クインハーバーにて③
僕はデスクに腰を落ち着けると、クライアント──つまり、あいつに当てた調査報告書の草案を書き始める。
ソフィには調査に当たっての、今回売却対象となったデミトレーナーの型式年式、起動時間や飛行時間等をまとめた資料を確認してもらった。
案の定、すぐに「飽きた」と言い出したが──この場合、言葉通りの「飽きた」ではない。
「調査に必要な資料情報のインプットは終わった」から「飽きた」と言っているのだ。
フォルドの夜明けで組んでいた頃から、この速読力、そしてアウトプットに置き換える能力は目を見張る物があった。
「お兄ちゃーん、飽きたからお出かけしよ?」
…この辺りも相変わらずだけどね。
それから5日。
徐々に情報は集まってきた。
「──まず、クインハーバー特区内で販売、取引の実態があった機体が8機。ただ、そのうち6機までが──」
「ディーラー認定中古MSではない所から流れてるってわけさ」
「そしてその6機ともが型式MSJ-115、8年前のモデルってこと」
「ちょっと不自然ではありますね」
ふむ。
「…過去に同機種のリコールはあるかい?」
「実は8年前のそのモデルがリコール対象になってんのよね」
「リコールの内容は?」
「磁性流体アクチュエータに定格出力を超えた異常電圧が掛かると誤作動するんだってさ。いちおう、全機再認可済み」
リコール隠しというわけでもなさそうだ。しかし
「その機種だけ集めてると言うのは、確かに不自然だね」