クルー と いっしょ!

クルー と いっしょ!


訓練と交換と交流をするホビローさんとクルー達のお話。

時系列的には「しちぶかい に なろう!」の途中ぐらいかな…? 七武海に成る前ぐらい。三人称視点。













『・・-- ・・- --・ ・・・- ・・-- ・・・- ・-・-・ --- ・-・-・ ・-・・ ・・ --・-・ -・ ・-(能力の訓練がしたい)』


 ……とある日、彼らの『キャプテン』が食事の席でそんな事を(モールス信号で)言って、クルー達は動かしていた手を止めた。タイミング悪くその光を見ていなかったクルーも周囲の視線が小さなオモチャに集中しているのを見て気づき、何事かとそちらを見る。大体の視線が集まったのを見て、『キャプテン』は念のためにもう一度同じ文章を打ち込んだ。


『・・-- ・・- --・ ・・・- ・・-- ・・・- ・-・-・ --- ・-・-・ ・-・・ ・・ --・-・ -・ ・-(能力の訓練がしたい)』

「……また何かおれ達の協力が必須なやつですか、『キャプテン』」

「今度は何やるのー?」

「また前みたいに見つけられるまでエンドレスで隠れ続けるとかはやめてくださいよ『キャプテン』!」

「『キャプテン』の姿が見えないまま過ごすとか耐えられねぇ……」

「『キャプテン』はおれ達の精神安定剤なんですからね!」

『・-・・・ --- -・・・ ・・・- ---・- --・ ・-・・(おれは薬か)』


 呆れたように手元のライトを踏んで点滅させる『キャプテン』にクルーからの怒涛の言葉が飛ぶ。『キャプテン』本人はさほど自覚していないようだが、クルーの中で『キャプテン』が身をやつすオモチャの外形が可愛らしく庇護しなければと思わせるほど頼りなく見えるというのは共通認識だった。オモチャとはいえユキヒョウの子供は可愛いし、それが懐いている()というのは庇護欲を誘う。当の本人は武装色の覇気をものにしつつあり能力もあって普通にクルーの誰よりも強いのだが、何せ人が抱えて運べるサイズだ。しかも本人は音が全く出せないし触れたものの音も消えてしまうから自己主張してもらわないと所在が分からなくなるというのもあり、旗上げしクルーが増えてきたばかりの頃は島に着いた頃に『キャプテン』を見失って大騒ぎ、なんて事もあったぐらいである。渦中の人物(オモチャ)はのんびり島を放浪して帰ってきてペンギンにこっぴどく叱られ船外では必ずクルー同伴を言いつけられているのだが、十分強いからと度々無視するのでクルーの過保護が加速しているのに気づいていない。可愛さを自覚されると気が抜けた時の『キャプテン』のちょっとした動作の威力が半減もしくは倍増(割とノリがいいので余計にファンサ紛いの事をしてくれる可能性もある)のでクルーとしては複雑なのだ。


 ちなみにクルーの言うエンドレス隠れんぼとはクルー達の覇気を鍛えるための一環で、気配を限りなく薄くした『キャプテン』を見聞色の覇気で見つけろという訓練である。これがまぁ非常に難易度が高いのだ。何せ『キャプテン』は潜水中の暇潰しとしてこれを提案したため、四方からは海中を進む潜水艦特有の音が鳴っている上に当の本人(本オモチャ?)はそもそも無音なのだ。流石に長時間見つけられないと実際に動いて探す事も認められるが、気配を探る事が訓練の目的なので隠れている部屋のどこにいるかを動かないまま声で指定して正解だったら『キャプテン』が出てくるという鬼畜仕様。『キャプテン』大好き集団のクルー達が必死こいて見聞色の覇気を鍛える羽目になるのも仕方がない事だろう。見聞色の覇気の適性がないクルーは血涙を流す有様だ。ちなみに現状最も『キャプテン』を見つけられているのはペンギンである。閑話休題。


