クリスマス・イブ ~3号家~
※注意※
・3号家は唯阿·賢人·祢音·さくら(スパナはヴァルバラドが仮面ライダーに該当しない為、兄弟としない)
・ビヨジェネにて変身後の状態で共闘した賢人と大二は顔見知りで連絡先の交換をしている
すっかり陽も暮れた頃、駅の改札前で唯阿は人を待っていた。手に紙袋をふたつ持って。
本日はクリスマス・イブ。街はどこか華やいでいる。
「お姉さーん、1人?」
突然、見知らぬ男に声を掛けられた。明らかナンパとわかり
「人を待っている」
素っ気なく切り返せば
「カレシ?」
すかさず次の質問。
「違うが」
「じゃーあ、一緒に遊ぼうよ」
なにが、じゃーあ、なんだ。人を待っていると言っただろ…。――唯阿は呆れつつ、どうしたものかと考える。
「お友達?にはさ、連絡すればいいじゃん」
こちらが黙っているのをいいことに勝手に話を進めるナンパ野郎にうんざりしていると
「唯阿!」
待ち人が現れた。
「遅くなってごめん、本屋の閉店後の片付けにちょっと手間取って…。待った?」
謝る双子の弟·賢人に、気にするな、と返す。
そこで、賢人は唯阿の目の前に立つ男に気づいたのか
「…えっと…、この人、知り合い?」
訊いてきた。
「否、知らない」
即答すれば、弟はそっか…と相槌してから、ナンパ男に向き直り
「俺の大切な人に何の用?」
綺麗な表情(かお)で相手に笑い掛ける。
凄みのある笑顔に圧倒されてか、男は引き攣ったような面(かお)をして走り去っていった。
「賢人、いまの…」
「ん?姉と言うより“大切な人”の方が効くかなぁと思って… 嘘でないし」
「……そうか…。
でも、ああいうことは意中の人以外に言わない方がいい。勘違いされるぞ」
「あぁ、わかってる」
「ならいいが。
……何にしても、助かったよ。さすがに、一般人にショットライザーは撃てない…」
「物騒だな」
「向こうが手を出してきたら正当防衛でその腕を捻り上げるくらいはするつもりだった」
「……そ、そうなんだ…。
あ、急がないと!祢音とさくらが待ってる!」
「そうだな」
「唯阿、荷物ひとつ持つよ」
「ありがとう」
ふたりは妹達が待つイルミネーションスポットへ向かった。
唯阿と賢人が合流する1時間ほど前、さくらと祢音はとある公園にいた。
さくらからしあわせ湯での毎年恒例のクリスマスパーティーの話を聞いた祢音が令和ライダー3号家でも何かクリスマスのイベント事をしたいと言い、それにさくらも賛同して唯阿と賢人に持ち掛けた。唯阿と賢人は妹ふたりの希望を聞き入れ、ロマンチストな兄がイルミネーションの輝く絶景スポットを見つけて皆で行くことにし、明日のクリスマス本番はさくらは五十嵐家で過ごし祢音は鞍馬家に帰り賢人はソードオブロゴスへ行くので、クリスマス・イブである今日の夜ということになった。
唯阿はA.I.M.Sの隊長として相変わらず忙しく、今日も休日出勤。賢人は親友が経営する本屋の手伝いで帰りは夜になるというから、祢音とさくらは先に兄が調べてくれた絶景スポットの公園へ来たのだった。もうすぐ陽が落ちる夕刻、まだライトアップの時間ではない。
そこへ
「あ、いたいた!」
おーいと手を振る人物に、祢音が目を遣る。
「景和!」
令和ライダー2号家にいるはずの景和と…
「見つかってよかった」
「大ちゃん!」
さくらの実兄·大二の姿。
「どうしたの?」
さくらは問う。
「賢人さんに今日はここのイルミネーションを見に行くって聞いて…」
大二が、明日は仕事でしあわせ湯に帰れそうにないから、と
「今日のうちに…って」
