇示するかのように咆哮を上げた。

 プリキュアたちは慌てて辺りを見渡した。


「あたし達がさっき浄化したばかりなのに、どうしてまた!?」

「気配が近づいてくる。プレシャス、しんのすけを!」

「うん、ブラペ!」


 プレシャスとブラペが、しんのすけを庇うように背中合わせに立った。

 他のプリキュアとローズマリーも、同じくしんのすけを中心に囲み、周囲を警戒する。

 そんな彼らの前に、ゴッソリウバウゾーが姿を現した。


「スクイリョウイチオクマンエン! ゴッソリウバウゾー!」


 いつもと違って余計な言葉を口走りながら、ブタの姿をしたゴッソリウバウゾーが腕組みをしてふんぞり返っていた。


「あ、ぶりぶりざえもん」

「チガウ、ワタシハ ゴッソリウバウゾー ダ」


 しんのすけの指摘をブタは否定したが、その姿形、そして大きさもぶりぶりざえもんその人…いや、そのブタそのものであった。

 強いていうならウバウゾーのように目元をブンドル団の仮面で覆い、その体色も黒く変わっているという点か。

 これはいったい何がどうしてどうなっているんだ? と、皆が首を傾げる先で、ゴッソリウバウゾーを召喚した張本人、セクレトルーが離れた場所に立っているのを見つけた。

 ローズマリーが声を張り上げた。


「セクレトルー、これはいったいどういうことなの!? ぶりぶりざえもんちゃんに何をしたの!?」

「何をと言われても、あなたたちに解放されてしまったレシピッピを、そこにいるブタが食べてしまったからですが?」

「食べたぁ!?」

「ええ。最初のウバウゾーが浄化された後、まだレシピッピがその辺をうろついていたので、予備の捕獲箱でこっそり捕まえようとしたのですが、その時ちょうどそのブタが大口開けて喚きながら飛んできて、その口の中にレシピッピがパクり……と」


 レシピッピって食べれるんだ、どんな味かな、そりゃもちろんお料理と同じ味じゃない、待ってみんな問題はそこじゃないわ、ほっほーいきれいなおねいさんだゾ、つーかまだ続きがあるんだから私の話をきけっつーの。


「食べられたレシピッピを吐き出させようとしたのですけど、食ったものは私のモノだ誰にも渡さない、と無駄に抵抗するので試しにブタごと捕獲箱に入れてみたら、中で分離してゴッソリウバウゾーが勝手に出てきた……と、こういう訳です」


 説明終了。状況に納得したプレシャスが口を開いた。


「丁寧な説明ありがとう、セクレトルー。ついでにレシピッピも返してくれないかな」

「お断りだっつーの。棚ぼたで召喚したゴッソリウバウゾーが使えるかどうか分かりませんが、このチャンスは見逃せません。行きなさい、ゴッソリウバウゾー!」

「イチオクマンエン」

「はい?」

「スクイリョウ イチオクマンエン ローンモ カ」

「………一億ジンバブエドルで良ければ一括でお支払いしますが?」

「? マァイイ ウケオッタ……ゴッソリウバウゾー!」


 勢いよく突撃してきたぶりぶりざえもんに対し、デパプリメンバーたちが身構えて迎撃態勢を取った。


「みんな、行くよ!」

「「「応!」」」


 先ずはヤムヤムがバリカッターブレイズを放ちぶりぶりざえもんの足元を崩し、そこへ防御の要であるスパイシーがピリットヘビーサンドブレスを発動、両脇からエネルギー壁を叩きつけて挟み込みその動きを拘束する。


「ブホヘッ!?」


 身動き取れなくなったぶりぶりざえもんに向けて、アタッカーであるプレシャスとフィナーレが突貫する!