「それで、能力って事は……『キャプテン』のオペオペの実の能力の訓練って事ですよね? また技開発ですか?」

「でも大体開発しきったーってこの前言ってなかった? 体が戻ってからなら使えそうな技ぐらいしか前出てこなくて、今のままでも使えそうな技は打ち止めって言ってたような……」

「また新しく思いついたんすか?」

『・- ・- ・-- ・-・-・- ・・-・ ・-・・ ・・ ・・-(いいや、違う)』

「……?」


 光に眩しさを感じつつもクルーが首を傾げる。そもそもオペオペの実の能力は規格外なのだ、“Room”を展開すればよく使う“シャンブルズ”や“タクト”に始まり、患者や襲ってきた海賊相手に対して使っていた患部を取り出せる“メス”や所在を調べられる“スキャン”、電気ショックを放つ“カウンターショック”や内臓にダメージを与える“ガンマナイフ”に加え、ひょんな事から手に入れてしまった鬼哭という妖刀に能力を付与して(クルーに振らせることになるが)行使する“切断”、“ラジオナイフ”、“注射ショット”などなど開発した技は多岐にわたる。流石実だけで50億の実……とは能力研究に付き合った旗上げ組の感想だ。普通にやれる事が多すぎる。今の『キャプテン』はオモチャと化しているがそれはホビホビの能力の余波であり、オモチャ化しなかったとしたら体力消費ぐらいしかデメリットがない。戦闘面で考えるととんでもなく強い能力だ。


 それ故に能力の開発はもはや十分すぎるぐらいではないか、むしろデメリットである体力消費の軽減や能力の習熟に時間を割くべきだと当人が判断していたように思うのだが、というのがクルーとしての認識だった。問いかけも自然それに伴ったものになった訳だが、机の上のオモチャは首を振る。? と首を傾げるクルー達に、『キャプテン』はゆらりと尻尾を揺らして(本来の体から考えると無いものの筈だが普通に動かせるらしい)ライトに置いていた前足をペンギンとシャチに向けた。


『・・・- ・-・-・ --- ・-・-・ ---・- -・--・ ・・-- -・・・ ・-・・・ -・・- -・--- -・ ・・-・ -・ ・・(訓練するのはお前達だ)』

「「…は?」」






◆◇◆◇







「『キャプテン』、少しいいだろうか――訓練中だったか」

「……ああ、ジャンバール。お疲れ様」


 ジャンバールが食堂に繋がる扉を開けた時、室内には『キャプテン』の"Room"が広がっていた。部屋の中心にある机の上には我らが『キャプテン』が鎮座していて、恐らく“タクト”の訓練中なのだろうか、様々なものを浮かせては別のところへ動かすという単純作業をただひたすらに進めていた。今は潜水中というのもあり操舵者と周囲の警戒を行う者以外は通常のタスクさえ済ませれば自由時間であり、それ故にか食堂にはほとんどのクルーが残ったままだった。先程まで船外の警戒を行っていたジャンバールはクルーが集められた事は知っていても内容までは知らないため、報告ついでに誰かに聞こうかと視線を巡らせ、椅子に座り『キャプテン』の様子を眺めているペンギンへ近づいた。


「交代の時間だったか」

「ああ。先程おれの番は終わった。特に問題もなかったぞ」

「良い事だな。……『キャプテン』に何か用か?」

「ああ、いや、ハクガンから伝えてほしいと頼まれた事があるんだが……あの様子だと、邪魔しない方がいいだろうか」

「ああ……そうだな、おれが聞いておく。あとで共有すればいいだろう」

「そうか? それなら……」


 ……? と僅かに感じた違和感に首を傾げつつ伝えてほしいといわれた事を口にしていく。『キャプテン』もこちらには気づいているようだが、能力の操作に集中しているのか特に反応する事もない。大体の内容を伝え、今日は他に特に任されている事もないため誰かの仕事を手伝うか……? とジャンバールが思った時だった。『キャプテン』が“タクト”の操作を誤って、空中に浮かせていたコップを落としたのは。


(……あのコップ、ペンギンのでは……?)


