クリスマス・イブ ~2号家~

クリスマス・イブ ~2号家~


 沈む夕陽のなか、景和と大二は令和ライダー2号家へ急いでいた。

 本日はクリスマス・イブ。2号家でパーティーをすることになっている。


「「ただいまー」」

 2号家の玄関ドアを開く。部屋の電気は点いていない。

「倫太郎兄さんとりんね、まだ帰ってきてないみたい」

「諫兄さんも町内パトロール中なんだろうね」


 午前中、大二は倫太郎・りんねと共に部屋の飾り付けをし、景和は料理の下処理をした。午後から倫太郎が本好きのりんねをソードオブロゴスへ連れて行った。大二は明日 贈る予定だったけれど仕事で渡せなくなった実妹·さくらへのクリスマスプレゼントを1日 前倒しであげることにし、景和はさくらと一緒に祢音もイルミネーションを見に行くと知って祢音達にプレゼントを…と大二に同行した。大二と景和はプレゼントを渡して帰って来たという訳だ。

 長兄の諫はフリーランスの仮面ライダーとして早朝から日課のパトロールに出ている。おそらく帰りは夜になる。次兄と末妹の姿がないということはふたりともまだノーザンベースの書庫にいるのだろう。


「皆が帰ってくるまでの間にごはん作るよ」

 大二は2号家の皆で食べようと買ってきたスイーツを冷蔵庫に入れ、景和に

「何か手伝うことある?」

 冷蔵庫のドアを閉めて尋ねた。

「んー…じゃ、ローストチキンを焼くからオーブン200度に予熱セットしておいて」

「わかった」

「予熱中に鮭のムニエルを…と」

 他の料理に取り掛かった兄を横目に、大二は使った調理器具を洗う。

 景和は生鮭に塩・こしょうをふって全体に馴染ませ、小麦粉をまぶした。予熱されたオーブンにローストチキンを入れ、焼き始める。炊飯器の火を入れ、お湯を沸かす。フライパンに油を敷き、充分に熱してから鮭を投入。


「ただいま帰りました」

「…ただいま」

 倫太郎とりんねが帰ってきた。

「「おかえり」」

「もうすぐ晩ごはんできるから手を洗ってきて」

 景和がふたりをそう促すと倫太郎とりんねは頷いて洗面所に向かう。


「ごはん炊けたよ、景和兄さん」

「そしたら、しゃもじで混ぜて茶碗によそってくれる?」

 景和は、ごはんの方を大二に任せると、フライパンの表がきつね色になっている鮭をひっくり返し、反対側も焼いていった。両面 焼き色の付いた鮭を皿に盛る。フライパンにバターを入れて溶けてきたところで醤油を加え、ソースを作る。火を止め、鮭の上からバター醤油をかけた。

「よし!」


「何だか芳ばしい薫りがしますね」

 手を洗った倫太郎がりんねと戻ってくる。

 ローストチキンが焼き上がった。景和はオーブンから出して、盛り付ける。

 配膳をしようとするりんねを

「りんねは主賓ですからこちらに座って下さい」

 倫太郎はテーブルに着かせた。

「今日はりんねの歓迎会も兼ねているから」

 景和が付け加える。

 大二が食事を運び、りんねの前に料理を並べていく。


「いま帰ったぞー」

 玄関先で長兄の声がした。

「「「「おかえりなさい」」」」

 弟と妹は出迎える。

「お土産」

 言って諫が差し出したのは…

「ケーキ?」

 箱を受け取る景和。

「商店街で売っていた」

「夕飯の後に食べよう。大二も甘いもの買ってきているからそれと一緒にね」

 景和はクリスマスケーキを冷蔵庫へ。


 手洗い・うがいを済ませた諫も席に着き、兄弟妹(きょうだい)全員が揃った。

 テーブルの上には真ん中にローストチキンの乗った大皿がふたつ。一人分ずつ取り分けられた鮭のムニエル、白いごはんとスープ。そして、お茶。

「「「「「いただきます」」」」」

 5人は食卓を囲んだ。


 夕食を終え、

「ん」

 大二がりんねに某書店の不織布バッグを渡す。

「これは…」

「りんね、歴史に興味があるって聞いたから」

 特に新撰組にね…と続ける四兄の言葉を聴きながら、りんねは布バッグの中身を取り出した。

「これって…」

 新撰組をモチーフにした創作小説。

「今はなかなか手に入らない初版…」

 りんねは思わず呟く。

「俺も少し歴史かじっていてさ、真田幸村とか…。

 学生の頃に通っていた書店に問い合わせたら取り寄せてくれたんだ。…クリスマスプレゼントには堅い気もするけど」

 微苦笑する真面目で優しい兄に、りんねはううんと首を振って

「ありがとう…大二お兄さん」

 ふんわり微笑んだ。

「皆、食後のデザートにしようか」

 景和がケーキの箱を手に、呼び掛ける。その後ろから倫太郎がまた別の箱を持ってきた。

「諫兄さんが買ってきてくれたクリスマスケーキと…大二が買ってきた …―― 「これは…!」

 箱を開けた倫太郎の顔がほころぶ。

「エクレール・オ・ショコラ!」

「倫太郎兄さん、エクレア好きだよね?」

「ありがとうございます!!大二!」

 満面の笑みを浮かべる倫太郎に大二もほんのり笑顔になる。

 そんな穏やかで和やかな兄弟妹(きょうだい)の遣り取りを微笑ましく見ていた景和は、ふと、やわらかな眼差しを向ける諫に気がついて、心が温かくなった。


 ―――家族っていいな

 景和は独り言ちて、もうひとつの、大切な、兄弟妹(きょうだい)の輪に交ざるのだった。


 こうして、

 令和ライダー2号家の愉しいクリスマスは過ぎていく―――。

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