「ストップ!? ストォォップ!!」

「おわっととと!?」

「ぷ、プレシャス急に止まるな!?」


 どってんころりんすっころりん。


「プレシャス〜!」

「ご、ごめんフィナーレ。だってストップって言われちゃったし」

「敵の言うことを素直に聞いちゃダメだろ!?」


 もつれあって転んだまま言い合う二人の姿にスパイシーが呆然としてプレスの拘束を緩めてしまい、ぶりぶりざえもんが解放されてしまった。


「フッフッフ……プリキュア……」

「な、なに?」


 立ち上がり警戒するプレシャスとフィナーレの前でぶりぶりざえもんが、くるりと背を向けた。


「キサマラニ テヲカソウ!」

「え?」

「ワタシハ プリキュア二 ミカタスル!」

「ええ〜!?」


 突然の寝返りにセクレトルーも眉を顰めた。


「これはどういうつもりですか?」

「フン シレタコト……」


 ぶりぶりざえもんは胸を張り、セクレトルーに向けて堂々とこう言い放った。


「……ワタシハ ツヨイモノノ ミカタ ダ!」

「お支払いすると約束した一億ジンバブエドルは要らないというのですね」

「カネヨリモ イノチガ ダイジダ!」

「ねえねえあまねちゃん、これってあまねちゃんがあたし達の仲間になってくれた時と似たような感じなのかな? ──むぐ」

「一緒にするな!? それと名前を言うんじゃない!」

「はにゃー、これじゃあまるで、らんらん達が悪者みたいだよ──むぐ」

「名前呼び禁止。でもこれで形勢逆転…かな?」

「フッフッフッ サア カクゴスルガ イイ……」


 プリキュアを背に従え、その威勢を借ってセクレトルーへと躙り寄るぶりぶりざえもん。


「くっ、まさかこんな最低なブタだったとは不覚でした……」


 追い詰められたセクレトルーがこの窮地をどう脱するか思考を巡らせた時、その足元でイガグリ頭がウロチョロしていることに気がついた。


「ん? 何ですかボウヤ」

「ほっほーい、オラ野原しんのすけ、五歳! おねいさんお名前は?」

「セクレトルーですが」

「おぉ〜良いお名前💕」

「何ですかあなた。迷子ですか?」

「うん、オラ愛のまよいご よかったらオラの愛の保護者になってくれませんか💕」


 いつの間にかセクレトルーのすぐそばに移動していたしんのすけの姿に、デパプリメンバーは揃って目を剥いた。


「「「「「「何やってんのあの子!?」」」」」」

「おねいさん……オラといっしょに、この荒野に愛という花を咲かせませんか💕」

「ふむ」


 セクレトルーは脚にまとわりついてきたこの珍妙な五歳児をしげしげと眺めた後、


「これは使えそうですね」

「お?」


 しんのすけを抱き上げ、胸元に抱え込んだ。


「おっ!? ぼ、ボインボイン……!?」

「プリキュア、この子を無事に返して欲しかったら私をデリシャスフィールドから解放しなさい」

「そんな小さな子を人質にするなんて卑怯だよ、セクレトルー!?」

「ヒキョウモ ラッキョウモ アルカ! カテバヨカロウ ナノダ!」

「はぅわ!? このブタさんまた裏切ったよ!?」

「ぶりぶりざえもん、あなたは最低です!」

「ワタシハ ツネニ ツヨイモノノ ミカタダ!」


 捨て台詞を吐きながらセクレトルーの足元に駆け戻ったぶりぶりざえもんを彼女は蹴っ飛ばした。


「ブヘ!?」


 そのままプリキュア側に転がり戻る。


「ナ、ナニヲスルノダ コノ ウラギリモノ!?」

「「「「「「「「「裏切り者はお前だ!!」」」」」」」」」


 しんのすけを除く全員からツッコまれた。


「さあ、早く私をかいほ──あ💕 か、解放しな─アァン💕」

「ボ、ボインボイン…ボインボイン……!」

「揉むなっつーの!?」

「セ、セクシーダイナマイッ! ポッポー!!」


 セクレトルーの胸に顔を埋めてヘヴン状態になっている五歳児の姿に、デパプリメンバー一同は頭を抱えた。

 あれでは自分から逃げ出すつもりは無さそうだ。どうやって助け出そう、と悩んだ時、スパイシーが「あ、そうだ」と手を挙げた。


「セクレトルーの狙いは捕獲したレシピッピを連れてデリシャスフィールドの外に逃げること。私たちはそれを阻止してレシピッピを救出するのが目的だよね?」

「うむ、そうだな……そうか、そういうことか」


 フィナーレはスパイシーが言わんとすることに気がつき、すぐに動いた。


「ぶりぶりざえもん、私たちに協力するんだ!」

「スクイリョウ イチオクマンエン ローンモ カ ──ウワッ!?」