 目の前のペンギンを見て、『キャプテン』を見る。ペンギンは首を傾げるだけで、『キャプテン』は少し慌てたようにコップを確認していた。その違和感に、ジャンバールは最初にペンギンへ話しかけた時から思っていた「もしかして」を恐る恐る口にした。


「……あの」

「ん?」

「……間違っていたらすまない。……もしかして、『キャプテン』、か?」






「……なんだ、気づいたのか」






 ペンギン――いや、『キャプテン』はあまりペンギンがしないニヤニヤ笑いを浮かべて頷いた。それに思わず彼の姿を上から下まで視線で往復する。どう見たってペンギンだが、実際に頷いた事から分かるように今ペンギンの中には『キャプテン』が入っていた。そうでなければ『キャプテン』がペンギンの使っているコップを落として目の前のペンギンが反応しないわけがないし、そもそも能力の訓練に使わせる事もない。ペンギンがが旗上げ組の面々で一緒に買ったそのコップを大事にしているというのはクルーであれば知っている事だからだ。これは一体……? と?を浮かべたジャンバールに、『キャプテン』はオモチャではできない表情筋を動かして苦笑を浮かべる。


「ふは、まぬけな顔になってるぞ」

「む……」

「お前もおれの能力は知ってるよな。その中に“シャンブルズ”があるだろう、あれで精神を交換してる」

「精神を……? そういう、物理的な実体がないものも交換できるのか……?」

「できる事は分かってたんだが見せた事はなかったな、これまで。……七武海になる事を考えたら、おれは表に出れないが、『プロキシ』ではなく『キャプテン』を求められる事もあるだろ。“シャンブルズ”で精神を交換すればそれは解決できるが、それだと元に戻るまではおれの体に入ったやつが能力を使う事になる。突発的にやる訳にもいかねぇし訓練しとかないと拙いだろうな、と思ってな。浮上してる時は他のところにちょっかいかけられちまう可能性もあるから、今が丁度いいタイミングだったんだよ」

「なる、ほど……」

「……あー。お前もか」


 つらつらと述べられる言葉に何とも言えない気持ちになって生返事を口にしたジャンバールに、目ざとく気づいた『キャプテン』が見えている口元をへの字に歪ませた。ジャンバールは知らぬ事だが、集められたクルー達も『キャプテン』が自分の意思で人の姿で話しているのを見て感極まった反応をしていた。クルー達にとって『キャプテン』の言葉は視覚で捉えるものであり、『プロキシ』が代弁する事はあってもそれはどうしても遅延が発生する。故にオモチャ化していなければ当たり前に見れていた筈の事だったのだよなという考えになってしまうのも仕方がない事だった。有り体に言ってしまえば他の海賊団のように人の姿の『キャプテン』に命じられたい共に立ちたいという思いを、クルー達はずっと抱えていたのである。言った事はなかったのだが、流石に同じような反応を続けられた『キャプテン』が気づくのもすぐの事だった。


「……その様子だと、他のクルーはもっとだったのだろう?」

「あー、まぁな。……その点に関しては悪いなと思ってる。今のおれはオモチャだ。通常の海賊団と違って、おれの存在を隠すために色々面倒をかけているのは事実だし、おれの体が戻るまでは叶えられない願いでもある。……まぁ、クルーの体を借りている擬似的な状況でも良いんだったら、いくらでもやってやるよ」

「そうか。だが、迷惑をかけているというのは違うと思うぞ」

「うん?」

「『キャプテン』だけで全ての事ができるのであれば、クルーは必要ないものになる。どんな海賊団だって、キャプテンはクルーに迷惑をかけるものだ。逆も然りだが。それでもクルーがついていくのは、ついていきたいと思うだけの理由があるという事。ならば存分に我儘を言ったって、他のクルー達も絶対に迷惑とは思わないさ。そうだろう?」