さくらに箱と袋を渡した。
「これって、もしかして…」
箱を見ながらさくらが漏らす。
「うん、さくらの好きなプリン。4つあるから3号家の皆で食べて」
「わー、ありがとうございます!」
祢音が感謝の言葉を口にした。
「あ、ありがとう。 それじゃこれは…?」
さくらは袋を開けてみる。中にはブランケットが入っている。
「医大、受験するんだろう?急に寒くなったから温かくして勉強しろよ」
「!!ありがとう!」
さくらがにっこり笑い、大二も顔を少し綻ばせた。
そんな五十嵐兄妹を祢音と景和は微笑ましく見ている。
「景和はどうしてここに?」
「大二がさくらちゃんにクリスマスプレゼントあげるって言うから、俺も祢音ちゃん達にこれを渡そうと思ってね」
そう言って景和が差し出したのは手作りクッキー。
「わーい、これ、景和の手作り?」
「美味しくできてるといいんだけど」
「やった~!!」
「すごーい!ありがとうございます」
祢音は喜び、さくらもお礼を言う。
「まさか今日 大ちゃんと逢うと思っていなかったから…大ちゃんへのプレゼント、家(しあわせ湯)に置いてきているんだけど…」
「今度 帰った時でいいよ」
「私も景和に渡そうと思っていたプレゼント、家(鞍馬家)にある…。
明日はお父様とお母様と一緒にクリスマスだから、明後日以降、景和のお家に持って行くね」
「俺も明日は姉ちゃんと過ごすから急がなくていいよ。ありがとね」
「景和兄さん、そろそろ…」
「あ、うん、そだね。
俺達、今から2号家でパーティーなんだ。だから帰るよ」
「わかった!それじゃあねー」
「バイバーイ」
景和と大二は帰って行った。
「ふたりともお待たせ!」
「遅くなってすまない」
賢人と唯阿が息急き駆けてくる。
「大丈夫だよー」
「唯阿姉さんも賢人兄さんもお仕事お疲れ様!」
祢音とさくらは笑顔で姉と兄を迎えた。
その瞬間(とき)、公園の樹々が色鮮やかに光る。…ライトアップが始まったようだ。
「ちょうどよかったね」
さくらが言った。
「きれい~」
祢音はうっとり瞳(め)を輝かせている。
「…綺麗……」
唯阿もぽつり呟く。
煌めくイルミネーションに見入っている姉妹3人に賢人はホッと胸を撫で下ろした。
(いい処が見つかって良かった…)
「よく見つけたな」
唯阿が感心した様子で尋ねる。
「この前ここを通ってね」
偶然さ、と賢人は告げた。
「そうか」
唯阿は頷いて、再び鮮やかな光景に視線を遣る。
4人はしばらく、光の灯る樹木を眺めていた。
「夕飯どうする?閉店間際のデパ地下の弁当を買ってきたが」
3号家で食べるか?ここで食べるか?と唯阿が弟妹に投げ掛ける。
「キレイなイルミネーションを見ながら食べたい」
「賛成!」
祢音が答え、さくらが同意した。
「わかった」
唯阿は自分と賢人が持っている手提げ袋から弁当を取り出す。
「今日は休日出勤だからもっと早めに上がる予定だったんだが、思った以上に業務が立て込んでいて…
いったん3号家に戻ってごはんの用意をしている時間がなくなってな…」
出来合いですまない、と詫びる。
「お姉ちゃん…」
気にしないで、と祢音が言い
「唯阿姉さん、いつも3号家のごはん作ってくれるじゃん」
さくらが続ける。
「そうか…」
3人の、そんな遣り取りに、賢人は目を細めて
「唯阿、食べよ?」
双子の姉を促した。
「「「「いただきます」」」」
こうして、唯阿・賢人・祢音・さくらは公園のベンチに並んで座り、弁当を食べるのだった。
…月明かりの下、幻想的な光が灯る華やかなイルミネーションを見ながら。