 ぶりぶりざえもんの戯言を無視して、フィナーレは彼を両手で掴むと仲間たちに向かってその体を掲げた。


「みんな、ぶりぶりざえもんに向かって浄化技を撃ち込むんだ!」

「ナ、ナンダトー!?」

「そっか、ウバウゾーを浄化しちゃえば捕獲箱が壊れて囚われたレシピッピが解放されるもんね。さっすがあまねちゃん」

「ここぴーもあったまいい〜」

「「だから名前呼び禁止!?」」

「バ、バカモノ、ヤメロ、ヤメロー!? セクレトルー、ワタシヲオタスケシテクレー!?」


 今さら調子が良い、とセクレトルーは呆れつつも、確かにアイツをプリキュア側に蹴り返したのは悪手だったと認めざる得なかった。

 つーか、アイツがウバウゾーだってことを途中で忘れてた。


「仕方ありませんね。……プリキュア、もしウバウゾーを浄化したならば、このボウヤがどうなっても知りませんよ! ──アハァン💕」

「ボイーン!! ボイーン!!」

「揉むなっつーの!! アァン💕」


 我を忘れたしんのすけの猛攻にセクレトルーが喘いだ隙をついて、白銀の疾風がそのそばを駆け抜けた。


「ボインボイーン!! ……お? か、硬い……!?」

「アァン💕 ってこのおバカ、俺の胸まで揉むんじゃねえ!?」

「げ!? お、男……オェ〜」


 救出したしんのすけを胸に抱えながら、ブラペが叫んだ。


「今だ、プリキュア!」

「ありがとう、ブラペ。よぉーし、みんな行くよ!」


 プレシャス、スパイシー、ヤムヤムがハートジューシーミキサーを、フィナーレが拘束するぶりぶりざえもんに構えた。


「ヤメロー! コノブタゴロシー!」

「安心しろ、傷つけるわけじゃない」

「ウソツケ! ダッタラナンデ オマエダケ ニゲヨウトシテイルンダ!?」

「まあ一応、念の為にな」


 どこからともなく取り出したロープでぶりぶりざえもんをぐるぐる巻きにして、フィナーレは逃げて行った。


「「「シェアリンエナジーミックス! プリキュア・ミックスハートアタック!」」」

「ギャアアアア!? ……オナカイッパイデース……」

「あ、ゴッソリウバウゾーなのにこれで浄化できちゃった」

「ゆいぴょん、決めゼリフ!」

「そうだった、ごちそうさまでした!」

「だから名前言っちゃダメだよ、らん……むぐ」


 自分で言っちゃったので自分で口を塞いだここぴーだった。

 ゴッソリウバウゾーが浄化されたことでセクレトルーの手元にあった捕獲箱が破壊され、中からレシピッピが無事に解放された。


「今日はもう捕獲箱の待ち合わせがないのでここまでにしておきます。……つーか、ちょっと体が火照っちゃったつーの……」

「ああ!? 待って、おねいさん、行かないでぇ〜!?」

「……おねいさん……ふふ、面白いボウヤ」


 少し微笑みながら、セクレトルーは何処かへと去って行った。


「ああ〜……おねいさぁん……ぼいん」


 名残惜しそうに彼女が消えた方向を眺めるしんのすけに、フィナーレが傍へ寄った。


「そんなに彼女のことが気に入ったのか?」

「オラ、あのボインのおねいさんに心を分取られちゃったみたい……ブンドルブンドル〜💕」

「確かに彼女、歳の割に若々しいからな」

「としの……わり……に?」

「ああ、セクレトルーはもう三十も半ばだったはずだ」

「!?!?!?」

「どうした?」

「オラのかあちゃんより……としうえ……」


 しんのすけの顔から感情が消え、その呆然とした表情の背後に宇宙が広がった。

 それはまるでしんのすけの心情を表す背景表現のように見えたが、そうではない。

 実際にその背後に次元の穴が開き、その向こうに宇宙の星空が広がっていた。


「こ、これは!?」


 とローズマリーが叫んだ。


「これはデリシャスフィールドにしんのすけくんとぶりぶりざえもんちゃんが現れた時と同じ現象だわ。そうか、わかったわ。この次元の穴の向こうにしんのすけくんとぶりぶりざえもんちゃんが元居た世界があるのね。間違いないわ!」


 強引な説明口調のとおり、その次元の穴は宇宙猫状態のしんのすけと気絶したぶりぶりざえもんを包み込むように広がり、そして消えた。

 後にはただ、デパプリメンバーだけが残された。


「いったい何だったんだ?」


 ブラペのつぶやきをかき消すかのように、荒野に風が吹いた。

 そうこれは一陣の風、いや嵐の如き、とある日の出来事であった……

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