「……そうか」

「ああ。……久しぶりの人の体という事になるのだろう? オモチャではできない事を存分にしてはどうだ、食事とか。料理当番も『キャプテン』が食べるならば泣いて喜ぶだろう」

「大げさ、な……いや、そう、……だな。普通は、腹は減るもん、だよな……」


尻すぼみに消えた言葉とお腹を押さえた『キャプテン』に、ジャンバールだけでなく他に食堂内でオモチャとなっているペンギンの奮闘を見ていたクルー達も顔を歪めた。『キャプテン』がオモチャとなったのは10年以上前の事、実は旗上げ前に2、3回交換した事がある(主に手術のため)のだが、それ以外では10年以上も人と違う体で過ごし続けた余波に物悲しい気持ちになったところで、今オモチャの体に入っているペンギンがしれっと『キャプテン』の頭に飛び乗り、ぽんぽんと頭を叩いた。


「む、おい、ペンギ、やめ」

『-・ ・ ・・ ・-・-- -・-・・ ・-・--!(食べてきて!)』

「わ、分かった分かった分かったから頭を叩くな! ……意外と痛いな」

「おれ達はわりといつも思ってる事ですけどねそれ?」

「意外と『キャプテン』の腕って痛いよね」

「……気を付ける。そういやそろそろ昼か……」

「あ、『キャプテン』何食います!? ある物で作れるものなら何でも作りますよ!!」

「食いたいもの……か。……米……とか、か?」

「おい料理当番うまい米炊けよ!?」

「普通にご飯です? おにぎりとかにします?」

「いやそこは種類作れるだけ作ればいいだろ色々!」

「無駄に食料使うなよ……おにぎりでいい」


 キッチンへ走り込む料理当番に苦笑を漏らし、まだ手足の長さの差に慣れない『キャプテン』がおっかなびっくりペンギンを机へ下ろす。いつもや見た目としては逆なんだがな、とジャンバールは思いつつ、『キャプテン』の隣へ座った。ジャンバールを見上げる『キャプテン』に、彼はぽんと肩を叩く。


「言ったとおりだろう? 我儘を言っても大丈夫だと」

「……ああ。それはキャプテンとしての経験からか?」

「いや、1クルーとしての懇願も、だな。『キャプテン』はいつも、後方で眺めている事が多いから」

「……結構言ってる方だと思うんだが……」

「常日頃の航海ではそうだろう? 『キャプテン』は食事も見ているだけになるし、クルー達の会話に入ってこないがただ聞いているだけの時もあるなと思っていた。他のクルーが寝ている時に1人でうろうろしている所を見たと聞いた事もある。だから……退屈していたり時間を持て余すぐらいなら、クルーを巻き込んではどうかと」

「……」

「まぁ、1意見として覚えておいてくれればいい。元の体でも、こうして精神交換した時でも、多分誰も断らないだろうから」

「……ああ」


 顔を隠すためかペンギン帽のツバを引っ掴んで下げた『キャプテン』に、ジャンバールはにこやかに笑みを浮かべたのだった。











 ……ちなみにこの後、


「……ところであっちで『キャプテン』になったペンギンが四苦八苦しているが、いつまでこのままでいるつもりでいるんだ?」

「あー……おれの方も人の体に慣れなきゃいけないってのもあるが、ペンギンとシャチが少なくとも能力の“Room”と“シャンブルズ”と“タクト”ぐらいは使えるぐらいになっててもらわねぇと困るからな。暫くはこのままじゃねぇか……?」

「あ、『キャプテン』人の体に入ってる間はちゃんと3食食べてくださいね? いつものノリで抜かないでくださいね??」

「……ああ」

「はい、お前ら『キャプテン』が入ってるペンギンかおれかが居たら食事食ったか暫く気にするよーに! この様子だと忘れるぞ!!」

「「「アイアイ!」」」

「おいこら」


 という会話が続き暫くペンギンとシャチの能力訓練で大騒ぎになるのだが、それはまた別の話。


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