クズの薬と忍び寄る不穏
「へぇ、能力の反動で眠らない様になァ…シュロロロロ!それなら可能だ、ちと副作用が出るが、まぁ敵地で寝こけちまうよりはマシだろォ?」
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1曲目、2曲目…1本飲む
3曲目、4曲目5曲目……もう1本
2本、3本……
「はぁ…まっず」
途中から薬の入ったアンプルを幾つ折ったか分らない。
ぐるぐるとした思考が気持ち悪い。
でも今寝るわけにはいかない。
ウタワールドに拘束した敵を目覚めさせる訳にもいかないし、現実も現実でまだ敵が存在してる以上油断出来ない。
指方向性スピーカーを使うと仲間の巻き添えを減らせる分、一回で制圧出来る敵が格段に減る…。でも、歌わなきゃ、皆の為にも歌わなきゃ。薬で眠らなくて済むんだから、その分歌ってやるしかない。
やらなきゃ、私が、役に立たなきゃ…
ぐるぐる、くるくる…目が回る様な不快感とは裏腹に耳はよく音を拾った。
カタッ
そちらに目を向けると、敵がいる。何か恐ろしいものでも見るように腰を抜かして…
何に怯えてるの?
どうでも良い、眠らせなきゃ、無力化しなきゃ倒さなきゃ…なのに私自身が眠くて苛々する……アンプルに手を伸ばすがあまり力が入らなくて仕方ないから噛んで折って、上のガラスをその辺に吐き捨てた。切ったのか、少し鉄の味がする。それにこの薬の味で、ずっと不愉快で、限界をもう既に少しは超えてて…眠ってしまいたい。
【でも歌わなキャデしょう?タおさなきャでしょウ?】
…そう、そうだ。じゃないと、コイツが私の大事な仲間を傷付けるかもしれない
【起キてナきャでシょう?】
敵を一人でも多く抑えて皆がそれぞれの戦いに集中出来るようにしないと
【役ニ立たナイとなんデしョう?】
やっと人に戻って、能力も使えて、武器だって作ってもらったんだから…その分、何も出来なかった分がんばらないと
【もう二度と「いラない」ッて捨てラレたくなイんでショう?】
いやだ、ほんとうに、こころのそこから
それだけは、いや
…まずい、どんどん集中力が切れてウタワールドの戦いが拙くなってる。余計な事考えるな、敵をどうにかする事だけ…歌う事だけ考えなきゃ
【ナら、全ブ壊せバイイじゃなイ】
【ユメの方も、いマいるコこも、そうスれば敵なンテ、ゼんぶどうにカなるノに】
【ほラ、アナタの手元にアる楽譜デ…】
楽譜…?あれ、ホントだ、いつの間に…?
【ホら、ホラ…!!ハャく歌ワなイと…!!】
わからない、もうとにかく、歌わないと…
役に立ちたい、皆を助けたい、私がやらなきゃ、置いていかれたくない、捨てられたくない、いやだ、もう、さみしいのは
左目が熱い事に、私は未だ気付けない